The flower which has died   作:ミスターK

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3話

迷惑をかけるのは当たり前。そんなこと気にしなくていい。

千冬さんは僕にそう言ってくれた。

何故あんなことを聞いてしまったのだろうか。

こんな事は慣れたはずだった。

あのおばあちゃんを除いて、僕を引き取る人は誰も受け入れてくれなかった。

住む環境も何もかもが引き取られるたび変わるのも、冷たく見られるのも。

それは当たり前のことでしかなかった。

だから、トモダチと呼べるような人などいないし、心を開ける人も勿論いない。

寂しかった?辛かった?

そう言われる時も時々はあったけれど、答えることが出来た試しがない。

他人から見れば異常とも見える僕の人生も、僕からすればそれ以外の人生を知らないために、異常なのかどうなのかなんて知る由は無かったし、やっぱりそれが当たり前の事だったから気にすることもなかった。

心を開くことさえしなければ、優しかった人に裏切られてもショックを受けることもない。

トモダチを作らないのは別れが辛くなるから。

ただ、トモダチがいないのは僕自身の性格もあるのかもしれないけど、今となってはどうでもいいことだった。

だからこそ、千冬さんに引き取られると決まった時も、「あぁ、この人に引き取られるのか」と、そう思っただけ。

きっと、この人も同じだろう。

そう思っていた。

なのに、その考えが違うことに思い知らされた。

僕を見るその目は、今までのどんな人より、おばあちゃんのように優しい目だった。

ものすごく不器用で、人と関わるのがあまり得意では無くて、それでも周りには人が自然と集まってくるような、僕に似ているようで似てないそんな人。

不器用だけど、僕を大切にしてくれるがひしひしと伝わってくる。

この人の所なら幸せになれるのかもしれない、そう思ったのかもしれない。

心の何処かでそう思っていたのだろうか。もしくはそんな微かな願いがあったのだろうか。

だからこそ、あの言葉を、弱音を吐いてしまったのだろう。

でも、あの言葉の本当の意味に気づいてはもらえなかった。でも、それでも良かったと、思う僕もいた。

本当の意味を知ったら、捨てられてしまうかもしれないから。この人はそんなことはしないはずなのに、もしかしたらと考えてしまう僕もいる。

結局ずっと気づかれることなく今日まで過ぎてきた。きっと、気づかれることは無いと思う。

今の僕には帰る家、そして僕を受け入れてくれた優しい家族がいる。

もう、これで良い。

これ以上にないくらい充実し、夢にまで見ていた幸せがここにある。

上手くしゃべれず、僕の気持ちも上手く伝えられないから、ありがとうと言えないまま。

それでも、織斑千冬さんは僕を大切にしてくれている。

僕は満足だから。

これ以上の幸せなんて望まないし、何にもいらない。

だから、そっと短冊に願いを込めた。

この幸せが壊れてなくなってしまわないように、と。

きっと織姫様と彦星さまが叶えてくれるはずだから。

 

 

 

 

 

「悪いな。本当なら一緒に行きたかったんだか、仕事がな..........」

 

「大丈夫。道は覚えているから」

 

角を曲がって見えなくなるまで、ずっと玄関に立っている織斑千冬さんに見送らながら学校に向かう。

大体10分くらいだし、そこまで複雑でもない道だから迷うことはあまり無いと思う。

 

「...............」

 

転入初日だからか指定された時間は普段よりも遅い。

理由は全くわからないけど時間は余裕なあるから、前とは違って景色を眺めながら歩いていく。

一人でも行けるようにと何度も歩いた道だというのに、初めて歩いたかのような新鮮な景色に見えてくる。

殆ど家から出ようとはしなかったのと、道を覚えるのに集中していたからかもしれないけど、織斑千冬さんだったら今更気にしても仕方ないと言うんだろうと思う。

長いようで短くもあった道を歩き切ると学校が見えてきた。

 

「あなたが御崎くんでいいのかな?」

 

「...............はい」

 

「良かった!案内するから私についてきてくださいね」

 

校門を通ろうとするとき僕の名前を呼んだ女の先生は、ぱぁっと笑顔になるとこっちですよと歩き始めた。

良く分からないけど、学校の中までは流石に覚えていなかったから素直に嬉しかった。

開校してから数年しか経ってないという通り真新しい壁や設備が目に付つく。

前に通っていた古い学校とは全く違くて、壁の傷やビビ破れたところは一切なく木張りだった床も、ここではカーペットのようなものが敷かれていた。

通りすがる他学年のフロアには廊下やそこを分ける扉はなく、オープンスペースがあってランドセルを入れるロッカーで簡易的に仕切られている。

前の学校との違いを探すのがなんだか楽しく感じるのは何故だろうか。

 

「つきましたよ。ここが御崎くんの教室です」

 

6年3組。

そこが僕の新しい教室らしかった。

 

「まずは自己紹介しましょうか。私はこれから御崎くんの担任となりました三船美奈子です。よろしくお願いしますね」

 

「...............御崎一夏です」

 

「それじゃあ私が呼ぶまでここで待って当てください」

 

コクリとうなづくと先生は教室に入っていく、と言ってもこの学校の教室には扉なんて無いのだけど。

そのおかげなのかもうぼくが転校生と理解したのか教室はざわめき、視線を向けてくる人もいた。

だけれど、僕はそれに気づかないように目を背けて、窓の外を見上げた。

蝉が鳴き始め、だんだんと暑くなってきた今日の空は雲ひとつなく澄んでいる。

 

「...............」

 

何度目だろう、こうして空を見上げたのは。

人に心を開かなくなってからも、学校だけは、と。

トモダチは出来なくていいから、せめて静かに過ごしていきたいとそう思っていた。でも、結局学校だけが変わるだけで何も変化はないままで。

僕は怖かったのかもしれない。

この学校もきっと...............

 

「御崎くん?入ってきていいですよ」

 

嫌な考えを振り払うと教室に入った。

さっきより好奇の目線が強くなる。

 

「..........御崎一夏です。よろしくお願いします」

 

マイナスな考えや、恐怖を押さえつけいう。

小さすぎたかもしれない。でも、そんな心配がいらないほどに教室は静まり返っていた。

 

「はい、今も話した通り御崎くんが新しく6年2組のクラスメイトになりました。仲良くしてくださいね」

 

「「「はーい!」」」

 

みんなが僕を見る目は思っていた以上に違っていて、見られるのは好きじゃないけれど怖いと思うことは無くて。

 

僕が望んだものがここにあった。

 

 

 

 

 

「なぁ、お前って御崎一夏でいいんだっけ?」

 

その日の昼休み。

何もやることがなく、ただぼーっとしていると不意に声を掛けられた。

声のした方に目を向ければ、赤い髪のクラスメイト。

 

「オレ五反田弾って言うんだ。よろしくな!気軽に弾でいいぜ」

 

「...............う、うん。よろしく」

 

あまり関わったことのないタイプの人だった。考えるよりも先に行動しそうなそんな人。

 

「あのさ。分かんないことあったらなんでも言えよな。オレが教えてやっからさ」

 

分からない事。

そう言われても大体の事は三船先生から聞いたりしたからあまりこの学校で分からないことはない。

強いて言うなら学校内の場所とかぐらいだと思う。

でも、こう言ってもらえるのは素直にうれしかった。

 

「...........弾やめときなさい。アンタじゃまともに説明なんて出来ないでしょ」

 

「寧ろプラスじゃなくてマイナスになりかねないよな」

 

「て、てめぇら!言いたい放題言いやがって!俺だってやるときゃやるんだよっ

!」

 

「...............やるときはやるってアンタねぇ」

 

「...............てか、弾がまともにやったことなんてあったか?」

 

「「「「ナイナイ」」」」

 

「てめぇらぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

容赦なく突きつけられる言葉の暴力に耐えられなくなったのか弾くんは、みんなのところへ突撃していったのだけれど。

 

「甘いわね、はぁっ!」

 

「ゴブッ!?」

 

何故かこうなることが予想できたのだけど、小柄な少女に返り討ちにされた。

素人目から見てもその一撃は凄まじいと言えるほどの綺麗な蹴り。

音といい蹴りの姿勢と言い、痛いじゃ済まないような気がする。

...............なんだかこのクラスでの弾くんの扱いがとてつもないくらい悪いのは理解できた。

まぁ良い意味で、何だろうけれども。

 

「ふんっ!あたしに勝とうなんて1万年早いのよ。全国三連覇舐めんな?」

 

「おぉ。いつ見ても凄まじい蹴りだこと」

 

全国三連覇してるなら逆にこういうことをしていいのかな?と思ったけれど、この人たちの中を見る限りこれが普通なのかもしれない。

弾くんは蹴りが綺麗に入ったらしく白目むいて伸びていたけど、誰も気にしないあたり大丈夫なんだろう...............と思いたい。

というか思いたかった。

 

「まぁ、そこで伸びてるバカはほっといて、よろしく。あたしは凰鈴音、面倒くさいからリンで良いわよ。んで、こいつが」

 

「ちぃーす。御手洗数馬だぜぃ。俺も数馬いいでっせー。なんならかずくんでも」

 

「やかましい」

 

「ぎゃん」

 

「...............」

 

有りがちな自己紹介なんだけれども、2人のテンションというか流れについていけなくて何も言えない。

特に御手洗数馬くんの方は軽すぎて、なんと言うかついていけない。話で聞くチャラ男という部類なんだろうか。

 

「.......まぁ、バカはほっとくとして、改めてよろしく。..............お互いちんちくりん同士仲良くしましょ」

 

ぐさっ。

 

「...............成長期が来たら絶対伸びるもん」

 

130前半を彷徨う僕の身長はちんちくりんと言われてもおかしくない。

たった一つの悩みがこの身長のことだったりする。

中学生になったらきっと伸びる...............筈。

絶対伸びて鈴さんを見下ろしてやるんだから。

今は見下ろされる方だけども。

 

「そんな目で見見なくてもいいじゃない。冗談よ冗談」

 

ジィーっと見ると気まずくなったのかそんなことを言ってきた。今更すぎるけれど。

悲しくなるので身長の事はどこかに放り捨てて、差し出された手を見つめる。

あの時とは違う、差し出される手の意味を知っている。

だからこそ、僕はその手を握り返す。

鈴さんはニィッと特徴的な笑みを浮かべている。

 

心の何処かで思った。

 

もしかしたらこれは初めてトモダチと呼べる人ができたのかもしれない、と。

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