世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「さっきの子たちの部屋作った。案内しておいて」
よし。リオラに任せたからにはもう大丈夫。
ということで、私は私で神様のお仕事をしないとね。
お仕事とはいうけれど、わりとウキウキしている自分がいる。
なんせ、五万ほどの信仰を自由に使っていいのだ。そして、その使い道はもう決めてある。
「これは長期戦になる」
だからこそ、今のうちにやっておこう。
大丈夫。今なら特に問題もない。デバッグに集中するだけの時間はある。
万が一何かあっても、私にはリオラという優秀な巫女がいるからね。
しかも、そんなリオラをサポートしてくれるであろう三人の巫女まできてくれた。
これは私に風向きが向いているな~。
「神様。三人の巫女に神殿を案内しました」
「助かる」
「もったいない御言葉です。ところで、神様としてのお仕事でしょうか?」
「そう。急に信仰が増えたから」
「そうでしたか。また、生態系の変更ですか? それとも、ダンジョンの整備を?」
リオラも気になるみたいだね。
神殿に住んでいるとはいえ、巫女として外の様子を見回ることも多いからかな。
なら、きっとこの子も喜んでくれるはず。
「浄化してる」
「浄化、ですか。なるほど……。たしかに、空気も水もまだまだ汚染されていますからね」
「そう。だから空気を……」
そんな会話をしていると、いつの間にか部屋から出てきたらしく、三人の異界の巫女と目があった。
暇になったのかな? まあ、ここって何もないからねえ。
ここというか、この世界はまだまだ足りないものが多いから、娯楽の余裕なんてないのさ。
「も、ももも、申し訳! ございません!」
いや、そんなに頭を下げなくてもいいんだけどね?
たしかに、リオラと話してはいたけれど、この子たちを邪険に扱うつもりもないよ。
「平気」
なので、私はさらっと許すことにした。
今は必要以上に怯えられている気がするけれど、いずれはなんとかなるでしょ。
「見たければ見ればいい」
「神様からお許しが出ました。感謝しなさい」
「は、はい!」
……もしかして、リオラが間に挟まることで必要以上に畏れられているのでは?
難しいところだねえ。かといって、口下手な私と二人きりだとそれはそれで大変だし。
なんとなく問題を見つけた気がするけれど、今はデバッグに集中してしまおう。
こうして問題を先送りにするのが、私の悪い癖のような気がする……。
「神様。浄化のわりには、以前よりもお時間がかかっていませんか?」
お、さすがに気付いちゃう?
私の巫女は今日も優秀である。あとかわいい。
ので、撫でながら答えを教えてあげよう。
「範囲が広い」
「一度に神域を増やすということですね。どれほど増やすおつもりですか?」
「全部」
「え?」
「この機に世界中の空気を浄化する」
やり応えある仕事だよ? これは。
ずっと気になっていたからね! 空気という土台がぼろぼろなんだもん。
そりゃあ、世界はいつまでたっても澱んでいるし、過酷な環境のままのわけだよ。
魔物はむしろ穢れから生まれているし、元魔物である魔族が元気なのはわかるんだけど、対応できている翼人と海人族ってすごいね。
「それほどの大規模な奇跡を……。ありがとうございます。私たちの世界のために」
「大丈夫」
管理女神だからねえ。
あと、リオラたちには悪いけれど、これは私の意地でもある。
新人に荒廃した世界を押し付けてあざわらっていた神たちめ~。
絶対に、あんたたちの望むような滑稽な結果にはしてやらないし!
「世界全体の……浄化……?」
お、新人巫女たちも興味ある? 興味あるみたいだねえ。
さすがは巫女。シュリーのいた世界でも、きっと神の仕事を手伝ったりしていたんだろうね。
「そう」
「それほどの力を世界に割くのですか?」
「どうせ譲渡された信仰だから」
割くっていうか、あぶく銭だからねえ。
私の信仰じゃないから、五万の信仰をどかっと世界に投資しちゃってるだけなんだよね。
ということで元手は無料。あとは私が地道にデバッグしていくだけ。
私自体はこういう地道な作業好きだし、何も問題ない。
「ご、ご自身のために使わないのですか!?」
……?
今まさに私のために使っているよね?
それともあれかな。無駄遣いしすぎだって諫めてる?
いや、でも全部私のものって言ってたしなあ。
「世界のために使ってるなら、それは私のため」
「神様は世界のことを真剣に考えてくださっています。譲渡された信仰といえど、無駄遣いなどしません」
「そ、そんなことが……」
当たり前のことに驚愕されても困る。
人間でいえば、呼吸ができて偉いねとか歩けて偉いね、みたいなこと言われているようなものだし。
「だから、しばらくはデバッグに集中する。リオラ、全部任せる」
「かしこまりました。神様から任された役割、見事に果たしてみせましょう!」
やったあ。私の巫女は頼りになる。
人手が足りないというのであれば、三人の新人巫女がいることだし問題ないね。
問題あったらさすがに知らせてね。シュリーがきたらさすがにリオラだけでは不安だから。
こうして、私は数日間の引きこもりデバッグ作業を行うことになった。
◇
空気の浄化……。
さすがに、この世界の神様でも現状はなんとかしたいと思っているみたい。
何をすればいいかわからない私たちは、つい神様と巫女様の会話を聞いてしまった。
意外。
てっきり自分をきらびやかに見せるために、大量の信仰を使うと思っていたのに。
この神様はそんな信仰のことよりも、神としての作業を優先していた。
私たちに部屋を作ってくれたことといい、もしかして……。
「見たければ見ればいい」
「神様からお許しが出ました。感謝しなさい」
フィーネの謝罪に気分を害した様子もなく、それどころか作業を見る許可までくださった。
さすがにこの状況で盗み聞きなんてできないし、私とアリアナも神様の周囲に集まる。
そうして聞かされた途方もない計画。
「世界全体の……浄化……?」
「そう」
神様は、それを当然こなすべきことだと思っている。
「それほどの力を世界に割くのですか?」
「どうせ譲渡された信仰だから」
しかも、手に入れたばかりの大量の信仰を全て使う気だよね……?
自分のためには? 自分を飾るためだけでなく、自分を高めるためとかには使わないの?
全部……この世界のために使っちゃうの?
——いいなあ。
この世界は荒廃している。だというのに、私はなぜかこの世界の人々がうらやましくなった。
「ご、ご自身のために使わないのですか!?」
フィーネの質問に神様は変わらない態度で答える。
何を言っても怒ったりしない。だからこそ、フィーネも怯えることなく聞くことができているんだろうね。
「世界のために使ってるなら、それは私のため」
ああ、やっぱりそうだ……。
薄々わかっていたけれど、この神様はあの女神とは違うんだ。
世界を真面目に管理することを考えてくださっている。
そんな存在に見守られているこの世界の住人たちが……うらやましく見えたんだ。
私は愚かだった。
崩壊世界の神様だからと決めつけた。
見た目が恐ろしいからと決めつけた。
それはきっと、私が元居た世界のほうが上だという意識から見下していたからだ。
「か、神様!」
だから、これからはその不敬の罪を償わないと。
「私も、巫女様の手となってこの世界のためにがんばります!」
「助かる」
返ってきたのはたったの一言。
でも、その一言はあの女神の幾千の言葉よりも私の心に残るのだった。
◇
「いいですか? 神様は偉業のために他のお仕事にまで手が回せません」
六本あるけど……。まあ、そういうことじゃないよね。
「これからは私が巫女として、あなたたちに指示を出します」
「はい!」
それに異論はなかった。
あの神様のお仕事を邪魔するなどあってはならない。
さすがの私たちにもそのくらいはわかる。
「では、最も重要なことを知らせておきます」
なので、この先輩巫女の言葉は聞き漏らさずに刻んでおこう。
私たちは、真剣な表情で彼女の言葉を待つ。
「神様の巫女は私です。あなたたちは、巫女補佐と名乗りなさい」
「はい!」
……ん? 重要なことだったのかな。
いや、先輩巫女の言うことなんだから、きっと意味があるはず。
……あるよね?
最初のやり取りはともかく、その後の私たちは順調に巫女補佐としてやっていけたと思う。
もうここを荒廃した世界だなんて思わない。
数は少ないけれど、翼人と海人族。それに魔族と呼ばれたものたちの存在を教えてもらった。
できることはあまりないけれど、彼らの問題を監視し、神様の奇跡を維持する日々が続く。
これだ。これこそが私たちの巫女……補佐としての役目。
前にいた世界では、名前ばかりだった。
与えられた巫女としての力も、もっぱら女神の癇癪に耐えるためにしか使わなかった。
頑丈なおもちゃがほしいだけであり、あのときの私たちは巫女ではなかった。
だから、この世界での仕事が楽しい。誇らしい。
さあ、今日もこの世界のためにがんばろう。
などと意気込んでいると、久しぶりに神様が仕事部屋から外に出ていた。
私たち三人がそれに気付いたということは、リオラ先輩は真っ先に気付いたということ。
現に、神様のもとに駆け寄って話を聞いている。
気分転換で出てきたのかな?
さすがにこもりきりだと大変そうだからねえ。
「終わった」
……淡々と告げるその声に、私たちは嫌な予感がした。
終わったって……もしかして、失敗?
神様といえど、この世界の汚染を浄化しきるのは無理だった?
それとも信仰が足りないとか……。だとしたら、私たちで信仰を集めないと。
「……お疲れさまでした。奇跡が終わったということですね」
「うん。これで空気は平気」
……え? もしかして、もう空気の浄化を?