「ここか、中津社長が言ってた豆腐屋というは…」
「うん。どこにでもある普通の豆腐屋みたいだけど、横にイツキ君の言ってたハチロクが置いてあるところからして、間違いなさそうね」
秋名でのレッドサンズとの交流から一夜明けた翌日。
光と真菜は渋川市にある『藤原とうふ店』の前に来ていた。
見た目からしてそこらにある普通の豆腐屋にしか見えないが店の横にはハチロクが置いてあり。車体のフロントに『藤原とうふ店(自家用)』と書かれているところからして、ここが中津社長の言っていたとうふだと二人は確信する。
「よぉ、こんなところで会うとはな」
「あ、池谷さん。昨日はどうも」
店の前に立っていた光達に声を掛けるのは、先日、秋名で会ったスピードスターズのリーダーである池谷だ。
「もしかして、池谷さんもここへ用があって来たのですか?」
「あぁ。この辺に店長が言ってた豆腐屋があると聞いてな。一応来てみたはいいが、どうもその話が信用できなくて店に入るのに躊躇してたとこなんだ」
「そうでしたか。で、結局どうしますか?昨晩あれだけヤラれたからにはここの店主である藤原さんに頼らざるを得ないと思いますけど?」
「それもそうなんだが。頼もうにもなんだか気が引けたし、ひとまず引き上げるよ。昼から仕事もあるしな」
そう言って、その場から引き下がると、仕事先のスタンドに行こうとする池谷だが、ある人物と遭遇しては踏みとどまる。
「あれ、池谷先輩?それに光と真菜も…」
「拓海…?」
「お、拓海じゃないか」
なんと、その場で会ったのは秋名で知り合ったばかりの藤原拓海であった。店に入るところから察するに、おそらくここが拓海の家で、拓海が豆腐屋のハチロク乗りの息子であるに違いないと光は感づく。
「やっほ~拓海君。ひょっとしてここって拓海君のお家なの?」
「そうだけど一体何の用があってうちに来たんだ?」
「いや、ちょっと拓海の親父さんに用があってな。とりあえず、その人に会いたいんだが親父さんは中にいる?」
「悪いけど、親父は今出かけているみたいだから今日は無理かもしれないぞ。帰ってくるとしたら多分夜遅くになるかもしれんし」
「そうか…それは残念だったな。ところで話は変わるんだが、拓海はそこに停めてあるハチロクで毎日豆腐を配達してるのか?」
光がハチロクを指さしながら拓海に尋ねるが、当の拓海はボーッとした顔をしながら返す。
「ハチロク?あれはトレノって後ろに書いてあるから光の言うハチロクとは違う気が…」
「だからトレノがハチロクなんだよ。AE86っていう型式のレビン・トレノを引っくるめてそう呼んでるんだよ」
「はぁー?」
池谷が拓海の言うトレノがハチロクだと教えるも、拓海は理解できていないのかボケっとした顔をしている。
「まぁいいや。拓海、折角ここまで来たんだから俺の車に乗れよ。お前も昼からのシフトだったし、スタンドまで乗っけてやるよ」
「いいんですか池谷先輩」
「あぁ。今から俺もスタンドに行くところだったからな」
「ありがとうございます池谷先輩。お陰で足代が浮いたよ」
「光。あたし達はどうしようか…」
「う〜ん。親父さんがいないんじゃ話ができないし、出直すとするか。俺達も高崎からここまで来たんだから、少し寄り道してから帰るとしよっか」
「そうだね。折角来たんだし、そうしましょう…。じゃあ拓海君、またね」
「あ、あぁ。またな二人共」
拓海は池谷のS13に乗ってバイト先のスタンドへ行き。光と真菜は拓海達と別れてすぐに渋川市周辺を少しだけ周ることにするのだった。
その日の夜。拓海とイツキのバイト先のガソリンスタンドのピットで、池谷が自分のS13をジャッキで上げ、足回りを弄る。
「よぉ…新品のタイヤ入れてんのか」
「ダンロップのフォーミュラRSVかぁ。奮発したなぁ、たっけーんだろこれ」
池谷が車にタイヤを取り付けるのを見たスピードスターズのメンバーは、池谷が如何に本気であるかを知る。
「タイヤだけでもハイグリップに変えてタイムを稼がないとな…。ついでにブレーキパッドも交換するんだ。下りを走るにはブレーキがキモだからな…」
「やるのか…池谷」
「あぁ…下りは俺が走る。死ぬ気で秋名の下りを攻めてみるさ…」
「あんまり無理はするなよ。下りは怖いからなワンミスが命取りになるぞ…」
「わかってる。わかってるけど少しは無理もしねーとな…。地元の意地があるじゃん…」
チームメンバーである健二が池谷を心配するも、池谷は秋名の下りを攻めようと覚悟を決めるのだった。
秋名山
早速タイヤを履き変えては走らせてみたものの、普段から走り込んでる秋名の下りがスピードを上げれば、こんなにも難しくなるのかを痛感するしかなかった。
「調子はどうだ池谷?」
「ダメだぁ…全然乗れてねーよォ、ギクシャクしてる」
「それはそうと今日も来てるぜレッドサンズのRX-7」
「FDだったな。あれは高橋兄弟の弟の啓介だ…」
「あれから毎晩見かけるようになったな」
「たまんねーよ、あんだけテクニックのあるドライバーにあれほど熱心に練習されちゃーな」
そう。今、秋名には高橋啓介がFDを駆って攻め続けており、それを見いく池谷達はどうしようもない気持ちでいっぱいになるしかなかったのだ。
「(今日も現れない…あの時のハチロク!!)」
一方、秋名を攻め込んでいく啓介は、ハチロクに抜かれたことを余程気にしてたか、頭の中は秋名のハチロクで埋め尽くされていた。
「(地元の走り屋じゃなかったのか…そんな筈はない…。奴は秋名の峠を知り尽くしていた。走り屋としての勘だ。もう一度奴に会いたい!!会ってリベンジかましてやらなきゃ俺の気が収まらない、出てこい秋名の幽霊!!)」
秋名のハチロクへリベンジを仕掛けに来たが、そのハチロクは一向に現れず啓介は今焦ってばかりである。
「(スピードスターズの奴なんざどうでもいい。俺はお前に会いに来てるんだ!!)」
ブォオオオン
「(なんだぁこんな時間帯に走ってるのは、この辺ならスピードスターズぐらいしかいねぇが)」
反対車線からヘッドライトの明かりが見え始め、舌打ちをして車を左側に戻すが。その明かりが近づいていくにつれ、車の形がゆくゆく露わになっていくと、すれ違ってすぐさま啓介は驚く。
「なっ!?インプレッサだと…」
そう。反対車線から上がってきたのはこの前秋名で遭遇したあのインプレッサで、インプレッサがFDの横を通り切ってっては秋名の頂上へと上っていくのだった。
「丁度いい。ハチロクには会えなかったが、ここであいつにリベンジさせてもらうぜ!!」
啓介はFDを180度回転させ、インプレッサが行った上り方面へと車を走らせ。秋名の峠で前回のリベンジをしようとするの。
「どうだ真菜。秋名の峠の感想は?」
「う〜ん来てみたはいいけど。ここはカーブが多くて見にくいし、いつ反対車線からから対向車が飛び出してくるかわからないから、あたしなんかじゃこんな峠を走るなんてことはできそうにないわね」
インプレッサに乗っているのは光と真菜の二人で。光がインプレッサを運転し、秋名を走っていた。
何故二人が、こんな時間帯に秋名へ来たかというと、高崎に帰る直前に真菜から秋名へ連れてくるよう頼まれたのがきっかけで。光は帰る分のガソリンが無くなるからやめようと反対したが、真菜は父親からガソリン代を貰っていたので、光は仕方ないなと観念し。秋名へ行く直前にスタンドでガソリンを満タンで入れてもらい、ここへ来たというのだ。
「ま、普通は峠を走るなんざ危ないからやらないほうが正解だけど。ここまでくればもう満足したろ。どこかUターンできそうなとこがあったら麓に降りるぞ」
「うん、そうしましょっか…あれ?」
「どうしたんだ真菜?何か気になるものでもあったのか?」
「なんか…あたし達の後ろから、物凄いスピードで近づいてくる車がいるんだけど、何なのかなぁって…」
「後ろから?……あ、あれは高橋啓介のFDだ!!」
後ろから迫りくる車が何なのか、光はバックミラーを見ると、どういうわけかレッドサンズの高橋啓介が駆るFDが自分達を追ってきていたのだ。
「もしかしてあの黄色い車。あたし達を追ってるんじゃないよね…」
「その可能性はありえるな。仕方ない、真菜。悪いけど少しばかし、我慢してくれないか」
「え?ひょっとしてあの車とここでバトルをするんじゃ…」
「そのまさかだ。あのFDとちょっくらここでバトルをしてみるよ。向こうも頂上まで行かないと止まってくれそうにないしな」
「わ、わかったわ…。でも、あまり無茶はしないでよね」
「ああ、言われなくてもそのつもりだ!!」
光はその場でギアを2速から3速に上げ、アクセルを強く踏み。秋名を舞台にバトルを開始する。
「やる気になってくれたみてえだな…。この間は俺が負けたが、今度は俺が敗北を突き付けてやる!!インプレッサは俺の大嫌いなGT-Rやランエボと同じ元々が出来のいい高性能マシンだからな。だったら尚更負けるわけにはいかないぜ!!)」
インプレッサがスピードを上げたのに気付いたか、啓介も先頭を突っ走るインプレッサに負けじと、ギアを3速に上げ、スピードを上げる。
「くっ、流石はレッドサンズのNo.2なだけはあるな。
FDに追いつかれまいと、光はアクセルを踏み続けるも、上りでは車重が軽くパワーの大きいFDが有利な為、少しずつではあるが距離が縮まっていく。それでも抜かれるわけにはいかないと、荷重移動を使いコーナーを最短にカットしていきながら、極力無駄な減速はしないようアクセルを全開に保ったまま走り続ける。
「どうした、?この前俺に見せたあの走りはハッタリだと言わせる気か!!」
「ひ、光…もう、後ろの車に道を譲ってあげるべきじゃ…」
「いや。ここまで来たからにはそんな真似は絶対にできない。何がなんでもあのFDをここでぶっちぎるだけだ!」
啓介に負けたくない気持ちが出てきたか、光は目の前を走ることに集中し、アクセルをベタ踏みしながら全力で突き進んでいき。啓介もそれに負けじとアクセルを底まで踏みつけながら走り続けるのだった。
「(やるな。4WDのインプレッサを荷重移動を使って上手くコントロールしていやがる。どうやらこいつは秋名で一番手応えがある奴とみて間違いないみてえだな!!)」
「この先は確か秋名では勾配が厳しく攻めるのが難しいヘアピンだったな。後ろのFDと距離を拡げるならばそこで差を縮めしか手はないか」
光が駆るインプレッサは目の前のヘアピンへと突入し、FDもこの先のヘアピンに気付いたか、即座にブレーキを踏んでは減速させる。だが、インプレッサはブレーキを思いっきり踏んでフロントに荷重を移し、トラクションが掛からなくなったリアタイヤを滑らせながら、素早くステアリング操作をしてヘアピンをブレーキングドリフトでくぐり抜ける。
「(野郎…、俺でさえ躊躇してしまう箇所をドリフトしてはクリアしていきやがった。4WDはドリフトするのが難しいにも関わらず、あそこまで完璧に走らせたら敵わねえ!!)」
啓介はインプレッサがドリフトしてコーナーを曲がりきったに驚くのも無理はなかった。
本来、ドリフトをするには高い技量が要され、後輪駆動で舵が切り離れコントロールし易いFRが走り屋の間では当たり前となっている。
一方4WDは前後ろと全てのタイヤが安定している為ドリフトをするにはあまり向かず。例えドリフトをしようものなら、FRよりかはステアリング操作が難しく扱いづらい為、それなりに経験を積まなければいけなく。
だからこそ、カウンターを当てず四輪全てのタイヤを滑らせ、ドリフトでくぐり抜けた光が走り屋として、どれほどレベルの高いことに啓介は驚くのだった。
「だが、勝負はまだ負けたと決まったわけじゃねえ…。もう一度
「(あの様子じゃさっきのブレーキングドリフトで火が付いちまったみたいだな。ここまで熱くなったんなら尚更負けるわけにはいかないな!!)」
両者は車を走らせていく内に熱くなったか、一歩も譲ることもなく秋名の下りを攻めていき、全速力で駆け上がっていくのであった。
秋名山 頂上
「まさか、昨日会ったばかりのお前がここまでやれるとはな…。人は見かけによらねぇとは」
「そちらこそ、中々いい腕をしてましたよ」
頂上に着いた二人は、車を端の駐車場に停め、向かい合うかのように対峙していく。
「あの〜少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?言ってみろ」
真菜が啓介に質問してはあることを尋ね始める。
「ひょっとして…啓介さんは秋名を走ってるというハチロクを探しにここに来たのですか?」
「ほぉ、中々勘が鋭いみたいだな。何故そう思った…?」
「だって、この前スピードスターズと会った時に、実力差はあったじゃありませんか。それなのにここを走り込む理由としてあたしが考えるに例のハチロクを探す以外考えられませんしね」
「そこまで読まれていたとは中々だな。大方、お前の言うよくに、俺はそのハチロクを探そうとここへ来たんだよ。っと言っても、全く見かけねぇがな」
「やっぱり…」
「どうしてあなたが秋名のハチロクのことを知ってるのですか?まさかハチロクとバトルでもしたんじゃ…」
「そのまさかだ。俺は昨日の夜、帰る前にあのハチロクと遭遇してな。こっちから仕掛けたが呆気なく抜かれちまったんだよ…」
「その話本当ですか?だとするなら、そのハチロクは一体…」
「ひょっとしてそのハチロクは、。お化けなんかじゃないよね…」
「そんな筈はねぇよって言いたいとこだが、俺自身未だにあのハチロクが本物かどうかすら信じられねぇからな。ま、ここまで来ても見かけないんじゃ、来た意味はねぇみたいだから俺はここらで帰らせてもらうよ。お前達はこの後、どうするんだ?」
「俺達も充分走り込みましたので、ガソリンも帰りの分しか残っていませんし。とりあえず麓まで降りますよ」
「そうか。んじゃ、今度の交流戦に来れるなら絶対に来いよな。お前にはいずれ…赤城で受けた屈辱は絶対に倍にして返してやるからな」
「!? ひょっとして俺が赤城でこいつを走らせてたことに気づいたのですか!?」
啓介には隠してたつもりでいた光だが、当の啓介にはとっくに見破られてたことに驚きを隠せずにいた。
「ふんっ。俺は兄貴みてえに頭は良くねぇが、一度バトルした相手の走りを覚えることぐらい造作もねえよ。赤城であれだけキレのいい走りをするインプレッサ乗りなんざ、お前以外考えられねぇからな」
「うわちゃあ…、バレてしまったんじゃ、どうしようもないよ…」
「光。もういっそのこと、今度の交流戦に出た方がいいんじゃないの?」
啓介にバレてしまい、額に手を当てながら頭を悩ます光だが。真菜はそんな光に対し、交流戦に出たらどうかと提案するも、光は少し間をおいてからこう話す。
「真菜、何度も言うが…俺は秋名の走り屋じゃないから出る必要性はないんだし、ここは池谷さん達のホームコースだから、あの人達にやらせるしかないんだ」
「なんだお前、交流戦に出るつもりはないのか?走り屋ならどんな相手だろうと挑まれたからには勝負を挑むのが筋じゃないのか?」
啓介は煽るように言っては光を挑発するも、光はそれに対抗してはこう告げる。
「悪いですけど、ここは秋名の走り屋であるスピードスターズとあなた達レッドサンズの問題ですからね。俺が出てしまったら最後、スピードスターズの立場はなくなりますからね。今度ばかりは見物させてもらいますよ」
「けっ、そういう理由なら仕方ねえな。なら、交流戦が終わった後でお前とはここで決着をつけようといこうじゃないか。それなら文句はねぇんだろ?」
交流戦と関係なしに、光と直接バトルするよう申し込む啓介に、光は面と向き合っては答える。
「…はぁ、わかりましたよ。交流戦の後ここでバトルをさせてもらいますから。その時にあなたを全力で叩き潰すします」
「その言葉そのままそっくり返してやるよ。こっちはチームの意地ってもんが掛かってるからな」
啓介は光とそう約束すると、FDに乗り込み。秋名を後にしては暗闇の中へと消えていった。
「光…」
「大丈夫だ真菜。俺はあの人に負ける気は最初からないよ。とりあえず俺達も帰るとしよっか」
光は真菜をインプレッサに乗せ、啓介に続くように秋名を後にした。
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