UNKNOWN PROTOCOL -デジモンUP外伝- 作:宮塚慶
「改めて聞こう。この世界を救うため、力を貸してくれるんじゃな?」
「うん。ティラノモンたちの世界を守る手伝いができるならやってみたい。もしもの時は帰れるのも分かってるしね」
戦いの後ジジモンの家で休息をとり、一夜が明けた。
再び集合した場で覚悟を問われたヒスイは、ティラノモンの方を見て満面の笑みを浮かべる。
その様子にジジモンはホッと胸をなでおろした。
「こればかりはギルモン――もといティラノモンに感謝じゃな」
「別にオレは何もしていない。スイが勝手に言い始めたことだ」
「えー? ティラノモンのために頑張ろうと思ったのに、つれないなあ」
つっけんどんな態度を見せるものの、満更でもなさそうなティラノモン。
その脇腹を小突いて、ヒスイはニヤニヤしている。
「それに、此奴がティラノモンになったことで、キミが救世主であることも確定した。そういう意味でも感謝じゃ」
「ん? どういうこと?」
救世主として思い当たることは一つだけ。
ヒスイはデジヴァイスを取り出して、ジジモンに見せながら問う。
「これが出てきたから?」
「デジヴァイスもそうじゃが……この世界において、進化とは定められたモノなのじゃ」
頭にハテナマークを浮かべるヒスイ。
そもそもギルモンの姿が突然変化したことが不思議だった。その進化と呼ばれる現象自体よく分からない。
それについては、話を聞いていたアグモン博士とテリアモン助手が続けざまに解説してくれた。
「ボクたちデジモンは進化することで強くなるんだギャ!」
「変わる姿は決まっていて、アグモンならグレイモンに、テリアモンならガルゴモンになるんだよー」
グレイモンもガルゴモンも知らないが、先ほどのティラノモンのような変化が起きるのだろう。それだけは何とか理解する。
とはいえ、まだまだ知らないことだらけ。ヒスイは「ふーん」と気の抜けた生返事をした。
二体の説明を受けて、ジジモンも続ける。
「そしてギルモンは、本来グラウモンになるんじゃよ」
「グラウモン? ティラノモンじゃなくて?」
ティラノモンが頷く。
「そうだ。オレも自分はグラウモンになるものだと思っていた」
「じゃあ、本当はティラノモンにはならないんだ?」
「そんなあり得ない進化を引き起こすのが、運命に抗う救世主――アンノウンプロトコルの力なのじゃ!」
「あんのう……? 何?」
デジヴァイス。ホログラム粒子。進化。そしてアンノウンプロトコル。
次々に知らない単語を投げかけられ、ヒスイは目が回りそうだった。
混乱する彼女を見て、ジジモンはコホンと咳払いをする。
「とにかく、キミがギルモンをティラノモンに進化させたことで、救世主である証明ができたのじゃ」
「分かんないことだらけだけど……一つだけ言えるのは、あたしにはティラノモンを手助けする力があったってことだよね?」
「そうじゃ。彼のこと、そしてこの世界のことをよろしく頼んだぞ」
その言葉に、身が引き締まる思いのヒスイ。
背筋を伸ばして頷くと、ジジモンはさっそく次なる目標を掲げる。
「さて。そんな救世主様には、まずは各地の異変調査をお願いしたい。凶暴化するデジモンを鎮めて、ホログラム粒子を回収してほしいのじゃ」
凶暴化と聞いて部屋の隅に視線を向けると、コカブテリモンたちの姿がそこにある。
ホログラム粒子を取り除いて正気に戻った彼らには、戦闘時の記憶が残っていないらしい。
それでも故郷であるグリーンシェードの集落を襲ったことを反省し、今も沈痛な面持ちをしている……はず。
複眼の顔からは表情が読み取れないが、コカブテリモンは絞り出すように声を発した。
「本当に面目ない」
「いいっていいって。悪気があったわけじゃないんだからさ」
「いや、隙があったから敵につけ込まれたんだ。少しは反省しろ」
友人が故なのか、辛辣な言葉をかけるティラノモン。
しょんぼりするコカブテリモンたちに対して、アグモン博士がフォローを入れる。
「とはいえ、悪いことばかりじゃないギャ!」
「へ?」
「回収したホログラム粒子を解析したけど、これを集めれば色々良いこともあるみたいだよー?」
テリアモン助手も、のんびりした口調でそう言う。
部屋に置かれた円柱型の大きな機械から、アグモン博士が何かを取り出してヒスイに手渡した。
「何これ? ゴーグル?」
「ホログラム粒子は様々な情報データが散ってしまったモノみたいだギャ。それをこのホログラム装置で復元すると、元の姿を取り戻すというワケだギャ」
「へぇー、ありがとう。……ゴーグルなんて貰っても困るけど」
「せっかくだからつけてみてよ! 主人公っぽいと思うよー」
テリアモン助手に言われるがまま、頭にゴーグルをつけるヒスイ。
姿見で容姿をチェックして、一回りしてVサインを決めてみせる。
「うん! 案外似合うじゃん、あたし!」
「なんで自信満々なんだギャ?」
呆れ顔のアグモン博士をスルーして、ヒスイは頬を叩いて気合を入れた。
この世界の色々な場所に赴くのが、純粋に楽しみな気持ちもある。
「よーし! じゃあ、さっそく異変調査に行ってみますか!」
「お願いするのじゃ。まずは近場であるカイノネ海岸という場所に向かってほしい。そこなんじゃが――」
◇
この世界は大きな一つの島になっている。
各エリアも地続きだが、ジジモンが移動用のポータルを開くことができるため、基本的にはワープですぐさま現場に急行できるようだ。
おかげで、目的地であるカイノネ海岸にもすぐ辿り着いた。
「おぉー! 海だー!」
ポータルの出口は砂浜。
いきなり眼前に広がる波打ち際を見て、ヒスイは目を輝かせる。
「おい、スイ。はしゃいでないで周囲を警戒しろ」
「うぅ。せっかく夏に海まで来たんだから泳ぎたいよ」
「知らん。行くぞ」
今にも海へ飛び込んでいきそうな彼女を制して、ティラノモンは歩き出す。
置いていかれてはいけないとヒスイも慌てて後を追った。
「ティラノモンはずっと肩肘張ってるけど、疲れない?」
「それぐらいこの世界は危険なんだ。スイだってオオクワモンと戦って実感しただろ」
「そりゃそうなんだけどさ。たまにはリラックスするのも大事だよ」
「お前は危機感が無さすぎる……」
警戒を怠らず、自分の考えを貫き通すティラノモン。
そんな彼だからこそヒスイは手伝ってあげたいと思ったのだが、常に緊張感を持つ姿に心配も覚える。
それは、過去の自分を見ているかのようだったから。
「ティラノモンは集落やこの世界を守りたいんだよね?」
「当たり前だ、一刻も早く今の状況を打開しないと。既に壊滅した村だってある」
「……でも、一人で抱えられるものには限度があるからさ。全部が嫌になる前に、息抜きした方がいいよ」
一瞬、彼女の表情に影が差したように見えた。
明るく能天気に見えるヒスイの変化に、ティラノモンは言い返す言葉が思い浮かばず黙ってしまう。
が、彼女はすぐにいつもの笑顔を取り戻すと
「だからさ、あーいうところでひと息つこうよ!」
そう言って、前方にある一軒の建物を指差した。
数秒の間があって、ヒスイ自身が二度見する。
「って、あれ何!? 海の家!?」
藁の屋根が印象的な木造の建物。その手前にはテーブルとイスが並べられ、ビーチパラソルで日を遮っている。
紛うことなき海の家だった。
頭の中を整理するように、ゆっくりと問いかけるヒスイ。
「デジモンの世界にも海の家ってあるものなの?」
「ああした店はある。だが流石に今は危険すぎて営業できていないだろう」
「でもさ、あの店……開いてない?」
「……開いてるな」
海の家からは濛々と湯気が立ち込め、ガヤガヤとした喧騒が聞こえてくる。
ヒスイとティラノモンのもとにも、風に乗って何やら料理の良い香りが漂ってきた。
「こ、これも調査だよね! ティラノモン、行ってみよう!」
「スイ。お前、腹減っただけだろ」
小言を言いながら海の家へ近づいていく。
店を覗いてみると、やはり中は営業中だった。デジモンたちが席に座って食事を楽しんでいる。
テーブルに置かれているのはラーメンやカレー、焼きそば、かき氷など。
人間世界と遜色のない料理の数々に、ヒスイは思わずよだれを垂らした。
そして。
「いらっしゃいませー! 何名様で……って、あれ?」
パタパタと駆け回っていた店員らしき存在が、二人に声をかけてきた。
その店員は、ヒスイの姿を見て目を丸くする。
そしてヒスイもまた、口をあんぐり開けて店員を見つめていた。
無言の両者に目を配り、ティラノモンが首をかしげる。
しばらく呆然としてから、二人は互いに大声をあげた。
「シオンちゃん!?」
「スイちゃーん!」
海の家で働いていたのは人間の少女。
ヒスイの友人であり、彼女が『デジモンUP』を始めるきっかけとなったデジモン好き――
突然の再会。
――海の家には似つかわしくない、水色の鮮やかなメイド服を着込んだ姿の友人と。
「……何その恰好?」