世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
私が来た時点で、目的はもう果たしたようなもの。
プロゴノスは大人しくなったし、なんと正気を取り戻してくれた。
リオラは当然無事。新品のリオラだから、何も心配いらない。
六本の腕でしっかりと撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めている。
オルンとセファとネルシアは……。
うん。さすがに私の姿を受け入れられていないねえ。
むしろ、リオラとプロゴノスがすごいんだと思う。
特にリオラ。この子は、最初からずっと私を本気で慕ってくれているし。ほんといい子!
「神様……。申し訳ございません」
「平気。次は気を付けて」
「はい!」
本当は気を付けてどうにかなる問題でもないけど、プロゴノスに必要なのはきっとこの言葉だろうね。
現に、私の言葉を聞いて許されたと思ったのか、先ほどの悲痛に満ちた後悔の表情ではなくなっている。
あとはついでに、魔族としてうまい具合に翼人と棲み分けをするよう、この場で話してほしいなあ。
「何それ」
と思ったけど、やっぱり入るかあ……。横槍。
そうだよねえ。わりと堂々と人の管理世界で好き勝手していたみたいだし、そうなるよねえ。
あわよくば、私が現れたことで引いてくれないかと思ったけど、向こうはさらさらそんなつもりもないらしい。
「誰がここまで面倒を見たと思っているの? 私に恩を返せないほど、魔物は知能がないってこと?」
「……そもそも、あなたは誰なんだ。俺の世界の神様は、この方だけではないのか? それとも、この世界には複数の神がいるというのか」
あ、それ違う。
共同での管理とか、絶対に面倒なことにしかならないもん。
だから、この世界は確実に私だけの世界だよ。
そもそも、管理対象が決まるときにみんなであざ笑っていたじゃない。
いまさら、この世界にやっぱり関与するなんて、そんな話は通らないし通さない。
「私が? やめてよ。こんな最低の世界の面倒まで見るつもりはないわ」
「私がこの世界の神。よろしく」
「ああ、わかっている。であれば、俺が従うべき神様はこちらの方だろう」
やった~。プロゴノスいい子。
これで別世界の神になんて取られていたら、さすがに私もだいぶ凹むところだった。
一度お話したのがよかったのかな? あのときに、なんとか信頼を勝ち取れたのかもしれないね。
「私が……そんな醜い出来損ないの神に劣るとでも言いたいの!?」
っと、さすがにこの力はよくないね。
神でもない者たちには悪影響しか及ぼさない。
ということで、怒りのままに力を解放する女神の盾になるために、私はみんなの前に立った。
うわあ。守り切れるかなあ。私の六本の腕でも足りないよ。
「女神シュリー。ここは私の世界」
「ああ、私が誰かまでは理解しているのね。さすがに低位の落ちこぼれ女神といえど、私くらいは知っていて当然よね」
ごめん……。ぶっちゃけ知らない。
あくまでも、プロゴノスへちょっかいを出した誰かのログをたどっていたら、その名前に行きついただけだから。
だけど、今は知っているってことにしておこう。
「知ってる」
「なら、隠れる必要もないわね。そこの愚かな人間と獣ども、本物の神の威光というものを見せてあげるわ」
そう言いながら、シュリーが私の世界に顕現してしまった。
ええ……!? 声やシステムの介入だけじゃなくて、本人まで来るの!?
さすがに、これは駄目でしょ。うう……。ただ、その前に世界をかき乱されたら困るなあ。
「そうそう。それでいいの」
実態を持った神の前では、さすがにみんな平伏するしかなかったみたい。
うん。私のときよりも畏敬の念が強い強い。
やっぱ、私は神様としての信仰とか格が足りないなあ……。
「魔物、最後の命令よ。そこの翼人と海人を殺しなさい」
「う……ああ……」
プロゴノスは、その言葉で明らかに狼狽している。
ふらふらとした足取りで、女神に言われたことを守るかのように、ゆっくりとオルンたちに向かって歩いていく。
……まあ、私が止めるんだけどね。
「プロゴノス。そんなことしなくてもいいから」
すべての腕を使ってゆっくりと抱き留めると、プロゴノスは少しは神の力の負荷が抜けたみたい。
いやあ、本当に悪いねえ。板挟みになって大変だよねえ。
まあ、ここは私に任せて安心しておきなって。
四本の腕でしっかりと抱きしめ、残りの二本の腕で背中をさすると、プロゴノスはそのまま崩れ落ちていった。
……別に、私がとどめを刺したとかじゃないよ?
「邪魔ね……。いいわ、わかった。なら、私が災厄を起こして終わらせる。その役立たずや、みすぼらしい愚図どもとこの世界ごと消えたら?」
相手は中位女神。低位である私よりも格上。
そんな相手が、多少なりとも本気で私を害そうとしている。
それがどういうことか、わからない私ではなかった……。
「カサカサして、空気も澱んで辛気臭いったらありゃあしない。それに汚すぎ。だから、洗い流してあげるわ」
シュリーが手をかざすと、遠くから地響きが聞こえた。
これは……。
「海……?」
「おお、あれが海というものか」
「んなこと言ってる場合か! あれはまずいぞ」
津波だね……。たぶん、新しく海を作って世界に解き放ったんだ。
であれば、私もそれをなんとかしないと。
――管理コマンド入力
――[環境操作]
――対象:下位領域海域
――操作:海水消去
……対象がない!
そっか、相手は中位神だもんね! 少なくとも中位以上の領域にしてるか。
嫌だなあ……。低位の私が中位の操作なんかしていたら、すぐに信仰がなくなってガス欠になっちゃうよ。
でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないか。
――管理コマンド入力
――[環境操作]
――対象:中位領域海域
――操作:海水消去
「海が消えた……?」
「へえ、さすがにこの世界の管理を担当しているだけはあるわね。でも、あの程度私ならいくらでもできるの。あなたはどうかしら?」
けっこうきつい!
コマンドを入力するたびに信仰が著しく消費されていく。
格上の神に抗っている代償だから仕方ない。
むしろ、この程度の減少ですんでいるのは、自分の管理世界という優位性があるから。
これが逆だったらと思うとずっとするね!
「神様……。お手伝いします!」
「俺も借りは返すぞ!」
リオラとプロゴノスがシュリーに向かおうとするけれど、さすがに人のみでは厳しいからやめておきなさいね。
腕を二本伸ばして二人を掴むと、二人は不満そうな顔をした。
だけど、その中にわずかに安堵の感情が含まれていたことはちゃんと見えているよ。
プロゴノスはもちろんだけど、リオラだってまだ巫女として力は弱いんだから、中位神に逆らうなんて駄目だから。
「ああよかった。そんな汚らしい連中が群がってきたら、さすがに跡形もなく消すところだったわ」
「二人とも綺麗」
「あんたみたいな醜い低位神からしたら、そりゃあなんでも美しく見えるんでしょ」
そうでもないけどね!
だって、あなたはそうじゃないから!
「あなたは、美しくない」
「できそこないの不細工の分際で!」
余計なこと言ったかなあ?
シュリーはさらに大量の水を発生させて、今もまだ余裕がある。
対するこっちはけっこう気力勝負みたいになってるけど……。
この場にいる私の世界の子たちを見る。
うん、大丈夫! 神同士の争いに巻き込まれて絶滅なんて、さすがにあってはならない。
私が守ってあげるから!
「諦めが悪くて本当に醜いわね。まさか、私が先に力尽きることを期待なんてしていないでしょうね?」
「当然」
当然それはない。
だから、私がこの場で行うべきことは海の消去だけではない。
海を対処するための別の手段を、並列で考えて処理しないといけない。
循環するシステムを作る? だけど、そのための大量の海水をどうやって操るか……。
そもそも、あれらの津波を操作できるのなら、何も苦労しないよねって話。
……海、結界? ネルシアたちの結界を真似てみる? いや、違う。
オルンやセファたちのように……いや、それも違う。
そっか、宝か……。
――管理コマンド入力
――[物質操作]
――対象:下位領域
――操作:水流制御器 生成
コマンドは準備した。あとは、ここから調整とアイテムのための生成コード作成。
ただ、それを片手間でっていうのがかなり面倒だね!
やるしかないか。幸い私の腕は六本もあるのだから。
「何をしようとしているの知らないけど、当然思い通りになんてさせないわよ?」
……うう!
私が片手間で作業するっていうのなら、シュリーだってそうだよねえ!
海を生み出しながら、私への妨害を続けるのも簡単ってわけだ!
でも、このままじゃ本当にじり貧というか私が力尽きる。
なんとか、相手に邪魔されないようにするためには……。
「神様の邪魔はやめてください!」
「は? ……な、なんでそんなものが!」
リオラが苦し紛れで武器を投げた。
それを鼻で笑いながら見ていたシュリーだったけど、自分に近付く武器の正体を見て顔色が変わる。
私の妨害どころか、海の生成さえも中断するほどに彼女は動揺していた。
そりゃあ嫌だよねえ。私も、最初にあれを見たときにリオラが怖かったし。
「……はあはあ。これだから野蛮な世界は嫌なのよ!」
シュリーは目を見開いて息を荒げていた。
無理もない。自分に向かって神殺しの刃が投げられたのだから、冷静ではいられなかったんだろうね。
ただ、十分すぎる隙は生まれたってわけ!
「リオラ、お手柄!」
「巫女ですので!」
今度こそアイテムの生成を行う。
設定は十分。内部の機能にも漏れはない。
これで海水問題はなんとかなるね。
あとは名前か。名前名前名前……。そうだなあ。ま、こんなのでいいか。
「名称、潮流の宝玉。生成」