世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第37話 語り継がれるのは案外こんな簡単なこと

「こんな野蛮な世界、相手していられないわ!」

 

 さすがは神殺しの刃。危機を感じたシュリーが逃げ出すほどの代物だったみたいだねえ。

 帰れ帰れ~! 私の世界に干渉するな~!

 言葉にはしないけど、腕を上下させてそんな意思をアピールする。

 

「ただ、このままやられっぱなしは趣味じゃないわ!」

 

 あ、なんかとんでもない量の信仰が消費されてる。

 シュリーは去り際にその力を使い、今までで一番の量の海水を出現させた。

 うわあ……。最後っ屁がすごい。

 でも、リオラの攻撃に怯んでいたせいで、私がしていたことまでは見えていなかったようだね。

 

「神様。いかがいたしましょう?」

 

「……このままでは、世界は波に飲み込まれる。魔族も翼人も終わりか」

 

 うん。なんかすっごい量だもんね。

 実際に、世界を飲み込むだけの量の水だと思う。

 さっきまでの津波が子供だましと思えるほど、規模が違うもんね。

 

「わ、私たちがまた結界を……いえ、それでも海中での活動はできない……」

 

「神の怒りか。世界を滅ぼすのも仕方ないな」

 

「いや! 俺たちならば飛んで回避できる!」

 

「その後はどうするんだよ。ネルシアの話では海も汚染されているんだろ? それと混ざった水で染まった世界の中じゃ、どうやっても生きていけないだろ」

 

 なんかもうみんな諦めちゃってるね。

 まだまだやる気なのは、リオラとオルンだけ。

 無理もないか。神の力により引き起こされた滅びなんて、人間たちには避けようがない。

 だから、同じく神である私が彼らを救おう。……あっちと違って低位だけどね!

 

「ネルシア」

 

「え? は、はい!」

 

 生成したばかりの潮流の宝玉を投げると、ネルシアはしっかりと受け取った。

 それだけで、その宝玉の力はわかってくれたんだろうね。

 さすがは海の巫女。海に関する力であれば、なかなかの嗅覚をしている。

 

「か、かか、神様……! こ、これはいったい……!」

 

「潮流の宝玉。海を制御する宝」

 

 本当は、こんな強い力を持つ道具なんて作りたくはなかった。

 人間は人間らしく自分たちで成長してほしいからね。

 ただ、今回はあくまでも神同士の争いに世界が巻き込まれた形になる。

 一方的な被害者であるこの子たちに、自分の力でなんとかしろっていうのは暴論だからねえ。

 

「一度だけ。あの海も支配できる。二度目は壊れるから」

 

 だから、使えるのはこの一回だけにしておこう。

 そうでなければ、海人族が海を操ってこの世界にあっさりと君臨するだろうし。

 

「何!? そんなことが!」

 

「まじかよ……。いや、あれも神の力だから、制御できても不思議じゃないか」

 

 セファ、それは違うよ。

 あれは中位の神の力。対する私は低位の神。

 だから本当は制御なんてできるはずがない。

 

 でも、リオラがシュリーを追っ払ってくれたからね。

 あの海はすでにシュリーの支配下ではなく自然現象になった。

 だからこそ、私の力で付け入る隙があるのだ。

 

「ネルシア。やって」

 

「は、はい!」

 

 ネルシアが潮流の宝玉を天にかざす。

 すると、その小さな玉の中に水がみるみるうちに吸い込まれていった。

 内部は荒れ狂う海のように水で溢れているが、それはしょせんは小さな玉の中。

 その中でいくら力強く流れようとも、世界を害することなどできはしない。

 

「……うそだろ」

 

「これが神様の力ということか!」

 

 まあ、一応は私の力だね。えっへん。

 

「よく見なさい。これこそが神様の御力です。崇拝し、祈りを捧げなさい」

 

 リオラがしれっと祈りを強制すると、なんか全員が私に祈り始めた。

 照れる。でも、さすがはリオラだねえ。信仰を増やすチャンスはしっかりとものにしている。

 プロゴノスが一番すごい祈りだねえ。地面に額がついてるけど、汚れちゃうよ?

 

 さて、さすがに量は多かったけど、潮流の宝玉はしっかりと役目を果たしてくれたね。

 海人族であるネルシアと相性がよかったし、うまく道具を生成できたみたいで満足。

 これで、シュリーの嫌がらせは対処完了かな?

 

 ――世界が更新されました。

 

 ――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4040〙〘崩壊区画-4044〙

 

 ――人口:106 → 107

 ――文明レベル:崩壊後

 ――信仰値:407 → 612

 ――神格評価:E

 

 おや? 信仰がまた上がったね。

 もしかして、目の前で奇跡を起こしたとでも思われたからかな?

 

 ……う~ん。よくないな。

 仮に私が表舞台に立って力を振るったのが原因だとしたら、今後もそれをしないといけなくなる。

 でも、この世界は人間のものだよ。だから、私はできるだけ裏方として動くべき。

 この件はあくまでも例外として考えておこう。今後も同じようなことをしたら、人は神から独立できなくなっちゃうし。

 

 ただ、人口が一増えているのが、今回最も喜ぶべきところかな?

 これって、きっとプロゴノスが魔物ではなく、この世界の住人として認められたってことだよね?

 いやあ、いろいろあったけれど、最後にいい結果もあってよかったねえ。

 

    ◇

 

 私は、神様というものをまったく理解できていなかった。

 そもそも見た目からしてそう。

 てっきり、私たちやオルンやセファみたいに、人の姿を勝手に想像してしまっていた。

 

 だから、初めて見た神様の御姿には驚愕してしまった。

 黒い体に六本の腕。さらには四つの目玉。

 はっきり言ってしまうと……私は異形だと思ってしまった。

 だけど、その威光はあまりにも神々しい。ともすれば、重圧に潰されかねないほどの別次元の存在だった。

 

 そんな別次元の存在がもう一人。

 こちらは私が想像したような神様の姿そのものといえる。

 人の姿をした美しくも神々しい存在。何も知らなければ、私はこちらをこの世界の神様と判断していたでしょうね。

 ただ、中身があまりにも邪悪すぎる。

 

 邪悪な女神は、ほんの片手間のように津波を起こし、この世界を壊そうとした。

 抗えない。だって人では神様に抗うことなんて不可能だから……。

 だから、私たちを守るためにその波を消してくれた神様の姿は、もはや異形だなんていえない崇拝すべき御姿そのものに見えた。

 

「これが……私たちの神様の御姿」

 

「どちらもとんでもない力だな……」

 

 事ここに至って、私たちにできることなど何もない。

 それは、魔物の変異体も同じだし、神様の巫女であるリオラ様も同じ。

 だと思っていたのに、リオラ様は自分にできることをしっかりと全うした。

 短刀を邪悪な女神に投擲すると、なんと女神を追い払ってしまったのだ。

 

「すごい……」

 

「リオラ、お手柄!」

 

「巫女ですので!」

 

 だけど、悔しい。

 私は名前ばかりだけど巫女だった。なら、私も神様のために何か行動すべきだったんだ。

 そもそも、私たちの神様の御姿に驚いてしまった時点で、私はまだまだ信仰が足りなかった……。

 

「ネルシア」

 

「え? は、はい!」

 

 だから……。その機会を与えてくださったことに、私は大いに感謝した。

 邪神が発生させた世界を終わらせるほどの高波。

 神様なら、それを簡単に消し去れたでしょう。

 でも、神様はそうはしなかった。私にこの波の処理を任せてくださった。

 それも、私の力だけでは不足しているので、神具をお作りになられて……。

 

 これで応えられないようじゃ、海の巫女とすら名乗れないわね!

 当然、あの程度の邪神の力では私たちの世界は穢せない。

 当然よ。こっちには神様の力があるのだから。

 

 荒れ狂う波は完全に抑え込まれたが、その前に空気も洗い流してしまったのかしら?

 終わってみれば、さっきまでの滅びの光景が嘘のよう。

 あまりにも静かで澄んだ空気の中、私たちは暖かい神々しさに包まれていた。

 

 ――天は裂け、海は怒り、世界を覆い尽くす大波が生まれた。

 ――人々が滅びを覚悟したそのとき、女神は海を従える宝玉を巫女へ授けた。

 ――巫女が宝玉を掲げしとき、荒れ狂う海はその御前に伏し、大波は鎮められた。

 ――人々はその日を神威の証とし、女神とその巫女の名を永く語り継いだ。

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