世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「お越しいただき感謝いたします。やすらぎ様」
「やすらぎ様!?」
「やすらぎ様がついにご降臨を!?」
「やすらぎ様!」
「やすらぎ様だ!」
うわあお。
ネルシアのところに来たら、なんかわりと熱狂的だねえ。
翼人たちにも魔族たちにも姿を見せたし海人族にもと思ったんだけど、反応が思ってたのと違うというか。
「恐れてない」
「不敬ですか? 今から頭を垂れさせましょうか?」
やめてねリオラ。
「な、なるほど! 今すぐに民を騙させます!」
「二人とも落ち着いて」
なに? 巫女って全員バイオレンスなの?
いや、アリアナとセレスとフィーネはそんなことないね。
……あの子たちも、いずれ私に狂信的になってこうなるんだろうか。
ステータスに狂信ついてないか気になってきた。
「失礼しました。やすらぎ様」
二人とも言うことはよく聞いてくれるんだよねえ……。
「平気。でも、恐れてないから不思議」
「ああ、そういうことでしたか。私たち海人族は深海の不気味な魔物もよく見ているので……。あ、いえ……その」
うん、わかった。私は深海にいそうなグロテスクな見た目ってことだね。
ネルシアは正直でいい子だねえ……。ははは……。はあ……。
「やすらぎ様への侮辱。生かしてはおけません」
やめなさい。バイオレンス巫女一号。
「はい……。どうか罰をお与えください」
やめなさい。バイオレンス巫女二号。
君ら実は仲いいでしょ?
まあ、理由は分かったよ。
海人族は不気味な見た目にもある程度耐性がある。
だから、私を初めて見たというのに、こんな感じなんだねえ。
……リボンでもつけておしゃれしてやろうか。……やめよう。
「と、ところで、本日は御姿を見せに来ていただけたということでしょうか?」
「いえ、やすらぎ様の調べものです」
「調べもの……?」
「ええ。調査の結果、神殺しの刃は神の使徒を名乗る何者かが、翼人族に渡したとのことです」
「……あの邪神を退けた刃が、ですか」
「ええ。黒い髪と褐色の肌の男。ここは可能性が低そうですが、目撃者はいませんか?」
ネルシアは思い出そうとしていたが、記憶の中にはいないらしい。
そのまま、集まっていた海人族たちに巫女として確認を取り始めた。
「そういうことよ。神の使徒を名乗る男。黒髪褐色の人間。神殺しの刃を持った余所者。誰か見たことある?」
巫女として堂々と民に話す姿はなかなかいいね。
ただ、残念ながらというべきか、やっぱりというべきか、そう簡単に心当たりがある子はいないねえ。
「まあ、そうでしょうね」
「やっぱり、海には現れないのかもしれませんね」
リオラの呟きにネルシアが答えるが、リオラは首を横に振った。
「もしも会っていたら、やすらぎ様を殺しに行くはずですから。私のように」
「み、巫女様!?」
合ってるね。合ってるんだけど、ちょっとはしょりすぎと言いますか。ねえ?
リオラは私を殺す命令はされたけれど、道中でやめてくれたからセーフ。
ああそっか。でも、他の種族のところに現れた場合、そういうヒットマンみたいなことになるんだねえ。
であれば、こうして探さずともそもそも私を殺しに来てるか。
「や、やすらぎ様を? み、巫女様が!?」
「ええ、私はそのように翼人どもに命じられ、その後はやすらぎ様に拾っていただいたのです」
「な、なるほど。やすらぎ様は……ご自身を殺しに来た者さえ、お許しに……」
なんか、それを聞いた海人族がざわめいた後に祈りだした。
慈悲深いってか、あんときはだいぶテンパってたからね?
私程度なら普通に死ぬから、なんとかしてリオラを勧誘しようってなっただけだし。
ただ、なんか信仰の値上がってそ~。リオラといいネルシアといい、信仰上げてくれる優秀な巫女ばかり。
っていうかもう、いっそネルシアは巫女扱いでいいのでは?
「海の巫女様!」
「どうしたの?」
おや、ここにいなかった海人族だね。
私の姿を見て一瞬固まるが、すぐに気にせずにネルシアに報告を続ける。
うん。やっぱり海人族のグロテスク耐性高いらしいね。
「巨大な渦潮です!」
「……すぐ行く。申し訳ございません。やすらぎ様、巫女様。急用ができました」
「へいき」
「ええ。すぐに向かいなさい。というか、私たちもついていきますよね? やすらぎ様」
「とーぜん」
どうやら自然災害が発生しているっぽいね。
これも穢れが減った兆候ではあるものの、だからといって手放しでは喜べない。
ネルシアたちの様子からすると、どうやらけっこうな問題みたいだし。
外に出ていくと、たしかに至急報告すべき光景といえそうなものが広がっていた。
海の中は穢れが減っていたはずなのに、あの一面だけとんでもなく濃い黒って感じがする。
無理もない。渦潮という災害と、まだ残っていた穢れが混ざっている。
こりゃあ、とんでもないねえ。
「あの……海の巫女様」
「何?」
「来ていただいていることですし、やすらぎ様に対処してもらうとかは……」
ま、わかるよ?
神様が目の前にいるときに何かトラブルがあったとしたら、そりゃあ頼りたくもなる。
だけど、それは私の管理方針じゃないんだよねえ。
なんというか、もっと神様とかはいないものとしてほしいというか。
「駄目よ。私たちのことは私たちでするの。なんでもかんでもやすらぎ様に頼っていたら、私たちは自立できないわ」
偉い!
そう! まさしく私はそんな人類たちでいてほしい。
そうだよねえ。思えばうちの子たちはみんなそうだもんね。
まあ、どうしようもないことがあったら助けるから、みんなやるだけやってみてほしいのさ。
「えらい」
「あ、ありがとうございます!」
ネルシアを褒めてあげると、彼女はペコペコと頭を下げた。
だけど、すぐにまた海の巫女の顔に戻り、渦潮について本気で対策を考えていた。
「見ていてもいい?」
「もちろんです。どうか私たちのことを見守っていてください」
「うん。得意」
だてに毎日みんなのことを見ていないよ。
神様とはそういうものなのだから。
さて、あれだけの渦潮をなんとかするのなら、ネルシアだけじゃなくて他の海人族たちも必要だね。
そんなことは重々承知なのか、すでにネルシア以外の者たちは配置についているっぽい。
「それじゃあ、鎮めるわよ。準備はいいわね」
「はい!」
ネルシアの言葉が響き、海人族たちもより一層真剣に渦潮を見つめていた。
「これより、災厄を鎮静化する」
ネルシアは宣言とともに潮流の宝玉を掲げた。
あれ? たしかに、潮流の宝玉はあのときネルシアに渡したままだけど、使い切りのはずだよね?
海の水の吸収あるいは放出は一度きりだから、もう一度使ったら壊れる。
……ってことは、潮流の宝玉を引き換えに今回の渦潮を鎮めるってことかな?
「各自、海流の制御を行え!」
お~。統率がとれている。息がぴったり。
ネルシアの号令で、海人族たちはいっせいに水の操作を行った。
一人一人の力では、渦潮を対処するなんて無理だっただろうけど、同時に渦の動きを止めることで鎮静化している。
特にネルシアがすごいねえ。なるほど、潮流の宝玉で海流を操作する力を底上げしているのか。
海水を吸収する。海水を放出する。その二つ以外に、海水を制御するという力もあったんだ。
作った私でさえ気付かなかったけれど、そりゃあ当然だよね。
海水を制御できなかったら、吸収も放出もできないし。
そうしてネルシアのもとで渦潮の鎮静化はいともたやすく達成された。
うわあ。本当に災害をあっさりと止めちゃったよ。
優秀だねえ。みんな。
「これで大丈夫そうね。みんなお疲れ様」
「ええ。やすらぎ様が見ていてくださったからか、いつもよりうまくできた気がします」
「ああ、俺もだ。やはり神様は手助けしてくださっていたんだな」
え、なにそれ。知らない。
「その通りよ。やすらぎ様が見てくださっていたから、今回はいつも以上にうまくいった。なら、私たちにできるのは祈りでその恩に報いることだけ」
いや、本当に知らない。
というか、あなたたちがパフォーマンスをフルに発揮したら、あれくらいにはなるから。
絶対にプラシーボ効果だから。
海人族たちの間近での祈り、それに私はなんとなく罪悪感を覚えてしまうのだった。