世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「おかえり~」
「やすらぎ様! 今すぐ翼で包みます!」
「さいこ~」
私の癒しがやってきた。
さあて、この中でのんびりと考えないとねえ。
ついでにリオラを抱きしめておこう。
まず、寿命を設定していないのは失態だった。
このままでは、世界が安定したあとに世界中の生物が飽和してしまう気がする。
であれば、どうするか。寿命の設定は必ず必要になってくる。
どのくらい必要かなあ? 増えにくい種族は長めに、増えやすい種族は短めに、それが鉄板だったよね。
ただ、その限りではないっていうのが、完全な世界での状況だったからなあ。
ま、こっちに関してはいったん猶予がある。
なんせ、今すぐに寿命を設定したところで、どうせその日が来るまでに数年はかかるのだから。
だから、それ以外の問題のほうを考えよう。
「リオラ。魔物の分布、予想外だった」
「予想外……。つまり、外に小数のみ配置し、大半は狩り用としてダンジョンに入れたのは間違いだったと」
「そうしたいけど、外の魔物は今後も増える」
「それは……汚染を浄化したのに、ということですか?」
うん。さすがに優秀だね。
私のたどたどしい説明でも、簡単に理解を示してくれる。
浄化することで汚染が減る。汚染から発生する魔物も減る。だから、あらかじめ保護したんだけどミスだったなあ。
まさか、汚染を直しても同じだけの魔物が出てくるだなんて……。
現に、今の世界を見渡しても魔物の総数あまり変動してないもんね。
「このままだと、動物増えても魔物に食べられる」
「なるほど……由々しき事態です。少々お待ちください」
「待って」
私が声をかけなかったら絶対飛び立とうとしたでしょ?
そうして、世界のめぼしい魔物狩ろうとしたよね? 神様わかるんだから。
リオラは優秀なときと全力投球なときがあるから、後者のときは基本的に止めるべきなのだ。
「しかし、このままでは神様と私だけの楽園が」
「人類絶滅するの?」
楽園の果てに私とリオラしか残らないんだとしたら、それはもう管理大失敗だからね?
……まあ、二人きりになりたいというのなら、どこかで二人きりになって全力で愛でてやるけれども。
「まあ、今は翼人たちがいるから」
「そうですね。まことに不本意ながら、やつらに託した動物の繁栄だけで我慢しておきましょう」
翼人たちと共に育っている動物たちなら、翼人たちが守ってくれるはずだからね。
なんかあったら守ってくれる隣人は大切。
となると、翼人がもっと増えたら世界中に動物も存在できるってことかなあ。
……そうなると、大地が翼人で埋め尽くされてバランス悪そうだねえ。
いっそのこと、新しい種族でも作る?
いやあ、大仕事だけど……。でも、必要ならそれでもやるしかないよねえ。
魔物の生態のほうをいじっても、魔物から動物を守る種族を作っても、どっちにしろ大仕事かあ。
どっちがいいかな? よ~く見てみよう。世界の状況。魔物の配置と数。どこから導き出すのは……。
「あ」
「どうされました? やすらぎ様」
「ちょっと大変かも」
よりによって世界を見ていたときに限ってと嘆くべきか、早めに発見できてよかったと喜ぶべきか。
後者にしておこうかな。どうせなら前向きに考えたほうがいいからねえ。
「暴風が発生してる」
「暴風……ですか」
暴風というかハリケーンとかそういう災害の近いね。
これまではそんなことなかったのかもしれないけれど、こうして発生してしまうのは世界が復活してきている証かなあ?
それとも、ま~たなんか予想外の問題発生かなあ?
とにかく、まずはこれを解決しないと困ったことになりそうだね。
◇
「オルン!!」
くそっ! あいつ大丈夫かよ!
まずい。治療の水はいくつあった。いや、そもそもまずは回収を。
ああ、だめだ! 頭の中が追い付いていない!
「セファ! オルンが!」
「わかってる! ……弾き飛ばされたってことは、少なくともあれから離れている。どこだ」
落ち着け。落ち着いて探せ。
あれは近付いたものを飲み込むか弾き飛ばすかのいずれかだ。
その点でいえば、オルンは運がよかったのかもしれない。
だが……早く見つけ出して回復しないとまずい。
どこが……。どこ……そこかっ!
「この馬鹿野郎が!」
黒い風の塊の足元。そこにオルンは倒れていた。
意識がない。くそっ、無茶しやがって。
魔物が相手じゃねえのに殿なんて必要ねえだろうが。
治療の水をぶっかけると、オルンの傷の大部分は回復した。
だが……全てではない。それに意識は回復していない。
「手伝え。すぐにここから離脱しないと全滅するぞ」
「あ、ああ! 手伝う!」
オルンをかついで、なんとか危険な範囲からは離脱した。
そのうえで改めて観察するが、どうやらだいぶやばそうな代物だな。あれは。
「……まずいなこれは」
やすらぎ様から授かった動物たちの様子がおかしい。
そう伝えられて異変を探しに行った先で、とんでもないものを見つけた。
翼人である俺たちにとって味方であるはずの風。それが、手に負えない怪物として不気味にたたずんでいた。
オルンの馬鹿は動物を助けるため自ら突っ込んでいって、あのざまだ。
「セファ。これってこのままだとやばいよな?」
「ああ。歩みは遅いが確実に進んでいる。その場にとどまるだけの風じゃない」
大規模の暴風は、一度巻き込まれると俺たちでも出られないだろうな。
悪い冗談だ。翼人でも飛行不能になる風が、大地を滅ぼそうと確実に動き出しているのだから。
「ってことは……このままだと俺たちの集落に」
「それだけじゃない。大地をえぐりながら進んでいる。また、死の土地になったらたまったもんじゃないぞ」
「ど、どうすれば……」
……わからない。そもそもどうにかできる問題か? これは。
戦ってどうとかそういう次元を超えているぞ。
……できることは、避難だけだな。
「戻って伝えるぞ。幸いなことに到達までには時間がかかるはずだ。逃げるしかないだろこんなもの」
穢れ以来だろ、こんなものは。
戦う方法すらなく、ただ受け入れるか逃げるしかない存在なんて。
いや、穢れ以外にもあったか……。
あの異世界の邪神の津波。それを思い出す。
まったく……強くなっているはずなのに、己の無力さを感じてばかりだ。
なら、せめてできることはしないとな。
俺たちはすぐに仲間たちにこの事態を知らせることにした。
「風が……?」
「ああ。大規模な暴風が近づいている」
「この場所までか……」
「そういうことだ。このままだと、全てがなくなるぞ」
俺の言葉を聞き、仲間たちの表情が曇っていく。
当然だろうな……。家もようやく増えてきた。動物を飼い、植物を育て、貯蓄なんかもしてきた。
それが、そう遠くない未来に全て奪われるんだから。
「せっかく……ここまでやったのに」
「やはり、翼人に平穏なんてないのかもしれないな」
嘆く気持ちはわかる。
が、今はそんなことしている時間さえ惜しい。
だが、混乱に近いこの状況。俺の言葉は届くか?
「……案ずるな! 全ては……なくならんぞ!」
その声は、やけに馬鹿みたいでそれでいて自信があって、それでもこちらの不安をいくぶんか払拭する声だった。
なんだ。起きたのかよ。なら、さっさと来いっていうんだ。馬鹿が。
「オルン……。お前、大丈夫なのか?」
「暴風に巻き込まれても俺はこうして生き延びた! だから案ずるな! 落ち着いて対処すれば、被害は幾分か減らせるぞ!」
混乱はおさまり、誰もが話を聞く体勢となった。
それにしても、まったくもって面倒なことになりそうだ……。