UNKNOWN PROTOCOL -デジモンUP外伝- 作:宮塚慶
「はっはっは! どうやら我々は敵の強さを相当見誤っていたようだ」
愉快そうにトリケラモンが言う。
無機質な表情を向けているノアが、少し苛立ちを帯びた声でそれを咎めた。
「トリケラモン、勝てないの?」
「そうだねぇ。こちらの助っ人がデビモンでは心許ないかもしれない」
「……そう」
そんな二人の評を知ってか知らずか、ホログラム粒子によって暴走させられたデビモンが再びティラノモンに迫る。
相手のデスクロウに注意しながら、ティラノモンは応戦の構えをとった。
ヒスイもデジヴァイスをかざして叫ぶ。
「スキルカード発動! 『戦闘は火力!!』!」
ティラノモンが赤いオーラを纏って力を蓄える。
デビモンの技が射程に入るよりも早く、その口内から熱線を放射した。
「ファイアーブレス!」
轟ッ! と音を立てて火柱がデビモンを包み込む。
言葉にならない悲鳴のようなものを漏らしながら、デビモンはその場に倒れ込んだ。
気絶している。まとわりついていたホログラム粒子が舞い散り、それをデジヴァイスの中へと回収した。
ヒスイとティラノモンの勝利。
様子を見ていたトリケラモンが、パチパチと乾いた拍手を送る。
「素晴らしい。見立てどおり、デビモンでは歯が立たなかった」
「余裕ぶってんじゃないよ! 負けたんだから、そっちの目的を話して!」
上から目線で称賛を送る相手をシオンが怒鳴りつけた。
トリケラモンがチラりとノアに視線を送る。
彼女は深い溜め息を吐き出してから、ヒスイとシオンを鋭く睨みつけた。
「あなた達がどうやってこの世界に入ってきたのかは知らないけれど、私はこの世界を在るべき形にするだけ。邪魔しないで」
「在るべき形って……それがデジモンたちをホログラム粒子で暴走させることなの?」
「そう」
困惑するヒスイの言葉に対して、きっぱりと断言するノア。
理解が追いつかない証言に眉をひそめる。
「デジモンは本来戦って進化するもの。私はこの世界を適切に動かしているだけ」
冷たく言い放つ彼女の言葉。
まだ調査を始めて数日しか経っていないヒスイだが、それでもこの世界に住むデジモンを目の当たりにしてきた。
見ず知らずの人間に優しかった彼らを暴走させて争わせることが適切であるはずがない。
呆然とノアの言葉を受け止めている彼女に代わり、シオンが頭を抱えて唸る。
「アンタ、懐古厨か何か? 初期のデジモン設定に忠実なのは分かったけど……」
デジタルモンスター、通称デジモン。
たしかに彼らは、デジタルワールドで生きるバトルモンスターという設定で始まっている。
戦って勝利を繰り返すことで、より強く進化していく弱肉強食の生命体。
なのでノアの解釈自体は間違っていない。
しかし。
「設定ではそうでも、この世界のデジモンたちは優しい良い子だったでしょ! それを無理やり暴れさせるなんておかしい!」
「そうだよ! ボクらは戦いを望んでいるわけじゃない!」
同調してタスクモンも叫んだ。
実際に触れあったデジモンたちは誰もがこの世界で生きている。
優しくしてくれたシェルモンたちの顔がよぎり、シオンは憤る。
だが感情を露わにする彼女の意見も相手には響かない。
「あなた達が納得する必要はない。異物は除去するだけ」
「異物って……この世界を無茶苦茶にするアンタの方が異物じゃない!」
ノアが黙って目線を送ると、トリケラモンが再び歩み出る。
その巨体を構えて一気に駆け出してきた。
ティラノモンとタスクモンが相棒の前に飛び出し、敵の攻撃から守るように臨戦態勢をとる。
が、トリケラモンの矛先は別の場所に向かった。
「トライホーンアタック!」
「グアァッ!?」
敵の三本角が、先ほどティラノモンの攻撃を受けて倒れ込んでいたデビモンへと突き刺さる。
抵抗する力の残っていないデビモンは一瞬にして絶命。
その体はデータの断片となって散っていった。
「嘘、そんなの……!」
デジタルモンスターの死。
はじめて目の当たりにした光景に、ヒスイが口元を抑えて震える。
「スイ!」
よろめく彼女を支えるティラノモン。
同じく驚愕していたシオンが、ノアとトリケラモンに向けて激昂する。
「なんでデビモンを
「彼は我々の作戦に賛同してくれなかったからね。ホログラム粒子を使っても貴君らに敵わなかったのだから、役割は終えた」
「役割って、そんなデジモンをモノみたいに!」
「ホログラム粒子がなくとも、彼は人間にも牙を剥く乱暴な輩だ。始末してあげたことに感謝してほしいぐらいだが」
倫理観の違いすぎる意見にクラクラするシオン。
これ以上対話を続けても相手を理解することはできないと感じていた。
一方、震えながらもヒスイが声を上げ始める。
「ねえ、ノアちゃん」
「……侵入者が気安く名前を呼ばないで」
「この世界のこと、あたしはまだ全然知らないけれど……デジモンたちはみんな楽しそうで、あたしもこの子たちの力になりたいって思えた。明るくて幸せな場所を作る手伝いをしたいって。ノアちゃんもさ、一緒に平和な世界を作ろうよ」
拙い言葉で、精一杯自分の気持ちをぶつけるヒスイ。
「スイちゃん……」
その姿にシオンは過去の記憶を重ねていた。
中学校のクラスで浮いていた自分に、一所懸命話しかけてくるヒスイ。
理屈や打算なんてものはなく、彼女は純粋に信じているのだ。話せば誰もが分かり合えると。
実際にシオンは彼女に絆されて、ヘタクソながらもクラスメイトと付き合っていくようになった。
自分の世界を変えてくれた人。
そんな優しい少女の問いかけも、ノアには決して通じない。
「平和な世界に進化と発展はない。そんなものを私は望まない」
「発展だと? 人間、お前が俺たちの気持ちを代弁するな」
ティラノモンが静かに、しかしドスの効いた声で咎める。
ノアは舌打ちをして対話を拒否した。
「もういい。トリケラモン、やって」
「ああ。だが彼らはそれなりの実力がある。二体同時に相手をするのは、いくら私でも危険かもしれない」
「じゃあ、どうするの?」
トリケラモンがニヤりと笑う。
この場で決着をつけない消極的な意見を進言しているわりには、妙に余裕ぶった態度。
異様な雰囲気を受けて、ヒスイたちにも緊張感が走った。
何か仕掛けてくる。その事実だけはビシビシと伝わってくる。
「彼らもデジヴァイスを持つ者。デジモンと人間が共にいると、先ほど使っていた『愛のばんそうこう』のように打開策を生み出す可能性がある」
「……分かった」
意図を察したらしいノアが短く答えた。
そのままデジヴァイスを操作する。
「何を企んでいるのか知らないけど、やらせないよ!」
タスクモンが前に飛び出す。
突進する彼をトリケラモンが食い止めて、諭すように囁いた。
「今の会話を聞いて、自身の相棒から離れるとは愚かだね」
「何っ!?」
トリケラモンがタスクモンを投げ飛ばす。
筋肉質で重いタスクモンの体を容易く放る姿に、敵の強さが再確認された。
投げ出された体をティラノモンがなんとかキャッチするも、二体揃って後方へと吹き飛んでいく。
「ティラノモン!」
「……スキルカード発動。『フィールドサイクロン』」
タイミングを見計らって、ノアが呟く。
瞬間、辺りに突風が巻き起こった。
周囲に障害物のない開けた山間では風を避ける術がない。
近くにいたヒスイとシオンは咄嗟に互いの手をとったが、体を支えることができずそのまま竜巻に巻き込まれる。
「きゃあああっ!」
「スイ!」
ティラノモンが気づいて呼びかけた時には、既に彼女らは上空へと舞い上がっていた。
そして、風の刃はティラノモン達にも迫る。
「ぐっ! こちらも、飛ばされる……!」
抱えているタスクモン諸共、風に呑まれていった。
風自身が意思を持っているように、ヒスイ達と別の方角へと追いやられていくティラノモン達。
上空では自由に身動きをとることもできず、ただ成すがままに運ばれてしまう。
「し、シオン! シオンー!」
トリケラモンに投げられて軽く意識を失っていたタスクモンも、ようやく目覚めて相棒の名を叫んだ。
その声が虚しく響くのを聞き届けながら、ノアが小さく頷く。
「で、バラバラにしたけど。これからどうするの?」
「守る者のいなくなった人間達は放っておいていいだろう。問題はあちらのデジモンだな」
「始末しに行く?」
「いや。彼らの向かった方角は既にホログラム粒子で制圧済みだ。どのような結果になるか、見届けようじゃないか」
結果を待つだけという選択肢に、ノアは不満そうな表情をした。
それでもそれ以上の反論はせずに、話題を転換する。
「ねえ、トリケラモン」
「なんだい?」
ノアは、ヒスイ達が飛び去った方向へ視線を送りながら疑問を口にした。
「この世界は、
心細さを感じるノアの言葉。
それに、トリケラモンは優しく答える。
「当たり前じゃないか。これはノアのために用意された世界だ」
「うん」
ふっと一呼吸ついて、ノアは静かに頷いた。