UNKNOWN PROTOCOL -デジモンUP外伝-   作:宮塚慶

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Episode.1-4 変容進化ティラノモン

 玉の発光が止んでいく。

 手のひらの上で、光は小さな機械の形にまとまっていった。

 真ん中に液晶があり、スイッチのような小さなボタンがついているだけの無骨な本体。

 その機械をギュッと握りしめ、ヒスイはギルモンと目を合わせる。

 

「ギルモン、これは?」

「それはデジヴァイス。スイ、お前が救世主である証だ」

「証……」

 

 ギルモンがデジヴァイスと呼んだ機械に視線を送る。

 存在感のある金属製の本体、その冷たさがじんわりと伝わってきた。

 ヒスイは素直な感想を呟く。

 

「……どうやって使うの? これ」

「使い方は後にしろ。来るぞ!」

 

 指摘と同時にギルモンが走り出した。ヒスイも急いでそれに続く。

 先ほどまでヒスイたちがいた場所を、オオクワモンが通過していった。

 

「あっぶなー! あんなの当たったら死んじゃうよ!」

「それだけ軽口叩ければ上等だ」

 

 褒めているのか怪しいギルモンの言葉に、ヒスイは頬を膨らませる。

 その合間にも、オオクワモンは旋回して再び襲いかかってきた。

 相手も加速し、今度こそ外すまいと迫ってくる。

 避けるのが間に合わないと判断したギルモンは、ヒスイの前に飛び出して受け身をとった。

 ガッシリと二本角でギルモンを挟み込むオオクワモン。

 

「ギルモン!」

「大丈夫、だ……!」

 

 歯を食いしばり耐えるギルモン。

 口では無事を告げているが、身悶えする姿は明らかに苦しんでいることが分かる。

 ヒスイは何かできないかとデジヴァイスのスイッチを動かしたり、カチャカチャ振ってみる。

 が、特に反応はない。

 

「もう! ピンチなのに使えないじゃん!」

 

 救世主の証だと言われて期待したものの、操作方法の分からないアイテムに頼っている場合ではないようだ。

 ヒスイはその場にあった石を投げつけ、オオクワモンを牽制する。

 

「ギルモンを離せ!」

「馬鹿、やめろ……!」

 

 注意を引き付けたことで、オオクワモンの首がヒスイの方へ向く。

 目のない銀色の甲殻が、しかし確実にヒスイを見下ろしていた。

 その巨体から発せられる威圧感に、思わず一歩後ずさる。

 

「……っ!」

 

 ヒスイは必死に自身の恐怖心を抑え込んで、その足を前へ進めた。

 

「あたしはね! ギルモンやシオンちゃんみたいな、自分を持っている人が好き! だから、そんな素敵な子たちを邪魔する奴は許せないんだ!」

 

 啖呵を切りながら、もう一度投石。

 先ほどよりも大きな石がオオクワモンを直撃するが、やはり無傷。

 それどころか、挟み込んでいたギルモンを投げ捨ててヒスイへの怒りを露わにしていた。

 

「キリリリィッ……!」

 

 オオクワモンが威嚇しながらヒスイのもとへ舞い降りてくる。

 相手は素早い昆虫デジモン。避けるのは間に合わない。かといってあの鋭いハサミは人間のヒスイではとても受け止められない。

 勢いで挑発してみたものの、万事休すか。

 

「あたし、ギルモンを……みんなを守れないの……?」

 

 救世主だったはずなのに。

 悔しさに歯噛みするヒスイ。

 そこで。

 

「えっ!?」

 

 デジヴァイスの液晶が突如光を放った。

 あまりの眩さにオオクワモンが前進を止め、顔を逸らす。

 ヒスイ自身もその輝きに目を奪われながら、それでも直感で何かを理解した。

 

「これは、あたしたちの……」

 

 ヒスイとギルモンの力になるもの。

 確信を持って相棒の名を叫んだ。

 

「ギルモン!」

「ああ。伝わってくる……スイの思いが、力になっていく……!」

 

 ギルモンが雄叫びをあげる。

 

「ギルモン進化!」

 

 バチバチと稲妻のような光が空間を裂いて、ギルモンの体を包み込んだ。

 巨大なエネルギーが収束し、爆発的な力となって放出されていく感覚。

 次の瞬間、ギルモンはより巨大な恐竜へと姿を変える。

 

「ティラノモン!」

 

 成熟期デジモン、ティラノモン。

 ギルモンから進化したそれは、穏やかで優しい目でヒスイを一瞥する。

 そのままキリッと目つきを尖らせると、前方に待ち構えるオオクワモンへと突撃していった。

 

「スラッシュネイル!」

 

 ティラノモンの指先から生える鋭利な爪が、オオクワモンを強襲する。

 ガキンッと金属質の冷たい音が響き渡った。

 しかし、オオクワモンの装甲にはほとんどダメージが入っていない。

 先ほどまでとは違い表面に小さな引っ掻き傷はついたものの、致命傷には至らなかった。

 

「そんな! これでも駄目なの!?」

「まだだ!」

 

 焦るヒスイの声を制して、ティラノモンが吠える。

 羽を広げて再び飛翔しようとするオオクワモンに向けて、思いきり飛び蹴りをお見舞いした。

 

「ダイノキック!」

 

 弾き飛ばされたオオクワモンが地面を滑っていく。周囲の泥を巻き込んで土煙が舞った。

 だが、なおも立ち上がり苛立つ様子を見せるオオクワモン。

 

「何か手はないの!? あたしに出来ること……!」

 

 ヒスイは再びデジヴァイスを操作。使い方が分からず、出鱈目にスイッチを動かす。

 すると、画面に一つのコマンドが表示された。

 何が起きるのかは分からなかったが、出来る事があるなら試すしかない。

 

「ギルモン! じゃなかった、えっと……ティラノモン?」

「なんでもいい! どうした!?」

「ワケ分かんないけど、なんか出来そうなことがあった! 試してもいい!?」

 

 要領を得ない説明に「なんだそれは」とティラノモンがボヤく。

 それでも、ヒスイの言葉に力強く頷いた。

 

「スイのおかげで進化できたんだ。やってみろ!」

「オッケー! コマンド発動!」

 

 ヒスイがデジヴァイスを動かすと、画面から勢いよく光の粒子が飛び出してきた。

 粒子たちは小さな長方形を形作り、彼女の前で色をつけていく。

 

「何これ、カード?」

 

 光が一枚のカードにまとまっていく。

 巫女のような姿をしたキャラクターが、炎で敵を焼き払っているイラスト。

 大きく刻まれたカード名は日本語で、ヒスイにも読むことができる。

 デジヴァイス側面の端子にカードをかざして、名前を叫んだ。

 

「スキルカード発動! 『戦闘は火力!!』!」

 

 瞬間、ティラノモンの体に赤いオーラのようなものが浮かび上がった。

 熱をもったその光を受けて、ティラノモンがグッと前に踏み出す。

 

「行けるッ!」

 

 蹴りつけられて倒れていたオオクワモンが再び立ち上がる。

 そちらに向けて、ギルモンの時より力強く熱い炎を口いっぱいに蓄えるティラノモン。

 力強い溜めの動作を見て、敵が明らかに怯えている。先ほどまでの形勢を覆す一撃だと把握したのかもしれない。

 ヒスイは思わず呟いた。

 

「――撃て!」

「ファイアーブレス!」

 

 轟炎がオオクワモン目掛けて一直線に放たれる。

 あまりの凄まじさに、見守っていたヒスイも堪らず顔を覆った。直視していたら肌を焼きそうなほどの熱が伝わってくる。

 オオクワモンが断末魔をあげた。

 

「ギィィィイッ!」

 

 爆発と共に、彼に付着していたホログラムの粒子が散っていく。

 気絶していたコカブテリモンの体からも粒子が飛び、他に襲撃していた昆虫デジモンたちも総じて熱の中に呑み込まれていった。

 やがて、灼熱のファイアーブレスを撃ち終えたティラノモンが一呼吸つく。

 

「一丁上がりだ」

 

 その言葉で、ようやく敵の襲撃から集落を守り抜いたことを自覚するヒスイ。

 しばらく呆けた後、ゆっくりと安堵の声を漏らした。

 

「あたしたち、やったんだ……!」

 

 ◇

 

 ヒスイとティラノモンの劇的な反撃。

 その様子を、グリーンシェード一帯を見渡せる遥か崖上から眺める影が二つあった。

 一つはデジモン。

 三本角が特徴的な、緑の恐竜の姿をしている。

 そしてもう一つ。

 恐竜の傍らにいるのは人間の少女だった。

 

「何? あの子」

 

 頭に一枚羽の飾りをつけた少女は、つまらなさそうに呟く。

 緑の恐竜は彼女を諭すように穏やかな声で返事をした。

 

「どうやら、何処かから異物が混ざり込んだらしい」

「トリケラモン、始末できる? さっきのデジモンたちは負けちゃったみたいだけど」

 

 心配する少女の言葉に、恐竜――トリケラモンは鼻を鳴らした。

 

「無論だ。それに、あの程度の存在は放っておいても問題ないだろう」

「本当?」

 

 自信を感じさせるトリケラモンに対し、少女は慎重に懸念事項を伝える。

 

「私達の理想郷に異分子が混ざるのは許されない。違う?」

 

 彼女の言葉を聞き、トリケラモンはフッと息を吐いた。

 

「たしかに、成熟期のティラノモンで完全体のオオクワモンを倒したのだ。侮るのはよくないな」

「そう。ああいうのが後で作戦の邪魔をしてくるのは物語の定番」

「ならば、次は戦力を増強しよう」

 

 その返事で満足したのか、少女はこくりと頷くと踵を返して歩き出す。

 トリケラモンもそれに続き、一人と一体は何処かへ去っていった。

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