The flower which has died 作:ミスターK
いきなりですが6話の一夏の両親の亡くなった経歴の
部分を修正させていただきました。
正確に言うなら、母は産んだ時ではなくしばらくしてから、父は明確には示さないよう修正しました。
ご迷惑をおかけしますがどうかよろしくお願いします。
今回の話を書いていてどうしてもせざるを得なくなったためです。
感想等おまちしています。
結局夢というものはどう足掻いても所詮夢でしかない。
自分自身の幼い頃からの願望や昼間に経験した出来事と結びついたものだとか、過去の記憶映像が夢のストーリーを作り上げるなどと言われている。
それは決して触れられないものであり、いつしか忘れてしまうようにとても儚い。
だが、何事にも例外があるようにいつまでも忘れない夢もまた存在する。
そして、忘れたいのに忘れられないと言う夢もしかり。
誰にだってそんな夢の一つや二つは持っているものであり、むしろ持っていないという人の方が少ないだろう。
しかし、俺は何もかもを失い過ぎている。
だから、どれが忘れたくない夢か、忘れたいものなのか、ただ惰性のように見る意味のないものなのか見分けることが出来なかった。
「ぱぱーっ!」
いつまでたっても見分けることの出来ない、幾度となく繰り返し見てきたこの夢は。
「キャッチボールしよー!」
「そうだね。じゃ、公園行こうか」
一体どれなのだろうか。
記憶の奥底から蘇る公園の光景。
もう何年も来ていない懐かしさに少しばかり、涙があふれる。
思い出がたくさん詰まったこの場所はまだ残っているのか、何だかちょっとだけ気にかかる部分があった。
広場に親子連れの姿がある。
汚れを、社会の汚さを全く知らない純粋な目をしながらはしゃぐその子は、何を考えるまでもなく俺だと理解出来た。
そしてそのそばにいる若い男女もまた親なのだと。
「ほら行くぞー?」
父親ーーー父さんは、少しばかり大きいグローブをはめた幼い俺にボールを投げる。
取りやすいよう、下投げで当たっても痛くないくらいの弱さ。
当時の幼い俺にはそんな優しさを理解できるほどの頭はなく、ただそれが父さんの全力投球だとばかり思っていた。
魂胆がねじ曲がった俺でさえそんな純粋な時期があったなんて、笑いたくなるような話だがそれが現実な訳である。
「やったーっ!パパ見て!ぼくとれたよ!」
「良かったなぁ一夏」
「うん!」
柔らかな放物線を描いたボールはやがてグローブの中へと吸い込まれていく。
落とさないようにとグローブごと抱えた幼い俺は、まるで誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントをもらったかのような笑みを浮かべた。
この頃は真剣だった遊びも今見てみれば本当にくだらないと思ってしまう俺がいる。
それだけ子供というのが純粋に物事を受け止めて、全力で楽しめるということなのかもしれない。
こんな遊びに呆れも苛立ちもせずに付き合ってくれている父さんには脱帽する他ないと思えた。
ボールを取れただけで嬉しそうに笑い、父さんに抱き上げられる。
たったそれだけのことがどうしようもなく楽しかったのを覚えている。
父さんと一緒に笑いあって、ベンチに腰掛けながら幼い俺と父さんを微笑みながら見守る母さんの姿。
俺が心から望む幸せの形があの当時にはあった。
失ってからその大切さに気づくと誰かが言った。
今ならその言葉の意味が分かる。
大切さに気づくというのは、言葉の通りどれだけ大切だったではなく、失ったものがどれだけ当たり前のものだったかと言うそんな気がしたのは、明らかな間違いではないだろう。
「あなたそろそろ日が暮れるわ。キリのいいところで終わりにしない?」
「んーそうだね。ママもそう言ってるしそろそろ帰ろうか」
「えー?ぼくもうすこしパパとキャッチボールしたいな」
幼い俺の何気ない一言になぜか苦笑が漏れた。
幾度となくそう言って2人をとにかく困らせたことは、幼すぎたこととはいえ流石に覚えている。
なんでも、もうちょっとだけなんておねだりして、結局菓子類に釣られていうこと聞いたり、ほんのたまに怒られたこともあった。
今となってはいい思い出だった。
「まったく、またそれかぁ。お家に帰ったらお菓子あげるから」
「...............ほんと?」
「本当だよ。ねぇ、ママ?」
「えぇそうよ。ママが嘘ついたことある?」
ふるふると幼い俺は首を横にふった。
「やくそくだよ?」
「はいはい」
いつしか帰路につくその姿。
左手に父さん、右手には母さんのそれぞれの手を繋いで幼稚園であったこととか、テレビアニメの事とかを話しながら歩いていく。
どこにでもあるその光景は暖かくそして穏やかな日常。
本当に心の底から幸せだと感じているような笑顔を幼い俺を含めて浮かべていて。
「...............っ」
ズキンと心が抉られたかのような痛みが走った。
息苦しくなるほどの痛みは治る事を知らず、むしろ時間が経つにつれ、その痛みは大きくそして鈍くなっていく。
いつしかその痛みは切なさへと変わり。
より一層苦しくなった。
「...............父さん」
耐えきれず口から漏れ出した言葉。
俺と父さんの距離はわずか数メートル。
車の通りも工事の音もしない静かなこの場所では、当たり前のように聞こえるはずなのに父さんは気づかない。
「...............母さん」
心の何処かでは分かっていた。
それでも呼ばずにはいられなかった。
そうでもしないと心が持ちそうになかったから。
「待ってくれ、父さん、母さん。俺はここに居るんだよ。無視なんしてないでさ...............」
それでも振り向く事はない。
むしろそれが当たり前でしかなく。
だと言うのにひたすらにその現実から芽を背けようとする俺がいた。
「待ってくれ!」
耐えきれず俺は走り出した。
会いたいと心から願った人の元へと。
渇望するかのように伸ばしたその手は。
「...............っ!?」
何もつかむ事なく宙を、あえて言うのなら父さんたちの体をすり抜けた。
「...............畜生」
そうだ。
考えるまでもないじゃないか。
何を馬鹿な事をしていたんだ俺は?
これは夢でしかないというのに、そんな事考えればすぐ分かったというのに。
「...............畜生ッ!」
認めたくないと願った儚い願いは。
「...............畜生おおおおお!」
いとも簡単に崩された。
見上げた父さんと母さんの姿。
その顔には靄がかかっていて、見つめる事すら許されなかった。
そう、それはきっと俺の記憶の中から2人が消えかかって居るのだろうと言う、辛い現実を表していた。
場面が移り変わる。
もう嫌だ。
これ以上辛い思いをしたくないと思っても容赦なく再生されてゆく夢。
目を閉じても頭の中で再生されて逃げる事すら許されない。
「パパ。ぼくからてやりたいな」
「んー?いきなりどうしたんだい一夏。珍しいね、そういうのに興味持ったんだ?」
「んーとね?パパよわっちいからぼくがつよくなってまもってあげるんだ。だってパパよくなくでしょ?」
「...............あぁ、僕は今複雑な気分だよ。泣くべきなのか喜ぶべきなのか分からないよ」
「泣くべき、じゃないかしら...............?」
複雑そうな表情の父さんと母さんに比べ、幼いながらも強い決意の意思を示した幼い俺の姿がそこにはあった。
「うわああああん!」
いつも俺は泣いていた。
空手をやりたい。
強くなって父さんを守りたいだなんて大口叩いたのにすぐ泣く。
少しでも強いパンチを受ければすぐ泣いたし、時には練習が怖くてなんて理由で泣いたこともあった。
同い年の子で俺と同じく泣き虫だったけれど、絶対に諦めない子もいた。
その強さに憧れて、負けたくないだなんて産まれて初めて思って。
いつしか、練習に行きたくないだなんてただをこねることはなくなり、進んで行きたいと言うこともあった気がする。
「...............ぼく、強くなるもん」
どれだけ気持ちを入れ替えても泣き虫なのは変わらなかった。
だけれど、それでも幼い俺は意地でも膝を抱えようとはしない。
どれだけ強いパンチや蹴りが来て痛くても、絶対に倒れたりなんてしなかった。
強くなりたい。
たったそれだけの思いが俺に勇気を与えてくれていた。
泣いたって構わない。
ただ、そこで負けなんて認めなかった。
審判が見かねて止めさせられたことも少なくはない。
泣きじゃくりながら、大声あげながらでも最後まで諦めようとはしなかった。
今思えば、どうしてあそこまでできたのだろうとクビを捻ることもある。
それくらいすごいことだったと思う。
「頑張れ!あと10秒だ!諦めるな!」
「頑張って一夏っ!」
どうして諦めたくなかったのかなんて、今となっては思い出せないために知る余地はない。
「止め!正面向いて。判定を取ります。判定!」
でも、なんとなく予想はできる気もする。
「赤、五本!赤の勝ち!」
「やった...............!」
「えぇ、一夏がついに...............」
きっと幼い頃の俺は。
「パパぼくつよくなったよ」
「あぁ!一夏よくがんばったよ。パパの誇りだ...............!」
その一言が言いたかったからかもしれない。
満面の笑みを浮かべながら首から下げたメダル。
そのメダルは金色に輝いていた。
気がつくと俺は幼い自分へとなっていた。
夢の終わりかとつくづく思う。
公園での出来事、空手の思い出。
そのほか沢山の出来事を見せつけられてもう疲れてしまった。これじゃあ目が覚めた時が大変だなと思った。
「...............ははは。これで全部私のもの」
ピチャリと何かが滴る音。
覆いかぶさるようにして動かない血まみれの父さんの姿。
この夢を見るたびにいつも叫びたくなる。
だけれども、声を出すことは出来なかった。
動かない父さんの体はひどく冷たくて、生きていたとは思えないほど生気が感じられなかった。
父さんは殺されていた。
目の前にいる人物に。
身長がらないせいで目の前の人物の足しか見えない。
ゆっくりと視線を上へと向けていく。
足から腰。
腰から胸へ。
銀色に鈍く輝く刃物が見えた。
きっとそれが父さんの命を奪った凶器なのだろう。
現に大量の血液がこびりついていた。
「手間取らせやがって」
悪そびれもなく言う、そいつの顔は。
夢はそこで途切れた。
目を開けると見慣れた天井。
寝起きにしてははっきりとしすぎた頭に、寝たはずなのに疲れが取れない異質な眠り。
鮮明に残る夢の記憶が原因だと理解するのに、時間など必要なかった。
「またか...............」
幾度となく繰り返されもう嫌だとすなおに思う。
だが、どう足掻こうと結局は夢から逃れられないのだが。
気分を入れ変えたくてカーテンを開けると、暗闇に慣れた目には辛いほどの眩しい光が飛び込んできた。
それから守るように目を覆うと、冷たい濡れた感覚がした。
「泣いてたのか...............」
目元から頬にかけて濡れているからおそらく間違いないだろう。
本当に気分が優れない。
あんな夢を見れば当たり前だが、それ以上に未練がましい俺に呆れも感じる。
無いものは無いと言い聞かせてきたつもりだというのに。
ため息を一つつくと、インターホンが鳴った。
時間を見ればまだ9時を回ったあたり。
こんな時間に誰がが訪ねてくるなどなかったからか、少しだけ新鮮味を感じる。
再度インターホンが鳴った。
「...............はいはい。行きますよーだ」
吐きたかったため息を飲み込むと涙を拭った。
泣き顔を見せるわけにもいかないだろう。
俺は3度目のインターホンが鳴る前に階段を素早く降りていく。
もう、夢のことなど頭の中からは無くなっていた。