世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「ねえねえリオラ」
「なんでしょう! やすらぎ様!」
忠犬だねえ。話しかけたとたんにぴしっと凛々しくなる。
だが、今の私は凛々しいリオラではなく、かわいいリオラを所望しているのだ。
「よしよし」
「ひゃっ……!」
そして私くらいの神様になると、リオラの翼のどこを触ればかわいくなるかは知っている。
え? セクハラ? リオラが喜んでいるから大丈夫だよ。
それに、アリアナもセレスもフィーネも、これを見ても許してくれてるし。
……というか、見てはいけないものを見るように、目を逸らしている?
「と、ところで……何かお伝えしたいことがあったのでは?」
「うん。そうだった」
おのれリオラ。
その翼で神を誘惑した挙句、神の用件を忘れさせるとは。
かわいいじゃないの。さて、そんなリオラの誘惑に負ける前に、本題に入ろう。
「言いたくなかったら言わなくていい」
「……はい」
あらかじめ前置きすると、リオラは神妙な顔をして私と向き合った。
「神殺しの刃。あれ、なんで翼人が持ってるの?」
「それは……」
ずっと気にはしていた。
なんならリオラと出会ったその日から、あれの存在を忘れたことはない。
あれは名前負けした短刀などではない。
その名の通り神をも殺しうる黒き刃だ。
シュリーのような中位神でさえ逃げるような代物で、私みたいな低位神ならもっと簡単に殺せる。
「申し訳ございません。私もわからないんです」
「あ~」
やっぱりそうか。
薄々そんな気はしていた。
リオラって、あれを持たされて私を殺せって命じられただけだもんね。
何も役目がなかったから、その使命だけを自分の生きる意味だと思って私を殺そうとした。
だから、彼女は与えられた道具と使命だけをもってやってきた。
もっとも、途中で自分の望みを持つようになってくれたのは嬉しいけど。
「……翼人たちを捕らえて尋問しましょう」
「ちょっと待とうね」
危なっ。飛んでいこうとしたよこの子。
行動力がありすぎて、たまに首輪を外して駆け回る犬みたいになる。
さて、どうしようか。
リオラは知らないけれど、そそのかした連中は知っていたのかな?
あれが本当に神をも殺しうる道具であることを。
……いや、たぶん違うね。
だって、そのわりにはリオラへの指示がおかしい。
この世界をろくに管理しない神を殺せ。そうして新たな管理神を招け。
要は、私がいつまでもいるせいで、この世界が崩壊したままだから殺して次を呼べって考えだった。
だけど、私がここにやってきたのはつい最近。
……ねえ。もしかして、この世界の前の管理神と間違えて殺されかけたんじゃないの?
「……」
「やすらぎ様?」
「やすらぎ様。大丈夫ですか?」
おっと、リオラだけでなくアリアナたちにも心配されてしまった。
考えすぎていたね。でも、まだ足りない。
「平気」
ちゃんと意識はありますよ~。というアピールのため、今度はリオラの翼を触りながら考えに没頭する。
「や、やすらぎ様!? あ、あのっ! い、いえっ! ど、どうぞ!」
「リ、リオラ先輩の情緒が大変なことに……」
そもそも……。リオラにそんな重要な任務を任せる?
散々虐げていた忌み子扱いの少女に、種の存続を託す?
「や、やすらぎさま……」
そりゃあ神が相手だから危険だし、最悪死んでもいいっていう人選というのはあるかもしれない。
でも、それなら本当に神殺しの刃を渡したのがなんかおかしいよねえ。
オルンやセファみたいな信用できる戦士に渡したほうが、より成功しやすかったんじゃないの?
「ん……や、やすらぎ……様……」
じゃあ、翼人たちも知らなかったんじゃないの?
あの神殺しの刃が本物だってこと。
なんかの伝承とかにはなっていたけれど、まさかそれが本物だとは思わなかった。
それなら、リオラに渡したのも納得できる。
「やすら……ぎ……しゃ……ま……」
だから、きっとリオラの使命は果たされるなんて思っていなかった。
きっと翼人たちのガス抜きというか、ストレス解消というか、そんな理由だったんだろうね。
うん。それなら、あの神殺しの刃は翼人たちも知らない可能性がある。
ただ、誰がどうやって手に入れたか、それくらいは聞いてもいいかもしれない。
よしっ、それでいこう。
「リオラ」
「……や、やすらぎ……様……。お気に召して……いただけましたか……?」
……なんかリオラが色っぽくなってる。
なんでだろうね? ……ふむ。腕六本が全部気持ちいい感触。
なるほど。私は考えながらたっぷりと翼を堪能したらしい。
「リオラ。良い翼」
「あ、ありがとうございます……」
ぐったりしちゃった。
よし、リオラが休んでから話をしてみよう。
翼人たちに、神殺しの刃の出どころだけでも聞かないとね。
◇
「イルオたちが……。本当なのか? オルン、セファ」
「ああ。イルオの住処にこの子たちが転がっていた」
「住処っていうか、ありゃあ前から誰かを捕まえておく場所だろうよ。……巫女様とか」
しっかし……ひどいな。
オルンと一緒に運んだ子供を改めて見るが……なんだこりゃ。あざだらけだ。
だが、もっと異様なのはその翼だ。
俺たちの黒い翼が、なぜか白い粉のようなもので染められそうになっていた。
「い、忌み子が巫女様だった……。だ、だから……忌み子を増やして……やすらぎ様に捧げて……ゆ、許してもらうんだ……」
やばいな。イルオもその仲間たちもうわ言みたいに呟いてる。
どう見てもまともな状況じゃねえぞこれ。
「な、なんてことを……」
「そもそも巫女様を忌み子として虐げていたんだろ!? やすらぎ様の加護が消えたらどうするんだよ!」
まあ、言いたいことはわかる。
イルオたちは明らかにおかしい。だから、こうして文句もさぞ言いやすいだろう。
……だが、全部が全部イルオたちのせいって判断して、こいつらに罰を与えて終わりでいいのか?
「……そもそも、忌み子についての話し合いが必要だろ。俺たちも知らないふりしてたから無関係とは言えねえ」
余裕がなかった。自分たちは知らなかった。だが、それはあくまでも全てこっちの勝手な言い分だ。
巫女様……。よく、俺やオルンのことは許してくれたよな……。
誰も助けることなく、あの暗闇の中にどれだけ監禁されていたんだ。
味方が一人もいない状態で全てを恨んでもおかしくないっていうのに。
……ああ、だからか。だから、巫女様のやすらぎ様への信仰はあれほどなのか。
きっと、巫女様にとっての初めての救いがやすらぎ様だったんだろう。
皮肉なことに、ここでの迫害があれほどの信仰を生んだってことだ。
「全部言え。忌み子についてなにがあったか」
「……」
イルオたちだけでなく、忌み子を悪と判断してしまった爺や婆どもも重々しく口を開いた。
さあ……無関心だったツケを払うときだな。俺もオルンたちも。
◇
……まあ、そりゃあ聞いてて気分のいい話ではないな。
身寄りのない子供が忌み子だった。
様子を見ていたが、一部の者たちはこの世界での鬱憤のはけ口にした。
子供たちは忌み子の罪をでっち上げ、大人たちは信じた。あるいは都合がいいから食いついた。
その結果、イルオたちが忌み子の監視という名目で、あの暗闇の中でさんざんいたぶった。
そこに転がってる元凶でもあるガキたちのように……。
「……白い翼を黒くする。か」
「だが……汚染させるということだろう? そんなもの……殺すだけだぞ」
さすがのオルンの野郎も、いつもの空元気は無理らしい。
忌み子の境遇を思ってか、仲間のおぞましさを思ってか、あるいは何もしてなかった自分のことを思ってか。
……まあ、俺と同じく一番最後なんだろうよ。
「お、オルン! セファ!」
「なんだよ。今話を」
「巫女様が来られた!」
……このタイミング。まさか、恨みを晴らしに来たとかじゃないよな?
いや、いっそのことそのほうがいいのかもしれないな。