世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「で、お前は何しに来たんだ? プロゴノス。俺たちの見張りか?」
「お前たちが面白そうなことをしているようなのでな。興味がわいて話に来た」
「魔族って暇なのか?」
「まだ一人なので自由気ままだ。うらやましいか?」
「あ~……。オルンみたいなのの世話がないのは」
「違いない」
とはいえ、こいつはこいつで仲間を増やすという大任がある。
暇ってこともないだろう。
さて、そんな忙しいやつがわざわざ来たんだ、隠すこともない。
「翼人の爺と婆から話を聞いて、世界に緑を増やしているんだよ」
「ほう。それはまた……」
プロゴノスが作業する俺たちを眺める。
そして理解したのだろう。途方もない作業であることを。
わかっている。俺たちもすぐに終わるなんて思っていない。
だが、始めないと終わることもない。
一つ一つ片づけていく。それだけだ。
「人手は足りんな」
「だろうなあ。長期計画になりそうだ」
「緑が増えたら、世界はもっと豊かになるだろうな」
「だからだよ。だから、こうして少しずつでも足掻いてんだ」
「ならば、俺たちも他人事ではないわけだ」
「……そりゃあ、まあ」
いずれこの世界を翼人が支配するのか、魔族が支配するのか。
いずれにせよ、支配した世界が殺風景では達成感も半減しそうだしな。
「植えるだけか?」
「あ? まあ、そうだよ。生命力が高いからな。苗木を植えりゃ、放っておいても繁殖する。さすがに、汚染まみれの空気の下では無理だったが」
「神様の御業か。本当に素晴らしい神様だ。邪神とは比べること自体不敬だ」
相変わらず、こいつはこいつで心酔してやがる。
そりゃあ、こんな青空ときれいな空気を短時間で作ってくれたんだ。
俺だって感謝しているし、あの神様を疑いやしねえけど。
こいつみたいに感動で震えるまではいかない。
「神様を信仰する者として、そして関係者として、手伝ってやる。感謝しろ」
「そうか? じゃあ、そこにある苗木をこのあたりに……」
おい、どこ見てんだよ。
プロゴノスは俺が指さした方向ではなく、遠い荒れ果てた地を見ていた。
手伝うっていうのなら、よそ見しないで目の前のことに集中してくれ。
「他に苗木は?」
「あるけど、ここはこれだけありゃあ十分だ」
「あのあたりには植えないのか?」
プロゴノスが指さしたのは、さっきよそ見をしていたときの遠い荒れ地だった。
いや、そりゃあ最終的にはそうしたんだけどな。
「まずは近場だ」
「翼人は飛べるだろう。なぜ距離を気にする」
「飛べても疲れるんだよ。それに、あっちは魔物が大量にいて危険……」
そういうことか?
プロゴノスのほうを見ると、自分の顔を指さしていた。
なるほどな。たしかに、こいつの手伝いの申し出はありがたいかもしれない。
「苗木は、いくらでもあるわけじゃねえ。これまで準備していた分だけだと、この大地を緑で覆うのは無理だ」
「だろうな。だが、あるだけよこせ。俺が魔物に命じて各地に植えてやる。もちろん、魔物たちに必要以上に食わせん」
こいつ便利だなあ……。オルンと交換したい。
いや、あいつはあいつで優秀な部分があるのは知ってっけど。
「やっぱお前、魔物の王なんじゃないか?」
「従えさせはするが、全ての魔物の面倒までは見切れん。なんだ? ダンジョンで狩ることに罪悪感でも覚えたか?」
「まさか。だがまあ……作業する魔物は、俺たちに狩られない場所に移動させておくことだな」
話はついた。
魔族に大切な苗木を預けるということもあり、他の翼人たちからは反対されると思ったが、案外そうでもないようだな。
プロゴノスが俺たちと共に戦ったことを知っているからだろう。
きっと翼人は、魔物と魔族をきっちり区別して考えられている。
「和平ねえ……」
案外、このまま平和な日々が続くかもな。
であれば、世界再興にせいぜい尽力するか。
◆
私たちがいた世界アルセリアと違い、この世界はあまりにも何もない。
人もろくにいなければ、食料や水もほとんどない。空気さえもまともじゃない。
だから、アルセリアの女神さ……女神の巻き添えでこの世界に行くこととなったとき、私もセレスもフィーネも流刑にされたと思った。
実際のところ、アルセリアのほうが全然快適だった。
当然よね。そもそも、この世界はまともに生き抜くのすら大変なんだから。
この世界で出会った恐ろしい見た目の神様。
その神様を心から信仰する切っ掛けとなったのは、私たちが来た理由である信仰の譲渡。
大量の信仰を渡された神様は、最初に私たちの部屋をお作りになった。
部屋は……アルセリアのときよりは質素だったけど、そんなことどうでもいい。
わざわざ、私たちのために信仰を消費してくださったのだ。
その後は、あの大量の信仰を空気の浄化のために使うと言われ、さすがに半信半疑になってしまった。
信仰を世界のために全て使うなんて、アルセリアの女神ではありえなかったから。
それに、この世界の汚染は残念ながらひどい。
正直、人間の味方をする神様であっても、再生を投げ出しても仕方ないと思う。
だけど、神様は信仰を全て消費して大気を浄化された。
「アリアナ。見た?」
セレスが話しかけてくる。きっと、神様が起こした奇跡についてね。
「外の空気のこと? ええ、来た時とは違って、綺麗な青空よね」
あの神様、本当にこの世界の人のために動いてくれるんだ……。
うらやましくなる。アルセリアは豊かだけど、女神は私たちを消耗品程度にしか考えていないから。
「そ、それもだけど……。緑が増えてる……」
フィーネの言葉が理解できなかった。
緑が? ここに来た時には、植物なんてない荒れ果てた地面ばかりだったはずだけど。
気になったので外に出てみる。
神殿はやはりアルセリアよりも質素。それでも、この世界では十分立派といえる。
そんな神殿では、周囲の様子が遠くまでよく見える。
だから、すぐにわかった。
「……植物が、増えてる?」
増えているというか、そもそも皆無だったはず。
もしかして、神様が今度は植物を作ったの?
「……ほう、これは」
すぐ近くから声が聞こえた。神様ではない。
だけど、私は深々と頭を下げた。
セレスともフィーネとも違うこの声。この世界の巫女様であるリオラ先輩の声だ。
同じ巫女であるはずだけど、彼女のことは巫女様と呼んでしまう。
いや、そもそも同じ巫女というのがおこがましかった。
この人は、神様のために常に考えて行動されているから。巫女としての心構えが違う。
「神様が大気を浄化したことで、緑が戻ったのでしょうか?」
私は、この光景についてリオラ先輩に尋ねた。
この世界ではこれが普通なのか、と。
「いいえ、違います」
しかし、返ってきたのは否定の言葉。
「おそらく、翼人たちが何かしていますね。それに、魔物たちも」
「魔物が?」
「ええ、大方翼人たちが緑を増やすように動き、プロゴノスがそれを手伝っているのでしょう」
なるほど……。
まさか、魔物がそのようなことを。
言われてみれば、遠方でわずかに魔物たちが動いているのが見える。
あれは、植物を食べているのではなく、植えているってことなのね。
……信じられない光景だわ。
ただ、この世界で生きる者を見るたびに思う。
私たちの世界は、恵まれていた。だけど、女神に全てを任せすぎていたのでは?
あの女神はろくでもないけれど、私たちは私たちで問題があったような気がする。
働いていないわけではないけれど、どこか真剣ではなかった。
……せっかくこの世界に来て、しかも見習い巫女にしてもらえたんだから、私も変わらないとね。
◆
「みんな偉い」
翼人たちは、自主的に緑を増やした。
プロゴノスは、それらを広範囲に拡大した。
おかげで、土壌の再生がぐっと楽になった。
神である私だけに任せず、この世界の生き物たちがみんなで世界を取り戻そうとしている。
それこそが、私が目指す管理だ。
「いいね」
実にいいことだ。
ただ、いくらプロゴノスが魔物に命令できるとはいえ限度がある。
そこから先は、彼らでは緑を増やすことはできない。
「どうしようかな」
彼らの手が届かない場所は、まだまだたくさんある。
私がやれば簡単だ。
空気を浄化したときと同じように、信仰を使って私がデバッグしてしまえばいい。
……でも、それじゃあ意味がないんだよねえ。
せっかく翼人たちが自分たちで苗木を植えて、プロゴノスも協力してくれている。
みんなが自分たちの手で、この世界を取り戻そうとしているのだ。
そこに神である私が割り込んで、全部終わらせてしまっていいのだろうか。
「……やっぱり、任せよう」
少なくとも、私にしかできないこと以外はそうするべきなのだ。
みんなが自分たちでできることなら、みんなに任せる。
そのほうが、この世界のためになるはずだよね。
ただねえ……。
「どうやって、もっと遠くまで緑を広げよう」
なかなか悩ましい問題だよ。これは。