秋名山 夜
「(分かんねーぜ、いくら考えても…。考えても分かんねーからヒントが欲しいんじゃねーかよ)」
藤原とうふ店に寄った池谷は文太にアドバイスを求めるも、自分で考えながら走れと言われただけに留まり、どうすればいいか分からず、考えながら秋名の下りを攻め込んでいた。しかし、
「対向車のヘッドライト…!?しまった気付くのが遅かった!?」
どう走らせたらよいか、考え事をするあまり、コーナーの奥から対向車が来るのに気付くも、車はアンダーステアを出して対向車とぶつかりかけるも、運良く対向車が避けてくれた為衝突は免れる。
だが、ホッと一息する間もなく目の前にはガードレールが差し掛かっては避けきることができず、車のフロントをぶつけてしまうのだった。
「大変よぉ光!!」
「どうした真菜。朝早くから大声出したりして…」
「今朝パパから聞いたんだけどね、池谷さんが秋名で事故を起こしたって言ってたの!」
「あぁ、はいはい。池谷さんが事故を起こしたんだな…って、マジかよ!?」
いつもの様に、学校に登校してきた光は慌てた様子で学校に来た真菜から、池谷が事故を起こしたと耳にしては驚く。
「真菜。お前の親父さんはどこでその話を聞いたんだ?」
「パパの知り合いに立花さんって人がいてね、その人から聞いたみたいなの。ほら、あの時スタンドでお世話になった」
「そうか。それで…池谷さんの容態はどうだったって?」
「幸い命に別状はなかったみたいだけど、車はフロントがめちゃくちゃになったって言ってたわ」
「そうか。池谷さんが出れないとすると、今度の交流戦はますます難しくなるな」
もうすぐ交流戦が始まるタイミングで、事故を起こしてしまうとはツキがないなと光は思うが、そこに和樹が割って入る。
「なぁ光、池谷さんが怪我して出られないなら、いっそのこと俺が変わりに交流戦に出てやろうか」
「ダメだ。池谷さん達には悪いけど、これは地元の走り屋であるスピードスターズが勝負しないといけないから、お前が出てしまったら地元としての示しがつかんだろうが」
和樹が代理として交流戦に出ようかと提案するが、光は地元の面子に関わる為、交流戦に出ないよう釘を刺す。
「でもよぉ。あれだけ必死になって、レッドサンズに勝とうと奮起するあの人達を見捨てるなんざ、いくらなんでもあんまりじゃねぇのか」
「例えそうだとしてもダメなものダメだ。余所者であるお前を出すわけには行かないだ。とりあえず、今は黙って見守っておくんだな」
「なんだよその言い方は!!お前にはレッドサンズを負かしてやりたいって気はないのか!!」
和樹は口を荒げながら光の胸ぐらを掴むが、それでも光は態度を変えずに冷静に言う。
「そうは言うけどな和樹。この件は元々レッドサンズがスピードスターズに挑戦を申し込んだんだから、スピードスターズが対処しないといけないんだ。そこに俺達が割って入ったら最後、スピードスターズは余所者に頼っては自分達じゃまともに走れない腰抜けの集まりだと、思われてしまうだけなんだぞ」
「くっ…」
和樹は光の言うことに理解したのか、掴んでいた腕を離すが内心納得してはいなかった。
「わかったよ。お前の言うことに一理あるよ」
「やっと理解したか。とりあえず、この件に関しては…」
「だったら俺がスピードスターズに加入するよ。それなら何も文句はないよな?」
「えっ?それ、本気で言ってるの?」
「あぁ。お前が言うように交流戦にはスピードスターズのメンバーが出ないといけないんだろ。なら、俺がスピードスターズに入れば曲りなりにもチームの一員ってことになるから問題はねぇはずだ」
「あのなぁ。いくらスピードスターズの為とはそこまでする必要は…」
「うるさい!!お前には関係ねぇんだろ!だったらこの件に口を挟むんじゃねぇ!!」
和樹は怒りを露わに光を罵倒して教室から出ていくのであった。
「あのバカ…。頭に血が上りやがって」
「ちょっと光、いくらなんでもあんまりじゃないの。少しは和樹の気持ちをわかってあげてよ」
「真菜。これに関しては俺達は完全な部外者だ。下手に首を突っ込むわけにはいかないんだよ」
「そんな…」
「それに、和樹がどう足掻こうが、あいつは交流戦に出れはしないよ」
「どうして?」
「いずれ理由がわかるよ。だから今はこっちに集中して、その後に真菜の親父さんのとこへ行ってから考えようか」
「…うん、そうだね」
そうしてチャイムが鳴って担任の先生が来るや、授業が始まった。
尚、無断欠席をしてしまった和樹は後で先生から呼び出しをくらい、その日の午後に補習をする羽目になったのであった。
「くそっ、光の奴…親父に余計なことを吹き込みやがって…!!」
すぐさま自宅に帰ってきた和樹は、交流戦当日にランエボを借りれないか父親に聞くも、父親は事故を起こしかねないような奴に車は貸せないと言い。
何故自分が事故を起こしかけたことを父親が知っていたかというと、光が和樹の父親に話したからで、それを知った和樹はヤケを起こすしかなかったのだった。
「あいつにはレッドサンズの奴らを見返してやりたいって気持ちはねぇのかよ…。調子に乗ったあのデカっ鼻を挫いてやりたいって程の感情がよぉ…」
独りでに喚いては周りの人が和樹から距離を取るも、ある一人の男が和樹に話しかける。
「和樹君じゃないか。こんなところで何してんだい?」
「…真菜んとこの親父さんじゃないすか。アンタこそ、どうしてここに?」
ヤケクソになっている和樹に声をかけてきたのは真菜の父親である中津だ。中津は仕事帰りだったか、青いツナギを着て軽トラ(スバル サンバー)に乗っており、そこをたまたま和樹がブラブラしていたのを見つけて声を掛けたのだ。
「何って、僕は一仕事を終えたからに店に戻る途中だったんだ。そういう君は、今日学校じゃなかったのかい?」
「ちっ…!!そうですけど光と喧嘩して学校を飛び出してしまったんすよ…」
「そうか。光君と喧嘩をね…。一体何が原因でそうなったのか聞かせてくれないか?」
中津社長は和樹から光と喧嘩した理由を聞き、和樹が理由を話し終えるやこう語る。
「そういうことだったか。君の気持ちはよぉくわかるよ。でもね、今回ばかりは光君が言うように地元であるスピードスターズが自ら
「確かにそうかもしれませんが…どうやってスピードスターズがレッドサンズに勝てと言うんですか。聞いた話だと唯一の頼みである秋名のハチロクは出るつもりはないんでしょ」
「う〜ん。それはそうなんだが。まぁ文太のことだから、きっと何かやってくれるんじゃないかな」
「え、やってくれるというのは?」
「それはいずれわかることさ。ほら、もう気が済んだのなら学校に戻って光君に謝っておきなよ」
「わかりました。中津さん、ありがとうございました」
「別に構わないよ。君達の仲の良さはずっと昔から知ってたからね」
ブォォォン
その日の夜。ハチロクが閉店間際のガソリンスタンドに来てはガソリンを入れに来たのだ。
「なんだよ今日はもう終わりだぞ」
「固いこと言うなよ。ハイオク満タンだ…」
「生意気だぞハチロクのくせしてハイオクだぁ…」
文太はガソリンを入れ終えたハチロクをスタンドに停め、二人仲良くタバコを吸っては会話をする。
「てめーだろ祐一。あの池谷って若いのに変な噂を吹き込みやがったのは…」
「オウ…別に嘘を言ったつもりはねぇがそれがどうかしたのか?」
「困ってんだよしつこくて今日も来たぞォ。頭に包帯巻いてギプス付けてスクーター乗って、気の毒に事故ったな…ありゃあ」
「気の毒だと思ったら代わりに走ってやったらどうだ?池谷は気のいい奴だぞ」
「やだね…。ガキの喧嘩に大人が首を突っ込むみてーなもんだろ。そーゆのは俺の主義じゃねーんだよ」
祐一は文太に池谷の代わりに走るよう言うが、文太は大人としての立場故何がなんでも出ないと言い切る。
「だったら…ガキの喧嘩にはガキを出せばいいだけだろ」
「…拓海のことを言ってるのか?」
「そうだ。かなりの腕になってんだろ?」
拓海を交流戦に出すよう祐一が言っては文太に拓海の実力を聞くと。その質問に対し、文太はタバコを一服しながら語っていく。
「まだまだだけどな…。秋名の下りならどんな奴が来ても負けねぇぐらいにはなったかな…。俺には負けるがな」
「ぷっ、すぐ負けん気出す」
「あいつもなー。誰に似たのか頑固なとこあって走れと言って素直に走るような奴でもねーんだよなー」
誰に似たのかは言わずもがな、拓海は父親の文太に似たのである。
「まぁ、あの池谷って奴の頭の包帯に免じて…作戦を考えてやるわ…じゃあ」
「おう」
文太が走り去った後、祐一はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「さて、これは中々の観物になるだろうから中津に連絡して、あの子達に拓海の走りを見せつけるよう言っておかねぇとな」
「ハチロクが今度の交流戦に出てくるのですか?」
光は今日一日の授業が終わっては中津モータースに寄った際中津社長から土曜日に行われる交流戦にてハチロクが出るかもしれないという話を聞いては内心驚いていた。
「そうだよ。君達はスピードスターズに勝ち目はないと言ってたけど、どういうわけかハチロクが出ることになってね。それを観に行っては確かめてきて欲しいんだ」
「ひょっとして…拓海君のお父さんが池谷さんの代理として出てくれるというの?」
真菜が父親に質問するや中津は微妙な顔をしては言葉を返す。
「う〜ん。それは僕の方からは何とも言えんが、まぁ詳細は当日にわかるだろうし、明日三人で秋名に行ってきなよ。車はいつものヤツを貸してあげるから」
「良かったぁ…。これであのレッドサンズにひと泡吹かせてやれるかもしれないわね…。どうしたの光?何か気になるところでもあったの?」
「いや、なんで拓海の親父さんが急に出ると言い出したのか気になってな。だって、その人はもう秋名を走っていないし豆腐の配達は全て息子の拓海に任せてるって中津社長が言ってたじゃないですか」
「確かにそう言ったが…。まぁそれは観に行ってからのお楽しみだね」
「そうですか。じゃあ当日真菜達を連れて秋名での交流戦でその走りを観に行ってきます」
「あぁ、しっかりハチロクの走りを見ておくんだぞ」
どういう理由で拓海の親父さんが出ることになったのか未だに判明していないが、光はその場で考えては埒が明かないので、交流戦当日に秋名へ行って確かめようとするのだった。
一方その頃、藤原豆腐店では拓海が父である文太にある頼み事をするのだった。
「あのさーちょっと言っとくけど今度の日曜日、俺車使わしてもらうからな…」
文太は拓海が車を貸して欲しいと聞いたその時、ある作戦を思いつく。
「日曜…?だめだ!!」
「なんで?前の日の朝と次の日の朝の配達はちゃんとやるからさ」
「そういう問題じゃねぇ…商工会の寄り合いあって俺が車使うんだ」
「マジかよー不味いよそれー。俺どーしても車使いてーんだよ」
「ハハーンさては女だな。いっちょ前に色付きやがって」
「いいだろなんだってもったいぶらねーで貸してくれよ。どーせボロい車なんだから。勝手に乗ってくからな…」
「ふざけんな…キーなきゃ車は動かねーよ。紐つけて首に下げとこう」
「きたねー(あんなボロでも使えないと困るこればっかりは…)」
「どうしてもって言うなら…考えてやってもいいぞ」
「ホントかよ!?」
拓海はハチロクが使えると知るや喜ぶも、文太は拓海に対し、ある条件を突きつける。
「但し条件がある。土曜の夜あの車で赤城最速とか言ってやがる蒸したガキを軽く捻って来い…。秋名の下りでだ!!」
「!!なんだァ…それ…?」
「そうすれば車は無条件で貸してやる。しかもガソリン満タンのおまけ付きだ」
「(ガソリン満タン!?この条件はめちゃくちゃぐらっと来るぜ…。俺金ねぇから…)」
拓海は文太から出された条件に戸惑うも、ガソリン代を父親が出してくれると聞いて引き受けるべきか悩み始める。
「どうするんだ?」
「ちくしょーちょっと考えさしてくれる?明日の朝まで…」
「いいぜ…。好きなだけ考えても」
拓海は引き受けるかどうか判断を明日の朝まで待ってもらうよう文太に言い、一晩中考えていくのであった。
高橋邸
拓海が交流戦に出るかどうか迷っていたその頃、高橋兄弟の兄の涼介は自室でパソコンを操作していっては考えごとをしていた。
コンコン
「兄貴…入るぜ」
弟の啓介がドアをノックして涼介の部屋の中に入ると、涼介は啓介のいる方に顔を向ける。
「啓介か。丁度良かったお前に聞きたいことがあったんだ…」
「?」
「お前が秋名で見たっていうハチロクとインプレッサだけどな…。俺が今取り組んでる論文に何か役立つデータがありそうだ…。今思い出してそいつらの速さを論理的に説明できるか?」
「勘弁してくれよ兄貴。俺は兄貴とは違うから、そういうのは無理だ…。兄貴はバトルしながら後ろにつくと何でもわかっちまうんだよな…」
細かく説明するのは苦手と言いながらも、啓介はすぐ傍に置いてあるにベッドに腰を下ろし、兄の凄さを語り始める。
「右と左のコーナーを抜けただけで…相手のドライバーの癖や欠点、車の足回りの仕上がりまでズバズバ当てるし…エンジンのパワーだって殆ど当たる。人間シャーシダイナモって言われるぐらいだからな…。俺に言わせりゃ兄貴の分析力はバケモノ染みてるぜ…」
「いつも言ってるだろ。ドラテクで大切なのはここだって…」
涼介は自分の頭を指しながら啓介に言うが、そんな芸当ができるのは涼介一人だけだ。
「俺に言わせりゃ何も考えずに走って俺とタメはるお前の方がよっぽど気持ち悪いぜ。啓介の走りに理論が加われば理想的なドライバーなんだがな…。まぁいい…、明日の交流戦俺も行ってみるか…。そのハチロクとインプレッサのドライバーに少し興味が出てきた…」
ハチロクとインプレッサに興味を示したのか、参加する予定でなかった交流戦に行くと言った涼介は、啓介を負かしたハチロクとインプレッサを一目見てみようと行くことを決めたのだった。
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