以前書いた作品を書き直し、投稿してみましたが。可能な限り続け行きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
199X年 群馬県
静まり返った夜の赤城山。
闇を切り裂くように、複数のエキゾーストが峠に響き渡っていた。
ここ赤城をホームとする走り屋チーム。『赤城レッドサンズ』は、県内でも名の知れた存在で。
そのリーダー格である高橋兄弟は、『ロータリーの高橋兄弟』と呼ばれ、プロからも注目される程の実力者だ。
「ふっ。本気で飛ばすと俺の走りについてこれねーのかよ。あいつらもまだまだだな…。性がねぇ、アクセルを緩めて待つとするか」
赤城を駆けているレッドサンズのNo.2の高橋啓介は、自慢の愛車である黄色いRX-7(FD3S)を操り、メンバーの特訓に付き合っていたが。自分の走りについてこれないメンバーに焦らしたか、アクセルを緩め、バックミラーを確認した瞬間、後方から信じられないスピードで迫ってくる一台の車影がいた。
「ん?なんだ…うちのチームの車じゃ、ねえみてえだな…」
ヘッドライトの光り方と走り方から、レッドサンズのメンバーでないことはすぐにわかり。再び目を凝らしながら見ていくと、その車は青いボディーを主体とした一台であった。
「インプレッサだと!?なんでそんなもんが、
啓介は、後方から迫りくる車がインプレッサだとわかるや、走り屋としての本能が疼いたか、獰猛な笑みを浮かべ、インプレッサに挑もうとする。
「上等だ!!地元で俺を相手にするとどうなるか教えてやる!!」
アクセルを踏み込み、猛然と加速し始めたFDはインプレッサを振り切ろうとするが。
インプレッサはFDに負けじとし、あっという間にFDの後ろに張り付き。啓介は苛立ちを隠せずにアクセルを更に踏み込む。
コーナーに入る直前でリアを振り出しながらドリフトで抜け出すも、インプレッサはラインをトレースして離れないでいた。
「くそっ…振り切れねぇ!!なんなんだあの走りは!?今まで赤城にこんな奴がいたなんざ、聞いたことねぇぞ…!?」
後ろから追ってくるインプレッサは、FDを抜こうと外側からオーバーテイクを仕掛けるが、啓介は抜かれまいと外側に車を寄せ、ブロックする。
「舐めるな!!こっちは地元の意地がかかってるんだ…こんな所で抜かせるわけには行かねえんだよ!!」
だが、こうなることをわかりきっていたか、インプレッサはFDが外側に寄った瞬時にラインを切り替え、イン側へ滑り込んだ。
「なっ…!?この俺が…得意とする地元で、フェイントを掛けられただと…」
インを刺したインプレッサは一気に加速して。
FDを鮮やかに抜き去っていくと、赤城の闇の峠へと距離を広げながら走り去っていく。
目前から消えていくインプレッサのテールランプを見送った啓介は、路肩で車を止め。数分後には遅れてきたレッドサンズのメンバーが、追いつくと啓介に詰め寄る。
「啓介さん…今のは…」
「あぁ…。俺のFDを相手に、地元であそこまで行かれたら完敗だ。あのインプレッサ…今度あった時には全力で叩き潰してやる…!!」
ホームコースである赤城で完敗を喫したのが余っ程悔しかったか、啓介はインプレッサにリベンジを果たすと誓うのであった。
高崎市 某高校 屋上
暑い日差しが照りつける屋上で、手摺に手を置いて遠くを眺める男子高校生がいた。
矢島光 18歳
一見、ごく普通の高校生である彼は、幼少期をイギリスに住ごし、昨年日本に帰国して高崎にある高校に転入したばかりである。
外国暮らしが長かったせいか、周囲に馴染めず一人でいる機会が多いのだ。
だが、そんな光にも友達と呼ぶ人はいる。
「よぉ光。今夜どっか走りに行かねぇか?」
「和樹か…。いきなりドライブに行こうなんて、何言い出して…」
屋上で佇んでいた光に話しかけてきたのは、同じクラスメイトである少年で、名前を篠塚和樹という。
茶髪を少しツンツンにさせた陽気な少年で、光とはカートをしていた頃からの知り合いである彼は、栃木から群馬に引っ越してきた和樹は、光が帰国して群馬の高校に編入したタイミングで再会し、今に至るというわけだ。
「だってさ、俺達つい最近免許取ったばっかだろ?これを機に、車でどっか走りに行こうぜ」
「そうは言うけどな…和樹。俺達はまだ高校生だぞ。車なんてもんを買うお金がどこにあるんだよ?」
「ふっふっふ。そこは心配無用だ。実は俺の親父が車を持っててな。親父から借りて、峠に行くんだよ」
「はぁ?お前の親父の車でか…?大丈夫なのか?」
「心配ご無用…うちの親父はそういったことにはラフだからすぐ貸してくれるんだぜ。それでな、親父が乗ってる車なんだけど。なんと俺の大好きなランエボなんだぜ!!」
「ランエボか…。どうせ、速いだけの車なんだろ」
「な!? お前、ランエボを馬鹿にするんじゃねえよ!!ランエボは三菱が世界に誇る車なんだぞ!!」
「それを言うなら、スバルのインプレッサだって同じだろ。スバリストの間では乗り味が楽しいって、かなりの評判だぞ」
「ぐぬぬぬ、この野郎…!!インプレッサの話をするとはいい度胸じゃねぇか!!」
「お前、インプレッサって言葉が出るだけですぐキレるよな…」
光がインプレッサという言葉を口にすると、和樹は顔を真っ赤にしながら怒りを見せる。
インプレッサとランエボは共にWRC(世界ラリー選手権)で活躍したライバル同士であったため。
光はインプレッサが好きなのに対し、和樹はランエボが好きな為、車の話題になるとこうして喧嘩をするのがお約束となっている
「ちょっと二人共。何昼間っから喧嘩してるの?」
「ん?真菜か…」
「なんだとは失礼ね。二人がまた喧嘩しそうだったから止めに入ってきたのに、その態度はいただけないわよ」
二人の間に入ってきたのは、光達と同じクラスに所属する中津真菜だ。
黒髪のセミロングが軽く揺れて、明るい笑顔をみせる女子生徒で、光とはイギリスに行く前からの幼馴染みでもある。
「あのさ、真菜。いきなり質問するけどさ。お前はインプレッサとランエボの二つの内、どっちを選ぶんだ?」
「インプレッサ?ランエボ?…何それ?」
「車だよく・る・ま。真菜はどっちが好きなわけ?」
「ごめんね和樹、あたし、車そんなに詳しくないから全然わからないわ」
「ガァーン」
和樹はその場で膝をつき、軽く打ちひしがれた。
真菜の父親は自動車販売店の社長でありながらも、彼女自身、車に関しては全くの無知であった。
「くそー…俺の周りで車について語れるのは、お前だけしかいねぇってのかよ…」
「仕方ないだろ。真菜はそういう奴なんだから、言ったて答えられるわけないだろうが」
「ねぇ光、それってどういう意味?」
「あ、いや。別になんでもない…はははっ」
キーンコーンカーンコーン
丁度その時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「お、チャイムが鳴ったし、教室に戻るとするか」
「ちょっと光!さっきの話、ちゃんと聞かせなさいよ!」
「くそっ。他に車好きはいねぇのかよ、畜生!」
光は適当にはぐらかすと、昼休み終了のチャイムが鳴り響き。三人は屋上を後にして自分達の教室に戻るのだった。
高崎市の某住宅街
「ただいま…って、俺以外にここに住んでる奴はいないか」
イギリスから帰国して半年。両親が群馬県出身だったため。光はここで一人暮らしをしている。
小学校に上がる頃には既に自立していた光にとって、一人暮らしは苦ではなかった。
親からの仕送りは届くが、親の脛をかじるワケにはいかないと感じていた光は、高校に編入すると同時にバイトを始めていた。
「……」
一人暮らしが長いせいか、寂しさを感じたことは微塵もなく。
ただ、日本に戻ってきてからは、居心地の悪さが少しずつ募っている気がする。
日本ではイギリスにいた頃より、他者との協調性が重要視され。変に目立ったり浮いたりしたら最後、はみ出し者にされるのは勿論のこと、周りから拒絶され、他者との関わりが断絶されることも珍しくないからだ。
ピピピピッ!
突然、机の上の携帯が鳴り響き。光は軽く舌打ちしながら手を伸ばし通話ボタンを押す。
『あ、もしもし光。あたしよあたし』
「…なんだ、お前か」
電話の相手は中津真菜だった。
『なんだって何よ! 相変わらず失礼なんだから』
「それより、なんで俺の携帯番号を知ってんだ。俺はお前に一度も教えたことがないんだが……」
『あ〜、実はね。さっき和樹から教えてもらったの。光にたっぷり説教してやりたいって言ったら、すぐに教えてくれたんだよね♪』
「…そうか。あのバカが。(あの野郎、簡単に人の電話番号を教えてしまうんだよ。余計なことを!!)」
『ちょっと光。今、何か余計なこと考えてたでしょ、?』
「いや、別に考えてないよ」
『本当のホントに?』
「本当のホントにだ。どこまで信頼されてないんだよ」
『当然でしょ。こんなか弱い女の子を一人で放って帰るなんて、酷すぎるわよ』
「普通、自分でか弱い女なんて言う奴はいないと思うがな…」
光が真菜の発言に呆れるも、真菜の明るい声が、受話器越しに弾む。
『とにかく、あたしが電話したのは説教じゃなくて、和樹から伝言を預かったからなの。今夜、和樹が秋名山を走るみたいだから、光も一緒に来ないかって』
「ああ、昼に言ってたやつか…」
秋名山。
群馬では赤城、妙義と並ぶ上毛三山の一つで。
この時期の夜は走り屋が夜遅くに集まっては峠を攻め込むので有名だった。
「別に構わないよ。ただ、秋名山に向かうからには車が当然必要だな」
『そりゃあ当たり前でしょ。群馬は東京や神奈川と違って、車がないとどこにもいけないんだから』
群馬は日本有数の車社会だ。その為、高校生にとって、車はただの移動手段ではなく、日常そのものであった。
「わかった。今から真菜の家に行くから、親父さんに車を用意しておくよう頼んどいてくれ。和樹には俺から連絡しておくよ」
『了解。じゃあ光、うちに来たらちゃんとあたしの相手してよね♪』
プツン
ツー、ツー、ツー
一方的に電話を切られた光は、呆れたように携帯を眺めた。
「一方的に切りやがったな真菜の奴。まぁいいや、今夜の秋名山。楽しみにしておくか」
光は小さく息を吐き、窓の外に広がる夜の住宅街を見つめた。
今日の昼間、屋上で交わした軽い喧嘩の余韻が、まだ胸の奥に残っていた。
中津モータース
高崎にある自動車販売店『中津モータース』は、真菜の父親が経営する店で、車好きの間では名の知れた店だ。
「こんばんは、中津社長」
「いらっしゃい光君」
光に気さくに話しかけているのは、真菜の父親である中津社長だった。
『中津モータース』を経営している彼は、普段は穏やかで紳士的な印象だが、昔は赤城山で名の知れた走り屋の一人だったという。
プロの世界では鬼と呼ばれる程厳しい指導で有名であり、業界内でも一目置かれる存在だ。
光も幼い頃に、中津からカートの指導を受け、厳しくも的確な指導が光の基礎を作り上げ。今の走り屋としての実力に繋がっていると過言でもなかった。
光は緊張した面持ちで、恩師である中津に話を切り出す。
「社長…。実は今夜、和樹と一緒に秋名山に行くことになりまして…車を貸していただけませんか…?」
「ああ、その話なら真菜から聞いてるよ。和樹君と一緒に秋名山へ遊びに行くんだね」
「はい、それで、車の方は…」
「うん。丁度空いてるヤツがあるからそれを持っていきなさい。」
「ありがとうございます」
中津社長は穏やかに微笑みながら、光を隣の整備工場へと案内し。
ガレージの奥には、一台の車が鎮座されている。
「今日はこれを使いなさい。メンテナンスは既に済ましてあるから大丈夫だよ」
「これって、前に赤城に走りに行く時にお借りした…」
「そう。GC8 インプレッサ WRX typeRA STI versionⅤ。スバルがWRCで走らせ、その名を世界に知らしめた車だ」
中津社長が貸してくれるのはラリーでも活躍したスバルが誇る名車。スバル・インプレッサ(GC8)であった。
青を基調としたボディに、リアウイングを付け、鋭い目付きをするインプレッサは、如何にも速そうな雰囲気を漂わせ。
それを目にした光は、嬉しそうにする。
「光君も、そんな歳になってたのか。月日が経つのは早いね…」
「中津社長、もの思いに老けているところ申し訳ありませんが、本当にこの車を峠で走らせてもいいんですか?場合によっては、こいつがダメになるかもしれないんですよ」
「別に構わないよ。君の腕はカートをやってた頃からこの目で見てるから、心配に及ばないよ。今夜は存分に楽しんできなさい」
「じゃあお言葉に甘えて、車お借りします…。ところで、真菜はどうしてますか?あいつも今夜、一緒に行くと言ってたんですけど」
「ああ、真菜なら、さっき風呂から上がったばかりだから。今頃出かける準備でもしてるんじゃないか」
ガララッ
「パパ〜。ドライヤーはどこにあったか知らない?」
その言葉と同時に、店の奥の扉が開くと、真菜が髪を少し湿らせたまま、首にタオルをかけ、ハーフパンツにキャミソールという、年頃の女の子の割にラフすぎる格好で出てきたのだ。そんな恥じらいを感じさせない真菜を見た光は顔を赤らめながら視線を逸らす。
「ん?あ、光。ちょっと待っててね。今準備するから」
「真菜、俺がいるとわかっていながら、なんで平然としてるんだよ…」
「え…なんでって、ここはあたしの家でしょ。だからあたしがどんな格好をしても、いいじゃない」
「光君、うちの娘がすまないねぇ」
光が慌てるや社長はため息をつく。
小さい頃から父親と兄しかいない男所帯の中で過ごしてきたからか、目の前に異性がいても全然気にしない性格になった。
「…とりあえず、俺は外で車にエンジンかけて待ってるから、さっさと着替えて来ることだ」
光がそう言い残すと、整備工場から出ていくが。独りでに出ていった光を見た真菜は顔を膨らませる。
「何よ、あたしを無視して…本当に失礼なんだから」
「真菜。君は光君に物を言う前に、少しくらい女性としての恥じらいを持ったらどうだ」
自分を置き去りにしていく光に文句を言う真菜であったが、父親である中津は娘のラフな格好にため息をつくしかなかったのだった。
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