UNKNOWN PROTOCOL -デジモンUP外伝- 作:宮塚慶
「シオンちゃんもこっちに来てたんだ」
「そうなんだよ! こんな素晴らしい光景が現実に見られるなんて、人生に感謝だねー!」
海の家のテーブルを囲んで、ヒスイたちは再会を喜んでいた。
と言っても、シオンはヒスイではなくティラノモンの方に夢中で、ペタペタ触って実感を確かめている。
当のティラノモンが苦い顔をしているのもお構いなし。
デジモン好きならこういう反応になるのか、とヒスイは謎に感心していた。
「それにしてもその、アンノウンプロトコル? っていうのでスイちゃんはギルモンをティラノモンに進化させたのか」
「させたというか、勝手にそうなったというか……」
ヒスイは昨日デジタルワールドに召喚されてから此処に来るまでの情報を一通り説明した。
まだまだ理解できていないことが多いため拙い話だったが、シオンはあっと言う間に現状を把握。
その飲み込みの早さに、話した当人が驚いてしまう。
「別にギルモンがティラノモンになるのなんて珍しくないと思うけど、この世界は違うんだなー」
「そうなの?」
「作品にもよるけどさ。進化先がグラウモンだけってことの方が珍しいんじゃない?」
「へぇー」
こうして、これまでの知識に基づいた所感まで教えてくれる。
ヒスイには何が正しいのか分からないが、とりあえず感心しておく。
「ま、ウチも最初は目の前に本物のデジモンがいたからビビったけど。デジタルワールドのピンチに人間を召喚したって言うなら大体分かったよ。お決まりだし」
「そういうものなんだ」
あまりにもあっけらかんと語るシオン。
「こうして召喚されたってことは、ウチも救世主ってことか」
「ジジモンは候補の人間を手当たり次第呼び出したらしいけど……シオンちゃんはデジモンに詳しいし、適性はありそう」
このカイノネ海岸に来る際、ジジモンにあらかじめ言われた事を思い出す。
「まずは近場であるカイノネ海岸という場所に向かってほしい。そこなんじゃが、ワシが召喚した人間が一人辿り着いているはずじゃ。見つけ次第、保護してほしい」
「え? 他の場所に呼んじゃったの?」
「……失敗したのじゃ」
どうやら数名の人間を呼び出したものの、召喚場所が散ってしまったとのこと。
ジジモンの家に直接召喚されたヒスイはかなり運が良かった方らしい。
危険な世界に放り出すなんてとんでもないヤツだ……と責めたい気持ちを一旦抑えて、ヒスイは漂流した人間を探すことになった。
そして、実際にシオンがいた。ジジモンに呼ばれた存在なのはほぼ間違いない。
当のシオンは、自分の隣に座っている黄色いアルマジロ――アルマジモンに視線を向ける。
「じゃあウチのパートナーはこの子かも。『デジモンUP』を起動した時に選んだのもアルマジモンだったし」
「ボクもシオンが相棒なら嬉しいー!」
ニコニコした顔で彼女に答えるアルマジモン。
こちらはティラノモンと違って随分と素直な性格のようだ。デジモンにも色々いるんだと改めて納得する。
「あ、シオンちゃんはデジモン選ぶところまで遊んだんだ」
「ん? スイちゃんもアプリをダウンロードしたんだよね?」
「うん。でも始めてすぐに光に包まれてこっちに来ちゃったから、まだ何もしてなかったんだよ」
どうやら、ジジモンに召喚されたと言ってもタイミングは様々らしい。
ヒスイは海の家で注文したメロンソーダを飲みながら、疑問を口にする。
「パートナーに選んだってことは、シオンちゃんはアルマジモンが好きなの?」
「いや、究極体がヴァイクモンなのか確認したかっただけ」
「究極? ヴァイク?」
「ふふーん。この世界に来たんだから、スイちゃんにもデジモン知識をつけてもらわないといかんなあ」
冗談めかして言うシオンに対して「たしかに」と頷くヒスイ。
デジタルワールドに来てから、ヒスイは見たこともないモンスターや知らない単語に振り回されがちだ。
一方で、デジモンに詳しいシオンの反応は堂々としたもの。
彼女もデジモンが実在したことに驚いたはずだが、知識があれば困惑することは少なくなるのだろう。
「それで? スイちゃんはこれからどーすんの?」
「ティラノモンと一緒に世界の異変を調査するよ。終業式には出られないだろうけど、その後は夏休みだから時間いっぱいあるし」
「お、同感。お父さんたちは心配するだろうけどね。あ、ウチの場合は羨ましがられるか?」
その言葉でヒスイは今さら家族が心配する可能性に思い当たった。
シオンは父親の影響でデジモンを好きになった少女だ。であれば、この世界を旅したことも受け入れてくれるかもしれない。
でも、自分の場合はどうだろう?
あまり良好な仲とは言えない両親のことを考えて、ヒスイは苦笑する。
「案外、あたしがいなくなっても心配してないかも」
「えー? スイちゃん家ってそんな感じ?」
「うーん。別に悪い人たちじゃないんだけど」
答えを濁しつつ話題を変えるヒスイ。
「そういえば、シオンちゃんはなんでメイド服で働いてたの?」
「服装は知らない。起きたら最初からこれだったよ」
「あ。あたしも来た時に服変わってたし、それかも」
人間がデジタルワールドに来る時、思い描いた格好がインストールされることがあるとテリアモン助手が言っていた。
それにしても、何故メイド服なのか。
シオンの趣味趣向は男の子に近い印象だった。デジモンが好きなのもその一端。
なので、彼女がメイド服姿を望んでいたようには思えない。
……が、似合っているから別にいいかとヒスイは思考を中断。
「服装が変わるとか、02みたいだ」
「ぜろつー……?」
「いや気にしないで。それで、ウチは海の家の前で目覚めて、アルマジモンに助けられたんだ。話を聞いたら、暴れているデジモンが多くて店を開けられないのが悩みだって言うから」
「元々ボクたちはこの店で働いてたんだけど、最近はいつ襲われるかも分からない状況だったんだよー」
アルマジモンが困ったような顔をする。
これも凶暴化したデジモンによる影響なのだろう。
「でも立派な建物だし、やってないなんて勿体ないじゃん? ウチが手伝うから営業してみないかって提案したんだ」
「シオンってば結構強引だったんだけど、すごく熱心に言ってくれるから皆もやる気になっていったんだよー!」
「だって、デジモンのお店なんて楽しそうだし」
力こぶを作って助っ人としてアピールするシオン。細い腕に筋肉は見られなかったが、それはそれ。
アルマジモンをはじめとする店員のデジモンたちも、たった一日でシオンのことをすっかり信頼している様子だった。
「なんというか……シオンちゃん、学校にいる時より元気だね」
「んふふー。そりゃあデジモンに会えたからね! 我ながら浮かれちゃってるよー!」
そう言って、シオンはアルマジモンの頭を撫でる。
シオンは我が道を行く不屈の精神を持つ少女。
周りに流されない。自分の好きなものが好き。
それ故に周囲から浮くことも多いし、強引なところもあるが……それでもヒスイは、そんなシオンを格好良いと思っている。
「さて、ウチが救世主かはともかく。一度ジジモンに会った方がいい感じ?」
「うん。人間を見つけたら保護するように言われてたし」
シオンは頷いて、アルマジモンや厨房で働くデジモンたちに視線を送る。
「じゃあ、一度ジジモンのところに行くか。すぐに戻るとは思うけど、お店任せて大丈夫ー?」
そんなコンビニに出かけるような声掛けで大丈夫なんだろうか、とヒスイは様子を眺める。
心配を他所に、厨房からは威勢のよい声が返ってきた。
「はいよー! せっかくシオンちゃんにやる気を貰ったんだ。私たちだけでもやってみせるよ!」
「ありがと、シェルモン!」
暖簾の向こうから顔を覗かせたのは、貝殻に下半身をしまい込んでいるピンク肌の巨大なヤドカリだった。
シオンの口ぶりから、シェルモンというデジモンだと分かる。
さらに、店内で働くサンゴ礁を被ったようなデジモンや、カニの姿をしたデジモンも同意の声をあげた。
「そうだ。アルマジモンは、シオンの護衛をしてやりな」
「え? シェルモン、お店大丈夫なのー?」
「当たり前だよ! その代わり、シオンをちゃんと守るんだよ」
「うん! 任せて!」
シェルモンは、アルマジモンを護衛としてつけてくれる。
その提案にシオンは喜び、アルマジモンの頭を撫でた。
くすぐったそうに笑うアルマジモンとのやりとりはとても平和で、ヒスイは最初にグリーンシェードへやってきた時のことを思い出す。
一見平和に見えても、敵襲があればすぐに戦況が変わってしまう。
そうならないためにも、調査を進めないと。
「早速、ちょっくら行ってみますか! 召喚されてジジモンに会うってのもデジワーみたいで面白そうだし!」
「デジワー……? とにかく、行こっか」
意気込むシオンと共に立ち上がるヒスイたち。
シェルモンをはじめとする店のデジモンに手を振り、店を後にする。
目指すはジジモンが開いてくれたゲート。その先のグリーンシェード集落だ。
海岸沿いを進む道すがら、ヒスイはふと気づく。
「あ。そういえば御代……」
「大丈夫、ウチが昨日と今日働いた分でチャラにしてくれてるから」
シオンのアルバイト代で支払われていたらしい。
それはそれで奢りになったということで、なんだか申し訳ない気持ちになる。
が、さっぱりとした態度のシオンがケラケラ笑うので、ヒスイは半ば押し切られるようにしてゴチになったのだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて。御馳走様です」
「へーい。スイちゃんには世話になってるから、お返しだと思っといて」
頼もしい友人に、ヒスイもニコりと頷くのだった。