世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「さすがにそれを信じるのは……」
「なら試してみろって。そもそも、こうして俺が生還できたのが証拠だ。違うか?」
「運よく逃げ切れただけじゃないのか?」
「オルンが犠牲になって逃がしてくれたって話は聞いたけどな……」
疑う気持ちはわかるけど、そのまま試さずに与太話扱いされては困る。
俺が嘘つきと言われることは構わない。でも、これは俺たちの今後にかかわる話なのだから。
「俺たちは魔物を食べられるようになった。食糧の問題は解決するぞ」
「魔物なんて食べたら穢れが溜まって死ぬだけじゃないか?」
「さっき食べたけど平気だった」
「お前はいつも元気だからよくわからないんだよなあ……」
俺の元気がこんなところで裏目に出るとは。
常に元気でいることが肝要という考えは間違いだったというのか……。
「何もせずに飢えて死ぬのは馬鹿馬鹿しいぞ」
「それは……」
その言葉でようやく仲間たちは前向きに検討してくれた。
疑り深いが仕方ない。俺たちはそれだけこの世界に疲弊しているのだから。
だが、ようやく神様が動き出してくれたのは確実だ。
ならばそれは受け入れないといけない。俺たちが耐え忍んだ甲斐はあったのだと考えるべきなのだ。
◆
「神様は、翼人たちに伝えるつもりはないのでしょうか?」
「ない」
リオラが聞きたいことはわかっている。
私の修正作業の報告を翼人たちに行わないのかというものだね。
たしかに、水は作ったし空気も浄化した。彼らの生態を一部書き換えて魔物と渡り合うようにもした。
でも、私はそれを教えるつもりはない。
私はあくまでも裏で動きたいし、彼らとかかわるつもりはない。
というかこの口がどうせ私の思いを全て伝えきってくれるとは思ってないし。
今のリオラに質問だって、もう少し丁寧に理由を説明してもいいはずだけど、ぶっきらぼうに一言で返すだけだった。
「……だから、リオラを巫女にした」
私と違ってこの子はよくしゃべる子だからね。
なんかよく懐いてくれているみたいで、そこもかわいい。
そんな彼女を巫女にしたことで、私の言葉はもう全部この子を通じて伝えるのが一番だと思っている。
「私を……。そういうことでしたか。ええ。ええ! たしかに、神様の御言葉を聞かせるのはもったいないです!」
なんか勘違いしている気はするけれど、そのときはそのときだよね。
変な暴走をしたときは私が止めればいいだけ。
リオラなら、うまく動いてこの世界の改善報告を伝えてくれると思う。
「任せた。私の巫女」
「もちろんです! あなたのリオラにお任せください!」
やる気はすごいから、あとは空回りしないといいなあ。
さて、それもいいんだけど巫女のもう一つの仕事もしっかりと教えないと。
前回は魔物の群れを見て中断しちゃったからね。
「あとは神域の保護」
神域……。自分で言って笑ってしまいそうになる。
なんとも仰々しいね。まあ、私神様だからそうもなるか。
それにデバッグした箇所とかだと伝わりにくいし、言葉は相手に伝わるものを選ぶべきだからね。
「保護……ですか?」
「そう。泉と丘の上」
「水と空気を浄化してくださった神域ですね」
たしかに私はあの二か所の不具合を修正した。
きちんとそれが反映されていることも確認したし、現地民たちが満足する動作だったこともちゃんと見た。
でも、この世界はまだまだバグだらけなんだよねえ。
「この世界は、まだまだ汚れが残っている」
「はい……。それは身をもって理解しています」
「放っておけば神域はまた壊れる。だからリオラには、あの地に残した私の力が失われないように維持してほしい」
「神様の力をこの世界に残し続ける……。つまり、神様のすばらしさを伝えることが私の役目!」
違うよ? 修正した場所の保守作業だからね?
……まあ、ちゃんと神域も守ってくれるだろうし、そのあたりは最初の仕事の結果を見てからでいっか。
「リオラならできる」
とりあえず頭をなでてあげるとリオラは嬉しそうに目を細めた。
やる気はあるし嫌がってもいない。巫女にしたからには実際にその力も備わっているはず。
じゃあ、あとは数をこなして経験を積んだらうまくいくはずだね。
「現場で学んでいこう」
「はい! 神様の神域には穢れの一つも持ち込ませません!」
それは無理だと思うけど、そういう心がけは悪くないよね。
そのくらいの気持ちで働いたほうが案外うまくいくのかもしれない。
「それじゃあ、手をかざして信仰の力を使って」
「信仰の力ですか? 神様のことを信仰すれば?」
「私に集まった信仰の力の一部は巫女であるあなたも使える。それを使って」
「神様への信仰を私なんかが浪費するのですか!?」
「そうだけど?」
というか、それを使わないと何も始まらない。
神だって力の源というものは存在する。人類からの信仰こそが神の便利な力の全てだからね。
この世界みたいに人々が滅亡寸前だとその信仰も集まらない。……そりゃあ、放棄もされるよね。
理屈ではわかる。わかるけど感情ではわからないから、私はこの世界を担当する。
「い、いけません。神様の御力を私が使うなんて」
「リオラが手伝ってくれたら、すごく助かる。……駄目?」
無理強いはできないが、もう一度お願いしてみる。
断らないで~。断られたらわりと面倒なんだよ。
面倒ごとを押し付けて悪いけど、私は別のタスクをこなすからそこは許してほしいなあ!
「う……。わ、わかりました。神様のお願いであれば、このリオラにお任せください!」
興奮して顔が赤くなっている。
真面目もいきすぎると疲れそうだねえ。この子には適度に手抜きをすることもいずれ覚えさせよう。
「はい。それじゃあ今度こそ信仰の力でここの維持を祈って」
「こ、こうでしょうか」
リオラが私にひざまずくようにすると、信仰の力がたしかに消費されるのがわかった。
うん、悪くないね。修正よりもかなり軽微な消費だから、これでこの場所のバグが直ったままというのなら十分すぎる。
それにしても……。見た目がかわいいから
私の巫女、やっぱりかわいい。このまましばらくは眺めていられる。
……いけない。私が別の作業をするための巫女なのだから、そういうのは後でやろう。
さて、ここはリオラに任せて私は今日の分の修正作業を……。
する前に翼人の気配が近づいてきた。
じゃあ私はいったん隠れよう。別に人づきあいが面倒とかじゃないから。
私はよほどのことがない限りはリオラだけに姿を見せる神を目指しているから。
ほら、ありがたみとかって大切じゃん。だから別に知らない人から逃げるわけじゃないし。
「リオラ。任せた」
「はい。この場所の保護はお任せを……あれ、神様!? 神様~!?」
ごめんねリオラ。
というわけで、現地人との会話は今後全てあなたに任せるから。
◇
神の奇跡が起きた場所。 そこにたしかに人影を見た。
仲間たちを連れて訪ねてみると、俺の見たものは幻覚などではないと証明するように、その場にたたずんでいる誰かが見える。
「ほら、言った通りじゃないか。やっぱり人がいた」
「ああ。たしかに魔物以外だけど」
「でも……。あいつって、あの忌み子じゃないか?」
忌み子……。そういえば、そんな話もあったな。
俺自身は姿を見た覚えはないが、こいつらはその姿に見覚えがあるようだ。
「あいつ、あんな場所で何してんだ?」
「まさか、拠点を追い出された腹いせに泉を穢そうっていうんじゃないだろうな」
「え!? それは困る!」
まずいな。だとしたら、その忌み子を止めなければ。