世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第42話 美味しい空気をたっぷりと

「さっきの子たちの部屋作った。案内しておいて」

 

 よし。リオラに任せたからにはもう大丈夫。

 ということで、私は私で神様のお仕事をしないとね。

 お仕事とはいうけれど、わりとウキウキしている自分がいる。

 なんせ、五万ほどの信仰を自由に使っていいのだ。そして、その使い道はもう決めてある。

 

「これは長期戦になる」

 

 だからこそ、今のうちにやっておこう。

 大丈夫。今なら特に問題もない。デバッグに集中するだけの時間はある。

 万が一何かあっても、私にはリオラという優秀な巫女がいるからね。

 しかも、そんなリオラをサポートしてくれるであろう三人の巫女まできてくれた。

 これは私に風向きが向いているな~。

 

「神様。三人の巫女に神殿を案内しました」

 

「助かる」

 

「もったいない御言葉です。ところで、神様としてのお仕事でしょうか?」

 

「そう。急に信仰が増えたから」

 

「そうでしたか。また、生態系の変更ですか? それとも、ダンジョンの整備を?」

 

 リオラも気になるみたいだね。

 神殿に住んでいるとはいえ、巫女として外の様子を見回ることも多いからかな。

 なら、きっとこの子も喜んでくれるはず。

 

「浄化してる」

 

「浄化、ですか。なるほど……。たしかに、空気も水もまだまだ汚染されていますからね」

 

「そう。だから空気を……」

 

 そんな会話をしていると、いつの間にか部屋から出てきたらしく、三人の異界の巫女と目があった。

 暇になったのかな? まあ、ここって何もないからねえ。

 ここというか、この世界はまだまだ足りないものが多いから、娯楽の余裕なんてないのさ。

 

「も、ももも、申し訳! ございません!」

 

 いや、そんなに頭を下げなくてもいいんだけどね?

 たしかに、リオラと話してはいたけれど、この子たちを邪険に扱うつもりもないよ。

 

「平気」

 

 なので、私はさらっと許すことにした。

 今は必要以上に怯えられている気がするけれど、いずれはなんとかなるでしょ。

 

「見たければ見ればいい」

 

「神様からお許しが出ました。感謝しなさい」

 

「は、はい!」

 

 ……もしかして、リオラが間に挟まることで必要以上に畏れられているのでは?

 難しいところだねえ。かといって、口下手な私と二人きりだとそれはそれで大変だし。

 なんとなく問題を見つけた気がするけれど、今はデバッグに集中してしまおう。

 こうして問題を先送りにするのが、私の悪い癖のような気がする……。

 

「神様。浄化のわりには、以前よりもお時間がかかっていませんか?」

 

 お、さすがに気付いちゃう?

 私の巫女は今日も優秀である。あとかわいい。

 ので、撫でながら答えを教えてあげよう。

 

「範囲が広い」

 

「一度に神域を増やすということですね。どれほど増やすおつもりですか?」

 

「全部」

 

「え?」

 

「この機に世界中の空気を浄化する」

 

 やり応えある仕事だよ? これは。

 ずっと気になっていたからね! 空気という土台がぼろぼろなんだもん。

 そりゃあ、世界はいつまでたっても澱んでいるし、過酷な環境のままのわけだよ。

 魔物はむしろ穢れから生まれているし、元魔物である魔族が元気なのはわかるんだけど、対応できている翼人と海人族ってすごいね。

 

「それほどの大規模な奇跡を……。ありがとうございます。私たちの世界のために」

 

「大丈夫」

 

 管理女神だからねえ。

 あと、リオラたちには悪いけれど、これは私の意地でもある。

 新人に荒廃した世界を押し付けてあざわらっていた神たちめ~。

 絶対に、あんたたちの望むような滑稽な結果にはしてやらないし!

 

「世界全体の……浄化……?」

 

 お、新人巫女たちも興味ある? 興味あるみたいだねえ。

 さすがは巫女。シュリーのいた世界でも、きっと神の仕事を手伝ったりしていたんだろうね。

 

「そう」

 

「それほどの力を世界に割くのですか?」

 

「どうせ譲渡された信仰だから」

 

 割くっていうか、あぶく銭だからねえ。

 私の信仰じゃないから、五万の信仰をどかっと世界に投資しちゃってるだけなんだよね。

 ということで元手は無料。あとは私が地道にデバッグしていくだけ。

 私自体はこういう地道な作業好きだし、何も問題ない。

 

「ご、ご自身のために使わないのですか!?」

 

 ……?

 今まさに私のために使っているよね?

 それともあれかな。無駄遣いしすぎだって諫めてる?

 いや、でも全部私のものって言ってたしなあ。

 

「世界のために使ってるなら、それは私のため」

 

「神様は世界のことを真剣に考えてくださっています。譲渡された信仰といえど、無駄遣いなどしません」

 

「そ、そんなことが……」

 

 当たり前のことに驚愕されても困る。

 人間でいえば、呼吸ができて偉いねとか歩けて偉いね、みたいなこと言われているようなものだし。

 

「だから、しばらくはデバッグに集中する。リオラ、全部任せる」

 

「かしこまりました。神様から任された役割、見事に果たしてみせましょう!」

 

 やったあ。私の巫女は頼りになる。

 人手が足りないというのであれば、三人の新人巫女がいることだし問題ないね。

 問題あったらさすがに知らせてね。シュリーがきたらさすがにリオラだけでは不安だから。

 

 こうして、私は数日間の引きこもりデバッグ作業を行うことになった。

 

    ◇

 

 空気の浄化……。

 さすがに、この世界の神様でも現状はなんとかしたいと思っているみたい。

 何をすればいいかわからない私たちは、つい神様と巫女様の会話を聞いてしまった。

 

 意外。

 てっきり自分をきらびやかに見せるために、大量の信仰を使うと思っていたのに。

 この神様はそんな信仰のことよりも、神としての作業を優先していた。

 私たちに部屋を作ってくれたことといい、もしかして……。

 

「見たければ見ればいい」

 

「神様からお許しが出ました。感謝しなさい」

 

 フィーネの謝罪に気分を害した様子もなく、それどころか作業を見る許可までくださった。

 さすがにこの状況で盗み聞きなんてできないし、私とアリアナも神様の周囲に集まる。

 そうして聞かされた途方もない計画。

 

「世界全体の……浄化……?」

 

「そう」

 

 神様は、それを当然こなすべきことだと思っている。

 

「それほどの力を世界に割くのですか?」

 

「どうせ譲渡された信仰だから」

 

 しかも、手に入れたばかりの大量の信仰を全て使う気だよね……?

 自分のためには? 自分を飾るためだけでなく、自分を高めるためとかには使わないの?

 全部……この世界のために使っちゃうの?

 ——いいなあ。

 

 この世界は荒廃している。だというのに、私はなぜかこの世界の人々がうらやましくなった。

 

「ご、ご自身のために使わないのですか!?」

 

 フィーネの質問に神様は変わらない態度で答える。

 何を言っても怒ったりしない。だからこそ、フィーネも怯えることなく聞くことができているんだろうね。

 

「世界のために使ってるなら、それは私のため」

 

 ああ、やっぱりそうだ……。

 薄々わかっていたけれど、この神様はあの女神とは違うんだ。

 世界を真面目に管理することを考えてくださっている。

 そんな存在に見守られているこの世界の住人たちが……うらやましく見えたんだ。

 

 私は愚かだった。

 崩壊世界の神様だからと決めつけた。

 見た目が恐ろしいからと決めつけた。

 それはきっと、私が元居た世界のほうが上だという意識から見下していたからだ。

 

「か、神様!」

 

 だから、これからはその不敬の罪を償わないと。

 

「私も、巫女様の手となってこの世界のためにがんばります!」

 

「助かる」

 

 返ってきたのはたったの一言。

 でも、その一言はあの女神の幾千の言葉よりも私の心に残るのだった。

 

    ◇

 

「いいですか? 神様は偉業のために他のお仕事にまで手が回せません」

 

 六本あるけど……。まあ、そういうことじゃないよね。

 

「これからは私が巫女として、あなたたちに指示を出します」

 

「はい!」

 

 それに異論はなかった。

 あの神様のお仕事を邪魔するなどあってはならない。

 さすがの私たちにもそのくらいはわかる。

 

「では、最も重要なことを知らせておきます」

 

 なので、この先輩巫女の言葉は聞き漏らさずに刻んでおこう。

 私たちは、真剣な表情で彼女の言葉を待つ。

 

「神様の巫女は私です。あなたたちは、巫女補佐と名乗りなさい」

 

「はい!」

 

 ……ん? 重要なことだったのかな。

 いや、先輩巫女の言うことなんだから、きっと意味があるはず。

 ……あるよね?

 

 最初のやり取りはともかく、その後の私たちは順調に巫女補佐としてやっていけたと思う。

 もうここを荒廃した世界だなんて思わない。

 数は少ないけれど、翼人と海人族。それに魔族と呼ばれたものたちの存在を教えてもらった。

 できることはあまりないけれど、彼らの問題を監視し、神様の奇跡を維持する日々が続く。

 

 これだ。これこそが私たちの巫女……補佐としての役目。

 前にいた世界では、名前ばかりだった。

 与えられた巫女としての力も、もっぱら女神の癇癪に耐えるためにしか使わなかった。

 頑丈なおもちゃがほしいだけであり、あのときの私たちは巫女ではなかった。

 だから、この世界での仕事が楽しい。誇らしい。

 

 さあ、今日もこの世界のためにがんばろう。

 などと意気込んでいると、久しぶりに神様が仕事部屋から外に出ていた。

 私たち三人がそれに気付いたということは、リオラ先輩は真っ先に気付いたということ。

 現に、神様のもとに駆け寄って話を聞いている。

 

 気分転換で出てきたのかな?

 さすがにこもりきりだと大変そうだからねえ。

 

「終わった」

 

 ……淡々と告げるその声に、私たちは嫌な予感がした。

 終わったって……もしかして、失敗?

 神様といえど、この世界の汚染を浄化しきるのは無理だった?

 それとも信仰が足りないとか……。だとしたら、私たちで信仰を集めないと。

 

「……お疲れさまでした。奇跡が終わったということですね」

 

「うん。これで空気は平気」

 

 ……え? もしかして、もう空気の浄化を?

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