世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「やすらぎ様。おはようございます」
「おはよう」
私はやすらぎ様? うん。慣れていこう。
どうせこの先、信仰してくれている子たちからそう呼ばれそうだからね。
――管理対象世界:再生領域〘区画-4040〙〘区画-4044〙
――人口:111
――文明レベル:再生初期
――信仰値:893 → 1046
――神格評価:E
せっかく信仰も増えているのだから、これに水を差すつもりはないのだ。
順調に信仰してくれているみたいだし、そろそろ神格上がるかもねえ。
神格が上がったら、新しい区画とか解放されるかも。
「やすらぎ様、おはようございます!」
「おはよう」
その立役者は間違いなくこの子だろうねえ。
元気いっぱいに翼をぴょこぴょこと動かす、私のかわいい巫女。
リオラが名前を伝えてから、一気に信仰が増加したから。
「信仰が増えた」
「そうですか! おめでとうございます!」
リオラだけでなく、近くで話を聞いていたアリアナもセレスもフィーネも私を祝ってくれた。
私の巫女たちが私に甘い。このままでは、この神殿は私の甘やかし空間になってしまう。
「それにしても……翼人どももやすらぎ様のお役に立てるのですね」
相変わらず翼人に手厳しいねえ。
まあ、気持ちはわかるからなでてあげよう。
幸い、今の私なら手がいっぱいあるし。
「……リオラ先輩。前から聞きたかったのですが」
「なんですか?」
「リオラ先輩も翼人のようですが、過去に確執が?」
リオラの呟きを聞き、セレスが少し遠慮がちに、でも淡々としたいつもの様子で尋ねる。
う~ん。説明しておくべきだったかな?
ただ、リオラも意外なことに不快そうな顔はしてないね。
きっと、この子の中ではもうある程度折り合いがついてるのかもしれない。
強い子だねえ。
「ええ、私も翼人ですよ。ただ、白い翼や髪なので忌み子として扱われただけです」
「忌み子……。し、失礼しました。辛い過去を思い出させてしまいまして」
「いいえ、問題ありません。なぜなら、今の私はやすらぎ様の巫女なのですから。むしろ忌み子だからこそ、やすらぎ様にお会いできましたので」
「忌み子だから、ですか?」
意外と気分を害していないためか、セレスはセレスでわりとぐいぐい聞いてくるねえ。
アリアナもフィーネも興味があるのか、黙って二人の会話を聞いているし。
あ、それは私も同じことか。
「元はただの
へえ。最初は忌み子扱いじゃなかったのかな?
「ただ、ある日私が食料を盗んだと噂され、これまでは不吉な忌み子なのに好待遇を与えすぎたと判断されました。それ以降は幽閉されて辛うじて生かされている状態でしたね」
……難しいところだねえ。
これは私たち神の責任でもある。この世界を崩壊寸前まで放置しすぎていた。
だから、人々の心に余裕がなくなったというのもわかる。
そういうときは、たいていはリオラみたいな味方がいない者がはけ口にされるから。
「その後は白い翼を目にしたくないとかで、ずっと暗闇の中でしたね。中にはわざわざそんな私に会いに来て罵倒し、翼を黒く染めてやると汚染を広げられました」
なるほど。だから出会ったときに翼がやけに汚染されていたんだね。
ってことは、もしかしたら浄化しなかったらリオラは死んでいたかもしれない。
う~ん……。神様がこういうこと考えるのは駄目なんだけどさあ。
私の巫女に何してくれてんのかなあ! まったくもう!
「翼が穢れ切り自分の命ももうすぐ尽きると思ったころ、私には使命が与えられました。神殺しの刃でこの世界を見捨てた神を殺せという使命が」
あ~。それで最初に出会ったときには、神殺しの刃なんて持って私のところに来たのか。
私を殺せと生贄にされたって言ってたけど、そういう経緯だったんだねえ。
いや、あれけっこう怖かったからね。神殺しの刃って、シュリーみたいな中位神にすらある程度通じるから。
低位神の私のことなら本当に殺せるんじゃないかな?
「しかし、その道中で神様の奇跡を見てからは、私は神様の御姿を一目見たいという一心でやすらぎ様の元へ向かいました」
あ~。最初は水を浄化してたから、それを見たんだっけ。
……え。もしかして私は水を浄化しなかったらリオラに刺殺されてた?
うわあ。セーフ。
「唯一与えられた役割を全うすべく神様を殺そうと向かったというのに、やすらぎ様は私を巫女にしてくださり、翼まで浄化してくださったのです」
「いいなあ……」
翼を誇るように動かしたリオラを見て、フィーネが呟く。
セレスとアリアナも彼女と同じ気持ちらしい。
「リオラ先輩も辛い毎日だったんですね」
「ええ。ですが、やすらぎ様に救われたので、もはや翼人どもへの恨みなどどうでもいいのです」
「私たちと違って、神様が助けてくださるのは素直にうらやましいです」
「そうですね。あなた方も辛い日々を送っていたようですが、その原因がよりによってあの女神ですからね」
アリアナたちはアリアナたちで、シュリーのストレス解消の犠牲者っぽかったからねえ。
いつ殺されるかもわからないあたり、案外リオラと同じような境遇ともいえるかも。
「ですが、今のあなたたちにも私と同じくやすらぎ様がいます! さあ、祈りましょう」
「巫女からの信仰が重い」
ふつうにおしゃべりしていたはずなのに、急に全力で祈ってくるじゃん。
まあ、この子たちの救いになれているのなら、神様冥利に尽きるってやつだねえ。
今後も見放されないようにがんばろっと。
それにしても……神殺しの刃か。
なんで崩壊寸前の世界に、そんな危険なものがあるんだろうねえ?
◇
「やすらぎ様の像を作ろう」
「お、いいな。ただ、どんな御姿なんだろう?」
「巫女様が来たら聞いてみようぜ」
気に入らない。
「巫女様がやすらぎ様の御名前を教えてくださったんだろ?」
「俺たちの種族から、そんなすごい方が出てくるなんてな」
気に入らない。
「巫女様って忌み子扱いされてた子供だよな?」
「えぇ……。あの近寄るなって言われてた場所の?」
「どうなってんだ? なんで、そんなすごい方を迫害なんてすることに……」
……気に入らない!
なんで、あんな薄汚れた忌み子がこんなに評価されてるの!?
汚らしい白い翼は禁忌の象徴でしょ!?
私たちみたいな美しい黒さのかけらもないじゃないの!
「ど、どうする? 私たちのせいってばれたら……」
「余計なこと言ってんじゃないわよ。黙っておきなさい」
初めは気に入らなかっただけ。
私たちと違う色をした不気味な女が。
何もかもを受け入れて達観していたその目が。
だから、いじめた。それだけ。
そもそも、他の大人たちだって私たちの言ったことを信じたじゃない!
あの忌み子が食料を盗んでいたって……。やっぱり悪さをしたって……。
それって、あいつを都合のいいはけ口にしようと思ったからでしょ。
他に身寄りがない気味の悪い白い女を、そうやって生贄にしたかったんでしょ!
「くそっ……。何が巫女だ……」
「どうする? 俺たちがあのガキを隔離して、日々の鬱憤を晴らしていたってばれたら」
「いや。その前に、あいつ自身がいつ俺たちに復讐しに来るか、わかったもんじゃない……」
「オルンは馬鹿だからともかく、セファとか爺や婆連中は調べ始めていたとしてもおかしくないぞ」
「そもそも誰だよ。あいつが忌み子だなんて言い出したの」
同じように焦っていた共犯者。
私たちの言葉を鵜呑みにして、他の翼人たちにあの忌み子の罪をでっち上げた大人たち。
そいつらは、あのとき忌み子を見ていたような目で、私たちのことを見ていた……。
「そうだ……。そういえば、こいつらが言い始めたんじゃないか?」
「……言われてみれば、そうだったな」
「ああ。間違いない。子供だからって許せないな」
い、いや……。
私に何をする気なの? もしかして、あの忌み子みたいに……。