今、秋名の峠でレッドサンズとスピードスターズが交流という名のガチンコ勝負をするも、レッドサンズはスピードスターズを圧倒して実力の差を見せつけるのだった。
「どう思う兄貴?」
「カス揃いだ!!」
秋名の山頂付近から両チームの走りを眺めているのは赤城レッドサンズのリーダー格である高橋兄弟の二人で、弟の啓介がスピードスターズの腕を聞くと、兄の涼介がレベルが低過ぎると断言する。
「うちのチームの2軍でも楽に勝てる…来週はベストメンバーで来ることはねぇな。俺はパスだ」
「兄貴来ねぇなら俺もパスすっか…」
「いや…お前は走れ」
「なんで?」
「とりあえず地元の奴らが何年かかっても破れねぇくらいのコースレコードを作っとかねぇとな。赤城レッドサンズと高橋兄弟の名前が伝説にならないからな…。手始めに県内の走りのスポットのコースレコードを全部俺達2人で塗り変える。いずれは埼玉・神奈川・東京・千葉を総ナメにして…。関東全域にレコードを残す伝説の走り屋になってから引退する…それが赤城レッドサンズの関東最速プロジェクトだ!!」
そう言って大きな目標を掲げる涼介だが、現在レッドサンズが走っている秋名で、スピードスターズはおろか、レッドサンズの一軍のメンバーを出し抜く二台の車がいることに、高橋兄弟は気付いていなかった。
秋名山
「ひゃっほー。これで7台目だ!!」
「甘いな和樹。俺はとっくに8台に達してるぜ!!」
先程レッドサンズのメンバーから一緒に走らないかと誘われた光と和樹は、それぞれがインプとランエボを走らせ。スピードスターズとレッドサンズの車を尽く抜いていく。
「な、なんなんだあいつら…!?めちゃくちゃ速ぇぞ!?」
「うわ、危ねぇっ。なんて恐ろしい運転しやがるんだ!!」
「くそっ、パワーが違い過ぎるからか、全然追い付きそうにねぇ…!!」
レッドサンズのメンバーは二台を追いかけようとするも、車の性能は元よりドライバーとしての実力がケタ違いであった。
和樹はカート仕込みによるドラテクを、光はイギリスで培った
「お、あれが先頭を走ってるヤツか。よぉーし見てろよレッドサンズ!!」
光の後ろを走っていた和樹はランエボのギアを4速に上げ、アクセルを踏み込み。光を追い越して前に突き進もうとする。だが、対向車が来ることに気付いた光がハザードを点灯させ合図を送るも、和樹はそれに気付かず前を走る光のインプレッサを追い越してしまう。
「あのバカ、対向車が来ることを伝えたのに、無視しやがった!!」
そう。事前に伝えていたものの、和樹は光を抜きたいという思いが強いあまり、光からの合図を確認もせず、前に出てしまったのだ。
「光の奴、何アクセルを緩めやがったんだ?まさかもうギブアップでもしたのか…ん?」
光が音を上げたと勘違いする和樹だが、前から照らされるヘッドライトの明かりに気付いて前を見たその瞬間、目の前には対向車が来ていた。
「ヤバっ、対向車だ!!」
対向車が来ることにようやく気付いか、和樹はランエボを即座に左車線に寄せてギリギリ躱し。衝突を回避させた。
「危ねぇ…対向車が来る際、勝負を中断しろって言ってたのを忘れてたぜ。あぁ〜ヒヤヒヤした」
何とかぶつからずにすんだものの、一歩間違えれば衝突事故に鳴りかねないことを和樹はやってしまい。
光は頭に手を当てながら肝を冷やす。
「はぁ…今のはガチで心臓に悪かったぞ…。さて、対向車は来そうにないみたいだし、バトルを再開するといくか」
光はハザードを解くと、アクセルをベタ踏みし、全力走行をして車を和樹のランエボと並ばせる。
「お、俺の横に並べてきたか。よっしゃあ、どっちが先に前を走ってる車を抜かすか一発勝負と行こうじゃんか!!」
「やれやれ。さっきは事故りかけたのにまだやる気なのかよ…。まぁいいや。今は走りに集中するといくか!!」
そうやって互いに車を突っ込ませ、先頭を走るレッドサンズのロードスターは光達を振り切ろうとするも、二台はいとも簡単にロードスターを抜いていくと、ゴール地点である麓へと突き進んでは先へと行ってしまい。
二台に呆気なく抜かれてしまったロードスターは、遥か彼方へと先を進む二台を見送るしかなかった。
「な、何なんだあいつらは…。俺達を相手にここまでやるなんて、うちの涼介や啓介に匹敵しかねないぞ…」
ロードスターを運転していた史浩は自分が誘った相手がここまでやれると知らずに誘ってしまったことをその場で後悔するも、車を近くに停めてハザードを点灯させ、頂上付近にて自分達の走りを見てるであろう涼介に連絡を取り始める。
「とりあえずこの事は涼介に報告しないと。あの二人がもし秋名の代表になるならば俺達にとってかなりの障害に鳴りかねんからな…」
秋名山
「…そうか。わかった」
ピッ
「兄貴、何かあったのか?」
史浩から連絡を受けた涼介は、その内容について啓介に教えるのである。
「先頭を走っていた史浩からの連絡によると、うちの一軍を全て抜いていった車が二台いたそうだ」
「なんだと?そいつらが乗ってる車種はわかるか」
「ああ、史浩が言うに、自分達を抜いたのはランエボとインプレッサだとのことだ。いくらあいつらの腕があるといえど、その二台が相手じゃあ…敵わないのも頷けからな」
「インプレッサだと!?」
涼介の口からインプレッサという言葉を耳にした啓介は、そいつがもしや、自分を負かしたあの車ではないかと確信したか、すぐさまFDに乗り込もうとする。
「どうした啓介?何か引っ掛かるところでもあったのか?」
「間違いねぇ。うちの一軍を抜いていったところからして、そのインプレッサはあの時と同じ奴と見て間違いなさそうだ…!!兄貴、そのインプレッサはどこに向かったかわかるか?」
「史浩からの連絡によれば今、秋名の麓についた後、もう一度頂上に向かってるとのことだ」
「そうかい。向こうからこっちに来てくれるとはありがたい話だぜ!!」
ダッ
「おい待て啓介!!一体どうしたと言うんだ!?」
ブォォォン
「啓介…」
啓介は涼介の静止を振り切ってエンジンを掛けると、スタート地点である旧料金所跡へと向かっていってしまい。涼介は勝手に突っ走って行った啓介を見送るしかなかったのであった。
秋名山 旧料金所跡
「あんた達〜よくもあたしを置いていってくれたわね?」
真菜はスタート地点に戻ってきた二人をその場で正座させると、その場で説教を開始する。
「全然気付きませんでした」
「夢中になるあまり貴方様の存在を忘れてました」
二人はどう言い訳をしようか考えるも、目の前に立っている真菜の後ろには不動明王が立っているかの様な幻覚が見えたか、内心めちゃくちゃ怒っていると感づき、即座に謝るのだった。
「本当に最低よね。こんな弱い女の子を置き去りにした挙げ句、二人だけ峠を楽しむなんて、あんまりじゃなくて」
「だってさ、光」
「俺からしたら、真菜が他の男に襲われる心配はないと俺は思うんだが…」
「ちょっとぉ!!それってどういう意味!?あたしはそんなに魅力がないってこと!?本当に失礼ね!!」
「あ、いや。お前なら他の男に目を付けられる筈がないから、大丈夫だって言いたかっただけで…」
「どっちみち意味が一緒じゃないのよ!!あたしがどんな思いで待ってたのか、少しは考えてよね!!」
「「す、すみませんでした…」」
二人はすぐさま土下座して、真菜に許しを乞うと必死に額を地面に付けるが、真菜の表情は怒りに満ちていたのだった。
「あのさぁ、二人はここまで謝ってるんだし、それくらいで許して上げたらどうかな…?」
「駄目よ拓海君。このバカ達はこれくらいじゃ全然懲りないんだから」
真菜の近くにいたのは、光達と同年代であろう一人の男で。男は真菜の傍に近づいて光達を許すよう話していくが、真菜は口を膨らませる。
「な、なぁ真菜。そこにいる男は誰なんだ?まさかお前の彼氏なんかじゃないよな」
「そんなわけないでしょ!!彼は藤原拓海君っていって、スピードスターズの人達と一緒にここに来ただけで、あたしが待っている間お話しをしただけよ」
「そうだったか。悪いな藤原、そこのじゃじゃ馬娘が世話になって」
「ひ・か・る〜。誰がじゃじゃ馬ですって〜?」
「すみません。言い過ぎました」
再び頭を地面に擦り付ける光だが、真菜は完全に許さないでいた。
「そうだぞぉ。こんな可愛い女の子を置き去りにするなんざ、男として最低じゃないか」
拓海の横にいたもう一人の同年代らしき男が土下座する光達に言い寄り、注意するが。光はもう一人の男を見て質問をする。
「ところで、君は?」
「俺か?俺は武内樹っていって。拓海と一緒に秋名に来たんだ」
「そうか。よろしくな武内」
「イツキで構わないよ。俺達は同年代だから、別に名前で呼んでくれても構わないぜ」
「そうか、じゃあ改めてよろしくな、イツキ」
「こちらこそ、よろしく頼むぜ光」
そうして光達5人はその場で仲良くなるや、他の走り屋のメンバーが戻ってくるまでの間、話をするのだった。
「そっか。拓海君達は立花さんが経営しているスタンドでバイトしてるんだね」
「そうなんだよ。俺と拓海は必死にバイトしてハチロクを買おうと頑張っているんだ」
「ハチロク?何なのそれ?」
「知らねえのか。ハチロクっていうのはAE86という型式の車のことで、トレノとレビンの2種類あって俺はその内の一つであるレビンが好きなんだ」
イツキが言うハチロクとはトヨタが83年に販売したAE86という型式でスプリンタートレノとカローラレビンという名前で販売していた車だ。この2台の違いはフロントマスクも異なっては標準のヘッドライトを付けているのがレビンで、リトラクタブル・ヘッドライトを装備しているのがトレノだ。
今でこそハチロクは旧車のような扱いを受けているものの、昔は数多くの走り屋が乗って峠を走り回り腕を上げていたのだ。
「ふぅ〜ん…。ねぇ光、その車ってあたし達が乗ってきた車と比較したらどう違うの?」
「そんなもん。ハチロクをインプやランエボと比べたら、月とすっぽんに決まってるだろ」
「だな。俺達が乗ってる4WDのハイパワーターボ車とNAのハチロクじゃあ、比べる以前に相手にすらならねぇよ」
「ぐふっ!!」
イツキはハチロクが大した車ではないと言われたのがかなり効いたのか、その場で腰を崩し打ちひしがれる。
「そんな…。そこまで言う必要ねえじゃんかよォ…。それじゃあまるっきり、ハチロクに憧れてる俺がバカみてぇじゃんか…」
「す、すまんイツキ。少し言い過ぎてしまった」
「悪いな。下手に贔屓せず思ったことをそのまま言ってしまった方がいいと俺は思ったんだ」
「グスッ…。だからって今の発言はあんましだよォ…」
「なぁ二人共。車の話に夢中になってるところ水を差すようで悪いけど、走るのってそんなに面白いモンなんか?」
落ち込んでいるイツキを他所に、拓海が車を走らせるのが、どれ程楽しいのか二人に聞くと。光と和樹はそれぞれが話すのである。
「そりゃあ…峠を攻めるってのはめちゃくちゃ面白いに決まってるだろ!!何せ自分だけの世界に入り浸れて、思いっきり飛ばせるしな!!」
「そうだな。拓海には理解できないかもしれないが、車を走らせるのは、ただ単に走らせるだけに空きたらず。そこでしか味わえない楽しさって奴が一杯詰まっているんだ」
「そうか。楽しさ……か」
「ん?何か引っ掛かるところでもあったか?」
「いや、なんでもないよ。ほら、イツキ…。向こうで池谷先輩達が集まってるみたいだし、俺達もそろそろ戻らないと」
「そうだな。じゃあな光、また今度ここで会おうぜ」
「あぁ、またな二人共」
拓海達と別れるや光達もそろそろ帰ろうかと車に戻ると、麓の方から激しいエンジンを響かせ、走ってくる車が近づいてくるのに気付く。
「何か…物凄い音が聞こえてくるんだけど、何なのかしら?」
「この音はロータリーエンジンみたいだな。ひょっとしてRX-7か…」
「おい、見ろよ。FDがこっちに向かってくるぞ!」
和樹が指差した方向を見ていくと、自分達の元へ近づいてくる1台の車。マツダ RX-7(FD3S)が光達の前で急停止し、停まるのだった。
「うわぁ、見た目からして派手な車ねぇ。これって何なのかわかる光?」
「マツダのRX-7だ。マツダが独自に開発したロータリーエンジンを搭載していて、1500cc以下の排気量でありながら物凄いスピードを出すマツダのピュアスポーツカーだ。その分燃費はとてつもなく悪いんだが」
「しかもこいつは、現行型のFDだから中に乗ってるのは弟の高橋啓介に違いねぇぞ」
和樹の言う通り、FDから出てきたのは端正な顔付きをして髪を金髪に染め上げ、ワイルドな雰囲気を出している一人の男。高橋啓介である。
「やっと見つけたぞ。間違いねぇ、この色に下品なウイング。あの時走ってたのと同じインプレッサだ…」
啓介はインプレッサを見るや直ぐ側にいる光達に声を掛ける。
「なぁお前ら、そこに停まっているインプレッサの持ち主が誰なのか知らねぇか?」
「あ、そのインプレッサですか?そいつは…」
「そのインプレッサはあたしのパパの車ですよ」
「はぁ?お前の父親の車だぁ?」
「はい。今夜秋名を走るためにあたしのパパがここにいる光って子に貸したんです。因みにここに来るまでの運転は全て光がしてましたよ」
真菜が光に変わって啓介に説明をするも、その話を聞いた啓介はため息をつく。
「そうか、俺の思い違いだったか。前に俺達の地元である赤城で、俺のFDをぶち抜いたインプレッサがいたんだが、まさかお前みたいなガキが乗ってたわけじゃないよな?」
「え?」
「な、何だとぉ!?高橋啓介が赤城で抜かれただとぉ!?」
「おい、和樹。声がデカいぞ…」
和樹の声がかなり響いたか、すぐ近くにいたスピードスターズのメンバー達がそれを聞いてすぐさまヒソヒソ話をする。
『なぁ、聞いたか!?あの高橋啓介が赤城で抜かれたんだと!?』
『マジかよ!?赤城山っていったら、レッドサンズのホームコースだろ!?』
『あいつらの地元で抜かすってことはひょっとしたらそいつめちゃくちゃヤバいんじゃねぇか!?』
スピードスターズが話している一方で、啓介はその場で話を続ける。
「あいつら…勝手に騒ぎやがって、まぁいい。とりあえず、俺はもう少しだけここを走り込むから今の話は忘れといてくれ」
そう言った啓介はFDに乗り込むと、激しいエキゾーストを吹かしながら、秋名を駆け下りていくのだった。
「ね、ねぇ…さっき、あの啓介さんって人が言ってたことは本当なの?」
「あのインプレッサって真菜の親火から借りたって言ってたけど、ひょっとしてお前。あれに乗って赤城を走ってたのか!?」
二人に詰め寄られた光は為す術がなかったか。こう答える。
「その話なんだけどな。実は…」
「「実は?」」
「…前にあの車で赤城を走ったことがあって、その時にあのFDをぶっちぎっちゃったんだ」
「「…え?」」
「「えぇぇぇぇぇっ!?」」
二人は光が高橋啓介を赤城で負かした話に驚いたか、二人揃って絶叫するのだった。
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