「なんだァ…。下から一台上がってきたぞ…」
「なんなのかなぁーあの車…」
「ハチロクだぞ…」
ギャラリーはハチロクが上がってきたことに驚くが、ハチロクはレッドサンズに誘導されながらスタートラインで待ち構えるFDの横に並ぼうとする。
「FDの横に並べようとしてるぞォ」
「まさかあのハチロクが秋名の代表だなんてことはねーだろーなァ…」
ハチロクがFDの横に並べて停止すると、中から一人のドライバーが出てきたその瞬間、スピードスターズからは驚きの反応が出る。
「拓海ィ!?」
「な、なんで拓海がハチロクから出てきたんだ…!?」
「やっぱりな。道理でここに来てなかったわけだ」
ハチロクから出てきたのが文太ではなく、まさかの拓海であったことにスピードスターズの面々が驚きを見せるも。光は拓海が乗ってきたことを予想していたからかあまり驚いておらず。
池谷は状況が理解できないまま拓海に質問をする。
「どういうことだ!?親父さんはどうした!?」
「俺…。親父が行けって言うから来たんですけど…」
「親父さんが…?お前に行けって言ったのか?どういうことだそれ…?車だけ来たって親父さんが来てくれなきゃどーしようもねーだろォ」
「どーすんだよ池谷?」
「(あのクソ親父ちょームカつくぜ。行けって言うから言う通りにしてんのに来てみたら俺なんかまるで場違いじゃねーかよ)」
池谷と健二がどうしたらいいか慌てふためく中、拓海も秋名に来てしまったことを後悔し出す。
「拓海…。親父さん…他に何か言ってなかったのか?」
「池谷先輩。俺はただ…、秋名の下りでRX-7に勝ってこいって言われただけだから…。他には何も言われてないですよ…」
「なんだってぇ!?お前が運転するのか!?勝てるのか!?」
「…まぁやってみないとわかんないけど…。前一度やって勝ってるから…」
「(前に一度やって…勝ってるぅ!?)」
拓海からのトンデモ発言に驚く池谷だが、そこにイツキが割って入ってくるや拓海の頭を叩く。
「拓海ィーってめーっ、この大馬鹿野郎!!」
「いてて…イツキー!!」
「お前って奴はどこまでトンマなんだーっ!!激しく遅刻しやがった上にとんでもないとこへノコノコ出てきやがってーっ!!」
イツキは遅れてきた拓海をその場で怒鳴りつけるが、拓海はきょとんとした顔をしながら聞き流す。
「見てるこっちの方が恥ずかしくて顔から火が出そーだぜー。とっとと車どけろー。タイムアタックの邪魔してんじゃねーよー。池谷先輩ホントすんませーん。こいつってとことんボケで何もわかってないんすよー勘弁してやって下さい」
イツキはその場で頭を下げては謝るも、池谷はどうすればいいか困惑する。
「ちょっと待てよーイツキー」
「バーカ、ボーっとしてねーで早く車を別なとこへ移動させろって言ってんのがわかんねーのかっ!!その場所はなー恐れ多くも秋名代表の下りのアタッカーが車を停めるスタートラインなんだぞーっ。イライラするなーいいよ俺が動かしてやるから」
「待てイツキ。ハチロクはそのままにしておけ」
「光…」
イツキがハチロクを動かそうとするが、そこを光が止めに入っては拓海に視線を向ける。
「初めて会った時から只者じゃないと思っていたが、まさか本当に来るとはな。こればかりは俺も驚いたよ…」
「光…。もしかしてお前は、拓海がここへ来ることに気付いてたのか!?」
「気付いたのはついさっきですけどね。豆腐の配達は全て拓海に任せているって以前聞きましたので、ひょっとしたら前に高橋啓介が秋名で遭遇した際ハチロクに乗ってたのは拓海なんじゃないかなと…」
「それじゃあ…。拓海が言ってることは本当なんだな?」
「えぇ。今ここにいる拓海こそ、秋名最速のハチロクで間違いありませんよ」
「え…?それってどういうことだ光…?」
「マジかよ!?拓海が例の豆腐屋のハチロクだとぉ!?」
「嘘でしょ!?まさか拓海君がそんな凄い走り屋だったなんて、あたし信じられないわ…!!」
イツキは未だに理解できておらずボケっとするが、和樹と真菜は光が拓海が秋名最速のハチロク乗りであると言ったことに驚きを見せる。
「やっと飲み込めたぜ…拓海…。下りのアタックはお前に任せた!!」
「な、何言ってんすか池谷先輩。冗談はやめてくださいよ。こんな素人が秋名の下り攻めたらあっという間に事故って死んじまいますよー!!」
「いいからイツキ…。お前の方こそ隅っこで見物しててくれ。さっき光が言ってたろ、拓海は事故ったりしねーよ」
池谷は秋名のダウンヒルを拓海に託すが、イツキは拓海の実力を知らない為反対するも、池谷はイツキを制しながら拓海に言う。
「よく来てくれたな拓海…恩に着るぜ。頼むぞ…」
「拓海、お前の走りには期待してるから、このバトル…絶対に勝てよ」
「けっ、お前がどれだけやれるか知らねぇけど負けたら承知しねえぞ」
「拓海君…頑張ってね。あたしも応援するから…」
池谷に続くよう光達も拓海にエールを送り、拓海は秋名のダウンヒルを任せることになった。
「悪かったな待たせて…」
「待ちくたびれたぜ全くよー」
高橋啓介は拓海を見つめては何かを感じ取ったか、拓海に質問する。
「随分若いな…名前は?」
「藤原拓海」
「覚えとくぜ…俺は高橋啓介」
互いに自己紹介をしていっては車に乗り込み、ギャラリーはハチロクとFDに注目し始める。
「いよいよ始まるぞ。やっぱり秋名の代表はあのハチロクだ…」
「ハチロク対FDだなんて無茶だよなー何考えてんだァ?」
ギャラリーもハチロクとFDでは勝負にすらならないと思ってはいるが、後にそれが大きく覆すことになるとは気付かないでいた。
「それじゃあカウントを始めるぞ。カウント10秒前!!」
史浩がスタートラインの真ん中に立ち、カウントを数え始める。
「いよいよだな…。あのハチロクがどれだけの走りをするかワクワクするな…。って何してるんだお前は!?」
和樹がハチロクとFDのバトルを注視する中、光は後ろに停めてあるインプレッサに乗り込んではエンジンを始動させるのだった。
「何って…今からこいつを走らせようとしてたとこだが…」
「走らせるって、お前、まさか…」
「あぁ、そのまさかだ。今からあの二台の後を追っかけては、その走りを後ろから見るんだよ。俺自身、拓海がどんな走りをするか、この目で確かめたいしな」
光はその場から離れると後ろに停めてあるインプレッサに乗り込んではエンジンを掛けていく。
「あ〜ズルいじゃない光。あたしも拓海君の走り見たいから、助手席に乗せて」
真菜も拓海の走る姿を見たいと言ってはインプレッサのナビシートに座り込み、和樹一人だけがその場で取り残されるのだった。
「ちょっと待てよ光!!俺だって拓海の走りを見たいのに、何置き去りにしようとしてんだよ!?」
「安心しろ。ダウンヒルが見終わったら下で待っといてやるから、後で池谷さん達に頼んでは麓まで送ってもらうことだな」
和樹は自分一人がスタート地点に置き去りにされることに抗議するも、既にカウントは5秒前に達しては、いよいよ秋名のダウンヒルが開始されようする。
「5、4、3、2、1…GO!!」
カウントが切られると同時に史浩が手を振り下ろすと、二台はスタートダッシュを開始し、駆け始める。
「スタートしたぞォ!!」
「いよいよ始まったぞォ…本気の全力走行だァ!!」
交流戦の目玉とも言える秋名のダウンヒルが開始され、ギャラリーは目の前を通るハチロクとFDに注目し、盛り上がりを見せ。
二台がスタートしたと同時に光がインプレッサは二台に続けて発進させると横から出てきては走り出すのだった。
「あれはインプレッサじゃねぇか。一体どういうことだ…。これはスピードスターズとレッドサンズの交流戦なのに、インプレッサは何をするつもりなんだ!?」
インプレッサはギャラリーの歓声を無視しては先を走っていった二台に続けて、秋名のダウンヒルを開始するとハチロクとFDを追いかけ始めるのだった。
「光。本当にあの二台の車の後を追うつもりなの?」
「勿論。拓海がどれ程の腕を持ってるか気になるし、直接見た方がハッキリとするからな」
インプレッサが交流戦とは無関係に飛び出していったことに両チームは予想外な顔をするも、レッドサンズのリーダーの高橋涼介はそれを近くで見ていっては笑みを浮かべる。
「ふっ、面白い…。俺達の地元である赤城で啓介を破ったその走り。後で啓介から聞かせてもらおうじゃないか…」
先行はFDが突っ走っては秋名を下っていき、ハチロクがそれに続けては後を追い。その後ろをインプレッサが続く。
「はっえぇーっ!!バカッ速っ!!高橋啓介のFD、350馬力は伊達じゃねぇ。しかも絶妙のクラッチミート上手すぎる」
「勝負になんねー。ハチロクのフル加速なんてまるで止まってるようにしか見えねーよォ!!」
「第一コーナー突っ込みまでもうあんなデカい差になってる!!」
「FDなんてはっきり言って国内最強のコーナリングマシンだもんな」
「コーナー入ったら差はますます開く一方だろ!!」
FDの圧倒的な加速にギャラリーは圧倒され、後方を走るハチロクとは差が開いていた。
「(ストレートでちぎるのは不本意だがこれはタイムアタックだからな…。遠慮はしねぇーぜ二度とバックミラーに映ることはねぇ!!)」
FDを駆る啓介は自信満々に言うも、拓海はボーッとした顔をしながら慣れた手捌きでヒール&トウからのシフトダウンで車を減速させると、車体をガードレール擦れ擦れに寄せつけながらコーナーを曲がり切る。
「す、凄いわ…。ガードレールから僅か数センチしか離れてなかったのに曲がり切ったわ…」
「あそこまでのコーナリングは俺でもそう簡単にできんな。どうやらこの勝負、思いの外かなりの接戦になるかもしれないな」
ハチロクのコーナリングを後ろから見た真菜は、拓海の超絶なテクニックに度肝を抜かれるも、光は拓海の走りを冷静に見ながら拓海達の後を追い続ける。
「(差が詰まってる…!?奴の車が近づいてるぅ!?)」
バックミラー越しに後ろを見る啓介も差が開くどころか逆に詰まっていることに驚くが、ハチロクはそのまま後ろからFDのテールに食らいつく。
「(ハチロクが近づいてる…!?そんな筈はない、気の所為だ…!?)」
そう思う啓介だが、実際に後方から来るハチロクは、FDの後ろに来ており。その差はますます縮まっていく一方であった。
「そんなバカなことが…、あるわけがないぜ!!」
啓介はさらに負けじとアクセルをベタ踏みして進んでいくも、ハチロクはFDに離されまいと後を追い続け。ハチロクが後ろからFDのリアに急接近していく姿を見た光は、このバトルはかなりの接戦になるのではないかと予想する。
「どうやら…これは思いの外、いい勝負になると見ていいかもしれないな…」
「そ、それもそうだけど…。どうして拓海君はこんな狭い峠の中で車をあそこまで完璧に走らせることできるのよ…?」
「おそらく拓海は免許を取る前からここを走り込んでるに違いないよ。そうじゃなきゃ、ガードレール擦れ擦れのコーナリングをするなんて真似はできないしな…」
「えぇ!?じゃあ拓海君は無免許運転してここを走ってきたというの…!?」
「確かにそうなんだが…。俺としてはあそこまで走らせていながら、今までバレなかったのが奇跡だと思いたいぐらいだ…」
拓海が無免許運転をしていたのではないかという話に、真菜は絶句するも、光はそんな真菜を他所に二台の後を追い続けていくのだった。
「えぇ〜〜っ!?本当ですかァー池谷先輩!?拓海ん家の親父が昔そんな凄い走り屋だったなんて…」
三台の車が秋名の下りを攻めているその頃、スタート地点である頂上では、池谷が拓海の父親について和樹とスピードスターズのメンバーに話し、それを聞いたイツキは絶叫するのだった。
「俺何度か見たことあるけど…。ただのぶっきらぼうな豆腐屋の親父って感じですよー」
「人は見かけだけじゃ分からねぇってことだイツキ。まさか、拓海の親父さんがそんな凄い人だったとはな」
「前から噂だけはうちのスタンドの店長に聞いたんだけど…。今でも下りだけなら秋名最速だって自信たっぷりなんだよなー」
「とりあえず、そんな凄い方がわざわざ拓海を代理として送り出したんだし、勝負の結果を待ちましょうぜ…」
「そうだな。それに高橋啓介は光に続いて拓海に一度負けてるらしいからな…」
「えええーっ。350馬力のFD3Sが拓海に負けてるぅ〜〜っ!?信じられないっすよー俺。あのボケた拓海がァあの高橋啓介を負かすなんて…。だってあいつ…。ハチロクさえ知らなかったんですよー」
「ほほぉ…これはいい事を聞いたな。あの高橋啓介がFDに乗っていながらハチロクに負けるなんざ、群馬の走り屋切っての恥晒しの他ないからな」
イツキ達が拓海が勝つことを祈る中で、和樹は啓介がハチロクに負け恥を晒すことに期待を寄せるが。
レッドサンズ側ではスタート地点である秋名の頂上にて、涼介はハチロクとインプレッサの走りを分析する。
「(スタートダッシュを見る限り精々よくて150馬力…。啓介が言うようなモンスターとは程遠いぜあのハチロクは…。インプレッサの方も横からのスタートダッシュとエンジン音からして馬力はおそらく280馬力ってところだな)」
涼介はスタートダッシュ時の加速とエンジン音の響き方からハチロクとインプレッサの馬力を推測し、そこから更にニ台の車を分析していく。
「(ハチロクのシフトのポイントが高いのはラリー用のクロスミッションを組んでいるからだ…。あれなら秋名のタイトなヘアピンに2速ギアがピッタリ合うだろうな…。インプレッサはノーマルのままだがあれはドライバーが瞬時にギアを変えたからこそあれだけの走りが可能になった…)」
「(だからといって啓介のFDが負ける理由は見つからない…。そんなことがあるとすればあのハチロクとインプレッサのドライバーは俺の領域を遥かに超えたところにいるということか…。モンスターなのは車じゃなく…ドライバー…)」
涼介は車ではなくドライバーに秘密があるのではないかと推測し、それが当たっていることを後から知るのだった。
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