世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「鳥」
かわいい! これが聖鳥。
この子たちがいずれ私の世界の空を羽ばたくのだ。
いやあ、いい世界になりそうだねえ。
フィーネが見せてくれた鳥たちは、私の頭や腕に乗った。
あらあら、かわいい子たちだねえ。
つついてこないということは、わりと懐いてくれているとみた。
私、鳥系に懐かれやすいのかも。
「……そんな小さな羽根で満足なんですか? 神様」
その筆頭が小さき生き物たちに対抗意識を燃やしている。
いや、別腹というか……ね?
あ、やめなさい。鳥たちをいじめないのは偉いけど、翼で私を隠そうとするのはやめなさい。リオラ。
「す、すみません。リオラ先輩」
「何がですか? 別に気にしていませんけど? 私の神様は、私の翼以外を気に入ろうとも、最後は私の翼が一番だって言ってくれますけど?」
「す、すみません……」
なんかすごい詰められ方してる。
それに巻き込まれて謝るフィーネが普通にかわいそう。
そんな、浮気したことを怒っているみたいな感じされても……。
「返す。ありがとうフィーネ」
「い、いえ! 畏れ多い!」
「ふふん」
鳥たちに向かって自分のほうが上だと挑発するのはやめなさい。リオラ。
しかし、鳥たちは気にしていない。
こちらの言っていることがわからない……。わけでもなさそうだね。賢い子たちだし。
もしかして、リオラより大人な対応をしているだけでは?
まあ、リオラはわりと子供だから仕方ないか。
「そ、それでは、私はこの子たちを増やしてきますね」
「どれくらいかかりますか?」
「えっと……。アリアナちゃんとセレスちゃんも手伝ってくれると言っていたので、と、十日もあれば百くらいは……」
え、すごっ。一日で十も増やせるの?
元があるからコピーすればいいってことかな? いや、それでもそこそこ手間かかりそうなんだけど。
さすがは中位女神の世界で巫女をしていた子たちだ。やるねえ。
「では、そこから世界中に緑を広げるのですね」
「は、はい! この子たちなら、それができると思います」
聖鳥たちに種子を運んでもらい、それらが育つのを待つ。
きっと世界中は緑だらけになることだろう。
私の世界が確実に育ち始めている。いい。荒廃していたことなんて昔のことみたい。
◆
「やった。やった。神様に褒めてもらえた……」
「ええ、さすがねフィーネ。あなたのおかげで、私たちもお役に立てているわ」
「今までは、リオラ先輩のサポートくらいしかできなかったからねえ」
セレスちゃんもアリアナちゃんも、快く手伝ってくれている。
おかげで聖鳥たちは順調に育ってくれてる。
繁殖力の高さと成長速度の速さ、それは向こうの世界でも散々頼りになったから信頼できる。
……そうでもしないと、女神に気まぐれで殺されて数が足りなくなっちゃうからね。
「こっちの神様は優しいから、あなたたちの仲間もいっぱい増えるね」
それが最初からわかっていたからか、聖鳥たちはすぐに神様に懐いてくれた。
リオラ先輩に少しはしゃぎすぎだと叱られるくらいには。
「あなたたち、この世界のいろいろなところまで種を運べるよね?」
聖鳥たちは私の言葉がわかっているから、任せておけとばかりに頭に乗った。
うん。向こうの世界より元気かも。
世界の環境は……残念ながらこっちのほうが悪いけど、司る神様の違いはこの子たちに影響を与えてるのかもね。
大丈夫。そのうち環境もこっちのほうがよくなるから。
◇
「ふむ……」
「どうした。プロゴノス」
一人悩んでいると、セファのやつが尋ねてきた。
律儀な男だな。俺たちは敵同士になるかもしれんというのに。
だが、合理的でもある。今は停戦しているので、いがみ合うよりは協力すべきだ。
ならば、相談もその範疇か。
「いや、遠方への緑の拡大について考えていてな」
「それなら、お前と魔物たちのおかげでなんとかなってるじゃねえか」
「遠方だ。あのような目に見える近場ではない」
「近場って……」
セファも納得したのだろう。
たしかに俺たちが担当した範囲も遠方といえるかもしれん。
だが、世界の広さに比べたらまだまだ身近な場所ともいえる。
俺たちの目的はなんだ? 身の回りだけ緑を増やして終わりか?
違う。俺たちの目的は神様がお喜びになる世界だ。
ならば、手の届かない場所だろうが緑を増やす。
「だがなあ。飛んでいこうにも魔物を使おうにも、大変だぞ」
「そうだな」
行けなくはない。俺たちも翼人たちも行くだけなら楽だろう。
だが、それまでに長期の時間を要する。
遠方に赴き苗木を植えて戻ってくる。その準備はどうする?
何日かかる? 食料や水まで運ぶなら、さらに歩みは遅くなるぞ。
そして何よりも問題なのが、遠方はここらほど大地がまともではない。
大気中の穢れこそ薄まっているが、大地に根付いた汚染はここらの比ではないだろう。
俺たち魔族や魔物でさえ、長時間の滞在は体を蝕まれる。
だから、移動してすぐに帰還しないとそのまま遠方で死ぬだけだ。
「……一部の魔物に帰還を考慮しない命令を出すか?」
「う~ん……。魔物は狩りの獲物だ。散々狩ってきた。そんな俺たちが言うのもなんだが、かなりきつい命令じゃないか? それ」
「そうなるな」
俺とて魔物を無駄に死なせるのには抵抗がある。
魔物を仲間と思ったわけではない。
ただ、ここで死を前提とした指示を出したら、いずれ魔族の王となったときに同じことをするのではないか?
一度許せば二度三度と際限なく続くだろう。
だが、神様のため……。いや、それもよくない。神様を言い訳にするなど以ての外だ。
「おい、セファ! お、プロゴノスもいたのか」
「うるせえのがきた」
「オルンか」
「プロゴノスのほうがしっかりした反応じゃないか! どういうことだセファ!」
相変わらず、戦うときは息がぴったりだというのに、普段は揉めている二人だな。
俺も、早く俺以外の魔族を作る準備を進めなくては。
……別にうらやましくなったわけではない。
「で? どうした。オルンよ」
「プロゴノスの手伝いもあり、ここらの緑は十分になった! ということで、世界の果てを見に行こうと飛んで行ったわけだが」
「なにしてんだお前!?」
……すごいな。
はるか遠方までの移動は、そうやすやすと行えないという話をセファとしたばかりなのだが。
飛行能力が高いのか? いや、帰りのことを考えていなかっただけだろうな。
「帰る途中で力尽きるところだった」
「あたりまえだろ! お前、神様のおかげで平和な土地が増えて油断してんだろ! 俺たちも知らない未開地なんて、休憩しているだけで死ぬ危険性もあるんだぞ!」
「いやあ、危なかったな」
笑い事ではないと思うが……。
だが、それだけの無鉄砲な男だからこそ、翼人たちを率いる力もあるのだろう。
「はあ……。で、運よく安全な場所で休んでから帰るための体力を回復したってことか?」
「ああ、それが遠方にも緑あふれる場所が広がっていてな。おかげで、思いのほか安全に休みながら移動できた」
「何……?」
どういうことだ? 俺たち以外にも緑を増やしている者が?
あるいは……神様がすでに手を回してくれていた可能性もあるな。
あの神様のことだ。俺たちのために、日々考えて行動してくれているのだろう。
「あと、そっちのほうでは鳥を複数見かけたぞ」
「鳥って……。絶滅してなかったのか?」
「……なるほどな。神様が復活させたのだろう」
「神様が、か?」
「ああ。鳥ならば、遠方まで行けるのではないか?」
見えてきた。
遠方への移動ができないのは、途中で休息をとることなどできないからだ。
だから、俺たちでは行ったきり戻れない死を前提とした移動となる。
だが、それは俺たちの大きさでは、安全に休みながら移動できないからだ。
それに引き換え鳥たちならおあつらえ向きだろう。
移動速度は俺たち以上。小さな体なので大地からの汚染の影響も少ない。そもそも、大地で休むこともない。
神様は相変わらず先を見通しているようだ。
◆
え、うまくいったの? ラッキー。
なんとなく鳥なら世界の果てまで飛べると思ったけど、やってみるもんだねえ。
それとも、フィーネたちが育ててくれた聖鳥がすごかったのかな。
「みんないい子」
聖鳥もフィーネもアリアナもセレスも、当然リオラもなでる。
私は今大変ご機嫌なのだ。
「うまくいってよかったです」
「やりますね。フィーネ、アリアナ、セレス。今後も神様のために役立ちなさい」
うんうん。お姉さんっぽくしようとしてかわいいね。
リオラを筆頭に、私の巫女たちは今日も仲良く活躍している。
さて、世界に緑が広がった。
つまり、最低限の土壌はできたということだ。
空気からの汚染に苦しむ者はもういない。
大地に根付いた汚染も植物を修正してそこから浄化した。
ふと、風が吹いた。
以前なら、風が吹くだけで嫌な臭いが混じっていた。
でも、今は違う。
周囲で草が揺れている。
木々の葉が揺れている。
鳥たちが、その上を飛んでいる。
「……本当に、変わったんだね」
私がそう呟いた瞬間だった。
――世界が更新されました。
――管理対象世界:放棄領域〘崩壊区画-4040〙〘崩壊区画-4044〙 → 再生領域〘区画-4040〙〘区画-4044〙
――人口:110
――文明レベル:崩壊後 → 再生初期
――信仰値:612(52,714) → 893
――神格評価:E
最初の一歩は、踏み出せたね。
青い空の下。
緑の大地を、聖鳥たちが飛んでいく。
私はその光景を、いつまでも眺めていた。