世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第4話 食べ盛りの赤ん坊

「リオラ。仕事は後回し」

 

「はい。神様の御心のままに」

 

 方針がころころと変わって文句の一つでも出るかなと思ったけれど、そんな様子はまったくない。

 まずいなあ。この子、私のやることも言うことも全肯定してくれそう。

 甘えすぎると堕落しそうだなあ……。

 でも、私だってたまにはこれくらい甘やかされたいのだ。代わりに私がこの子を甘やかせば永久機関だね。

 

 ただ、今はそんな永久機関を堪能している暇はない。

 ほんの少しばかり厄介なことになってしまったのだから。

 

「大気を修復した場所に魔物の群れが近づいている」

 

「神域に……ですか」

 

 神域。単に修正作業途中の場所というだけなので、あまり仰々しいのもどうなんだろうね。

 デバッグルームとかにしない? 部屋じゃないから駄目か。

 くだらないことを考えながら、まずは彼らをどうするべきか考える。

 

 魔物はこの世界の脅威の一つであり、それの群れとなると翼人数人では太刀打ちできないと思う。

 だけど、神様として助けるべき?

 この世界を見捨てないという方針は変わらない。

 でも、なんでもかんでも手を貸すべきかどうか……。

 

「魔物の群れと翼人数人が遭遇する」

 

「それは……」

 

 騒ぎが落ち着いてからリオラに巫女としての仕事を任せる?

 修復した箇所のメンテナンス、それが巫女の役目。

 リオラがそれを担ってくれるのであれば、私は修復だけに注力できる。

 だから、あの場所が一度は魔物に荒らされても仕方ないと割り切れる。

 荒らされた後にもう一度修正し、今度はリオラに守ってもらうだけだからね。

 

「あの、でしたら急いだほうがいいのではないでしょうか……」

 

「リオラは助けたいの?」

 

「私なんかの意見は……」

 

「ううん。あなたは私の巫女。あなたの意見も聞きたい」

 

「は、はい! であれば、私は救うべきかと愚考します……」

 

 意外だね。リオラって、その綺麗な純白の翼が原因で忌み子って呼ばれていたんでしょ?

 名前を与えられず、神殺しをするまで帰れないなんて実質追放みたいな目にも遭っている。

 それでも助けたいのだとしたら、この子は本当にやさしい子なんだね。

 

 う~ん……。あまり神を頼りすぎると、人類が弱くなる気がする。

 でも、今はわずかな生き残りなわけだし、多少は助けちゃってもいっか。

 

「それじゃあ行こっか」

 

「はい。神様に従います」

 

    ◇

 

「魔物!?」

 

 しまった。まさかここまで接近されていたなんて。

 俺たちが飛行中に見かけたあの群れ。あれとは別に同じ規模の魔物たちがいたのか。

 飛んで逃げる……。のは間に合わない。

 上空が安全なことに違いはないけれど、それはあくまでも高度を保てたらの話だ。

 この距離だと、そこまで飛び上がる前に襲われる。

 

「お前ら離脱しろ」

 

「お前らって、お前はどうするんだよオルン!」

 

「問題ない! 俺が死んでもお前らが生き延びる。そうしたら、この神域を仲間に教えられる」

 

 あとは魔物たちと遭遇しないように、神域をありがたく使わせてもらうだけだ。

 なんせ神様の奇跡の産物だ。きっと、この試練を乗り越えたら奇跡にあやかることができるだろう。

 俺一人の死で仲間が生きながらえる。なんだ、それなら何も問題ないじゃないか。

 

「さあ、かかってこい」

 

 ただではやられないぞ。時間稼ぎが最優先。その次は離脱可能なら俺も離脱だ。

 ついでにできることならこの神域から追い出したい。

 せっかく神域を見つけたのに、魔物の脅威に晒されているなんてもったいないからな。

 

「数が多い! だが、俺一人でその数を足止めできてるなら何より!」

 

 体に魔物の牙が届く。遠慮なく噛みついてくるなよ。血だって貴重なんだぞ。

 いともたやすくぼろぼろになるが仕方ない。

 数が多い。そもそもこちらには戦えるほどの体力がない。

 水は飲んだ。だけど飢えまではしのげていない。そんな状態で探索どころか戦闘なんて、さすがに無茶だったな。

 

 血がどんどん体から抜けていく。

 ああ、貴重な水分が。……いや、魔物たちが血さえ口にしているところを見るに、お前らも同じか。

 水分が足りない。食糧が足りない。だから俺たちを襲っている。それだけのことか。

 

「……ここで魔物の餌になったら、それだけ魔物が生きながらえることになるな」

 

 つまり、仲間たちを襲う存在を延命させてしまう。

 それは困る。それは嫌だ。仲間を逃がした時点でそれなりに働いたが、敵を延命させるのはよくない。

 むしろ、こちらが減らすくらいの気概でいこう。そのほうが俺らしい。

 

「なら、俺もせめて噛みつくか」

 

 食われるくらいなら食ってやる。

 もちろんそんなことができるはずはない。

 魔物の表皮は頑丈で、翼人の歯なんかでどうにかなるはずはない。

 俺たち以上に汚染がひどいため、死骸を食べることすらできない。

 

 だから、こんなことをしたら死ぬだけだ。

 でもそれでいい。どうせ死ぬのなら最後までしっかりと抵抗して、仲間たちのためにこいつらを減らしてやる。

 

「どうせ文字通り歯が立たないだろうけどな」

 

 腕に噛みついていた魔物に噛みつく。

 ……歯に肉が食い込む。噛みちぎられた肉片が口内に放り込まれる。

 え? 表皮が硬くてこちらの歯が欠けるだけじゃないの?

 

 仲間の顔が千切れてその場で倒れたせいか、魔物の群れは俺を警戒するように距離をとった。

 おかげで助かったが、どのみちこの傷では……。

 いや、調子は悪くない。傷がふさがっている?

 よくわからない。わからないがわかったこともある。

 

「お前らさては弱っているな!」

 

 そうでなければ説明がつかない。

 たかだか翼人に噛みちぎられる魔物ってなんだ。

 きっとあいつらもこの世界で弱っているんだ。だから、体も脆くなっているとみた!

 

「なら、こうして殴るだけでも! 痛い!」

 

 違った! 全然脆くない!

 これ以上余計な動きをさせないでくれ。動けば動くほどこっちだって腹が減るんだからな!

 ……腹減ったな。だけど、さっきは少しだけ満足感があった気がする。

 

「……」

 

 口内の肉が喉を通りすぎ胃に落ちる。

 ……どうしよう。なんか美味いんだけど。毒素は? 魔物ってこんなに美味かったっけ?

 それともこれは極限まで空腹なせいか?

 

「まだ諦めないのか。だけどな一つわかった。お前らが俺を食おうとしているように、俺もお前らを食いたい!」

 

 噛みつく。やはり簡単に噛み切れる。

 向こうもやられっぱなしではない。こちらも噛みつかれる。

 なんだこれ。どんな状況だ。互いに互いを食おうとしている。

 なるほど、これが本来の俺たちとお前たちの関係か!

 

 それを繰り返すと、魔物たちが見たことのない反応を示した。

 ……俺に恐れをなしている?

 

 そうか。そういうことか。魔物たちが弱っているのは事実だが、それだけではない。

 俺とお前たちは対等になったんだ。食う者と食われる者から、どちらも食う者に変わったわけだ。

 理由はわからない。だけど、きっと俺が変わったのだろう。

 いや、俺というか世界の法則そのものか……?

 

    ◇

 

「あ、あの……神様。何をしたのでしょうか」

 

「魔物ってたくさんいるでしょ。そいつらを翼人が食べられるようにした」

 

 といっても、せいぜい種族間の関係の設定値を変更しただけ。

 魔物が翼人を食べるというのなら、翼人だって魔物を食べてもいいはず。

 だから、翼人たちが噛みついたときだけ、魔物の耐久力が激減するように変化したみたい。

 互いに食って食われての関係。生き残ったほうが、この荒廃した世界を支配する。

 

 とはいえ、さすがに翼人側に勝ってほしいかなあ。

 神ではあるけれど私情ははさむよ。私の巫女の種族なんだから、ここで全滅されるのは少々惜しい。

 なんでもかんでも助けはしないけれど、自分たちで生き延びれる最低限だけは助けよう。

 

「終わったっぽい」

 

 翼人の男の気迫に気圧されたのか、魔物たちは包囲を徐々に広げて後退していく。

 男の口からは血がしたたっているけれど、表情はずいぶんと満ち足りている。

 うん。おなかいっぱいになってよかったね。

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