風の、通り抜ける音。
静かすぎる灰色の街には、廃墟の高層が林立している。
その一角から爆発音がし、粉塵が舞った。
そこから飛び出てきたのは、少女。
緑色の髪が靡き、頭の上の二つの団子が目立つ。
蝶をモチーフにした飾りをあしらった、青い衣装。
その周囲には緑色の美しい蝶が何羽か舞っている。
「ちっ、しつこいなーーー」
少女は苛立たしげに吐き捨てると、静かな声で唱えた。
「
それと同時に、周囲を舞う蝶に骨のようなものが纏わりついていく。
そしてやがて、心臓に蝶を据える、青緑に燃え盛る骸骨となった。
骸骨の群れは目の前の大将に意識を向ける。
そこにいたのは、いや、群がっていたのは、人の群れ。
正確に言えば、何百もの黒く炭化した焼死体の群れ。
骸骨とほぼ変わらないが、その目は虚だ。
「数には数、こっちもまだまだっ!」
大量の蝶が骸骨へと転じ、焼死体の群れと真っ向からぶつかった。
火花が散り、火の粉が舞う。
焼死体の熾火がこっちの骸骨ーーー「ふぁんでっど」の炎で引火して、大爆発した。
焼死体の群れは大きく数を減らされたが、骸骨には無尽蔵に数がある。
蝶は少女の命ある限り、際限なく生み出され続ける。
「挟み撃ちにしてやる。『
姿を消した亡霊たちは、密かに死体の山の後ろに回り込んでゆく。
そして、やがてその亡霊たちが背後にそろった瞬間。
「『
実体化した亡霊の群れは焼死体に覆い被さって潰し、巨大な爆発を起こした。
焼死体の軍勢は跡形もなく消え去り、少女はフゥッと息をついて亡霊を元に戻した。
緑色の美しい蝶たちは骸を脱ぎ去って、ゆらゆらと燃える人魂のような怪しい光をかすかに放っている。
「…これで終わりなのです」
先程までの雰囲気が嘘のように、少女は鈴を鳴らしたような声を発した。
周囲を漂う蝶は少女の肩に留まったり、頭の上で遊んでいたりと自由だ。
それを愛おしげに見つめた少女は、とてとてと焼死体の残骸に駆け寄った。
「今、るしあが楽にしたげる」
しゃがんで手を合わせて、少女ーーーるしあは祈りを捧げ始めた。
るしあは
そうして彼方へ導かれた死屍は肉体を離れ、魂のみの亡霊となる。
肉体の最期の痛みを繰り返す死屍から解放された亡霊は、痛みも何もない世界で自由を謳歌する。
「『川の対岸』『死屍の夢』『ワタリガラスの言を紡ぐ』『戴き物を今返さん』」
静かに紡がれた言葉に、神秘が宿る。
それは、この世に生まれ落ちた時に戴いた、一番最初の贈り物を返すための儀式。
最後の痛みから、自由の園へと向かうための導きの灯火。
死体の山がぼんやりと輝き、そこから光が天へと昇ってゆく。
そして、光の抜けた死体から炭になるように消えてゆく。
やがて死体は、完全に消え去った。
「ーーー葬送完了、いってらっしゃい」
るしあは空に向かって軽く手を振った。
呪術が終わってから、ぼちぼち更新する予定の小説です。
とりあえずは呪術を頑張りますので、お待ちください。