The Elder Scrolls : Dawn of Order   作:蛾の司祭

45 / 46
第2話:十一

その年の、いちばん質の悪い降り方だった。

 

雪になりきらない。雨のまま落ちてきて、地面に当たってから凍る。ホワイトランの平原では、そういう日が年に何度かある。よりによってその日に当たったのが誰の落度なのかは、誰にも言えない。

 

                 ◇

 

城壁の外に、布が敷いてあった。

 

ホワイトランのぶんだ。他の領は、それぞれの壁の外でやっている。

 

端から端まで、三十九枚。

 

風に持っていかれないよう、四隅に石を置いてある。近くの塚から運んだもので、運ぶだけで半日かかった。

 

                 ◇

 

この平原に、天幕が並んでいたことがある。

 

白かった。あのときは、街道の見えるところまで来ていた。

 

いまは、布のほうが低い。

 

                 ◇

 

布の上には、物が並べてある。

 

兜。留め具。帯の金具。折れた剣の、柄のほうだけ。ひとつずつ、間を空けて。

 

一枚に、十六ずつ。

 

三十九枚目だけが、十一で終わっていた。

 

十一で、持ち帰れたものが尽きる。

 

                 ◇

 

遺体は、無い。

 

シロディールに置いてきた。あちらの土へ埋めた者もいれば、あちらの火で焼いた者もいる。ジェラールを越えて運べるものではない。

 

持ち帰ったのは、外して背嚢に入るものだけだった。

 

だから、並んでいる数と、帰らなかった者の数は同じではない。

 

どちらが多いのかは、並べた者なら誰でも知っている。

 

                 ◇

 

物のそばに、札が置いてある。

 

木を薄く削り、細い革紐を通したものだ。名が書いてある。

 

書いていない札が、いくつかある。

 

「これは」

 

シグヴァルドが訊いた。

 

「わかりません」

 

答えたのは、若い書記だった。

 

「誰もわからんのか」

 

「はい。持ち帰った者も、拾った場所しか覚えておりません」

 

「……そのまま並べておけ」

 

書記は、うなずいた。

 

うなずいてから、書いていない札を、書いてある札と同じ向きに直した。

 

                 ◇

 

留め具のひとつが、他と造りが違う。

 

止め方が逆だ。この国のものは外から掛ける。それは、内から掛けるようになっている。

 

「王よ」

 

書記が言った。

 

「帝国のものが、混ざっております」

 

「どれだ」

 

書記は、二つ目を指した。三つ目も指す。四つ目のところで、指が止まった。

 

「……直したのだと思われます。向こうで、壊れたぶんを」

 

シグヴァルドは、布の端から端まで見た。

 

見てから、言った。

 

「どれが帝国のものだ」

 

書記は、答えなかった。

 

「そのまま焼け」

 

                 ◇

 

三十九枚目の端に、留め具がひとつ。

 

面に、狼が打ってある。

 

シグヴァルドは、そこで一度止まった。

 

止まって、何も言わずに、次へ行った。

 

                 ◇

 

薪は、濡れていた。

 

朝から積んである。積んだ端から降られたが、途中でやめた者はいない。やめても乾かないからだ。

 

三度、火を入れた。

 

三度とも、煙だけが出た。煙は横へ流れる。風が下から来ているので、上へ行かない。

 

壁の内から、乾いた薪が運ばれてきた。屋根の下にあったぶんだ。それも、運ぶあいだに濡れた。

 

「待つ」

 

シグヴァルドは、そう言った。

 

言ってから、自分も立って待った。

 

誰も、帰らない。

 

                 ◇

 

薪の向こうに、上半身に何も着ていない男が二人いた。

 

一人は腕に古い咬み痕がある。もう一人は、火の側に立っているのに震えていない。

 

シグヴァルドは、そちらへ歩いた。

 

「言い値で出すと伝えた。……受け取ってもらえなかった」

 

咬み痕のあるほうが、こちらを見た。

 

「金の話は、聞いていない」

 

「聞いていなくとも、勘定は残る」

 

「残らんよ」

 

男は、三十九枚目のほうへ顎をしゃくった。

 

「死んだわけじゃない。旅に出ただけだ」

 

シグヴァルドは、何も言わなかった。

 

「いま頃、走ってる。こっちより広いところをな」

 

「……それでも、負うものは負う」

 

男は、しばらくシグヴァルドを見た。

 

見てから、初めて表情らしいものを作った。

 

「なら、祝ってやってくれ」

 

「…祝う」

 

「送るんじゃない。祝うんだ。あいつらは、行きたいところへ行った」

 

シグヴァルドは、火のほうを見た。

 

まだ、ついていない。

 

                 ◇

 

日が、いちばん高いところを過ぎた。

 

山のほうから、音が来た。

 

低い。ずっと低い。雷ではない。雷なら、来る前に光がある。

 

音は、地面のほうを伝わってきた。足の裏へ先に届いて、それから耳へ来る。

 

言葉の形は、していなかった。

 

「……いまのは」

 

誰かが言った。

 

答えた者はいない。

 

                 ◇

 

雲が、割れた。

 

山のほうから裂けて、裂け目がこちらへ走ってくる。走った下から順に、雨が止んでいった。

 

風の向きが変わる。

 

下から来ていたものが横から来るようになり、それから、ほとんど来なくなった。

 

平原の上が、明るくなった。

 

誰も、その場を動かない。

 

しばらくして、一人が薪のところへ戻った。戻ったのを見て、残りも戻った。

 

                 ◇

 

四度目で、火がついた。

 

つくときは、あっけない。濡れていたものが乾けば、あとは順に燃える。

 

布ごと、端から順に。

 

日が傾くまで、かかっている。

 

三十九枚目が、最後だった。十一のところで並びが切れていて、切れた先が、そのまま燃えていった。

 

                 ◇

 

シグヴァルドは、火の手前に立っていた。

 

立って、空を見ている。

 

雲は、まだ動いていた。動きながら、少しずつ元へ戻ろうとしている。今日のうちに、また降るのだろう。

 

「……良い酒は、残しておかないとな」

 

隣にいたルーデウスが、顔を上げた。

 

「酒。…ですか?」

 

「なんでもない」

 

側近は、それ以上訊かなかった。

 

訊かずに、王の半歩後ろへ戻る。ソリチュードまでは、まだ何日かある。

 

                 ◇

 

同じ日、同じ火が、いくつも上がっていた。

 

布の枚数は、それぞれ違っていた。

 

書かれた名の数と、書かれなかった名の数が、どこでいくつだったのかは、残っていない。

 

煙は、上へ行った。

 

風が、無かったからだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。