世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「こんな野蛮な世界、相手していられないわ!」
さすがは神殺しの刃。危機を感じたシュリーが逃げ出すほどの代物だったみたいだねえ。
帰れ帰れ~! 私の世界に干渉するな~!
言葉にはしないけど、腕を上下させてそんな意思をアピールする。
「ただ、このままやられっぱなしは趣味じゃないわ!」
あ、なんかとんでもない量の信仰が消費されてる。
シュリーは去り際にその力を使い、今までで一番の量の海水を出現させた。
うわあ……。最後っ屁がすごい。
でも、リオラの攻撃に怯んでいたせいで、私がしていたことまでは見えていなかったようだね。
「神様。いかがいたしましょう?」
「……このままでは、世界は波に飲み込まれる。魔族も翼人も終わりか」
うん。なんかすっごい量だもんね。
実際に、世界を飲み込むだけの量の水だと思う。
さっきまでの津波が子供だましと思えるほど、規模が違うもんね。
「わ、私たちがまた結界を……いえ、それでも海中での活動はできない……」
「神の怒りか。世界を滅ぼすのも仕方ないな」
「いや! 俺たちならば飛んで回避できる!」
「その後はどうするんだよ。ネルシアの話では海も汚染されているんだろ? それと混ざった水で染まった世界の中じゃ、どうやっても生きていけないだろ」
なんかもうみんな諦めちゃってるね。
まだまだやる気なのは、リオラとオルンだけ。
無理もないか。神の力により引き起こされた滅びなんて、人間たちには避けようがない。
だから、同じく神である私が彼らを救おう。……あっちと違って低位だけどね!
「ネルシア」
「え? は、はい!」
生成したばかりの潮流の宝玉を投げると、ネルシアはしっかりと受け取った。
それだけで、その宝玉の力はわかってくれたんだろうね。
さすがは海の巫女。海に関する力であれば、なかなかの嗅覚をしている。
「か、かか、神様……! こ、これはいったい……!」
「潮流の宝玉。海を制御する宝」
本当は、こんな強い力を持つ道具なんて作りたくはなかった。
人間は人間らしく自分たちで成長してほしいからね。
ただ、今回はあくまでも神同士の争いに世界が巻き込まれた形になる。
一方的な被害者であるこの子たちに、自分の力でなんとかしろっていうのは暴論だからねえ。
「一度だけ。あの海も支配できる。二度目は壊れるから」
だから、使えるのはこの一回だけにしておこう。
そうでなければ、海人族が海を操ってこの世界にあっさりと君臨するだろうし。
「何!? そんなことが!」
「まじかよ……。いや、あれも神の力だから、制御できても不思議じゃないか」
セファ、それは違うよ。
あれは中位の神の力。対する私は低位の神。
だから本当は制御なんてできるはずがない。
でも、リオラがシュリーを追っ払ってくれたからね。
あの海はすでにシュリーの支配下ではなく自然現象になった。
だからこそ、私の力で付け入る隙があるのだ。
「ネルシア。やって」
「は、はい!」
ネルシアが潮流の宝玉を天にかざす。
すると、その小さな玉の中に水がみるみるうちに吸い込まれていった。
内部は荒れ狂う海のように水で溢れているが、それはしょせんは小さな玉の中。
その中でいくら力強く流れようとも、世界を害することなどできはしない。
「……うそだろ」
「これが神様の力ということか!」
まあ、一応は私の力だね。えっへん。
「よく見なさい。これこそが神様の御力です。崇拝し、祈りを捧げなさい」
リオラがしれっと祈りを強制すると、なんか全員が私に祈り始めた。
照れる。でも、さすがはリオラだねえ。信仰を増やすチャンスはしっかりとものにしている。
プロゴノスが一番すごい祈りだねえ。地面に額がついてるけど、汚れちゃうよ?
さて、さすがに量は多かったけど、潮流の宝玉はしっかりと役目を果たしてくれたね。
海人族であるネルシアと相性がよかったし、うまく道具を生成できたみたいで満足。
これで、シュリーの嫌がらせは対処完了かな?
――世界が更新されました。
――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4040〙〘崩壊区画-4044〙
――人口:106 → 107
――文明レベル:崩壊後
――信仰値:407 → 612
――神格評価:E
おや? 信仰がまた上がったね。
もしかして、目の前で奇跡を起こしたとでも思われたからかな?
……う~ん。よくないな。
仮に私が表舞台に立って力を振るったのが原因だとしたら、今後もそれをしないといけなくなる。
でも、この世界は人間のものだよ。だから、私はできるだけ裏方として動くべき。
この件はあくまでも例外として考えておこう。今後も同じようなことをしたら、人は神から独立できなくなっちゃうし。
ただ、人口が一増えているのが、今回最も喜ぶべきところかな?
これって、きっとプロゴノスが魔物ではなく、この世界の住人として認められたってことだよね?
いやあ、いろいろあったけれど、最後にいい結果もあってよかったねえ。
◇
私は、神様というものをまったく理解できていなかった。
そもそも見た目からしてそう。
てっきり、私たちやオルンやセファみたいに、人の姿を勝手に想像してしまっていた。
だから、初めて見た神様の御姿には驚愕してしまった。
黒い体に六本の腕。さらには四つの目玉。
はっきり言ってしまうと……私は異形だと思ってしまった。
だけど、その威光はあまりにも神々しい。ともすれば、重圧に潰されかねないほどの別次元の存在だった。
そんな別次元の存在がもう一人。
こちらは私が想像したような神様の姿そのものといえる。
人の姿をした美しくも神々しい存在。何も知らなければ、私はこちらをこの世界の神様と判断していたでしょうね。
ただ、中身があまりにも邪悪すぎる。
邪悪な女神は、ほんの片手間のように津波を起こし、この世界を壊そうとした。
抗えない。だって人では神様に抗うことなんて不可能だから……。
だから、私たちを守るためにその波を消してくれた神様の姿は、もはや異形だなんていえない崇拝すべき御姿そのものに見えた。
「これが……私たちの神様の御姿」
「どちらもとんでもない力だな……」
事ここに至って、私たちにできることなど何もない。
それは、魔物の変異体も同じだし、神様の巫女であるリオラ様も同じ。
だと思っていたのに、リオラ様は自分にできることをしっかりと全うした。
短刀を邪悪な女神に投擲すると、なんと女神を追い払ってしまったのだ。
「すごい……」
「リオラ、お手柄!」
「巫女ですので!」
だけど、悔しい。
私は名前ばかりだけど巫女だった。なら、私も神様のために何か行動すべきだったんだ。
そもそも、私たちの神様の御姿に驚いてしまった時点で、私はまだまだ信仰が足りなかった……。
「ネルシア」
「え? は、はい!」
だから……。その機会を与えてくださったことに、私は大いに感謝した。
邪神が発生させた世界を終わらせるほどの高波。
神様なら、それを簡単に消し去れたでしょう。
でも、神様はそうはしなかった。私にこの波の処理を任せてくださった。
それも、私の力だけでは不足しているので、神具をお作りになられて……。
これで応えられないようじゃ、海の巫女とすら名乗れないわね!
当然、あの程度の邪神の力では私たちの世界は穢せない。
当然よ。こっちには神様の力があるのだから。
荒れ狂う波は完全に抑え込まれたが、その前に空気も洗い流してしまったのかしら?
終わってみれば、さっきまでの滅びの光景が嘘のよう。
あまりにも静かで澄んだ空気の中、私たちは暖かい神々しさに包まれていた。
――天は裂け、海は怒り、世界を覆い尽くす大波が生まれた。
――人々が滅びを覚悟したそのとき、女神は海を従える宝玉を巫女へ授けた。
――巫女が宝玉を掲げしとき、荒れ狂う海はその御前に伏し、大波は鎮められた。
――人々はその日を神威の証とし、女神とその巫女の名を永く語り継いだ。