The flower which has died 作:ミスターK
大体一ヶ月ぶりの投稿で大変お待たせしました。
一ヶ月経った割には出来は良くないですが堪忍ください。
感想等お待ちしています。
神様なんていないんだと知ったのはいつの事だったか。
もしも神様がいたのならば、俺は不幸な思いをしなくて済んだのだろうかと、普通の人並みの幸せを手に入れられていたのだろうかと思うことがある。
人並みの幸せ、と一言で言ってもパッと思いつくような事ではない。
家がとても金持ちで欲しいものはなんでも手に入るような生活が出来るとか、殆ど関わりを持ったこともない女子にまでもモテモテで選び放題で、男子からも異常に好かれるとか、そういったことではなかった。
ただ単に父さんと母さんがいて、年上か年下の兄弟がいて、裕福とか貧乏とかそんな事は一切関係なく毎日を笑って過ごせる。
そんな当たり前のようなごく普通の幸せを望んでいた。
だが、その当たり前の幸せを得ることすら俺は許されていなかった。
欲しいと、本当に欲しいと思ったものはことごとく、俺の手から水のようにこぼれ落ちてしまう。
何か、許されない罪を俺は犯してしまいずっと償わさせられているのかと、気づかないうちに誰かを傷つけてしまったとでもいうのだろうか。
それならば俺はいつまでその罪を償えばいいのだろうか?と思う。
幼い時からずっと耐えてきた。
父さんが事故で亡くなって、再婚した人が行方不明になったあの日。
あの日から俺はずっとひとりぼっちだった。
一人ではなかったのかもしれない。でも、僕はいつも孤独を感じていた。
誰一人として頼れる人はいない。
誰も助けてくれない。
それどころか暴言ばかりを浴びせられる。
もう気が狂いそうだった。
いや、狂うことができたならどれだけ良かったことか。
やっと差し出してもらえた救いの手は、掴みきる前に引きずり戻されてしまった。
孤独ではなくなったというのにまた俺は振り出し、孤独という地獄に後戻り。
度重なるそれはいつしか俺の中にある何かを壊してしまっていた。
気づかないうちに壊れてしまったそれのことはどうしても思いだすことができない。
幼いことから何もかもを無くし過ぎた俺に、壊れたそれを確かめるすべなど残されていなかった。
「何にも食べていないじゃないか。それじゃあ持たないぞ?」
もうどれくらい同じことを繰り返したのだろうか。
同じ時間に同じ言葉をかけて。そして、食事を置いて戻る。
よくよく考えてみればまだ1日経っただけだというのに、もう一ヶ月以上繰り返したかのような疲労を感じる。
ドアをノックしても、いくら声をかけても閉められた鍵が開けられる様子は全くない。
やろうと思えばドアを蹴破って無理やりにでも引きずり出すことはできる。
だけれど、そんなことしたって一夏自身から出てきて貰わないと意味がないのは百も承知だ。
力尽くなんてものは何も解決しないのだから。
「...............一夏」
視線の先には冷え切った朝に持ってきた食事。
予想はなんとなく出来ていたが、それでもやっぱりかと思うと辛いものがある。
木の扉一枚の距離が果てしなく遠い。
まるで断崖絶壁のように私と一夏を引き離しているかのようで。
その沈黙は耐えること後できず、同じように食事を取り替えその場を後にした。
リビングに戻ると付けっ放しのテレビ画面が目に付いた。
“御崎一夏さえいなければ、織斑千冬氏はモンドグロッソを優勝できたというのに。謝罪の一言も無いなんてどうにかしていますよ”
“本当にその通りです。血のつながりもない赤の他人のくせして姉弟など、何様のつもりなんでしょうかね”
どこもかしこも同じようなことばかりしか言わない。
気が滅入りそうだった。
日も開けないような朝からマスコミは家に問い詰めてくる上に、家の電話も鳴り止むことなく履歴だけがおもむろに増えていく。
マスコミの連中を無理やり追い払い、電話線を引っこ抜いたおかげでようやく静かになったが、どうせ少しだけだろうとしか思えない。
しばらくすればまだ問い詰めてくるのは予想しなくてもわかる。
あいつらには人のプライバシーなど関係なく視聴率を稼ぐことしか考えていない奴らというのは分かり切っている。
気が滅入りそうだった。
後始末の対応に追われすぎて休む暇も殆どない。
無理言って撮らせてもらった今日の休みが無ければ倒れてもおかしくないくらいに、疲れがピークに達していた。
それに追い打ちをかけるかのように一夏が引き篭もってしまった。
「家族を優先して何が悪いんだ...............」
第二回モンドグロッソの日、一夏は何者かに誘拐された。
そのことを聞かされた私は勿論一夏を助けに行くことを決めた。
決勝戦が迫っていたがそんなことは頭の中からは消えていたし、一夏と優勝どちらが大事なのかなんて言うまでもない。
ドイツ軍の協力もあり言い方はおかしいかもしれないが、何事もなく助け出すことができた。
誘拐犯の2人も特に抵抗をしなかったのも大きいだろう。
その時は一夏を無事に助けられて良かったと、これで良かったとばかり思っていた。
しかし、世間一般は許してなどくれなかった。
モンドグロッソの成績は2位で、決勝の相手は私がいなかったことにより不戦勝で優勝。
それが気に食わなかったらしい。
私が決勝戦に出場しなかったことに対して批判され、結果として謝罪会見を開くことになったが、そこで一夏が誘拐されたからと馬鹿正直に言わなければ良かったと後悔している。
すぐさま怒りの矛先は一夏へと向けられた。
私だって何もしてなかったわけではないし、家族を優先して何が悪いんだと抵抗はしたが何も変わらない。
道行く人が一夏を指差して批判し、暴力を振るわれた。
明るく、笑顔を見せてくれた一夏はもうどこにもおらず初めて出会った頃、もしかしたらそれ以上かもしれないほどに豹変してしまった。
もう笑ってなどくれないし、口を開いてもくれない。
もう何もかも嫌になりそうだ。
気が休むことはなく、カーテンを閉め切っているせいで心なしか家全体がどんよりとした空気が漂っている。
「ひどい顔だね、ちーちゃん」
「た、束!?どこから入ってきた?外にはマスコミの奴らが...............」
何度目かのため息の後、突然に聞こえた親友の声。
相変わらず一人不思議の国のアリスとでもいう格好だったが、その存在が今はありがたかった。
「チッチッチ、甘いねーちーちゃん。束さんは天才だからあんな奴らに見つからないくらいチョチョイのチョイなのさ」
「...........変なことはしてないだろうな?」
「もちのろんさ!ただちょっとばかり束さん印の光化学迷彩を使わせてもらったけどねー。いやぁ堂々と歩いても見つからないのはいいものだよね」
満面の笑みでVサインをしているあたり性格も相変わらずのようだった。
ただ、強引な手を使わなかったあたり、まともになったと言うのかもしれんが。
「全くお前というやつは。まぁ、元気そうでなによりだ」
「んー。最近はそーでもないかな?いつもニコニコ元気一杯の束さんだって元気ない時もあるよ?束さんだって人間だからね。ちーちゃんなら分かってくれるでしょ?」
「まぁ、な」
どうやら、すぐれないのは私だけではなかったらしい。
こんな束を見たのはいつ以来だったか。
束は自分自身の弱い部分は誰にも見せたがらない。
それこそ私にだってそうだ。
前の時だって束からではなく、たまたま偶然でしかなかった。
「そういえばちーちゃん。いっくんは何処にいるの?」
「...............部屋だよ。ずっと部屋にこもったままだ。今日は一夏に用事か?」
「そーだよん」
束は満面の笑みを浮かべた。
何かを隠そうとしている、そんなことを抱かせるのを。
「入るよいっくん。嫌って言ってもききませーん」
無理やり。
そういうのが正しいほどに、私が開けられなかった部屋のドアを束はこじ開けた。後で修理しないと........などという考えは頭の中にはなく、ただ部屋の惨状に言葉を失った。
カーテンは締め切られているのは同じだが、この家以上にどんよりとした、むしろ息苦しさすら感じる雰囲気が漂い、空き巣に入られたとでもいうほどに荒れている。
マメに整理整頓する一夏の性格からは想像もできない。
肝心の一夏は部屋の隅でただうずくまっていた。
「久しぶりだねぇいっくん。1年ぶりくらいだっけ?」
「...............」
束の言葉に反応して一夏は顔を上げる。
「会いたかったよーいっくん。束さん寂しくて泣いちゃいそうだったんだから。ねぇ、いっくんは元気ーーー」
突然に束の襟首を掴み上げたために、最後まで続く事はなく。
束を見下ろす一夏の目はさっきまでの濁った焦点の定まらない瞳ではなく、はっきりとわかるほどの怒りの感情を読み取れた。
やめるんだ。
たったその一言がなぜか言うことができなかった。
「...........うるさい」
「大きくなったねぇ?1年前は私が見下ろす方だったのに。いっくん今身長何センチぐらい?」
「.............うるさいっていってんだよっ!」
突然の怒鳴り声。
それが一夏のものだと理解するには時間がかかった。
聞いたこともない怒声に私の体は竦んだというのに束は気にした様子もなくつづけていく。
「ずいぶんとお怒りだね?じゃ、もう余計な前置きはいらないか。今日話があってきたんだ。いっくんは私のこと嫌い?恨んでる?」
「ーーーーーだ」
「ん?」
「ーーーーー大っ嫌いだ、大っ嫌いだよお前なんか..........!お前がISを作らなければこんな思いをする必要なんて無かった!」
「...............」
「ISなんか作るからこうなるんだよ!お前のせいなんだ!全部、全部全部全部!何もかも!無責任なんだよ。勝手に作るだけ作って、そのあとは知らないなんて!お前がしっかりしないないからこうなったんだ!」
「..............いっくん」
「やっと辛い思いをしなくて済むと思ったんだ。どうして僕ばかりこうなる?どうして、どうして.........」
だんだんと嗚咽交じりになっていく、悲痛な一夏の声。
それは聞いていられないほど、こっちまでもが苦しくなるほどだった。
どうすれいいのか全くわからない。
初めての一夏の大声に驚いているのもあるが、それ以上にこの中では私が部外者だったのからなのかもしれない。
そんな中、束は優しく一夏の手を払いーーー
「た、束?お前...............」
「ちーちゃん止めないで」
ーーー土下座をした。
一夏に向かって、絶対に頭を下げようとしなかったあの束が。
「ごめんなさい。私が勝手に作ったからだよね」
昔から束は自分の気に入らない人物のことは認識すらしない。そこらへんに落ちているゴミや石程度。
そんな性格だから敵は多かったし、責め立てられることも少なくはなかったが、それでも決して非を認める事はなかった。
謝るという行為を知らないと言っていいほどの性格だったからこそ、この事実を素直に受け入れることはできなかった。
「本当にごめんなさい」
「何なんだよ、お前は。もう手遅れなんだよ。今更謝ったところでどうなるっていうんだ。顔も見たくない」
それだけを言い残すと一夏は出て行こうとしてしまう。
行かせてはいけない。
そんな気がして肩に手をかけたがすぐさま払われた。
まるで触るなと拒絶するかのように。
「...............いっくん。言い訳かもしれないけどこれだけは言わせて?もしかしたらちーちゃんと会えなかったかもしれない。それでも良かった?」
「 」
長い沈黙の後の一夏の返答。
その答えは私の何もかもを凍りつかせるには充分すぎた。
遠ざかっていく一夏の背中。
追いかけなくてはいけない。
なのに金縛りにあったかのように動いてくれない。
伸ばした手は宙を舞うだけだった。