世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
私たちは平和な世界で、神様に見守られながら暮らしていたかっただけなのに。
衣食住に困ることもなく、日々の生活における脅威なんてものもない。
神様をしっかりと信仰して祈る。ただそれだけで、私たちの未来は保証されていた。
神様は私たちのために、毎日世界を改善しようと尽力してくれている。
そのために、毎日毎日私たちの前に姿をお見せしてくださり、畏れ多くも神様と話す機会を与えてくださった。
神と人が交流するそんな世界が、私たちの自慢だったのに……。
「どうしてこんなことに……」
そんな世界がおかしくなってしまったのは、神様の要求に応えたあのときから。
私たち人間にできることは、神様への感謝と信仰を忘れずに祈ること。
……それ以外にも一つだけあった。
巫女を捧げる。それが人間たちにとって誉れ高い行為であったことを私は知っている。
だけど、実際に神様への巫女となってからは、それが過ちだったことを思い知った。
だって、巫女としての最初の仕事は、できるだけ痛みに苦しむ姿を見せることだったから……。
その後も、神様に怯えなければ殺されかけ、怯えても気分次第で痛めつけられた。
そして最後には、みんな死んでしまう。
「さて、それじゃあ崩壊世界に転移させるよ」
だから、こうして神々同士のトラブルに巻き込んで、私たちを物のように扱うんだ。
それでも……嫌だ。私がかつて信仰した女神が邪悪な神であることはわかっている。
でも、それでも、世界そのものは平和で非の打ちどころがない世界。
だというのに、なんで崩壊世界なんかに移住しないといけないの?
「あの……。向こうの世界の神様への説明は……」
「ないよ。がんばってね」
駄目だ……。この神様も同じ。
結局のところ、神様は私たち人間を救うことはなく、物のように扱って当然だと思っているんだ。
じゃあ、私たちが今から行く世界の神様は?
……世界を崩壊させるほどの邪神ってことに他ならないよね。
「どうしよう。どうしよう」
私たちの気持ちなどまるで考えない転移が終わり、目の前の景色が変化してしまった。
最悪……。空気は澱んでいるし、草木もなく荒れ果てた地面がずっと続いている。
人が生きていける場所とは思えない。
どんな神様がここまで世界をボロボロにしてしまったの?
きっと、人どころか世界にさえ興味がないんだ。だから、ここまでの惨状を見ても気にしてもいないんだ。
そんな神様が、急に現れた私たちをどう扱うか……。想像しただけで震えそうになる。
「フィーネ、セレス。行くわよ……」
「行くってどこに!? こんな世界のどこに行ったって変わらないじゃない」
「……でも、ここに留まる理由もないよ」
周囲を改めて見渡す。ひどい土地だ……。
きっとこの世界のどこまでもが、こんなひどい場所なんだと思う。
「食べ物もない。水もない。ここにいたら、本当に死ぬ」
アリアナもフィーネも私の言葉に何も言い返せなかった。
私も……フィーネの言葉は一部正しいと思う。
この世界に来てしまった以上、きっとどこにいても変わらない。
でも、ここで死んでしまうのと、この世界の神様に会いに行くの、どっちがマシなんだろうね?
巫女にならなければよかった。
巫女にさえならなければ、あの平和な世界でずっと暮らせていた。
身寄りのない子供だった私にとって、巫女に選ばれることは誇らしいことだった。
でも、それは私が何も知らなかっただけだったんだ……。
「いいわよ。フィーネがそこにいたいっていうのなら、私だけでも先を目指すから」
アリアナが行ってしまう。このままじゃまずいよね。
私たちの味方なんてこの世界にはいない。
だったら、巫女同士でこんな仲違いをしている場合じゃない。
「フィーネ、行こう?」
「……帰りたい」
「帰ったところで、あの女神に怯える日々が続くだけよ」
「でも、こんなに恐ろしい世界よりはマシだよ……」
そう言いながらもフィーネは立ち上がり前へと進む。
その姿に満足したのか、アリアナは立ち止まって私たちを待ってくれていた。
「空気が汚い。最低限の管理さえできてない。本当に、こんな世界に神様なんているのかな?」
「いたとしたら、絶対にあの女神よりも邪悪な神ってことよね」
喋り続けていないと、不安に押し潰されそうだった。
先への不安と、これまでの不満を次々と口にする。
これが巫女か……。私たちのどこが巫女なんだろう。
「聞き捨てなりませんね」
だから、その声を聞いたときに、私たちは明確に自分たちが格下だと理解した。
「……天使様?」
白く美しい翼を翻し、天使のような女の子が私たちの前に降り立つ。
その姿はこんな世界にはあまりにも不釣り合いで、この光景が夢かと錯覚してしまった。
「巫女です」
「巫女……」
女の子は淡々と、しかし自信に満ちた声でそう答える。
巫女……。私たちと一緒。いや、きっと違う。
力だけ与えられた私たちと違って、この巫女様はきっと心根までもが巫女様なんだ。
だからだろう。私たちが目指すべき姿だったからこそ、こんなにもこの女の子をまぶしく感じている。
「それで、神様への不敬な発言はどういうつもりですか?」
「!?」
そうだった。聞かれていた。
巫女どころか、人として褒められたものじゃない陰口を、全部。
自分が仕えている神様を侮辱されたのだから、このプレッシャーも当然だよね……。
「ご、ごめんなさい! 私たち、急にこの世界に連れてこられて、その……わけもわからずに……」
「あなたの神様を侮辱したことは謝ります……。ただ、私が言い出したことなので、二人には罰を与えないでください」
「だ、駄目だよ! アリアナ一人を犠牲にするなんて!」
結局のところ、私たちにはお互いしかいないんだ。
だから、三人のうち誰が欠けてももう耐えられない。
だというのに、アリアナは不敬の罰を一身に受けようとしている……。
そんなことしたら、絶対に死んじゃうというのに!
「なるほど。そちらの言い分は理解しました。ですが、この世界に連れてこられたとは?」
「は、はい……。私たちはアルセリアという世界にいた巫女です」
アリアナの言葉を聞き、巫女様は怪訝な表情を浮かべた。
そうだよね。別世界の巫女が急に現れるなんて、この世界の巫女としても不審に思うよね?
「私たちの女神様が、そちらの神様にご迷惑をおかけしたため、私たちは信仰の力を譲渡するために送り込まれたんです」
「……なるほど。あいつのところの」
あいつ。……え、うちの女神様のこと?
すごい……。神様をそんな呼び方できるなんて。
いや、さっきの私たちも同じかな? 侮辱していたのは変わらないし。
「ですが、それならなおさら信用できませんね」
やっぱりそうだよね……。だから、こっちの神様に話をしておいてほしかったのに。
こうして疑われて、下手したら殺されるのを見て楽しんでいるのかな?
ああ、やっぱり巫女になった時点で、私はろくな死に方できなかったんだ……。
「はい! ですが……。いえ! 神様の御言葉に逆らうなどありません!」
これってもしかして、向こうの世界の神様から連絡が?
この立派な巫女様が取り乱すほどの相手ということだよね……?
やっぱり、神様と巫女の関係ってどの世界も同じなのかも。
「神様から許可が出ました。あなたたちの話を聞いてくださるそうです。大いに感謝し崇拝しなさい」
「は、はい!」
ともかく、これで最低限の役割だけは果たせそう。
大丈夫。私は、向こうの世界で神様の機嫌を損ねずに今日まで生き延びた。
だから、この世界の神様が相手でも、なんとか毎日生き延びるんだ。
◇
なんて決意はもう崩れてしまいそう。
私たちは三人そろって跪いて頭を下げている。
「神様の御前です。頭を垂れなさい」
巫女様はそれでも満足しなかったのか、さらに頭を下げろと言ってきた。
でも、それに逆らおうって気には到底なれない。
だって、目の前にいるこの世界の神様は……どう見ても、私たちの女神様よりも邪悪な存在なのだから。