「光。さっきの黄色い車を抜いたって話本当なの!?冗談じゃないよね!?」
「お前マジで言ってるのか!?高橋啓介っていったらレッドサンズ内じゃNo.2と言われる程の腕前で。そんな奴を相手に赤城山で抜くなんざ、どう考えたってヤバいことなんだぞ!!」
「い、いや本当なんだけどなぁ…。あははは」
真菜と和樹から激しく詰め寄られるやどう返したらいいか困惑する光だが、そこに一人の男性が光達の元に来ては声を掛ける。
「お、おい…そこの君、さっきの話詳しく聞かせてくれないか!?」
「えっと、あなたは…?」
「俺はスピードスターズのリーダーを務めてる池谷っていってな。さっきまで君達と話をしていた拓海とイツキの先輩みたいなもんなんだ…」
「そうでしたか。で、話というのは…」
「ああ、そうだった。恥ずかしい話だが、君があの高橋啓介を赤城で抜いたって話を聞かせてもらってな。それでもし君が良かったらの話なんだが今度の交流戦で俺達スピードスターズの代表として出てくれないか?」
「それって、俺がスピードスターズの代わりにレッドサンズを相手にしろってことですね」
「あぁ、そうだ。どうだ引き受けてくれるか?」
池谷が必死に頭を下げ、光にお願いするが。光はその場で間を空けてすぐに口を開く。
「池谷さん…。申し訳ありませんが、その話はお断りさせていただきます」
「え!?」
必死で頭を下げてお願いする池谷に対し、光は池谷の頼みを断るのだった。
「何でだよ光!?拓海達の先輩がこうして頭下げてるってのに…」
「そうよ。引き受けてあげてもいいんじゃないの?」
「い、いやだから、それとこれとは…」
「まぁ二人共落ちついてくれ。理由を聞かせてくれるよな?」
光は真菜達に再び詰め寄られるも、池谷が和樹達を落ち着かせ。光は池谷の頼みを断ったかを話す。
「理由も何も。これはスピードスターズとレッドサンズの問題でしょ?レッドサンズを一泡吹かせたいのなら、余所者の俺が負かすのではなく、地元の走り屋であるあなた達が自分達の実力で負かすのが筋じゃないですか?」
「うぐっ。それは、そうなんだが…」
「まぁ、あなた達がレッドサンズに負けたくないっていう気持ちは凄く伝わりましたけど、今のあなた達の走りじゃあ、レッドサンズとやり合うのは物凄く難しいと思いますよ」
「え?それだけスピードスターズとレッドサンズの走りには差があったの?」
「何せ、俺と光が走った時に、スピードスターズの走りを見させてもらったんだが、スピードスターズの殆どがレッドサンズの走りについてこれなかったからな」
「そんなに…!?。せめて秋名に凄腕の走り屋がいたらこの件に関して頼めたかもしれないのに…」
「そうだな。そんな人がいれば天を仰ぎたいくらい…あぁぁぁ!!」
「ど、どうしたんですか池谷さん!?急に声を出したりしてはびっくりしましたよ!?」
「実はな、俺が働いているスタンドの店長がつい最近話してくれたんだけど、物凄い走りをする走り屋がここ秋名にいると以前教えたくれたんだ」
「店長?それって俺と真菜がここに来る前に寄ったスタンドの店長である立花さんのことですか?」
「ああ、そうだ。俺達とは走る時間帯が異なるんだが、この秋名には伝説と呼ばれる程凄い走り屋がいると店長が言っていたんだ」
「良かったじゃないですか池谷さん。だとしたらその人に頼めば、この件は何とかなりますね」
「で、池谷さん。その走り屋が乗ってる車種は何なのかわかりますか?」
「それなんだが。うちの店長が言うにはその走り屋が乗ってる車はどうもハチロクみたいでな」
「は、ハチロク?」
「それって…さっきイツキが言ってた車のことですよね?」
「何故そんな凄腕の乗ってる車がハチロクという旧式の車なんだ?」
伝説の走り屋が乗ってる車がハチロクだと聞いた光と和樹はその場で困惑する。
「二人共、池谷さんが言う走り屋が乗ってる車がハチロクなのは、そんなにおかしいことなの?」
「そりゃあハチロクは速いとはいえ、10年も昔の話だし」
「まさか店長は自分らが走って頃は凄かったと自慢したいだけで、言ったんじゃないすか?」
「それもあるかもしれないが、店長が言うに、その走り屋は今、豆腐屋をしてるとのことだ」
「「「豆腐屋?」」」
「この先にある秋名湖周辺のホテルに豆腐を卸してるみたいで、配達が終えては空になった車で麓まで下るときのスピードは一見の価値があるって豪語してたくらいだ。商売だから雨が降ろうが雪が降ろうが毎日走ってるから年季が違うし、秋名の峠ならアスファルトの染み一つ知り尽くしてると店長は言ってたんだよ」
池谷は疑問に思いながら祐一から聞いた話しを光達に教え。その話が信じられなかったか光と和樹は顔を互いに向けては話す。
「なぁ光、今の池谷さんの話。信じられるか?」
「にわかに信じ難いが、とにかくその人に会ってみないことには何とも言えんな…」
「それだったら、そのハチロクがここを走るのを待ってみるってのはどう?」
「それは難しい話だな。ホテルに豆腐を卸してるっていうのなら、おそらく早朝の時間帯だろうし、そんな時間になるまで待っていたら真菜の親父さんに叱られるから、今の俺達では会うのは難しいかもしれないぞ」
「俺も親父から車貸すのは構わんが、あまり夜遅くまで遊ぶんじゃねぇぞって念を押されてるからな。とてもだか遭遇できそうにねぇよ」
「そうよね。あたし達はまだ高校生だし会えないのならせめてお店だけでも分かればいいんだけど…」
「だよな。その豆腐屋の知り合いがここにいてくれたら良かったんだけどな」
これ以上はどうしようもないと思ったか、光達はその場で豆腐屋のハチロクに会えないか考えるも、答えには辿り着かず諦める。しかし、
「へっくしょい…!!」
「どうしたんだよ拓海、急にくしゃみなんかしたりしてさ?」
「いや、何か噂されてる気がしたんだけどな」
「はぁ?何言ってんだお前?」
すぐそこに、豆腐屋のハチロク乗りと知り合いどころか身内がいることに光達は気付かなかったのである。
「すみません池谷さん。力になれなくて」
「いやぁ。元はと言えば俺達の問題だし、気にしなくていいよ。それに明日は俺は午前中、非番だからちょっくらその豆腐屋とやらを自分で調べてみるよ。それじゃあまた今度来る機会があれば会いに来てくれよな。その時は色々と世話になるかもしれんから」
「はい。池谷さん、頑張ってくださいね」
「俺達もできるだけのことはしてみますから」
「お気を付けてくださいね」
「あぁ、またな三人共。気を付けて帰るんだぞ」
そうして池谷に別れを告げた三人は秋名山を後にし、地元である高崎へと車を走らせていくのだった。
高野モータース 入口前
「おかえり真菜、光君。秋名の峠は楽しめたかい?」
光と真菜が高崎にある中津モータースへ着くと。父親である中津社長が俺達を出迎えてくれた。
「全然よ。光ったらあたしを置き去りにして和樹と二人だけで峠を攻めてたのよ」
真菜は未だに置き去りにされたことを根に持ってたか、口を膨らませ、ムッとする。
「あははは、そりゃ残念だったね真菜。ところで光君、何か深刻そうな顔をしてるみたいだが一体何があったんだい?」
「実は秋名に行った時色々ありまして…」
秋名の峠で起きた事を事細かく説明し、それを聞き終えた中津社長は光と同じ様な顔をしては口を出す。
「なるほどね。レッドサンズが秋名の走り屋チームであるスピードスターズを相手に交流戦をするからそれをどうすればいいか困っているんだね」
「はい、池谷さんから俺にチームの代表として出てくれないかと頼まれましたが。この件に関しては地元の人達が解決しないといけないと思い断ってしまいました」
「うん。光君の判断は正しいと僕は思うよ。もしそれでレッドサンズに勝てたとしても、それは秋名の走り屋が凄いわけでもないんだし、それを気に味を占めて光君に頼りガチになるかもしれないから、あえて断っておいたのは正解だよ」
「そんな…。じゃあパパは…池谷さん達がどうなろうが構わないっていうの?そんなの、あんまりだわ」
「あのな真菜。この問題は池谷さん達が自力で何とかしないといけないことで、俺達がしてやれるとしたら池谷さん達を見守ることぐらいしかできないんだ」
「でも…」
真菜が光に抗議するも、その場にいた中津社長は辛辣な言葉を真菜に言う。
「いいかい真菜。遊びで走るだけならそれで構わないかもしれないけど、バトルをするとなれば話は別なんだ。走り屋は自分の走りに誇りを持って車の性能を限界ギリギリまで引き出し、それこそ血の一滴まで搾り取る程の気持ちでやっていかないといけないんだ」
「そ、そこまでやらなくちゃいけないの…」
「まぁ、中津社長の言ってることあくまで例えだから真に受けなくていいよ。となるとこの状況を打破するには例の豆腐屋のハチロクを見つけるしかないか」
「そうよね。豆腐屋っていったって群馬には何十軒もあるんだから、その中から探し出すなんて難しい話だし。豆腐屋のハチロクって情報だけじゃ居場所を見つけられそうにないわ」
「豆腐屋のハチロク?文太がどうかしたのか?」
「えぇ。その文太さんって人を探し出さないことには…へ?」
「パパ、さっき豆腐屋のハチロクのことを文太って言ったよね?ひょっとしてパパはその人のことを知ってるの?」
真菜が父親に尋ねると中津社長は答える。
「そりゃあ知ってるも何も、文太とは昔散々やりあったくらいだし。あいつとは長年のライバル関係だったからね」
「マジですか社長!?」
「嘘でしょ!?パパとハチロク乗りのお豆腐屋さんが知り合いだったなんて初耳だわ!!」
なんという偶然か。中津社長は豆腐屋のハチロクのことを知っており、光と真菜はそれを聞いては驚愕する。
「ちょっと待ってください!?ひょっとしてその人が今何処にいるか知ってるのですか!?」
「勿論だとも。文太は渋川市の商店街にある『藤原とうふ店』って豆腐屋をやっているから、そこに行けば多分会えるかもしれないよ」
中津は店の情報も知っており、それを聞いた二人はその場で歓喜する。
「光!!」
「あぁ。そうと分かれば明日の昼にでもその藤原豆腐店へ行ってはこの事を頼まないとな」
「う〜ん。それは難しい話かもしれないよ」
「え?」
光と真菜が喜ぶのも束の間、中津社長は文太に頼ることが難しいと言い、その理由を二人に説明する。
「文太はとても頑固な性格をしていてね。頼まれてはいそうですかと簡単に聞き入れる奴じゃないのは、僕自身がよく知ってるからね。それに…豆腐の配達は息子に任せてるって言ってたから、多分聞き入れてくれたとしても今の文太の腕は昔と同じかどうか怪しいよ」
「マジかよ。これじゃあ八方塞がりじゃないか。こうなってはもう…潔くレッドサンズに負けるしかないか…」
「そんなぁ…。じゃあどうしたらいいっていうのよぉ…」
二人は中津社長から文太が頼みを断るかもしれないと聞いてはその場で落ち込み、結果は振り出しに戻るのだった。
場所は再び秋名山の頂上へと移り変わり。
その場に残っていたレッドサンズのNo.2こと高橋啓介は、兄の高橋涼介が帰った後、秋名に残ったメンバーと一緒に走り込んでいたのだ。
「随分走り込んだな…俺もうガスねぇや。何時だ今?」
「もうすぐ4時ですよ…」
「よっしゃ、ボチボチ引き上げだ」
啓介は残りのメンバーと共に秋名を下り始め、自分達が住む高崎に帰ろうとするも、この前走った赤城と同じ様に他のメンバーがついてこれず啓介はその場でアクセルを緩めるが。その直後に、ある一台の車がヘッドライトを照らして近づいてるのに気付く。
「うちのチームの車じゃねぇ…。何者だ!?暗くて車種まではわかんねぇな…MR2か180…デカい車じゃねぇな」
またしても走り屋としての本能か。啓介はこの前と同じ様に後ろから車に勝負を挑もうとする。
「上等じゃねぇか!!赤城ではインプレッサを相手に抜かれはしたが、今度こそ勝ってやる。コーナー2個も抜けりゃバックミラーから消してみせるぜ!!」
そうして秋名を舞台にバトルを開始する啓介だが、後ろを走る車は前と同じ、後ろから食いついては啓介から離れず、どんな車が走ってるか気になった啓介がサイドミラーを見て確認すると、驚きの表情を見せる。
「ハチロクだとぉ!?ふざけんなァ」
なんと、後ろから追いかけてきたのは、旧世代の車であるハチロクのトレノで。啓介はそれに負けじと走り続けていくが全く振り切れず。ハチロクはFDのテールを離さないでいた。
「(振り切れない。悪い夢でも見てんのかァ、ハチロクに追っかけ回されてるだとォ!?)」
ハチロクに振り回されてることに腹を立てた啓介は、怒りを全面的に出しては振り切ろうとするが、ハチロクはFDを引き離さないでいた。
「ジョーダンじゃねぇくそったれがァ!!俺は赤城レッドサンズのNo.2だぞォ!!」
だが、後ろを走るハチロクはFDが右コーナーに入る手前で急ブレーキを掛けたところで、FDを追い越しながらスピードを上げては先を行く。
「(こいつ…先を知らないのか!!減速して入らないと谷底へ真っ逆さまだぞ!!この緩い右の後はきつい左だ!!)」
ギャッ
「言わんこっちゃねぇっ!!遠心力で後輪が出てる。あそこまでスピードが出てれば例え減速しても立て直すスペースはないっ!!」
だがハチロクは、そこでステアリングを切り替えし慣性を生かしながら曲がっていくと、勾配のキツいコーナーをあっさりと切り抜け。左コーナーへと突入していく。
「か、慣性ドリフト!?」
ハチロクが慣性ドリフトを使い、コーナーを曲がって行くのを目の当たりにした啓介はそのまま走り去っていくハチロクを見送るや、その場で急停止し呆然とするのだった。
「(信じられん。俺は秋名山で死んだ走り屋の幽霊でも見たのか…。1つ目の右のカウンターは次の左の姿勢作りのフェイントだった…。腹立つくらいに完璧なスーパードリフト)」
啓介がその場で踏み留まってから数分後、遅れてやってきたレッドサンズのメンバーが車を止め、啓介と合流するが。啓介は二度に渡って敗れたのがショックだったか、落ち込みを見せる。
「(俺のプライドはズタズタだぜ。峠仕様のFDで10年前のボロハチロクに負けた…。この前のインプもそうだが、あのハチロク、何者なんだ…)」