世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
リオラ。リオラ。リオラリオラリオラリオラリオラリオラ。
神様から名前をもらえました! 嬉しい。うれしい。うれしいうれしいうれしいうれしい!!
名前をいただけただけでも嬉しいのに、この忌々しい醜い白い翼を夜明けだなんて!
お優しい神様は私に選択肢を与えてくださるようで、別の候補も考えてくれるみたいでした。
ですが、それではいけません。それでは駄目なのです。
たしかに全て神様がお考えになった名前であり、どれを選んでも私の名付け親は神様になるでしょう。
しかし、私が選択したという
せっかくの名前に私の意思などという不純物が混ざりこむのは避けなくてはありません。
「いや、なんでもない。忘れて」
それが神様にも伝わったのでしょう。
神様は私の顔を見て、新たな名前の候補の提示を取りやめてくれました。
私のような忌み子になんてやさしい……。
「はい。ですが、神様からいただいた名前は永遠に忘れません」
だから、私は未来永劫忘れません。
この名前はあなたが私に与えてくれた神聖なもの。
白く穢れた私ですが、この名前だけは誰にも穢させるつもりはありません。
うっとりとしていると、神様にもたれかかってしまっていたようです。
とても美しくやわらかく、いい匂いが……。いえ、いけません。神様相手になんてことを考えて……。
「……おいで」
か、神様ぁ!?
私を許してくださることはわかっていました。この神様はとてもやさしい方ですから。
ですが、ただ許すだけでなく、手を広げて私を受け入れるかのように……。
あ、はい。もう無理です。神様が許してくれたので、私は神様を堪能することにします。
これはあれです。神様の許可があったので、むしろ断ることのほうが不敬なのです。
あ~……気持ちいい。
「リオラ」
「なんでしょうか! 神様」
当然、反応はすぐに返します。
神様の言葉こそ全て。それを聞き逃したり無視することなどありえません。
「ついてきて」
そう言って私に道を指し示してくれる姿は、やはりこの方が神であらせられると思わせます。
一つ一つの所作が神々しい。美しく誰にも穢されることがない。
というか、穢すやつがいたら巫女としてぶっ飛ばします。
「はい! 神様と一緒なら、どこへでもついていきます!」
そう決意して、私は神様の御心のままにただ付き従うのでした。
「まさかこの穢れた空気までも……」
まさかというのは失言ですね。
それではまるで神様の御力を疑っているかのような発言です。これは減点です。
自分でなければ翼を引きちぎるくらいの大罪です。
むしろ自分にとってもそのくらいの大罪なのでは? では、さっそくこの忌々しい翼を……。
「何してるの?」
「翼を引きちぎって神様に献上しようと思いました」
「駄目。あなたの美しさが損なわれる」
——!
わ、私のことを美しいと! いえ、お慈悲なのはわかっていますが、恐ろしい破壊力です。
言葉一つ一つが私を狂わせるような甘美な体験。なるほど……これが神様なのですね。
「わ、私ごと捧げましょうか!?」
「あなたはとっくに私のもの。違う?」
「違いません! 私の全ては神様のものです!」
そうでした。何をいまさらなことを。
よくないですよ。リオラ。あなたはいつまでもあの翼人たちの忌み子のつもりでいるのですか。
私は神様の巫女。夜明けを意味するリオラに生まれ変わったはずです。
私は神様のものであり、私の全ては神様にとっくの昔に捧げていました。
「うん。これからもよろしく」
「は、はい! いつでもお好きなようにお使いください!」
それにしても、本当にきれいな空気。
これでもまだ納得していない様子なのだすごいお方です。
「さすがは神様です……」
「いちいち拝まなくていいから」
そう言われても、やはり拝みたいですし祈りたいですね。
……危ないところでした。神様がしなくていいと言うのなら、それはするべきことじゃありません。
私の意思を貫こうなんて、思いあがった考えをもつところでした。
そこからは神様が神域を離れた場所に作られる理由をお聞きし、その発想に感銘を受けていたのですが、神様がじっと私を見つめたまま止まってしまいました。
な、なんでしょう? 何か粗相を……。いえ、粗相なら出会った時点でしていました。
神殺しの刃を持って会いに行った時点で、私は信じがたいほどの不敬な行動を取っていましたね。
ど、どうしましょう!? やはり命を捧げるべきなのでは!?
ですが私の命も含めて全ては神様のもの。勝手に捧げるのもまだ不敬……。
「神様?」
なので恐る恐る神様に尋ねてみると、神様はおもむろに私に近づき頭に手を置いて……。
「いい子」
「……!」
神様ぁ!
これは……いけませんね。いえ、むしろいいのですが。心地よいのですが。
このままでは堕落しそうです。……もともと忌み子なわけですし、今更堕落しても問題ないのでは?
そうですね。問題ありません。何よりも神様から頭をなでてくれているわけですし、私はそれに身をゆだねるだけです。
「大気を修復した場所に魔物の群れが近づいている」
「神域に……ですか」
そんな至福の時はあっさりと終わりを迎え、神様はこの世界における異変に気付かれたそうです。
魔物の群れ……。まさか神域に押し寄せてくるとは。
不敬では? 不敬ですね。討伐しましょう。一匹たりとも生かしておくわけにはいきません。
「魔物の群れと翼人数人が遭遇する」
「それは……」
翼人は……まあ、数人だけですし。そもそも神様は翼人のために空気を浄化してくれたわけですし。
すっごく嫌ですけど許しましょう。私を迫害していたことを考えると、ろくなやつらじゃありませんけど、神様が許したのなら私も許してあげます。
それに、やつらを生かしておく理由はあると私なりに考えました。
「あの、でしたら急いだほうがいいのではないでしょうか……」
「リオラは助けたいの?」
「私なんかの意見は……」
「ううん。あなたは私の巫女。あなたの意見も聞きたい」
私……? 私個人の感情としては、先ほども考えた通りむしろ全滅していいと思っています。
ですが、神様の偉大さは私だけでは語り継げません。
このやさしく美しい神様のために、その偉業を語り継ぐ者たちが必要です。
魔物は駄目です。あいつら語り継ぐようなことはしないと思うので。
なら、消去法で翼人を仕方なく、すっごく不本意ながら救うべきだと愚考しました。
「は、はい! であれば、私は救うべきかと愚考します……」
「それじゃあ行こっか」
「はい。神様に従います」
神様! 私の意見を採用してくれたのでしょうか!?
翼人たちはどうでもいいですが、その事実がとてつもなく嬉しい!
この神様は私なんかにも意見を聞いて、私の気持ちを尊重してくれています。
ほんと……翼人なんかにはもったいない神様ですね。
「あの、翼人たちの前に降臨されるのでしょうか?」
それは……ちょっと嫌です。
私だけの神様と言うつもりはありませんが、神様を翼人たちに見せたくありません。
ええ。単なる私のわがままです。わかってはいるのですが……。
「私は彼らの前に姿を現す気はない」
「そ、そうですか……」
ほっとしてしまった自分はやはり卑しい存在なのでしょう。
自分だけが神様を知っていたいという、なんとも醜い心の持ち主であることに自己嫌悪してしまいます。
そんな私を気にすることもなく、神様はこめこみを指でとんとんと叩き何かの作業を始めました。
空気を浄化した時と同じ。きっとあれが神様の力を使う前の動作なのでしょう。
「力を与える……。違う。魔物を一掃する……? 違う。恒久的に、この世界のバグに適応するために」
頭を指で叩きながら方針を決めているみたいです。
きっと魔物を倒すこと自体は簡単なのでしょう。ですが、どうするべきか真剣に考えてくれているのでしょう。
私たちにとって何が最善かを考えてくれている。本当に真面目な神様なんですね。
「決めた」
頭を叩く指の動きが止まったかと思うと、神様はその指を空に向けました。
そして次の瞬間……。世界が変わった。そんな錯覚すら覚える変化でした。
翼の浄化とも空気の浄化とも違う。もっと根本的な何かの変化が……。
神様にとってはそれだけのことだったのでしょう。
方針が決まったらあとは本当にあっさりでした。
私としては神様が降臨し、愚かな翼人と魔物にその力を誇示するのかと思いましたが、まさか翼人たちの生態系を変えるとは……。
これまで狩られる側でしかなかった翼人が、魔物を狩って飢えをしのげるようになった。
この奇跡を起こしておきながら、神様は何事もなかったかのように平然としています。
「本当にすごい……」
神様なので当然なのでしょうが、この方こそが最も美しく、最もやさしく、最も優れている存在なのは疑うべくもありません。
だから、私の巫女としてなすべきことは理解しました。
この世界の翼人たちに神様のすばらしさを語らせる。そのためであれば、私は私を迫害した大嫌いな者たちさえも救ってみせましょう。