秋名山 頂上
交流戦当日の夜。
秋名には多くのギャラリーがひしめき。スピードスターズとレッドサンズのバトルが始まるのを待ちわびる。
「すげぇな…。秋名にこんだけのギャラリーが来るなんざ、珍しいじゃんかよ…」
「それだけレッドサンズ…高橋兄弟が来るのに注目してるってことよね…」
「何せ、高橋兄弟は腕が立つし、かなりのイケメンだから、それを一目見ようと女のギャラリーもいたくらいだからな。光、お前はどう思ってるんだ?」
「……」
光達三人が下りのスタート地点の旧料金所跡に来てはバトルの行方を待ち構え、和樹と真菜はギャラリーの数に圧倒されてるのに対し光だけは、考え事をしているからか黙っていた。
「どうしたのよ光。運転してる時もそうだったけど、さっきから何を考えてるの?」
「……」
「ダメだこりゃ、完全に自分の世界に入っていやがる。おい光。いい加減こっちの話に耳を傾けろっつうの!!」
和樹が光のケツを蹴り飛ばすや、光は考え事をするのを止めては和樹に視線を向ける。
「痛ってぇな。いきなり何すんだよ!!」
「うるせぇ、さっきから人が話しかけてんのに、お前が無視するから、目覚まさしてやったのによ」
「だからって蹴りを入れる必要性はないだろ!!俺はずっとハチロクについて考えてたんだよ!!」
「ハチロク?それって拓海君家に置いてあった車のことよね?」
「ああ、そうだ。あのハチロクが高橋啓介のFDを抜いたって話を直接本人が言ってたから、どう勝ったか理由を考えてたんだよ」
光が言うようにハチロクとFDでは性能に差が開いており、ハチロクはどんなチューニングを施しても150馬力が精一杯なのに対し、FDは軽く弄れば300馬力以上もパワーを発揮する為、その差は圧倒的である。そんなことを考えるのも束の間、麓から複数の車が頂上に上ってくる。
「おい見ろよ。高橋兄弟のお出ましだぜ」
「この前と同じ派手な黄色いRX-7の他にも速そうな車がいっぱい付いてきてるわ」
「先頭は高橋涼介のFCと弟の啓介が乗るFDか。そっから後に続くのはこの間の奴らと一緒だな」
麓からレッドサンズのリーダーである高橋涼介を筆頭に、メンバーが揃い踏みして秋名の頂上に登場するとギャラリーからは歓声と黄色い声援が上がり。
涼介が車から降りて、スピードスターズ側の駐車場に停まっているインプレッサに目を向ける。
「啓介。あれがお前の言っていたインプレッサか?」
「ああ、俺が言うのもあれだが、秋名を走ってきた中で俺とまともにやり合えたのは、あのインプレッサと例のハチロクだけだ」
「そうか…じゃあ早速、今回の交流戦について話をしないといけないが…史浩、お前の方からスピードスターズに説明をしてくれないか。俺と啓介は少しあのインプレッサのドライバーと話しをしたいから、後は任せる」
「了解した。こっちで段取りをしておくよ」
涼介は交流戦の説明を史浩に任せると、弟の啓介と共に光達のところへ近づくと、光達が乗ってきたインプレッサを細かく見るのである。
「あれが高橋涼介ね…。この前会った時もそうだけど、間近で見るとかなりのイケメンね」
「注目するとこはそこかよ。まぁ、真菜の言うこともわからなくはないが…」
「凄え…。見ただけで如何にも速そうなオーラが出ているし、一筋縄ではいかないって感じがするぜ」
光達は涼介から放たれるオーラに圧倒されるながらも、印象を語っていき。
涼介はインプレッサを見終えると、光達の方に視線を向けては話しかける。
「少しいいかな。君があのインプレッサのドライバーで合ってるか?」
「え?えぇ…そうですよ。と言ってもインプは俺の車じゃなく、借りてきた奴なんですけどね」
「なるほどな。君みたいな若者が乗るにはこの車はあまりにも完成度が高過ぎる。足回りや勿論、排気系などに関しても車を熟知した人間が仕上げているのが手に取るようにわかるからな」
「(流石に群馬最速の走り屋と言われるだけのことはあるな。一目見ただけでインプレッサの性能を把握するなんざ、どう考えたって普通じゃない)」
「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はレッドサンズのリーダーの高橋涼介だ。君の名前は?」
「矢島光です。昨年までイギリスに住んでまして、今年の春に日本に帰国したばかりです」
「イギリス…?ひょっとして、向こうで車を走らせてたのか?」
「はい…。小学生の頃からカートを始めたのもありますけど、イギリスでは日本よりも1年早く免許を取得することができまして、去年、向こうで免許を取ってからサーキットやジムカーナを経験してきました。自分で言うのもあれですけど走りの腕に関しては、それなりに自信があります」
「そうだったか。イギリスはモータースポーツの聖地とも呼ばれてる場所で走りの質もかなり高いからな。そこで走ってきたというのなら、啓介やうちの一軍が敵わないのも頷ける」
「けっ、こいつがあれだけの走りができたのも、そういうことだったのかよ…。俺だってそれなりに走りこんだつもりだったんだが、海外で走っていたのなら、その腕を認めざるを得ないな」
啓介は光のことをある程度認めたみたいだ。
そしてスピードスターズに交流戦の説明を終えた史浩が高橋兄弟のとこへ戻ってくると話をする。
「涼介、ついさっき、スピードスターズに今回の交流戦について説明をしておいたぞ。勝負の開始までかなり時間があるかららフリー走行とでも行こうじゃないか」
「そうだな。ハチロクはまだ来てないみたいだが、ちょっとした余興をしてやるとするか。啓介、お前の方はどうなんだ?」
「俺はいつでも行けるぞ。早速ギャラリーに俺達の腕の見せどころを見せつけてやろうじゃんかよ…」
「ふっ、そうだな。では光君、またここで会おうか」
「はい、今日の交流戦、期待してますよ」
高橋兄弟は光達の前を離れると、それぞれの車に乗り込み、交流戦開始までの間、ギャラリーにちょっとしたパフォーマンスを披露していく。
『うめーなーレッドサンズのドリフト!!きっちりクリッピングポイントにつくもんな!!』
『目からウロコ落ちたぜーこんなの見たことねぇ!!赤城最速の触れ込みは伊達じゃねーぜ!!あいつらの実力は本物だっ!!』
『並んで突っ込んでくる!!何をする気だ!?』
ギャラリーが高橋兄弟のドラテクに興奮しては盛り上がりを見せ。そこから更に2台のRX-7は並んでスピードを上げては高度なテクニックを披露するのである。
『すげーあんなにくっついて。当たってんじゃねーのかっ!?』
『あれが有名な
『気持ち悪いぐらい息が合ってるぜ』
『昔テレビのコマーシャルにあんなのあったなー』
高橋兄弟の驚愕なテクニックを目の当たりにしたギャラリーは、興奮気味になる。
「(くだらねぇ…こんなのはただのパフォーマンスだ。タイムを出しに行くときの走りとは違うからな)」
「(秋名ごときに俺の敵はいねぇ!!出てこいハチロク。それを証明してやる!!)」
高橋兄弟はこれくらい当たり前だと言わんばかりの態度で走っては黙々とこなしていくだけで。
ハチロクへの対抗意識を燃やしていく啓介は、先週のリベンジをここで晴らそうと闘志を燃していくのであった。
藤原豆腐店
「今日は紙コップはいいのかよ?」
「いらねーよそんなもん。後に豆腐載っけてねーんだから」
ちょうどその頃、拓海がハチロクにエンジンを始動させ、交流戦が行われるであろう秋名山へと向かおうとする。
「いつもの配達じゃねーんだから。せいぜい遊んでこいや…」
「あそび?遊びっていうのはもっと楽しいもんだろ。俺気が重いよ」
「なんだよ…自信ねぇのか?」
「そういうわけじゃねーけど…」
「ふつーに走りゃ負けはしねーよ」
「わかってるよ」
拓海は返事を返しては文太に質問する。
「あと、2、3年もしたら…。俺の方がうまくなっちまうんじゃねーか親父よか…」
「ぬかせ…10年早えー」
「行ってくる」
拓海はエンジンを蒸しながら車を出し、目的地である秋名山へとハチロクを走らせるのだった。
秋名山 頂上
拓海が秋名に向かい始めた同じ頃、頂上付近の駐車場で、パフォーマンスを終えた高橋兄弟が頂上に戻ってくると、チームメンバーがFDのタイヤを交換する。
「あの人達は今何やってるのかわかる?」
「どうやらタイヤの交換をしているみたいだな。横に止めてあるワンボックスに何セットかタイヤを詰め込んでは変えているぞ」
「状況に応じて変えるとはえらい本格的だな…。こりゃあますますスピードスターズには勝ち目がねえぞ」
光達はレッドサンズが本気で挑もうとするのに関心をしていくが、レッドサンズ側にいる啓介はというと、
「来てねーよ兄貴…。例のハチロク」
タイヤ交換が終えるのを待ってる間、啓介は対戦相手となる筈のハチロクが来てないことに苛立ちを募らせていた。
「ムカつくぜ。てっきりあいつが秋名の代表で出てくると思ったのにな…。とんだ見当違いで拍子抜けだぜ。こうなりゃタイムアタックで大差をつけて、あいつらに大恥かかせてやらなきゃ気が収まらねぇぜ」
啓介は圧倒な実力差を見せつけてやろうと興奮気味になるが、それが後にフラグになるとは思わずにいた。
「光、聞いた話だと最初は下りで勝負するみたいだけど上りと比べたらどう違うの?」
「そりゃあ下りの方がスタート地点からスピードのコントロールを出すのが難しく、上りではミスしても誤魔化しが効くが、下りはミスしたら即座に命取りになるからな。重力が働いて車を止めようにも中々止まらず、扱うのにかなり苦戦するよ」
「その分下りなら、車の性能差があまりなくなるし、場合によってはパワーのない車でも勝てる可能性がありえるから走り屋の間じゃあ上りよりも、下りを速く走る奴が格好良く見えてしまうんだ。それならスピードスターズの車でも僅かながら勝算はあることになる」
「っと言っても、先週の時点でもう実力差がはっきりとしてるから、どうにもならねぇしな…」
「そうよね。やっぱりここはハチロクに来てもらわないと…」
当のハチロクはまだ来ておらず。時刻はもう少しで10時となる為両チームは車を前に出し始める。
「もうすぐ10時だぞ池谷…」
「わかってる…」
「ダメかもしれねーな」
「気持ちの準備だけはしておいてくれ…健二…」
池谷が負傷して出れない為同じスピードスターズのメンバーである健二が自分の車である180SXを前に出そうとするがその手は完全に震えており、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「(ふざけんなよ。こんな奴が俺の相手かよ…)」
「お前顔色悪いぞ健二。汗びっしょりで。見てるこっちまで辛くなるぜ」
「あの人…如何にも緊張してるって感じが出てるし。今にも気絶してしまいそうだわ…」
「もう黙っていられねぇ。いっそのこと俺が180に乗って、レッドサンズをぎゃふんと言わせてやる…」
「待て和樹。これはスピードスターズとレッドサンズの問題である以上、俺達が介入するわけにいかないんだ。ここは堪えろ」
「くっ…わかったよ…!!」
和樹は健二に変わってバトルに出ようとするが、光から忠告を受けては嫌々ながらも従い。今から始まるであろうバトルを見守る他なかった。
「それじゃーカウント始めるぞ!!10秒前ーっ!!」
史浩がカウントを行なう直前、無線機から一つの通信が入ってきた。
『ちょっと待ってくれ、こちらゴール地点だけど…。たった今一般車が一台目の前を通って上っていったぞ…』
「構うこっちゃねぇここは天下の公道だぜ。対向車ぐらいいる方が当たり前だ。構わずスタートしろ!!」
ゴール地点で待機してたレッドサンズのメンバーから対向車が上りきるまで待とうかと問いかけられ。啓介はそれを無視しても構わないと言ってバトルを開始するように言っていくが、池谷はレッドサンズにある質問をする。
「ちょっと待ってくれ、今通ったっていうその車…!!車種を聞いてもらえるか?」
「…こちらスタート地点。車種は分かるか?計測区間に入った一般車の…車種?」
史浩が無線を通じてスタート地点にいるメンバーに問い合わせる。そして返ってきた返事はというと、
『えーと確かリトラクタブルの車だったかな…多分。トレノだハチロクの』
「!!」
「貸せっ電話!!そのハチロク…何色だ?」
『いろォ!?なんでそんなことさっきから聞くんだ?白黒だったよパンダトレノだ!!』
なんと、今頂上に向かっているは白黒のパンダトレノ。つまり例のハチロクが今頂上に向かっているという報告であった。
「どうするんだ啓介、カウントしていいのか?」
「カウントはまだだ。ハチロクが来るまで待て!!俺の本当の競争相手は隣の180じゃない筈だ。そうだろ?」
「その通りさ…」
啓介と池谷は笑みを浮かべ、池谷は健二をスタートラインから下がらせ、ハチロクが来るのを待つ。
「お、おい!そのハチロクって前に池谷さんが言ってた例の豆腐屋のハチロクだよな?」
「中津社長も走るかもしれないって言ってたから、多分乗ってるのはその人と見てまず間違いないだろうけど」
「もぉ〜一時はどうなるかとヒヤヒヤしたわ全く…。でもこれで交流戦は何とかなりそうだね」
光達は側で見ているハチロクが来たと聞いてはそれぞれが安堵な態度を。
啓介もハチロクが来ると知るやカウントを中断させ、ハチロクがここに来るのを待つのだった。
秋名 5連続ヘアピンカーブ前
「なかなか始まらないなー」
「やる前から結果は見えてるがなどうせ…秋名の惨敗だろ」
5連続ヘアピン前で観戦に来ていたギャラリーが好き勝手に騒ぎ、スピードスターズが負けると決めつけるが、そんな中で一人の男が腕を組みながら道路を見ていく。
「高橋兄弟の実力は噂通りだぜ…。あっちこっちで交流戦を仕掛けてここまで全勝してることも知っている。いずれは群馬最速をブチ上げるつもりだろうが俺達ならレッドサンズに負けやしねぇ…。群馬最速は俺達妙技ナイトキッズだ!!」
そう熱く自信満々に言うこの男、名を中里毅といい。
妙義山をホームとする妙義ナイトキッズのリーダーで後に止めてある黒のR32型スカイラインGT-Rを例えにしては更に言う。
「モータースポーツに勝つという目的の為だけに生まれた純血種のサラブレッド、スカイラインGT-R。俺のR32は群馬最強最速だ。イモロータリーなんかに負けやしねぇぜ!!」
R32の凄さを自慢気に語っていく中里であるが、目の前を素通りするハチロクを見た瞬間、その走りに注目する。
「いい腕だ!!コーナーを立ち上がるあの後ろ姿はえもいわれぬ余韻がある。分かんねーか?」
「そうかな…俺らにはちょっと…。どこの峠にもいる普通の…。ハチロク小僧にしか見えねーけど」
中里がチームのメンバーに聞くも、メンバーはその違いに気付かず、中里は一人押し黙りながら呟く。
「(無理もねぇか…。わかる奴にしか分かんねーことだからな。自分の車を手足のように操る域に達した走り屋の車にはオーラが漂う…。同じレベルに達した熟練の走り屋にはそのオーラが見えるんだ。高橋涼介の走りにはオーラがある。啓介にはまだ微かに見える程度のオーラしかない)」
そう呟いていく中里だったが、ハチロクが通る前にここを通って行ったある車を思い出しては言う。
「(そういやハチロクが来る前にここを通ったインプレッサからも強いオーラが出ていたな。何者かは知らねえが、おそらく高橋涼介に匹敵する程の腕を持つに違いないだろうな…)」
「(なんだ…これ。異様なムード…。そこら中のカーブに人がびっしりと並んでる…。こいつらここで何してんだ?一体何が始まってんだァ!?なんか俺…変なとこに来ちまったなー。場違いな感じ…)」
頂上へと上り続けていく拓海は、自分を見ていくギャラリーを不思議に思いながらも、ハチロクを走らせては頂上へと上ってゆくのであった。
秋名山 頂上
「どうなってんのかなータイムアタックに入るのかと思ったら、さっきまでFDの横に並んでた180SXが下がってしまったままだぜ」
「変だなー重苦しいムードだ。みんなでじっと何かを待ってるみたいな…」
ギャラリーは何がどうなってるかわからないまま待っているのに対し!池谷はハチロクがここに来てくれることに期待を寄せていく。
「(もうすぐだ…。本当に来てくれたんだ秋名山下り最速の男スーパーテクニシャン藤原文太…。秋名の本当の底力を見せてやるぜ…。見てろよ高橋兄弟…!!)」
「(早く来い…。楽しみだぜ、どんな男が出てくるのか…。こんなに血が騒ぐのは久しぶりだ!!)」
「(たっぷり引きやがって大した千両役者だぜ。どんなドライバーと車が出てくるのか…。俺にはハッタリは効かねーぜ。じっくりと拝ませてもらおうか…)」
高橋兄弟もハチロクが来ることを待ち侘びている中、光は気になることがあったか再び考え始める。
「(ん?そういや拓海はどうしたんだ?イツキがここに来てるのにあいつがここにいないってことは、ひょっとして交流戦に来ていないのか…。父親が今からここで走るかもしれないっていうのに、拓海は一体何して…)」
その瞬間、光はある仮説を立てるや更に深く考え込む。
「(待てよ…。前に聞いた話だと、豆腐の配達は拓海がやってるって言ってたよな。高橋啓介も秋名でハチロクに抜かれたのはここ最近だって言っていたんだし、もしそのハチロクに乗ってたのが、親父さんじゃなく拓海だとするならば、今こっちに向かっているハチロクはもしかして…)」
光はそのハチロクに乗っているドライバーが、誰なのか確信したか、目の前のコース場に視線を向けながら、ハチロクが来るのを待つのだった。
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