世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「空気空気。空気の浄化」
……もう必要ないっぽい?
浄化した後、少しずつ穢れが混ざってたみたいで、またわずかに空気が汚染されていた。
でも、さすがに浄化を繰り返すことで安定したみたいだね。
……う~ん。随分と力業だったねえ。たまたま使い切れる大量の魔力があったからいいけど、わりと無謀なやり方だったかな?
「神様。浄化のお仕事お疲れ様です」
「平気」
リオラたちが頑張ってくれたのも助かる。
浄化したあとに巫女の力で空気を安定化させ、穢れの侵入を防いでくれたからね。
優秀な管理保守担当がいると、心置きなく作業を進められていいね。
「しかし、申し訳ございません。私がしっかりと奇跡の維持さえできれば……」
リオラは悔しそうに歯噛みした。
相変わらず完璧主義というか、自分に厳しい子だねえ。
「それでも助かってる」
なので、私が甘やかす。
それでちょうどバランスがいいのだ。このリオラという翼人は。
それに、さっきも見たように安定してきた。そろそろ私が追加でデバッグする必要はなさそうだ。
でも、なんで急に安定したのかな? やっぱり、浄化を繰り返して穢れの総量が減ったのかな?
「周囲の様子は?」
「はい! 翼人と海人族たちは、プロゴノスと停戦協定を結んだそうです!」
へえ。やるねえ。
喧嘩はだめだよ~。って言ったけれど、ちゃんと仲直りできたんだ。
ってことは、各種族でうまいこと魔物狩りをしているって感じかな。
どれどれ、ちょっと見てみよう。
最近は空気のバグ修正ばかりだったから、みんなの様子を見ていられなかったからね。
「外は……」
……これは、驚いたねえ。
ほとんど生命がなかった死にかけの世界。そんな印象だったんだけど、いつのまにか変わっている。
——緑だ。植物が増えている。
まだまだほんの一部ではあるけれど、翼人たちの近くには確実にそれらが増えていた。
「なるほど……」
そっか。これのおかげか。
てっきり穢れを力業で減らし続けたんだと思っていたけれど、どうやらそれだけではないみたい。
空気に混ざった穢れの浄化を、植物たちも手伝ってくれていたんだろうねえ。
数は全然足りないけれど、それでも私や巫女以外がそうしてくれるっていうのはありがたい。
「翼人たちも、この世界をよくしようと動いている」
「はい。悔しいですが、翼人も神様のお役に立っております。認めたくはありませんが」
リオラ、すごい嫌がっているけれどあなたも翼人だよ。
とはいえ、忌み子だったから仕方ないけどね。リオラの翼人嫌いは。
ただ、オルンやセファとはそこそこうまくやれているみたいだし、直接迫害しなかった相手はそれなりに認めているのかも。
「リ、リオラ様も翼人よね?」
「う、うん。ただ、種族が違うのかも?」
ほら、あなたの後輩巫女たちも困ってる。
だけどリオラは、そんな言葉はまるで気にしていなかった。
聞こえているはずなんだけどなあ。相変わらず、興味のあるなしで反応の差が大きい。
「それに、これは翼人だけの手柄ではありません。神様、緑が広がっている箇所、翼人たちの住処以外もありますよね?」
「そうだね。点々とではあるけれど、わりと広い」
ただ、これらは翼人が飛んで行って広めたのかなと思ったけれど違うのかな?
リオラの言い方からすると、どうやらそうではないみたい。
翼人以外となると……。まあ、この世界での選択肢なんて限られているね。
「プロゴノス?」
「はい。彼が魔物たちを使役し、広範囲の土地を再生させようとしております」
「ほう」
それは頼りになる。
空気を浄化したとはいえ、この世界の穢れはまだそこら中に染みついている。
これからも魔物は無数に発生し、この世界のどの種族よりも数を増やすだろう。
そんな魔物たちを使って、緑を増やすというのはいいアイディアだと思う。
「魔族の手柄です」
「いや、翼人も……」
なんで魔族のほうに肩入れしてんのさ。
私の巫女の公私混同がすごい。
ただ、今のままではまだ途中。今後彼らはもっと広い範囲の再生を手伝ってくれるはず。
いいね。すごくいい。
全部私がやらなきゃいけないと思っていたけれど、こうしてみんなも協力してくれるのは助かる。
じゃあ、私は私にしかできないことを今後も進めよう。
みんなが手伝ってくれることなら、みんなに任せてしまおう。
巫女だけでなく、この世界の住民の力も借りて世界を再生する。
それが、この世界の管理神としての私の方針なのだ。
◇
「青と緑! これが世界の美しさというものか!」
「黙って作業できねえのかお前は」
「しかしセファよ。感動したほうが作業の効率も上がらないか?」
「お前だけだ」
なんでまたオルンと一緒に……。
ダンジョンができて以来、なんかこいつと行動すること増えてないか?
プロゴノスとの話もついた今、こいつと仲良く共に作業する必要ないだろ。
「オルン。セファ。婆さんから苗預かってきたぞ~」
「ならちょうどいい。俺はオルンとは別の場所を担当するから、お前たちがオルンを」
「いや! 俺たちはあっちを担当するから、セファ頼んだ」
「おい待て」
「俺たちじゃ、オルンを制御しきれない」
「……行け」
完全にオルンの手綱を握る係にされてるじゃねえか!
というか、オルンの仲間たちもよくついていけるよなあ……。
あ、こいつらはこいつらであほだからか。
「セファ様。どうしましょうか……」
「とりあえず、担当の土地に移動するぞ」
自由奔放なオルン班を、俺たちの班で面倒見てる気がする……。
ネルシアがいたときは、まだマシだったのかもなあ。
だが、プロゴノスとの問題も解決したうえ、三種族で停戦協定をした以上はあいつも自分の土地に帰らないといけない。
あの巫女……様と恐ろしい神様があっさりと帰してくれたようだし、今頃あっちはあっちで大変かもな。
「飛ぶぞ~。オルンたちははぐれたら捨てていくからはぐれるように」
「そこははぐれないように注意喚起すべきなのでは?」
「そのほうが面倒がなくなると思った」
だが、残念ながらオルンたちははぐれずについてきた。
仕方ない。作業を開始するか……。
苗を植える。
水もなければ育たないはずだが、爺や婆の話によるとこの苗なら多少汚染された雨程度なら問題なく育つって話だ。
今までは、汚染されていた空気を通るうちに、雨さえも汚染されて襲い掛かってきていたからな。
雨に降られるだけで、時には死を覚悟しなくてはいけなかった。
それが今では、雨を浴びながら作業しても誰も死なない。
なんなら雨水の利用さえできるようになった。
空気の浄化はある程度の水の問題までも解決してくれたらしい。
なるほどな……。さすがは管理神だ。こうして確実にこちらの問題を解決してくれるとは。
初めて見たときは、絶対に俺たちを弄ぶ悪神だと思っていたが、それは不敬すぎる考えだったか。
「順調なようだな」
翼人の声ではなかった。
声の主はわかっているが、接近に気付かなかったため身構えるように振り返る。
「そんな反応をしなくて良い。停戦だと言ったろう」
「なら、忍びよってくんじゃねえよ。武器を持ってたら攻撃してたぞ」
「かまわん。その程度止められる」
……くそっ、反論できねえ。
プロゴノスがその気になれば、俺たちではいまだに束になっても敵わないからな。
ということは、巫女様が相手でも同じことか。
……俺たちの種族、あの巫女様を忌み子といって迫害してるやつがいたよな?
「どうした? 急に青ざめて」
「……い、いや。おい、プロゴノス。お前と巫女様どっちが強い」
「巫女様だな。あの守りは貫けん」
「……あの巫女様、俺たちの群れの出身だが、最近まで忌み子として迫害されていたらしい」
「……翼人。もしかして、お前ら以上の戦士がごろごろいるのか?」
いや、オルンと俺が一番のはずだ。
……そうだよな? なんか自信なくなってきた。
その迫害してた連中、もしかしてとんでもない強さだったりしないよな?
「考え直さねばならないか……。この停戦はむしろ俺のほうが助かっているということか……」
プロゴノスが勘違いしてるが、いいか別に。
いずれ戦うときが来るかもしれない。
そのときに、こちらの戦力を見誤っているなら、それはそれでありか。
……その前に、あの巫女様に俺たちの種族滅ぼされないといいけど。