The Elder Scrolls : Dawn of Order   作:蛾の司祭

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第3章「誰も結ばぬ結び目」
第1話:立方体


シヴァリング・アイルズに刻というものがあるのかどうか、確かめた者はいない。マニアの側では光が絶えず、ディメンシャの側では何かがいつでも腐っている。ニュー・シェオスの宮殿はその継ぎ目に建っていて、片側の窓からは蜜のような光が差し込み、もう片側の窓からは湿った甘い臭いが吹き込んでくる。どちらが表でどちらが裏なのかは、建てた者にしかわからないだろう。

 

玉座の間では、その日、縄跳びが行われていた。

 

跳んでいるのは三人。縄は彼ら自身の腹から引き出されたもので、跳ぶたびに濡れた音を立てる。誰も痛がってはいない。そして三人とも、同じ顔をしていた。

 

「よいぞ! よい! 四十七!」

 

玉座の上でシェオゴラスが手を叩く。「……いや、二十二だったか。まあよい。どちらでも数は数だ」

 

肘掛けに片脚を投げ出し、もう片方の手にはエイダールチーズの塊。青い筋の入った、よく熟れたやつだ。齧るたびに舌の上で崩れ、鼻の奥へ抜けていく香りがある。腐りかけの、しかしまだ腐りきってはいない、その一点の際どさをこの神は何より好んだ。

 

歯を立てる。

 

止まった。

 

歯が入らない。掌の中のそれを、シェオゴラスは目の高さまで持ち上げる。

 

立方体だった。

 

角が八つ、辺の長さはすべて等しく、面のどれもが鏡のように平らだ。青い筋は寸分の狂いもなく等間隔に走り、格子を描いている。さっきまであったはずの歯形が、無い。

 

「ほう」

 

舌先で舐めてみる。味がしない。床に落として踏みつけると、乾いた音がして割れる。欠片はどれも、完璧に小さな立方体だった。

 

宮殿の音が、一拍だけ抜けた。

 

縄跳びの数え声が途切れる。窓の外で、蝶が羽ばたきの途中のまま空中に留まる。玉座の間に落ちていた光の帯が、埃の一粒までを貼りつけたまま動きを止めた。

 

一拍。それだけ。

 

音が戻ると、狂人たちはまた跳び始めた。何ごともなかったかのように。彼らはそもそも、何かがあったことに気づける造りをしていない。

 

シェオゴラスは笑っていなかった。

 

胸のあたりを、爪で軽く掻く。虫にでも刺されたような、無造作な仕草だった。

 

「……つまらん」

 

「左様でございますか」

 

背後からハスキルの声。いつからそこにいたのか、あるいは最初からいたのか。

 

「これのどこが面白い。腐るから旨いのだろうが。熟れるまで待つ物であるから待つのだろうが。待つ楽しみを取り上げて、あとに何が残る」

 

「お代わりをお持ちいたしましょうか」

 

「持って来い」

 

「先ほどのが最後の一つでございます」

 

「なんだと」

 

「厨房のものも、すべて同じようになりましたので」

 

シェオゴラスはしばらく黙った。それから懐へ手を入れる。

 

出てきたのは、一枚の金貨。

 

古い。縁は擦れて丸くなり、刻まれた横顔の鼻先はほとんど平らに潰れている。何代目の皇帝のものかは、取り出した本人も知らない。彼はそれを親指の腹で撫でた。

 

「変化がない世界など、何が面白いか」

 

指の間で金貨を立てる。爪弾くと、澄んだ音がひとつ鳴った。

 

「定命の者が竜になり、竜のような定命の者がいるから面白いのだろうに。あやつは未だにわかっておらんようだな」

 

「どちらのことでございましょう」

 

「うん?」

 

「竜になった者と、竜のような者。どちらが『あやつ』でございますか」

 

シェオゴラスは金貨から目を上げ、ハスキルを見た。それから心底おかしそうに笑い出す。腹を抱え、玉座を叩き、涙まで流して笑い転げた。

 

笑いが、止む。

 

「あなた様のおっしゃる『楽しい』は、定命の者にとってはいささか過激ではありますが」

 

ハスキルは、答えの返らなかった問いをそのまま床に置いていく。長く仕えるとはそういうことなのかもしれない。

 

「つまらんことを言うな。狂気こそが人の根源であろう」

 

金貨を宙へ弾き、掌で受ける。表か裏かは見もしない。「隠して、飾って、名前をつけて、法まで作って。剥がせば全員おなじ顔よ」

 

「狂気を隠すのもまた人でございます」

 

「ふん」

 

「……ですが」ハスキルは少しだけ間を置いた。「隠す狂気すらも無くなってしまうのは、いささか無粋ではありますな」

 

シェオゴラスの目が、ゆっくりとハスキルへ向く。

 

「そうであろう」

 

満足そうに、そう言った。玉座から身を起こし、両腕を広げ、縄跳びの三人を見下ろす。跳んだ数はとうに百を超えていたが、もう誰も数えていない。

 

「聞いたかペラギウス! 明日はお前を五人に増やしてやろう!」

 

三つの同じ顔が、同時に跳ぶのをやめた。何か言おうとして口が開く。悲鳴だったのか、感謝だったのか。声になる前に、その口はもう笑っていた。

 

「五人だぞ! 五人で跳べば五倍楽しい! 算術だ!」

 

哄笑が天井を叩き、窓の外で蝶が一斉に鳴き交わす。

 

その中で、シェオゴラスはもう一度だけ金貨を見た。

 

笑い声はそのまま。表情もそのまま。ただ視線だけが、擦り切れた横顔の上に、ほんの少しだけ長く留まった。

 

それから、ポケットにしまった。

 

その金貨がいつ手に入ったものなのか、なぜ今それを取り出したのか、ハスキルは尋ねなかった。尋ねたところで、返ってきた答えが本当かどうかを確かめる手立ては、この島には無い。あるいは、どこにも無いのかもしれない。

 

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