世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「へえ。聖鳥をねえ」
なぜばれたの。一度も聖鳥のことなんて見なかったのに。
繁殖も使役も全部私たちに任せていたのに……。
邪魔だと言って無造作に殺したことだって、一度や二度じゃなかったのに……。
「なんで? ねえ、教えてくれるかしら?」
あ、甘く見ていた……。
この女神にとって、聖鳥なんて砂浜の砂と同じようなもの。
いちいち数なんて覚えているはずがないと……考えてしまった。
でも、神はやっぱり神だった……。
「聞いてるの? 汚らしい世界にいって、耳に汚染でも詰まった?」
「い、いえ……。も、申し訳ございませ」
「やっぱり耳にゴミが詰まってるのね。私、謝れって言ったかしら? なんで、って聞いているんだけど」
なぜと言われると……。
神様のお役に立ちたかったから……。
当然、この女神じゃなくて、向こうの世界の神様に……。
考えないと。この女神に通用する言い訳を……。
「せ、聖鳥は……自由にしていい……と言われました……」
「ええ、言ったわ。自由に育てろ。自由に使役しろ。興味がないから全部任せる」
だったら……。とは思わない。
だって、この言い訳が苦しすぎることは自分でもわかっているから。
だから、女神からその言葉を引き出せてからが私の勝負どころ……。
「でもね。それって全部、私とこの世界のためになるならって前提なの。言ってなかった? 言わなきゃわかんない? 馬鹿なあんたたちには」
これだ……。きっと女神ならこう言うと思っていた……。
なら、言い訳は考えてある……。
「め、女神様は、……向こうの世界とのいざこざにより、私たちをあちらの世界に送った……と思っています」
「それが? 何? 恨み言でも言いたいの? 災難ね。あんな汚らしい世界に住むことになって」
私の言葉に、女神がわずらわしそうな態度で答える。
あの世界のほうが綺麗だけど、……それは当然言わない。
「め、女神様は、向こうの神様と……。な、仲直りをするために、わざわざ信仰までお渡しになりました……」
「そうよ。あんなやつのために、私から信仰を与えてやったの」
本当は、上の神様に怒られてそうせざるを得なかっただけ……。
でも、女神の中ではそうなっているのか、あるいは私たちに見栄を張っているのか、そんなことを当然のように言ってのけた。
「そ、そのお手伝いとして……女神様にとって、価値のない聖鳥を贈ることで、向こうの神様や上位の神々を納得させられると……思いました」
そうすれば、これはあくまでもこの世界のためであり女神のためになる。
現に、女神は私の言葉を咀嚼し、失うものと得るものの計算をしているみたい……。
女神にとって取るに足らない聖鳥。気分次第で殺すほどの存在。
それを与えるだけで、向こうの世界への侵略がなかったことになるのなら……。
「……いいわ。そういうことなら、許してあげる」
「あ、ありがとうございます……」
よ、よかった……。うまくいった。
あくまでもあなたのためですと言っておけば、この女神は納得してくれると思っていた……。
「そういえば、向こうの世界ではどうなのかしら?」
「あ……。はい……」
機嫌を良くしたのか、私たちのことまで聞いてくるなんて。
本当にこの場は乗り切ったんだって、ついつい安堵のため息さえ漏れそうになった……。
「み、巫女様の後輩として……神様のお手伝いをさせて、いただいています」
「そうね。まあ、そのためにも遣わせたわけだし。環境は? 劣悪でしょ。あそこ」
し、心配してくれているのかな……?
やっぱり、私たちが役に立ったと思って、多少は機嫌が良くなっているっぽい……。
「復興は……順調に進んでいます」
「へえ……。それは何よりね」
さすがに、女神にとっても今回の件はやりすぎたって、反省したのかな?
そうだよね……。信仰を奪われるほどの失態だもん。
いくら女神でも、その反省を次に活かそうとしているっぽいね。
「さて、そろそろ帰還の時間ね」
「は、はい……。失礼します」
最初はもう駄目かと思った。
殺されるかとさえ思った。
だけど、終わってみたらなんとかなった……。
女神に、こうして見送られる日がくるなんて、想像もしてなかったよ。
◇
「さて、消えたわね」
聖鳥なんてどうでもいい。
手慰みに殺す程度のくだらない存在だからね。
ああ。神託を運ぶことは評価してるわ。
でも、だからといって丁寧に扱ってやる理由もない。
だけど……。
だからといって、誰かに分け与える理由もないわ。
私の世界。私のもの。なんでそれをあげないといけないの?
ゴミ一つあげる理由がないわ。
「順調……ね。それは何よりだわ。ナギ」
本当なら、あの薄汚い盗人巫女は殺そうと思った。
でも……そうね。気が変わったわ。
私はもっと長期的に物事を見ることができるの。
あいつを利用して、今度こそ決着をつけてあげるわ。
せいぜい世界の再生をがんばることね。
最後の最後で、私が全部めちゃくちゃにしてあげるから。
「ふふ……。楽しみね」
いらなくなった三人の巫女。
そいつらの代わりに生贄として捧げさせた女を潰す。
あら、もう壊れちゃった。
駄目ね。楽しさと恨みが混ざって力加減ができなかった。
また新しい巫女を捧げさせないと。
◆
「おかえり」
「ただいま戻りました!」
おおう。フィーネが元気だ。
やっぱり、定期的に里帰りしたほうがいいんだろうねえ。
そりゃあそうか。いきなり別世界で働けなんて言われてるわけだし。
元の世界に帰ってリフレッシュでもしないと、やってられないだろうねえ。
「あなたたちが帰還している間、聖鳥がまた増えました」
「お役に立ててよかったです」
「ええ。それだけではなく、さらにいい知らせがあります」
そう! 良く言ったリオラ!
私もちょうど自慢したかったんだよねえ。
いやあ。良かった良かった。本当に順調に世界が再生しているようで助かるよ。
「動物が増えた」
なんせ、待望の動物たちが増えてきたのだから。
いよいよ私の世界も、荒廃しているなんて言えなくなってきたねえ!
これはもう中位管理神クラス……。うん。言っててむなしくなってきた。
さすがにそれはまだまだ早い。
もっともっと地道な一歩から頑張るのだ私は。
「おめでとうございます!」
「本当におめでたいですね」
「ええ。きっとこれからどんどん命が増えていくはずよ」
「照れる」
いやあ。そんなみんなして褒めちゃって~。
私もせいぜいデレデレするくらいしかできないからね?
……はっ。リオラの視線。なでとこ。
「最初に植物を食べる動物が増え、次に肉を食べる動物も増えてきました」
「翼人や魔族も、きっと共生できる」
そうやって次々と生活が豊かになっていき、文明や町なんかもできていくといいねえ。
それに、動物だけでなく海のほうも変わってきているみたい。
ネルシアは相変わらず海の巫女として、みんなをまとめ上げてくれている。
だから、海の魔物が減ったこととか、汚染が消えつつあることもしっかりと仲間に伝えていた。
これが非常に助かる。
「神様。そろそろネルシアたちのところに向かいます」
「うん。……行ってくる。フィーネ。アリアナ。セレス。留守番よろしく」
「かしこまりました」
「行ってらっしゃいませ。神様」
三人の巫女見習いに見送ってもらい、私とリオラは海人族たちの住処の近くに来ていた。
定期的にネルシアに会いに行くのもお仕事の一つだからね。
彼女は海の巫女として、私と互いに近況報告をしているのだ。
「お待ちしていました神様」
「久しぶり」
ネルシアが頭を下げて私たちを出迎える。
さて、住民たちの意見やらなにやらなんでも聞くし答えてあげるよ~。
「なにかある?」
「それでは、一つ海人族の民から聞かれていることがありまして……」
ネルシアはやけに神妙な顔で尋ねてきた。
なんだろう。もしかして問題かな?
私はのほほんとした空気を消して、彼女の質問を待つことにした。