世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「ちょっと待て。そこのお前!」
仲間たちが焦った様子で、しかしやや高圧的な態度でその少女に声をかける。
いや、声をかけるというか、これでは脅しているみたいだ。
これまで迫害されていた忌み子がこんなことをされたら、怯えるてうつむいてしまうことだろう。
だから、その少女は忌み子ではない別の誰かなのかもしれない。
「なんでしょうか?」
堂々とした立ち居振る舞い。自分自身に、そして自分がしていることに、何一つ負い目などはない。
少女は、怯える姿どころかその真逆ともいえる毅然とした態度で返事を返した。
「……そこは、大切な場所だ。荒らされたら困る」
仲間たちもそんな態度に怖じ気づいたのか、慎重に言葉を選ぶようにして意見を主張した。
……わかる。たしかに俺たちの前にいるのは単なる少女にすぎない。
翼の白さから迫害対象だったことも理解できている。
だが、俺にはこの少女が翼人とは違う何かに思えて仕方ない。
「管理しているだけです。そちらこそ邪魔はしないでください」
「管理……? お前、ここがどこだかわかっているのか」
ここは単なる泉ではない。神の奇跡が起きた場所。
だからこそ、俺たちは貴重な水場だというのに占拠せずにいた。
必要なときに水をわけてもらう。そうすることで神の不興を買わないようにしていた。
そこを管理というのは……たしかに、問題が起きそうで困るな。
「神域です。神様が奇跡を起こしてくださった場所です」
「わかっているのなら、俺たち翼人で管理するなんて思い上がりは神への冒涜だ」
「それとも、お前の狙いはそれか? 俺たちへの復讐として、翼人もろとも神の怒りを買うのが目的なんじゃ……」
少女の目線が強くなる。
年下の女の子ににらまれただけ。それもこれまで迫害していた忌み子の目線だ。
だというのに、仲間たちはその目に思わずたじろいでいる。
復讐……なのか? であれば俺たちを恨むのは当然だ。だけどこの少女はどこか……。
「神様の冒涜は私が許しません。翼人たちが神域を管理するだけでお怒りになる? 私の神様はそんな器が小さい方ではありません。取り消しなさい」
「な、なにを知っているんだよ……。お前が」
「お前、まさか本当に神殺しのために神と邂逅したっていうのか」
「何? どういうことだ」
神殺し? 忌み子の少女が神と邂逅?
俺が知らない情報が仲間の口から知らされる。
忌み子を迫害していたというのは理解した。そちらは噂でも聞いたことがあった。
だが、神殺しなんてとんでもない話は初めて耳にするぞ。
「それは……」
「私を利用し、この世界の神様を殺そうとした。それだけのことです」
「お前たち、そんなことを……」
なるほど。理解できた。
この少女がこちらに恨みを持つのは当然のことだ。
忌み子として迫害されていた。それだけではなく、神を殺すよう命じられていたなんて……。
そんなの死んでこいと言われたのと何が違うっていうんだ。
「すまなかった!」
だから俺にできることは、仲間たちの暴挙と自分の無知を謝ることだけだった。
俺の勢いにつられたのか、仲間たちもまた少女へと頭を下げる。
こいつらもわかっているんだろう。目の前の少女は迫害されるがままの弱い存在ではない。
きっと何かが変わった。そう思わせる強さが……いや、あるいは得体のしれない何かが宿っている。
「勘違いしないでください。あなた方への恨みがどうとか言うつもりはありません。私は神様の巫女としてこの地の保護を命じられた。だからその職務を全うしているだけなので」
その言葉通りであり、それ以上でもそれ以下でもないんだろう。
少女は本当にこちらへの興味などないように、ただ神域に向かって祈りを捧げているようだった。
「か、神の巫女……?」
事態が呑み込めないのは俺だけではないのだろう。
仲間たちが少女の発言の中で特に気になった部分を復唱する。
そこで初めて少女が不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「神様です。様をつけなさい」
「わ、悪い……。神様の巫女ってどういうことだよ」
「どういうことと言われましても。私は神様にお会いし、この世界を救うお手伝いを命じていただきました。神域を守り、神様の偉大さをあなたたちに伝える。それが私の役割です」
「神は……」
俺の言葉に少女が不快そうな目を向ける。
っと、さっき忠告されたばかりだったな。
「神様は本当にいたのか?」
「ええ。この泉もあちらのあちらの丘も、そして魔物の対抗策と食糧問題の解決も。あなたたちだって神様の偉業をその身で体感したはずです」
「! あの魔物たちのことも神様の力が原因なのか!」
「魔物たちではなく、私たち翼人の生態の変化です」
「そうか。そうか……」
あの場で俺は死ぬはずだった。だが、奇跡的に生還したわけだが……。
まさか本当に奇跡が起きていただなんて思いもしなかった。
神様は……やはり俺たちを救うために動いてくれているのか!
納得と歓喜半々の感情を迎え入れていると、少女は先ほどよりもほんのわずかにやわらかい表情でこちらに話しかけてきた。
「あなた。見込みがありそうですね」
「俺か?」
「あなたは他の者より多少まともです。神様への信仰をする程度には」
信仰……。と言われても、神様がいつかは俺たちを救ってくれると考えていただけだ。
この辛い世界だっていつまでも続くわけではない。
そうやって希望を捨てていなかったのは事実だけど、神様を信仰していたというのは違う気がする。
「恥じることはありません。私も神様にお会いするまではあの方を信仰できていなかった。そんな無知な過去の自分を殺したいくらいです」
「そうか」
俺はそこまでは考えていないのだが……。
ただ、この少女の言うことも一理あるのは事実だな。
神様をもっと真剣に信じるべきだったんじゃないか?
俺たちが信仰していないというのに、神様はこれほどの奇跡を起こして俺たちを救おうとしてくれているんだぞ?
ならば、信仰していないのは恥以外の何物でもないだろう。
「恩義に対して何も返せていなかったわけか……」
「ええ、そういうことです。ですがそれがわかるだけあなたはまともです」
「そうだといいのだが……」
「それでもあなたが罪悪感を感じるのであれば、そこで呆けている者を含めてあなたの仲間たちに神様の偉大さを語りなさい。そして今からでも日々の信仰を欠かさないようにしなさい」
「それで、神様は赦されるのか?」
「神様は寛大です。反省しない者はともかく、反省して立ち上がろうとする者を赦さない方ではありません」
神様の巫女がそういうのであれば、こちらとしても心が軽くなった気がする。
そうか……。俺がすべきことは過去を悔いることじゃない。
恩義に報いる。それこそが俺が目指すべきことだろう。
「わかった! すぐに神様とその巫女のことを語り継ごう! お前たち、戻るぞ!」
最後まで理解が追い付いていない仲間たちを連れて、俺はすぐに集落へと戻ることにした。
◆
さ~て、そろそろ巫女としての初仕事もこなせたかな?
いずれはリオラ一人に任せるけれど、しばらくはこうして様子を見に行ってあげよう。
「神様!」
神域……に行くと、リオラはすぐに私の接近に気が付いた。
周囲には誰もいないね。なら、このままここで話せばいいか。
「よしよし。いい子にしてた?」
「はい! あなたのリオラはいい子です!」
なんか主人の帰りを喜ぶ犬みたいでかわいいね。
尻尾を振ったりはしないけれど、翼がパタパタと動く姿は愛らしい。
「巫女の仕事はどうだった? うまくできた……みたいだね」
神域(笑)の様子を確認したけれど、バグは特に増えていない。
ということは、この子はしっかりと保守作業を完遂してくれたみたい。
思っていた以上に優秀だなあ。
「うん、問題なさそう。よくやったね。いい子」
「はい!」
リオラは私の手をうっとりとした表情で受け入れた。
なでられるのが好きなのは、忌み子で誰からもかわいがられなかったからかな?
こんなにかわいいのにもったいない。
さて、リオラがここまで役立つというのなら、今後は安心して……。
――世界が更新されました。
――管理対象世界:放棄領域《崩壊区画-4040》
――人口:38
――文明レベル:崩壊後
――信仰値:165
――神格評価:E
――神格評価がEを超えたので、低位管理女神ナギに放棄領域《崩壊区画-4040》周辺区画の管理担当権限を付与します。
……リオラ何したの!?