The Elder Scrolls : Dawn of Order   作:蛾の司祭

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第3話:白い谷

高いところの風は、下の天気を知らない。

 

雲より上へ出てしまえば、そこにあるのは光だけだった。下でどれだけ焼けていようと、上には煙も匂いも届かない。届かないぶん、そこは静かだった。

 

骨の竜は、その静かなところを西へ飛んでいる。

 

リフテンの焼け跡を発ってから、山が三つぶん過ぎた。眼下では、湖が凍りかけては溶け、川が向きを変え、また凍りかけている。人の作った線——道や畑の境や、石を積んだ垣——は、この高さから見ると、どれも似たような細さになった。

 

『クァーナーリン』

 

翼の音の合間に、骸の竜が言った。

 

『まだ、呼ばれん』

 

「ああ」

 

『前に言うたときからだ。あれから、幾日になる』

 

「数えてない」

 

『我は数えた』

 

ダーネヴィールの声には、喜んでいるとも、不安がっているとも取れる響きがあった。あの領域に縛られた魂が、こうも長く外に出ていられたことは、四千年のあいだ一度も無かった。

 

「檻の錠が緩んでいる、ということですわね」

 

セラーナが背の上で身を起こした。風が髪を後ろへ流していく。彼女はそれを片手で押さえもしない。

 

「錠が緩んでいるのは、たいてい、家のほうが傾いているときですわ」

 

『……そういう言い方をされると、喜びにくくなる』

 

「では喜んでいらして。わたくしは考えるほうを引き受けますから」

 

竜が、喉の奥で笑った。

 

                 ◇

 

しばらく、翼の音だけが続いた。

 

「ねえ」

 

セラーナが言った。

 

「ソヴンガルデは、どんなところでしたの」

 

ドヴァキンは、すぐには答えなかった。

 

竜の首の付け根に片膝を立て、行く先の山並みを見ている。その姿勢を崩さないまま、やがて口を開いた。

 

「広い」

 

「広い」

 

「飯がある。歌ってる」

 

「……それだけですの」

 

「それだけだ。ずっとな」

 

セラーナは、その「ずっとな」のところで少し黙った。

 

「賑やかで、平和で」

 

男は続けた。

 

「……だからどこか、虚しかったな」

 

風の音が、その言葉のあとをすぐに埋めていく。彼はそれ以上を言わなかったし、言うつもりも無かったらしい。言い足りていないのか、言い過ぎたのか、どちらでもないのかを、外から測る手立ては無い。

 

「戻ってこれてよかったですわね」

 

「また、そのうち死ぬがな」

 

「今度こそ吸血鬼になりますか?」

 

「それも退屈だろ」

 

「……相変わらず失礼ですわね」

 

『贅沢な悩みだ』

 

ダーネヴィールが割り込んだ。

 

『こちらは死ぬことも老いることも許されておらぬというのに、生き死にを選り好みしておる。二人とも、我の前でやる話ではないな』

 

「アンタが笑ってるからだろ」

 

『笑ってはおらん』

 

「尾が動いてる」

 

骨の尾は、確かに一度、風の中で振られていた。竜はそれについて何も言わず、少しだけ高度を上げた。

 

                 ◇

 

「俺が死んでからは、何をしてたんだ」

 

不意に、ドヴァキンが訊いた。

 

セラーナは、すぐには答えなかった。

 

「変わりありませんわ。城で一人ですから」

 

「そうか」

 

「本を読んで、実験をして、うまくいかなくて、また読んで。……何年も、同じことを」

 

『ソウル・ケルンと変わらんな』

 

「まあ、ひどい」

 

セラーナは笑った。笑ってから、少しだけ声の調子を落とす。

 

「それでも、棺にいたころを思えば、ずいぶんとマシですわ」

 

誰も、そこに何かを足さなかった。

 

翼が四度ほど打たれるあいだ、三人とも黙っていた。眼下で、白いものが増えていく。木が減り、岩が減り、雪だけが残っていく高さに入りつつあった。

 

「なんだか懐かしいな」

 

ドヴァキンが言った。

 

「そうですわね」

 

セラーナが答えた。

 

骨の尾が、また一度動いた。今度は誰も指摘しなかった。

 

                 ◇

 

谷は、山の裏側にある。

 

裏側という言い方が正しいのかどうかは、上から見ている者にしかわからない。山の稜線がそこで一度途切れ、途切れた先に、地図に無いものが横たわっている。

 

ダーネヴィールが翼をたたんだ。

 

落ちるように高度が下がる。岩壁が両側から迫り、稜線の影を抜けた瞬間、風がやんだ。

 

やんだのではない。この谷には、そもそも吹いていない。

 

白い。

 

底に湖がある。凍っている。凍っているのに、氷の下から光が来ていた。上の空よりも、下の氷のほうが明るい。人の影が、足元ではなく顔のほうへ伸びる。

 

湖の縁に沿って、石の柱が並んでいた。倒れたものもある。倒れたものの上にも雪が積もり、その積もり方まで整っていた。ここでは何十年かに一度しか風が吹かないのかもしれない。

 

そして、社。

 

氷の壁を背に、石の建物が一つ。屋根の反りが、タムリエルのどの様式とも違っている。古いのではなく、繋がっていないのだ。この様式が育った先が、どこにも残っていない。

 

竜が湖の上へ降りた。

 

氷が鳴る。骨の爪が乗った場所から細い線が走り、走ってすぐに止まった。この厚さなら割れない。割れないことを、竜のほうが先に知っていたらしい。

 

                 ◇

 

社の前に、老人が立っていた。

 

いつから立っていたのかは、わからない。降りる音を聞いてから出てきたにしては早すぎたし、待っていたにしては、身なりが整いすぎていた。

 

背が高く、痩せている。肌は雪より少しだけ青い。耳は長く、その先が下へ向いている。目のあたりの造作は、この世界のどのエルフとも似ていなかった。

 

老人は、喉を一度鳴らした。

 

「……客か」

 

最初の一言だけ、声がかすれた。二言目からは、そうでもなかった。

 

「久しいな、セラーナ殿」

 

「ご無沙汰しております、ギレボル殿」

 

「その連れは」

 

ギレボルの目が、ドヴァキンへ向いた。

 

向いて、そこで止まった。

 

止まったまま、老人は動かなかった。ずいぶん長いあいだ、彼はその顔を見ている。やがて、片手を持ち上げ、自分の顎のあたりで何かを測るような仕草をする。それから手を下ろした。

 

「……幾年、経った」

 

「知らん」

 

ドヴァキンが答える。

 

「数えたことがない」

 

「私は数えた」ギレボルは言った。「あなたがここを発ってから、この谷では雪が四十七度、湖の縁まで届いている」

 

「そりゃあ長いな」

 

「長い。人の一生よりは長い」

 

老人は、もう一歩近づいた。

 

「あなたは、老いておられぬ」

 

「一度死んだ」

 

ドヴァキンは、天気の話でもするような調子で言った。

 

「戻された。竜の親父の都合でな」

 

「では、この先は」

 

男は答えなかった。

 

ギレボルも、それ以上は訊かなかった。黙って、氷の上のどこでもないところを見ている。四千年ぶんの何かを、頭の中で並べ直しているようにも見えたし、ただ立っているだけのようにも見えた。

 

「……そうか」

 

やがて、そう言った。

 

「アーリエルの啓示は、そういう事だったか」

 

「何のことだ」

 

「わからぬ言葉を、長く抱えていた」

 

老人は、それ以上を説明しなかった。説明しないと決めたのか、説明できる形にならなかったのかは、聞いている側にはわからない。

 

                 ◇

 

「なにやら、大地の骨が乱れている」

 

ギレボルは、社のほうへ歩き出しながら言った。

 

「数日前からだ。ここは世界の端だ。端まで来る揺れは、たいてい、真ん中で起きたものの残りかすでしかない。だが、これは残りかすの量ではない」

 

「トシュ・ラカと言われる者と、ジャガラグが、シロディールに現れていますわ」

 

セラーナが答えた。

 

老人の足が、半歩ぶん止まった。

 

「……ジャガラグ」

 

「ご存じで」

 

「名は。……名だけは」

 

ギレボルは、また歩き出した。

 

「なるほど。それでか」

 

「それで、とは」

 

「大地の骨の乱れ方だ。乱れるだけなら、戦でも起きる。だがこの数日間、乱れたところが、乱れたまま固まっている。動いていた水が、動かないままそこに在る。ああいう止まり方は、私の知る限り、生きているものはせぬ」

 

彼は社の階を上がった。上がってから、振り返る。

 

「もう一方は」

 

「東から来ていますわ。アカヴィリの軍勢を率いて。……自らを竜だと名乗っている者ですけれど、竜ではありません」

 

「では、何だ」

 

「わかりませんわ」セラーナは正直に言った。「ですが、竜ではないということだけは、この場の全員が同意しております」

 

『あれは竜ではない』

 

ダーネヴィールが、湖の上から低く言った。声には、はっきりと怒りがあった。

 

『我はあの名を口にしたくない』

 

ギレボルは、骨の竜のほうを見た。

 

「なるほど」

 

それだけを言って、社の中へ入っていった。

 

                 ◇

 

社の奥は、思っていたより狭かった。

 

天井は高い。だが、人の使う床の面積が少ない。石の台が一つ。水の湧く口が一つ。壁に、金属の板が幾枚か掛かっている。その板の文字を読める者は、この場に一人しかいなかった。

 

埃が、無い。

 

四千年ぶんの一人分の暮らしにしては、無さすぎた。掃いているのだろう。掃く相手が来ないところを、毎日。

 

「弓を」

 

ギレボルが言った。

 

セラーナは、背の麻袋を下ろした。

 

紐をほどく。布が擦れる音が、この谷では大きく響いた。中から出てきた白銀が、氷の照り返しを受けて、初めて明るいところに立つ。

 

弦は、まだ張られていない。

 

上下に反った白銀が、途中で途切れたまま、老人の前に差し出された。

 

ギレボルは、受け取らなかった。

 

「張りなさい」

 

「……よろしいので?」

 

「私が張るものではない。私はこれを射たことがない」

 

セラーナは、少しのあいだ弓を見ていた。

 

それから、片方の端を右の足の甲に掛けた。上の腕を腿の外へ回し、体重を前へ倒しながら、ゆっくりと押していく。白銀がしなる。しなり方が、木のそれとは違っていた。反発が遅れて返ってくる。押した力が、いったんどこか別の場所へ行って、それから戻ってくるような。

 

「重いですわ」

 

「そのはずだ」

 

弦の輪が、上の弭に近づく。あと指一本。半分。

 

掛かった。

 

セラーナは体重を戻した。白銀が、張られた形で止まる。

 

弦を指で弾いてみた。

 

音がした。ただの音だった。

 

もう一度、今度は矢をつがえずに引いてみる。頬の下まで引いて、そこで止め、指をゆっくり戻した。

 

まだ何も起きない。

 

「……こんなものですの」

 

「こんなものだ」ギレボルは頷いた。「そこまでが、手でやることだ。あとは、こちらの仕事になる」

 

                 ◇

 

「そこいらの武器じゃ届かん」

 

ドヴァキンが言った。

 

社の入り口の柱に肩を預けたまま、彼はさっきからずっとそこにいる。

 

「あのダンマーが言ってた。俺は見てない。見てないが、あいつが届かんと言うなら、届かんのだろう」

 

「では、なぜ弓を」

 

ギレボルが訊いた。

 

「アーリエルってのは、アカトシュのことか」

 

「……呼び名が違う」老人は言った。「同じとは言わぬ。だが、他人でもない」

 

「なら都合がいい」

 

ドヴァキンは肩を柱から離した。

 

「竜を騙る奴に、竜の光を当てる」

 

「乱暴な言い方ですけれど」

 

セラーナが引き取った。

 

「そういうことですわ。ただの矢で届かないのなら、ただの矢でなくすほかありません。……お願いできますかしら、ギレボル殿」

 

「当てる場所は」

 

ギレボルが訊いた。

 

「弾かない場所が、どこかにある」

 

ドヴァキンは言った。

 

「無い生き物は、見たことがない」

 

老人は、しばらく答えなかった。

 

石の台の縁に手を置き、そこにある溝の一本を、指の腹でゆっくりとなぞっている。何百年か、何千年か、同じところをなぞってきた者の触り方だった。

 

「私が最後だ」

 

やがて、そう言った。

 

「私の後に、この社を継ぐ者はいない。だから、残っているものを惜しむ理由が、もともと無い」

 

「……全部を、ということですの」

 

「全部だ」

 

言い方に、悲壮なところは無かった。棚から古い物を出してくるような調子で言われたので、聞いている側のほうが一拍遅れた。

 

「大地の骨は、この谷から南へ通っている」

 

ギレボルは続けた。

 

「途中で幾度も細くなるが、切れてはおらぬ。切れていれば、シロディールの揺れがここまで届くはずもない。届いているということは、道はある」

 

「その道に、光を流すと」

 

「流す。細い道に太いものを通すのだから、時間がかかる。押し込む前に、道のほうを整えねばならん。整えている最中に、道が向こうから塞がってくるかもしれぬ。……やってみねばわからぬことが多すぎる」

 

「何とかなりそうか」

 

ドヴァキンが訊いた。

 

ギレボルは、初めて少しだけ笑ったように見えた。頬のあたりが動いただけかもしれない。

 

「時間はかかると思うが」

 

そう言って、老人は台のほうへ向き直った。

 

「なんとか、届けよう」

 

                 ◇

 

準備は、その場で始まった。

 

ギレボルは、壁の金属板を一枚ずつ外して床へ並べていく。並べる順に決まりがあるらしく、彼は一度置いたものを二度動かした。動かしてから、少しのあいだ立って見て、また動かす。

 

セラーナが手伝おうとすると、老人は首を横に振った。

 

「順番は、掃く順番と同じだ」

 

「掃く」

 

「毎朝、そこから、そこ、そこと掃く。順を変えたことがない。変えれば、どこまで掃いたかわからなくなる」

 

老人は、また一枚を置いた。

 

「板も同じだ。手が覚えている。手に訊きながらやっているのでな、脇から言われると止まる」

 

「……止まると、どうなりますの」

 

「初めからだ」

 

セラーナは、下がった。

 

下がって、床に並んでいく板の順を目で追った。追ったが、規則は見つからなかった。見つからないものを毎朝繰り返してきた者が、この谷には一人だけいる。

 

ドヴァキンは、外へ出た。

 

湖の上で、ダーネヴィールが首を低くしている。骨の眼窩の青が、社の入り口のほうへ向いていた。

 

『あの者は、死ぬのか』

 

「さあな」

 

『訊かぬのか』

 

「訊いて何になる」

 

竜は、それきり黙った。

 

氷の下の光が、二人の下で、ゆっくりと明るくなったり暗くなったりしている。何がそうさせているのかは、上に立っている者には見えなかった。

 

                 ◇

 

谷を出たのは、日が回ったころだった。

 

回ったころ、というのは、この谷では日の位置が見えないからだ。氷の明るさが少し変わったのを、セラーナが見て取った。

 

「南へ」

 

彼女が言うと、ダーネヴィールは翼を広げた。

 

稜線を越えた瞬間、風が戻ってきた。谷の中に無かったものが、外には全部ある。

 

『追い風だ』

 

竜が言った。

 

『北から来ておる。……ずいぶん強い』

 

「都合がいいですわね」

 

『都合が良すぎる』

 

竜は、それについてそれ以上言わなかった。ドヴァキンも何も言わない。彼が風について何か思ったのかどうかは、後ろに乗っている者からは見えなかった。

 

                 ◇

 

山を越える切れ目は、南東に一つしかない。

 

峰の連なりが、そこで一段だけ低くなっている。シロディールへ入るには、そこを抜けるほかない。抜けるほかないから、東から来た軍もそこを通ったし、北から下りた軍も、そこを通った。

 

その手前に、ファルクリースがある。

 

上から見ると、まず気づくのは煙だった。

 

無い。

 

一本も上がっていない。焼けた町から煙の上がらないのは、焼けてから、それだけの日が経ったということだ。

 

家は、焼け落ちていた。

 

屋根が抜け、梁が黒い骨のように残っている。石の土台だけが元の並びを保っていて、上から見ると、町の形そのものは、まだそこにあった。

 

囲いの柵も焼けている。焼け残った杭は、開いた形のまま並んでいた。中に何もいない。家畜を追い出してから出ていった。連れていけない数だったのか、連れていける道が無かったのか。

 

畑の畝は、まっすぐのままだった。畝は焼けない。

 

灰は、平らに積もっている。

 

積もったところに、形は一つも浮いていなかった。片腕を伸ばした形も、小さく丸まった形も。白いものも、無い。

 

セラーナは、しばらくそれを見ていた。

 

「……リフテンとは、違いますわね」

 

道に、荷車の轍が幾筋も残っている。轍はどれも西を向いている。西と、それから北。誰も東へは向いていない。

 

「年寄りと、子供から順にだそうですわ」

 

セラーナが言った。「上級王が出したのだと、聞きましたけれど」

 

「どんな奴だ」

 

「お会いしたことはありませんわ。若いという噂だけ」

 

「そうか」

 

「興味がおありでして?」

 

「……いや」

 

風が、少しのあいだ会話を切った。

 

「だが、民を逃がす王なんだな」

 

セラーナは、それについて何も訊かなかった。

 

訊けば、彼が誰と比べているのかを言わせることになる。言わせたところで、たぶん一言で終わる。

 

彼が生きていた時代、この大地には旗が二つあった。旗の数だけ人が死に、逃がす話は、どちらの側でも後回しにされた。焼けた村を、彼は幾つも通っている。通ったときに何を思ったのかを、書き残した者はいない。

 

いま思い出したのかどうかも、後ろに乗っている者からは見えなかった。

 

                 ◇

 

領の南のほうへ来て、それが見えた。

 

黒い帯が、東から入っている。

 

森を舐め、畑を横切り、村を一つ潰し、その先で南へ折れていた。折れたあたりが、あの切れ目だ。

 

幅は、ここからでも道の何十倍かある。踏み固められたところは草が無く、周りとは色が違う。焼けた跡もあるが、焼けているのは端のほうだけだった。真ん中は、ただ潰れている。潰れたまま、乾いて、そこに残っていた。

 

セラーナは、しばらくそれを見ていた。

 

「炭で引いた線みたいですわね」

 

『線ではない』

 

ダーネヴィールが言った。

 

『通った者が、そこにいたというだけのことだ』

 

ドヴァキンは、何も言わなかった。

 

彼はその帯を、端から端まで目で追っていた。追い終えると、視線を先へ——帯の折れた先、山の切れ目の向こうへ移す。

 

そこはもう、この土地ではない。

 

「行くぞ」

 

それだけを言った。

 

                 ◇

 

竜が、高度を上げた。

 

切れ目の上を抜けると、下の色が変わる。雪が減り、岩が赤みを帯び、木の並びが縦に細くなっていく。シロディールの山地だった。

 

遥か南に、埃が上がっている。

 

一本ではない。何本かが、地平に沿って横に長く連なっていた。連なった上のあたりだけ、空の色が濁っている。

 

風は、まだ後ろから来ていた。

 

ダーネヴィールの翼は、その風に押されて、打つ回数を減らしていく。打たないまま滑る時間のほうが長くなり、やがて、翼の音よりも風の音のほうが大きくなった。

 

三人とも、何も言わなかった。

 

言うことが無かったのか、言えば風に持っていかれるとわかっていたのかは、乗っていた者たちにしかわからない。

 

骨の竜は、埃のほうへ向かっている。

 

着くのがいつになるのかを、そのとき数えていた者はいない。

 

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