この意見にはティグルだけでなくリムアリーシャも目を瞠った。
確かにイェーガーの言っていることは味方の少ないティグルにとっては今取れる最大限の行動だからだ。
それにしても・・・。
リムアリーシャはイェーガーを見る。
ずれた発言をしたかと思えば鋭い意見を言う・・・ますますあの方がわからなくなってきました。
「うむ・・・。イェーガー殿、お主のいった通り今のブリューヌは内乱という嵐が起こるのを待っているところじゃ。その中でガヌロン公とテナルディエ公のどちらかにつく者とどちらにも属さぬ者で三つに分かれておる。じゃがうまくいくかは分からぬ。」
マスハスはここで言葉をきりティグルを見つめると再び話しだした。
「今のブリューヌを百としよう。そのうち三十ずつがテナルディエ公爵とガヌロン公爵についておる。わしとティグルはどこにも属さぬ残りの四十の一つじゃ。」
「・・・それだけを聞くと対抗の余地はあると思われますが・・・?」
リムアリーシャがそう言うとマスハスは首を振った。
「四十の内、三十は我が国の騎士団。国の国境を守る者や、王都を守っている者達じゃ。中立の立場をとっておる貴族など十でしかない。」
「十か・・・。国の騎士団ってやつは手を貸してくれないんですか?」
イェーガーがそう言うとマスハスはこういった。
「騎士団はあくまで陛下の直属の兵士じゃ。自らの一存では動けぬ。」
そう聞いてイェーガーは顔をしかめた。
どうやら状況は思っているより悪いらしい。
「じゃがな、ティグル。お主だけは他の貴族とは条件が違うのじゃ。」
重い空気を振り払うようにマスハスが言う。
「お主はジスタートの戦姫殿を味方につけておる。うまくやれば他の貴族達をまとめ第三勢力としてなれるやもしれぬ。―いや、イェーガー殿も味方につけておるからそれ以上のものになるかもしれぬ。」
「・・・それはすごいですね。」
ティグルは生唾を飲み込んだ。
確かにそれだけの力があればテナルディエとも互角に戦えるだろう。
「あくまでなれるかもしれないですよ。」
リムアリーシャが釘をさした。
「そもそもティグルヴルムド卿は我が国に領土を渡した叛逆者です。もしかすると今すぐにでも討伐軍が来るかもしれませんよ」
「いや、リーちゃん。多分すぐには来れないと思うよ。」
否定したのはイェーガーだった。リムアリーシャは説明して欲しいという視線を送った。
「マスハス様の言葉から考えると竜ってのは稀少な存在なんだろ?それを二体も倒した上に三千の兵を壊滅させられたんだ。少なくとも俺なら倍以上の兵を用意するか竜の数を増やすな。その場合は結構時間がかかるはずだ。」
「イェーガー殿・・・あなたはどこかで兵法か何かを学ばれたのか?」
マスハスが尋ねるとイェーガーは笑いながら答えた。
「俺のお師匠様が知識はあって困るものではないって主義でね。軍事関係や俺の世界の知識とかは一通り教えてもらったんだ。」
ま、礼儀作法だけはとんでもなく苦手なんだけどな。
イェーガーは苦笑混じりにそう言った。
「・・・それにティグルヴルムド卿だけにも構ってはいられないと言うことですか。」
リムアリーシャは納得したように呟いた。
「じゃが、悠長に構えている時間はない。ティグルよほかに案はないのか?」
マスハスがそう言うとティグルはこういった。
「国王陛下に書状を送ろうと思います。」
ティグルはそう言った。
その書状はおそらく釈明状となるはずだが・・・?
「その書状は効果があるのですか?」
リムアリーシャが尋ねる。
「効果は薄いだろうが臣下としてやる必要はあるじゃろう。」
「・・・だけどその書状は誰に持たせるんだ?」
「わしが持っていこう。」
マスハスがあっさりとそう言った。
「ま、待ってください。わざわざマスハス卿が・・・。」
「わしはお主と違って他国の兵を引き入れておらぬし宮中にいくつかツテもあるからお主よりは謁見しやすいはずじゃ。」
ためらうティグルを遮りマスハスはそう言った。
しばしの逡巡の後ティグルマスハスに頼むことにした。
その後会議はまずテリトアールを治めるオージェ子爵に協力を頼むことでひとまずのお開きとなった。
客室に戻ったイェーガーは荷物の中に入れてある端末が音を立てている事に気づいた。
通信がつながったのか?
イェーガーは扉を閉めると端末を取り出した。
『・・・輩。きこえ・・・?先・・・』
かなり通信が悪く途切れ途切れだがその声はリム・メリルハルムであった。
「リムか?」
イェーガーがそう尋ねた。
『・・・輩!ご無事・・・・ですね?』
「無事ではあるが・・・どうした?そんなに慌てて。」
『ゲート・・・・・・後閉ま・・・!』
「・・・ゲートが閉まった?」
『・・急事態な・・・ユニットの使用・・・数・・・増加し・・・六体・・・ます!』
途切れ途切れでわかりづらいがユニットは六体使えるようになったらしい。
「わかった。」
『先・・くれぐれも無茶・・・ないで・・・!』
と言うところで通信は途切れウンともスンとも言わなくなった。
「・・・さてさて。厄介になってきたな。」
イェーガーはそう呟くと端末を荷物の中になおした。