魔弾の王と召喚師   作:先導光

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始まりの炎

扉を叩く音でイェーガーは目を覚ました。

 

「旅人さん!早く起きてください!」

「ティッタか・・・?なんだ?こんな朝早くに。」

 

イェーガーは寝ぼけ眼のまま起き上がると服を着て扉を開けた。

そこにははしばみ色の瞳に焦りと怯えの光を写したティッタがいた。

 

「どうした?」

 

ただならぬ気配に気づき眠気が吹っ飛んだイェーガーは尋ねた。

 

「早く森の方にお逃げください!まもなくテナルディエ公爵の軍がここに現れます!」

「何?どういうことだ?テナルディエとは誰だ?」

 

ティッタの言葉を省略するとこうだ。

アルサスはブリューヌ王国とジスタート王国の国境にあり先の戦でアルサスの領主は捕虜となり不在となった。

もしもこの隙にジスタートがアルサスを奪えばそれはブリューヌにとって危機となる。そこで使い物にならないようにするためにアルサス全土を焼き払ってしまおう。

と言うわけだ。

これを考えたテナルディエ公爵はブリューヌで1、2を争う大貴族であった。また、非道な人物としても知られておりブリューヌ国内の貴族はその勢力の大きさからか半分以上はテナルディエ公爵を弾劾できず従う者の方が多かった。

 

「ですから、旅人さんも早くお逃げください!」

「・・・わかった。」

 

イェーガーはそう頷くと町の近くにある森へと逃げ出した。

 

 

「はははは!殺れ!やっちまえ!」

 

町からテナルディエ軍の兵士の声がする。

テナルディエ軍総勢3000は5分程前に町に入り略奪を欲しいままにしていた。

セレスタの住人にかかわらず、アルサスの住人は戦に対する危機感は薄かった。

主要な道はなく山や森がいたるところにあるような土地だからだ。その為かテナルディエ公爵の非道さも領民にはあまり伝わっておらずテナルディエ軍が来ることを深刻に受け止めてなかった。

その所為で今アルサスの住人はテナルディエ軍により蹂躙されていた。

 

《おいおい。本当にほっとくのか?》

 

ヴァルガスが森の中で身を潜めるイェーガーにそう言う。

イェーガーたちはティッタの言葉に従い森の中へと逃げていたのだ。

 

「考えてみろ。今は任務中だぞ。余計な面倒には巻き込まれたくない。」

《そりゃあそうだけど・・・あれは酷すぎないか?》

 

イェーガーは襲われている住人たちを一瞥した。

 

「確かにやりすぎとは思う。が、俺が助けなきゃならん理由がない。」

《・・・そりゃあそうだが。》

「それよりもさっさと行くぞ。見つかったら面倒だ。」

 

イェーガーがまさにそう言った時だった。

 

「おい!隠れている住人が、見つかったぞ!」

 

イェーガーの背後からテナルディエ軍の兵士が叫んだ。

彼らは見つかったのだ。

 

「・・・。」

 

イェーガーは振り向き兵の数を確認する。

大体20人ってとこか・・・。森の中を捜索とは精が出るな。

 

「おい。そこのガキ動くなよ」

 

兵士がそう言って近づいてくる。

 

《イェーガーどうすんだ?》

「・・・逃げる。」

 

イェーガーはぼそりとつぶやくと兵士たちとは逆の方向―すなわちセレスタへと走り出した。

 

「待ちやがれ!」

 

兵士たちも走って追いかけるがそこは装備と地形に助けられた。

大剣を背負ってるとはいえ軽い衣服のイェーガーに対し重厚な鎧を着込んだテナルディエ軍の兵士が森という地形で思うように動けるはずがなかった。

 

「待てと言われても誰も待たないだろうになんでそういうのかな?」

《あー。あれだ。気分。》

「かな?」

 

イェーガーは会話する余裕をみせたままセレスタへと入っていった。

だが、それが冷静に考えれば一番とってはならない選択であった事にすぐに気づく事となった。

それは町の広場に通ずる道に入った時だった。

 

「いたぞ!領民だ!」

 

略奪を楽しんでいたテナルディエ軍はイェーガーに気づき一斉に駆けつけてきた。

 

「げっ。まずった・・・。」

 

イェーガーはそう呟き後ろをチラリと伺うとそこには別の兵士が回り込んでいた。

 

《あーらら・・・。囲まれたな。》

「・・・だな。」

 

イェーガーはそう呟くと大剣に手をかけた。

 

「おいおい坊主!この人数差でやりあう気か?」

 

兵士の一人が挑発するようにそう言った。

 

「やめとけって!怪我するだけだぜ。」

「そうだよ。俺からすればお前は売り物なんだから大人しくしろって。」

「売り物・・・?」

 

その言葉でイェーガーはすべてを悟った。

国の為にアルサスを焼く。と言う名分のもとでこの軍は初めからここの領民をことごとく捕らえ奴隷として売るつもりであると言う目的もあることに。

・・・やってくれるじゃねえか。数は・・・300くらいか。ハンデにもならないな。

熟練した戦士であればイェーガーの異変―静かな闘志と冷酷なまでの殺意がイェーガーから放たれた事に気づいただろう。だが、彼らは未熟すぎた。

 

「・・・どうやらやるしかないようだ。」

「おいおい!やめとけって!坊主!」

「・・・見かけで判断しないほうがいいぞ。」

 

イェーガーはダンデルガを構えた。

 

「どちらにせよ、降りかかる火の粉は払うまでだ。」

 

先頭にいた兵士が大げさにため息をついたかと思うとイェーガーに斬りかかった。

刃がイェーガーを切り裂いたと思った時、兵士の剣は空を切った。

 

「はぁ?」

 

斬りかかった兵は呆けた声でそう言った。そして、それがその兵士の最後の言葉となった。

次の瞬間兵士の首が胴から離れ首を失った身体は音を立てて崩れ落ちた。

一瞬、見ていた兵士たちは何が起こったのか理解できなかったが目の前に無傷で立つイェーガーを見て唐突に理解した。

この少年が剣を振ったのだと。

 

「行くぞ。」

 

イェーガーがそう言った刹那同時に二人の兵が倒れた。

 

「く、クソガキが!」

 

倒れた兵の隣にいた兵士がイェーガーに槍を突き出す。

イェーガーはその槍をたやすくかわすとダンデルガを振り下ろした。

ダンデルガは兵士の兜を簡単に打ち砕き兵士の身体を二つに裂いた。

 

「ひぃぃ!」

「ば、化物だ!」

「助けてくれぇ!」

 

兵たちは口々にそう言って逃げ出す。

 

「助けてくれとは・・・随分都合のいい話だな。」

《・・・やるのはいい。が、加減しろよ。》

 

ヴァルガスはイェーガーがやろうとしている事に気づきそう言った。

問題ない。

イェーガーは心の中でそう返しダンデルガを振り上げた。

 

 

ダンデルガが覇炎剣と呼ばれるのには理由がある。

遥か昔―神々との争いでヴァルガスが使っていたためとも言われるがそうではない。ダンデルガは使用者の意思に応じ燃えるからだ。その理由は諸説あるが有力なのはある鍛冶師が火山で採れる特殊な鉱石を利用した為だというものだ。ヴァルガスは神々との戦いでこの剣の力を使い幾度と無く勝利を収めてきた。

そして今、イェーガーはその力を行使しようとしていた。

くらえ・・・!

 

『永久の炎に焼かれよ!(インフィニティ・ノヴァ)』」

 

イェーガーは炎に包まれた剣を振り下ろした。その動作に呼応して炎は一筋の太い線となり道を逃げていた兵すべてを呑み込んだ。兵たちは瞬く間に消し炭となった。役目を終えた炎は急速に弱まり消えた。

 

「ふう・・・。」

 

イェーガーは息をついた。

勇技(ブレイブ・バースト)』は威力は高いがその分使用者の負担も大きい為乱用は難しいのだ。

一通り片付いたか・・・?

そう思った時、屋敷の方から続々と騎士がやって来るのが見えた。

おいおい・・・勘弁してくれよ。

イェーガーは静かにダンデルガを構えたが攻撃しなかった。

イェーガーに向かっている騎士たちはテナルディエ軍の鎧とは違ったからというのと先頭に立って兵を率いているのがイェーガーと同い年くらいの少女だったからだ。

少女は美しい顔立ちで白銀色の髪を腰まで伸ばしており紅の瞳には凛々しさが輝いていた。そして手にはひと振りの長剣が握られていた。

その背後には副官とも思われるくすんだ赤い髪を短く整えた少年がひかえており手には黒い弓を握っていた。そして、黒い瞳は温和そうな輝きを帯びながらも強い意思も見て取れた。

・・・油断は禁物か。

イェーガーは静かに少女を睨んだ。だが、少女はひるまずイェーガーに近づくとこう尋ねた。

 

「あの炎を放ったのはお前か?」

「・・・だったら何だ?」

 

イェーガーは臨戦態勢を解かずにそう言う。少女は珍しい物を見る目でダンデルガを眺めると後ろの少年に尋ねた。

 

「ティグル。こいつはお前の村の者か?」

「いや、こんな奴見たことがない・・・。」

 

イェーガーはその名に聞き覚えがあった。

 

「あなたがティグルか?」

「え?そうだが・・・?」

「俺は旅人だ。昨日、あなたの屋敷のティッタと言う侍女に助けられたのでな。礼を言う。」

「ティッタが?」

 

ティグルは一瞬不思議そうな表情をしたがすぐに合点がいった顔をした。

 

「お前、名前は?」

 

少女がイェーガーにそう尋ねるとイェーガーはこういった。

 

「あとにしないか?敵は去ってないんだからさ。」

 

少女は一瞬呆気に取られた表情をしたがフッと微笑み同意した。

 

 

イェーガーと謎の一軍はそれからあまり時間をかけずにテナルディエ軍の撃退に成功した。

テナルディエ軍は500の兵を失い近隣のモルザイム平原へと逃げ込んだ。

こうして、イェーガーの物語は本当の意味で始まったのである。

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