世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第45話 新たな芽吹きを世界中に

「で、お前は何しに来たんだ? プロゴノス。俺たちの見張りか?」

 

「お前たちが面白そうなことをしているようなのでな。興味がわいて話に来た」

 

「魔族って暇なのか?」

 

「まだ一人なので自由気ままだ。うらやましいか?」

 

「あ~……。オルンみたいなのの世話がないのは」

 

「違いない」

 

 とはいえ、こいつはこいつで仲間を増やすという大任がある。

 暇ってこともないだろう。

 さて、そんな忙しいやつがわざわざ来たんだ、隠すこともない。

 

「翼人の爺と婆から話を聞いて、世界に緑を増やしているんだよ」

 

「ほう。それはまた……」

 

 プロゴノスが作業する俺たちを眺める。

 そして理解したのだろう。途方もない作業であることを。

 わかっている。俺たちもすぐに終わるなんて思っていない。

 だが、始めないと終わることもない。

 一つ一つ片づけていく。それだけだ。

 

「人手は足りんな」

 

「だろうなあ。長期計画になりそうだ」

 

「緑が増えたら、世界はもっと豊かになるだろうな」

 

「だからだよ。だから、こうして少しずつでも足掻いてんだ」

 

「ならば、俺たちも他人事ではないわけだ」

 

「……そりゃあ、まあ」

 

 いずれこの世界を翼人が支配するのか、魔族が支配するのか。

 いずれにせよ、支配した世界が殺風景では達成感も半減しそうだしな。

 

「植えるだけか?」

 

「あ? まあ、そうだよ。生命力が高いからな。苗木を植えりゃ、放っておいても繁殖する。さすがに、汚染まみれの空気の下では無理だったが」

 

「神様の御業か。本当に素晴らしい神様だ。邪神とは比べること自体不敬だ」

 

 相変わらず、こいつはこいつで心酔してやがる。

 そりゃあ、こんな青空ときれいな空気を短時間で作ってくれたんだ。

 俺だって感謝しているし、あの神様を疑いやしねえけど。

 こいつみたいに感動で震えるまではいかない。

 

「神様を信仰する者として、そして関係者として、手伝ってやる。感謝しろ」

 

「そうか? じゃあ、そこにある苗木をこのあたりに……」

 

 おい、どこ見てんだよ。

 プロゴノスは俺が指さした方向ではなく、遠い荒れ果てた地を見ていた。

 手伝うっていうのなら、よそ見しないで目の前のことに集中してくれ。

 

「他に苗木は?」

 

「あるけど、ここはこれだけありゃあ十分だ」

 

「あのあたりには植えないのか?」

 

 プロゴノスが指さしたのは、さっきよそ見をしていたときの遠い荒れ地だった。

 いや、そりゃあ最終的にはそうしたんだけどな。

 

「まずは近場だ」

 

「翼人は飛べるだろう。なぜ距離を気にする」

 

「飛べても疲れるんだよ。それに、あっちは魔物が大量にいて危険……」

 

 そういうことか?

 プロゴノスのほうを見ると、自分の顔を指さしていた。

 なるほどな。たしかに、こいつの手伝いの申し出はありがたいかもしれない。

 

「苗木は、いくらでもあるわけじゃねえ。これまで準備していた分だけだと、この大地を緑で覆うのは無理だ」

 

「だろうな。だが、あるだけよこせ。俺が魔物に命じて各地に植えてやる。もちろん、魔物たちに必要以上に食わせん」

 

 こいつ便利だなあ……。オルンと交換したい。

 いや、あいつはあいつで優秀な部分があるのは知ってっけど。

 

「やっぱお前、魔物の王なんじゃないか?」

 

「従えさせはするが、全ての魔物の面倒までは見切れん。なんだ? ダンジョンで狩ることに罪悪感でも覚えたか?」

 

「まさか。だがまあ……作業する魔物は、俺たちに狩られない場所に移動させておくことだな」

 

 話はついた。

 魔族に大切な苗木を預けるということもあり、他の翼人たちからは反対されると思ったが、案外そうでもないようだな。

 プロゴノスが俺たちと共に戦ったことを知っているからだろう。

 きっと翼人は、魔物と魔族をきっちり区別して考えられている。

 

「和平ねえ……」

 

 案外、このまま平和な日々が続くかもな。

 であれば、世界再興にせいぜい尽力するか。

 

    ◆

 

 私たちがいた世界アルセリアと違い、この世界はあまりにも何もない。

 人もろくにいなければ、食料や水もほとんどない。空気さえもまともじゃない。

 

 だから、アルセリアの女神さ……女神の巻き添えでこの世界に行くこととなったとき、私もセレスもフィーネも流刑にされたと思った。

 実際のところ、アルセリアのほうが全然快適だった。

 当然よね。そもそも、この世界はまともに生き抜くのすら大変なんだから。

 

 この世界で出会った恐ろしい見た目の神様。

 その神様を心から信仰する切っ掛けとなったのは、私たちが来た理由である信仰の譲渡。

 大量の信仰を渡された神様は、最初に私たちの部屋をお作りになった。

 部屋は……アルセリアのときよりは質素だったけど、そんなことどうでもいい。

 わざわざ、私たちのために信仰を消費してくださったのだ。

 

 その後は、あの大量の信仰を空気の浄化のために使うと言われ、さすがに半信半疑になってしまった。

 信仰を世界のために全て使うなんて、アルセリアの女神ではありえなかったから。

 それに、この世界の汚染は残念ながらひどい。

 正直、人間の味方をする神様であっても、再生を投げ出しても仕方ないと思う。

 だけど、神様は信仰を全て消費して大気を浄化された。

 

「アリアナ。見た?」

 

 セレスが話しかけてくる。きっと、神様が起こした奇跡についてね。

 

「外の空気のこと? ええ、来た時とは違って、綺麗な青空よね」

 

 あの神様、本当にこの世界の人のために動いてくれるんだ……。

 うらやましくなる。アルセリアは豊かだけど、女神は私たちを消耗品程度にしか考えていないから。

 

「そ、それもだけど……。緑が増えてる……」

 

 フィーネの言葉が理解できなかった。

 緑が? ここに来た時には、植物なんてない荒れ果てた地面ばかりだったはずだけど。

 

 気になったので外に出てみる。

 神殿はやはりアルセリアよりも質素。それでも、この世界では十分立派といえる。

 そんな神殿では、周囲の様子が遠くまでよく見える。

 だから、すぐにわかった。

 

「……植物が、増えてる?」

 

 増えているというか、そもそも皆無だったはず。

 もしかして、神様が今度は植物を作ったの?

 

「……ほう、これは」

 

 すぐ近くから声が聞こえた。神様ではない。

 だけど、私は深々と頭を下げた。

 

 セレスともフィーネとも違うこの声。この世界の巫女様であるリオラ先輩の声だ。

 同じ巫女であるはずだけど、彼女のことは巫女様と呼んでしまう。

 いや、そもそも同じ巫女というのがおこがましかった。

 この人は、神様のために常に考えて行動されているから。巫女としての心構えが違う。

 

「神様が大気を浄化したことで、緑が戻ったのでしょうか?」

 

 私は、この光景についてリオラ先輩に尋ねた。

 この世界ではこれが普通なのか、と。

 

「いいえ、違います」

 

 しかし、返ってきたのは否定の言葉。

 

「おそらく、翼人たちが何かしていますね。それに、魔物たちも」

 

「魔物が?」

 

「ええ、大方翼人たちが緑を増やすように動き、プロゴノスがそれを手伝っているのでしょう」

 

 なるほど……。

 まさか、魔物がそのようなことを。

 言われてみれば、遠方でわずかに魔物たちが動いているのが見える。

 あれは、植物を食べているのではなく、植えているってことなのね。

 ……信じられない光景だわ。

 

 ただ、この世界で生きる者を見るたびに思う。

 私たちの世界は、恵まれていた。だけど、女神に全てを任せすぎていたのでは?

 あの女神はろくでもないけれど、私たちは私たちで問題があったような気がする。

 働いていないわけではないけれど、どこか真剣ではなかった。

 ……せっかくこの世界に来て、しかも見習い巫女にしてもらえたんだから、私も変わらないとね。

 

    ◆

 

「みんな偉い」

 

 翼人たちは、自主的に緑を増やした。

 プロゴノスは、それらを広範囲に拡大した。

 おかげで、土壌の再生がぐっと楽になった。

 神である私だけに任せず、この世界の生き物たちがみんなで世界を取り戻そうとしている。

 それこそが、私が目指す管理だ。

 

「いいね」

 

 実にいいことだ。

 ただ、いくらプロゴノスが魔物に命令できるとはいえ限度がある。

 そこから先は、彼らでは緑を増やすことはできない。

 

「どうしようかな」

 

 彼らの手が届かない場所は、まだまだたくさんある。

 私がやれば簡単だ。

 空気を浄化したときと同じように、信仰を使って私がデバッグしてしまえばいい。

 

 ……でも、それじゃあ意味がないんだよねえ。

 せっかく翼人たちが自分たちで苗木を植えて、プロゴノスも協力してくれている。

 みんなが自分たちの手で、この世界を取り戻そうとしているのだ。

 

 そこに神である私が割り込んで、全部終わらせてしまっていいのだろうか。

 

「……やっぱり、任せよう」

 

 少なくとも、私にしかできないこと以外はそうするべきなのだ。

 

 みんなが自分たちでできることなら、みんなに任せる。

 そのほうが、この世界のためになるはずだよね。

 

 ただねえ……。

 

「どうやって、もっと遠くまで緑を広げよう」

 

 なかなか悩ましい問題だよ。これは。

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