世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする   作:パンダプリン

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第48話 生命のゆりかごの抽出条件

「……なんだ?」

 

 その日、この世界に住まう者たちは何かを感じた。

 自分でも説明つかないような不可思議な感覚。だが、悪い何かではないということだけはわかる。

 祝祭の日にすべきなにかが起きている。この世界が、まるで産声を上げたかのような感覚だった。

 

「……この作業が終わったら、オルンやセファにも確認してみるか」

 

 そう。今は手が離せない。

 狼型の魔物たちは、巨大なボス狼の魔物へと変化した。

 それらを戦わせ喰らわせることで、自分の仲間を今度こそ作る。

 これまでは、力が不足しているのかうまくいっていなかった。

 だが、もしかしたら……。世界が変わった今なら、新たな命が誕生しやすくなっているのでは?

 プロゴノスは、確証はないがそう考えていた。

 

「……終わったか?」

 

 魔物たちが互いに戦っていたが、決着がついた。

 ボスとも呼べる巨大な狼の魔物たちだったが、それぞれの大きさにも個体差がある。

 一番小さい。かろうじて今回の候補となった魔物。

 プロゴノスはその魔物は食い殺されるだろうと思っていたが、どうやら自分の目は節穴だったようだ。

 

「お前、言葉は理解できるか?」

 

 尋ねてみる。

 それでだめなら、今回の魔物は保留だ。

 次も似たような手段で魔物たちを食わせあい、そうして集まった魔物たちをまた食わせあう。

 それが自分たちの増え方だ。

 

「……はい。王よ」

 

「!」

 

 プロゴノスの目が見開く。

 ついに、自分以外に言葉を話す魔物が誕生した。

 ならば、あとは同じことの繰り返しだ。

 女神様からいただいた魔族という種族名、それをこの地に増やして存続させる。

 魔族の王と呼ばれたプロゴノスの計画は、ようやく前に一歩進んだのだった。

 

「魔族……では呼びにくいな。なるほど、神様もこんな気持ちだったのか」

 

 新たな同胞の個体識別名を考えなければならない。

 自分は神様に名付けていただいたが、これからは魔族たちに同じことをしなければならない。

 神様からいただいた名に近しい名前から、プロゴノスはその候補を決めた。

 

「ダスカロス。お前の名前はダスカロスだ」

 

「は、ありがたくちょうだいいたします。我が王よ」

 

    ◆

 

 ――人口:110 → 111

 

 むむっ!

 これは……始まったかな?

 

「どうしました? 神様?」

 

 リオラの声に、アリアナとセレスとフィーネも集まってきた。

 我が家の巫女たちは、今日も仲良く一緒に行動しているらしい。

 そして、リオラの勘が鋭いところも相変わらずだね。

 

「人口が増えた」

 

「おめでとうございます。翼人たちが繁殖でもしたのでしょうか」

 

 繁殖って……。君、同じ種族に容赦ないねえ。

 まあ、リオラの言っていることも可能性はあるよ。

 でも、私はもう一つ。いや、もう二つの可能性を思い浮かべていた。

 

「プロゴノスの仲間かも」

 

「なるほど……。魔族が増えた、その可能性はありそうです」

 

「へえ、めでたいことですね。おめでとうございます。神様」

 

 アリアナが親しみを込めて祝ってくれると、リオラがアリアナを見つめていた。

 すると、少しずつ萎縮していき、礼儀正しい巫女見習いのアリアナに戻っていく。

 ……上下関係がすごい。ただ、問題があるわけでもないから、リオラを注意するのも違うんだよねえ。

 

「あと、もう一つ他の種族かも」

 

 プロゴノスの仲間が増えたら嬉しい。

 だけど、彼には悪いがもっと嬉しいことがあるのだ。

 それは、この世界に翼人と海人族と魔族以外が増えること。

 

 私、そのために空気の浄化がんばったからね!

 その後は大地に緑を増やして、植物の力を借りて大地の浄化という大規模な計画を考えていた。

 でも、緑を増やすのはこの世界のみんなと、フィーネたち巫女見習いががんばってくれた。

 なので、計画は大幅に短縮できているのだ。

 

 ここはもう崩壊世界ではない。

 であれば、命も生まれやすくなっているはず。

 よし、いける! 私の世界に動物たちももっと増えていく!

 

「他の種族……。もしかして、私たち以外の人類が?」

 

 人類はまだ先かな?

 生き残っていた者たちを見つけたら、その限りではない。

 でも、何もない状態から増えてもらうには、それこそ私がちょろっと世界をデバッグしないといけない。

 鳥でさえ大変だと思っていたのだから、人類はもっと厳しい。

 いや、ほんと、どうなってんの? 仕様が膨大すぎて、設計するのだけでもしんどいんだけど。

 

「人類はまだ先。次に増えるのは動物」

 

 それを聞いた巫女たちは喜んでくれた。

 そうだよねえ。世界に生き物が増えるっていいよねえ。

 植物が増えたから、まずはそれを餌にする草食動物が増えてくれるはず。

 

 ――人口:111

 

 まだかな。

 

 ――人口:111

 

 もう少し先かな?

 

 ――人口:111

 

 まだ……かな?

 

「神様。何を観察しているんですか?」

 

 じっと部屋で人口の数値を見ていると、セレスが尋ねてきた。

 いや、違うよ? さぼってないよ?

 これは、人口をしっかりと観察して、動物が増えているかチェックしているのさ。

 

「動物が増えたか確認」

 

「そうでしたか。もしかして、もう増えたのでしょうか?」

 

「増えない」

 

 それがおかしいんだよねえ。

 そろそろ増え始めてもいいころなんだけど、数値は一向に変わらない。

 はっ! もしや、事件? 数字だけでなく、現場を見ないとまずいのかも!

 

「神様は千里眼で世界中の動物を確認しているのでしょうか?」

 

「違うよ」

 

 そんな面倒なことを毎回やっていたら、さすがに私も疲れる。

 なんなら信仰力を消耗してしまうかもしれない。

 

「人口の数値が増えてたら、世界に動物も増える」

 

「そうなのですか。……あの神様」

 

 セレスが言いにくそうにおずおずとしていたため、私は発言を促した。

 

「なに?」

 

「動物って人口に含まれるのでしょうか? いえ、神様にとって私たち人類や動物は平等なのはわかりますが」

 

「……あ」

 

 人口……。人だね。

 魔族であるプロゴノスは含まれたけど、魔物たちは含まれていない。

 というか、聖鳥たちが含まれていない時点で気付くべきだった。

 

「……リオラ」

 

「はい! あなたのリオラはここに!」

 

「世界を見る。ついてきて」

 

「承知しました!」

 

「いってらっしゃいませ。神様、リオラ先輩」

 

    ◆

 

「へえ、それで神様もリオラ先輩もご不在なのね」

 

「ええ。なんていうかその……」

 

「どうしたの?」

 

「神様も完璧じゃないんだなあって思ったわ。抜けていてかわいいというか」

 

「不敬じゃない……? まあ、気持ちはわかるけど」

 

 アリアナも同意したってことは、きっとそういうことなんでしょうね。

 あの神様、見た目にイメージと中身が別物すぎる。

 最初はとんでもない邪神だと思ったのに、今では失礼ながらかわいらしいと思えてしまうほどには。

 ……アルセリアの女神と中身交換できないかしら?

 いえ、アルセリアの女神の見た目でかわいらしいとか、なんか気持ち悪いから駄目ね。

 

「でも、大丈夫かな……」

 

「大丈夫って、何が? フィーネ」

 

「そろそろ、またアルセリアに行くんだよね。神様もリオラ先輩も私たちもいなかったら、神殿が不在になるんじゃ……」

 

「たしかにそうね……。でも、さすがにおいそれと神様の神殿に近付く者なんていないでしょ」

 

 アリアナの言うとおりね。

 それに、私たちが来る前はお二人でここを留守にすることも多かったみたいだし、心配はいらないと思う。

 

「……っと」

 

 会話中、急に景色が切り替わった。

 いつのまにかアルセリアに帰る時間になっていたみたい。

 意識してないと、急に転移するから怖いわね。

 

 だけど、そんなことを怖いなんて言っている場合じゃなかった。

 私たちの目の前には、いかにも機嫌を損ねている女神が座って待ち構えていたから。

 これ以上の恐怖なんて、きっとそうそうないはずね……。

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