世界を管理する最弱女神は、滅びた世界をデバッグする 作:パンダプリン
「オルン。無事だったのか!」
「魔物をお前らだけで狩りに行くなんて無茶な真似を……」
俺たちが狩りに行っていたことは筒抜けらしい。
当然だろうな。なんせわずかな人数しか生き残りはいないのだから、誰かの行動を把握することも難しくはない。
心配そうに近寄る者たち、生き残ったことを純粋に驚く者たち、俺たちを疎ましく思っている者たち、その反応を把握することも難しくない。
だが、その誰もが共通して気にしているのは、俺たちの荷物のほうだ。
「それ……全部狩ったっていうのか?」
「ああ。神域の丘なら汚染の心配もない。俺たちはまだまだ生きるぞ!」
動揺する声が広がるもすぐに消える。
それをかき消すような歓喜の声が聞こえてくる。
ああ、俺たちはやっぱり生きられるんだ。神様の加護はたしかにそこにあった。
「おかしいだろ。魔物を倒した? お前らだけでそれほどの魔物を狩れるものか」
いぶかしむような声をあげたのはセファだ。
先ほど俺たちの生還を疎ましい目で見ていた者たちのリーダーのようなもの。
たしかに、俺はあいつらに嫌われている。それは悲しいことだが無理に和解を迫るつもりもない。
だが、彼らの言葉には嘘偽りなく答えるのが一番だ。
「倒した。俺たちも駄目かと思ったが、力が湧いてきたんだ」
「はっ。火事場の馬鹿力ってことか? 仮にそれが本当だとして、今後もそんな危険な目に遭いながら魔物を狩るのか」
「ああ。セファの言う通りだ。たしかにお前らが教えたように魔物を食べることができた。だが、それでどうなった? 魔物に挑んだ仲間が死んだことをもう忘れたか?」
彼らが俺たちを糾弾するのも無理はない。
魔物を食べられると教えたのは俺たちだ。そこに活路を見出して、必要以上に魔物と接触するようになった原因を作ったのも俺たちだ。
だが、今回はきっと違う。
「飢えて死ぬか魔物に食われて死ぬか。結局はその違いしかないじゃないか」
「お前らは今回たまたま生き延びたが、今後もそれを続けるつもりか?」
ああ、たしかにそうだろうな。
彼らが言うことも、また間違っていない。
今までなら、俺たちが魔物を狩って食糧を安定させるなんて無理だっただろう。
「次も勝つさ。それだけだ」
「だから、それが無謀だって言っているんだ。お前らの自殺行為に俺たちを巻き込むな」
「セファ、それは違うぞ」
「はあ? 何がだ」
俺たちのやっていることは自殺行為などではない。
それは狩りに出る前までの話であり、今後は確実に成功する未来が見えている。
「俺たちは魔物を倒せば倒すほどに強くなる。たしかに最初は魔物相手に窮地に陥ることもある。だけど、ひとたびそれを抜けてしまえば、神様の加護を授かるんだ」
「また神様か……。お前、わかっているのか? 神なんてこの世界ごと俺たちを見捨てたどうしようもないやつだぞ!」
「いいや、神様は俺たちを見てくれている。これまでの試練を乗り越えた俺たちのことをすくい上げてくださっている!」
……と、こんな口論をしている場合じゃないな。
感情を荒げるのにだって体力がいる。そんなことに体力を消耗するよりも先に、まずは魔物を食べて飢えを満たさなければ。
セファたちのことは一旦おいておき、俺たちは魔物の肉を調理場へと運ぶことにする。
そんなひと悶着もあったものの、みんな無事に食事も終え、神域には残りの魔物の肉を運んだ。
残りの食糧……。いい響きだな。まさか、そんなものを溜め込める贅沢ができる日がくるなんて。
さすがに腐敗はするだろうが、短時間で汚染されていたときと比べると天と地ほどの差がある。
あとは……これらを安定して確保できるかどうかだな。
生きるために必要なことは少しずつこなせている。
あの白い翼の少女の言葉通り、全ては神様の御力によるものなのだろう。
ならば、与えられた力とチャンスをふいにすることだけは避けたいな。
「オルン。何をしているんだ?」
「体を動かしている」
「そりゃあ見ればわかるけど……」
「俺たちが強くなったままなのか、あるいはセファたちの言う通り一時的なものか気になってな」
どこか確信こそあったものの、それを試さずに危険な目に遭うのはたしかに馬鹿馬鹿しい。
そして試した結果、あのときの力は完全に俺自身のものであったとわかった。
「俺たちは強くなった。その結論を変える必要はなさそうだ」
「ということは、狩りをすればするほど強くなるのか……」
「それで魔物たちに無茶な戦いを挑まないようにだけ注意しないとな」
それもセファが教えてくれた。
俺たちを嫌ってはいるものの、あいつらの言葉は正しいことばかりだ。
魔物を食糧として見たときでさえ、何人かの仲間を失ったんだ。
自分たちの強さにも関わると考えるようになったら、それ以上に無茶をして死ぬ者も出てくるかもしれない。
だから、神様が与えてくださった奇跡を理由に軽率な真似をすることは避けないとな。
奇跡のせいで人が死んだなんてことになったら、俺たちは神様に顔向けできなくなるのだろう。
それどころかあの巫女となった少女さえも、俺たちの前に現れなくなるかもしれない。
「神様の教えを正しく広めないといけないな……」
「そうだな。誤って伝わったら、あの忌み子……巫女に睨まれそうだ」
◇
「どうする? セファ」
「あいつが言ってることは本当みたいだぜ?」
ああ、そこは俺だって認めよう。
食料を持ち帰った。それに怪我人さえいないことは事実だ。
それを否定するほど俺だって馬鹿ではない。
だが、だからといってあいつの部下のようになるつもりはない。
あいつは仲間だなんて言っていたけれど、あいつについていたやつらは既に部下のようになっている。
このままではあいつの発言を無視できなくなるだろう。
なら、その前に……。
「……認めないぞ。オルン」
魔物がかつてほどの脅威ではなくなった。それは認める。
魔物を食べられるようになった。それも認める。
魔物を狩ることで俺たちが強くなるようになった。なら、それも認めてやろう。
ただし、そのやり方は認めない。
お前が得た情報。それだけは正しいが、俺はお前自身を認めない。
◆
「神様。あの者たちにはどのような施しをしたのでしょうか?」
「レベルを導入した」
下位領域の魔物たちに討伐報酬を追加したというのは要するにあれだよ。
魔物を倒したら経験値を得られるようになったというわけ。
魔物を倒せばレベルが上がって翼人たちも強く死ににくくなる。
これで魔物大量発生問題は解決するでしょ。……たぶん。
「……?」
うん、わけわかんないよね。口下手の説明下手でごめんね。
きょとんとした顔がかわいいね。
「魔物を倒すほど強くなる」
「なるほど! あのような者たちに力をお与えになるとは、神様は慈悲深いお方ですね」
「まあね」
というかミスの尻拭いというか……。
私のせいで翼人たちは魔物と頻繁に戦うようになったみたいだし、それで死者が増えるのはさすがに責任を感じる。
それにしても、あのような者たちかあ……。相変わらず、リオラにとって翼人はもはや別のコミュニティなんだろうねえ。
「リオラは、翼人が嫌い?」
「嫌いです! 自分も翼人だと思うと吐き気を催します!」
そんな元気に明るく言うことじゃないんだよねえ。
だけどそれは、この子がそれだけ同種族に迫害されていた証でもあるわけで……。
「そう」
私だけはこの子を見捨てないようにしようと思わせるには、十分すぎる返答だった。
心に余裕がないから忌み子を迫害して団結したのかなあ。
だとしたら、私は迫害されたこの子を今までの分かわいがることにしよう。
「私はリオラが好きだけどね」
「…………は、はい! ありがとうございます!」
やわらかい翼を抱きしめながら、私はこの世界の今後について考えることにした。
……嘘です。この気持ちよさ、抗うことができないのでこのまま睡魔に負けると思う。
まあ、それはそれで許してほしい。神様って自分勝手でわがままなものなので……。
眠りに落ちる私を、リオラは微笑みながら見守ってくれていた。
「私もお慕いしております……。私の神様。私には神様しかいりません……」