UNKNOWN PROTOCOL -デジモンUP外伝- 作:宮塚慶
ゲートによって瞬時にグリーンシェードの集落へと戻ってきたヒスイたち。
周囲のあらゆる物に興味津々のシオンが脇道に逸れないよう何とか引っ張って、ジジモンの家へ向かう。
「ただいまー、ジジモン」
「おう戻ったか! ということはキミが……?」
「うわあー! 本物のジジモンだあ!」
ヒスイが紹介する間もなく、ジジモンの姿を見たシオンは彼の下に詰め寄り、そのまま白い毛をごわごわと触りまくる。
その度によく分からない感嘆の声を漏らしていた。
スキンシップの激しい彼女の行動に困惑するジジモン。
「えぇと、ヒスイ。この子を止めてくれんか?」
「シオンちゃんはこうなると止まらないから……諦めて」
「えぇ……?」
成す術なくジジモンが捏ね繰り回されること数分。
ようやく満足したらしいシオンがヒスイの方へ振り返る。
「で、なんだっけ?」
「じゃあ改めて紹介するね。この子は桂木シオンちゃん。あたしの同級生で、カイノネ海岸で再会したので多分ジジモンが召喚した人間だと思う」
「ふむ。よくぞ連れて来てくれた!」
紹介されたシオンがグッと胸を張った。
何に対して自慢げなのかは不明だが、ヒスイは笑顔のまま受け流している。
コホン、と咳払いしてからジジモンが説明を始めた。
「急に呼び出してすまない。キミをこの世界に呼んだのはわしじゃ」
「おー。本当にデジワーみたいな導入だ」
「……? とにかく、この崩壊しかけている世界を救うためキミに協力してほしいのじゃ」
「オッケー」
「まずは話を聞いて……え、いいのかの?」
断られる前提で進めていたジジモンが、話の腰を折られて困惑している。
シオンはあっさり頷いた。
「色んなデジモンに会えるんだし、むしろ喜んで受けるって感じ」
「流石シオンちゃん。デジモン大好きだもんね」
「新作アプリ遊ぼうとしたら本物のデジタルワールドに来れるなんて、マジでラッキーだもん!」
喜び勇んでいるシオン。
あまりにもスムーズな流れからか、ジジモンの方が懸念の声を漏らす。
「う、受けてくれるのはありがたいのじゃが……ヒスイも含めて、改めて世界の状況を伝えさせてほしい」
大まかな現状は既に聞かされているが、改めておさらいするらしい。
デジモンに詳しいシオンの視点でしか分からないこともあるはずと、ヒスイが頷いた。
彼女の隣で、テーマパークのアテンドを待つようにシオンが笑顔を見せている。
「現在、この世界では謎の凶暴化現象が頻発しておる」
「デジモンの暴走ね。原因はテンペスト? 異構築?」
「その言葉はよく分からんが……凶暴化したデジモンにはホログラムの粒子が付着しており、それを取り除くと正常化することから、原因に関与しているというのがわしらの予測じゃ」
原因を究明できているわけではなく、あくまでも予測に過ぎない。
頼りない解説だが、それでもジジモンの言葉から彼女たちが何をすればいいのかは明白だ。
以前に言われたことを復唱するように、ヒスイも補足説明をする。
「だから、各地を調査して暴走デジモンを発見。その子からホログラム粒子を回収するんだよね?」
「そうじゃ。ホログラム粒子は相手を気絶させないと取り除くことができない。戦いは避けられない危険な旅になるが……シオンと言ったか。改めて、やってくれるんじゃな?」
その言葉に、うきうきした顔のシオンが大きく同意する。
「もちろん! ウチに任せておきな!」
「頼もしい限りじゃが……キミはデジヴァイスを持っておるか? パートナーは?」
力強く快諾したものの、シオンが救世主であるという証明はまだされていない。
一応、パートナーの可能性がある子はいる。彼女は此処まで付いてきてくれたアルマジモンへ顔を向けた。
「この世界に来る前『デジモンUP』でアルマジモンを選んだんだけど、この子がウチのパートナーだったりする?」
「それはわしには分からん。真の救世主であれば、自ずと相棒に巡り合うはずじゃが……」
「あたしとティラノモンも、互いに惹かれ合ったってこと?」
救世主は相棒と巡り合うもの。初めて聞いた説明にヒスイの方も興味を持つ。
ティラノモンを見ながら照れくさそうに笑うが、相棒はフンと鼻を鳴らしただけだった。
「そのアルマジモンがパートナーならば、いずれデジヴァイスが現れるじゃろう。ヒスイと共に旅をして、見つけ出してほしい」
「了解! はやくパートナーになれるといいね、アルマジモン!」
「うん! ボクもシオンがテイマーになったらいいなーと思ってるよー!」
相変わらず決断の早いシオンと、それに同調する素直なアルマジモン。
世界の危機に対して楽観的な雰囲気なので、それはそれで大丈夫なのかとヒスイは心配になった。
そんな心境を見越してか、シオンは真剣な表情を作ってジジモンへ問いかける。
「で、ジジモン。やるからにはもう少し詳しく知りたい。ホログラム粒子っていうのは勝手に付着する感じ?」
ホログラム粒子でデジモンが暴走するとは聞いていたが、きっかけについてはヒスイも聞いてなかった。
流石シオンちゃん、と心の中で友人を称賛する。
「ふむ。回復したコカブテリモンたちにも話を聞いたのじゃが、凶暴化直前の記憶が欠落しているようでのぉ」
どうやらこの質問は不発。
何故暴走が起きるのか不明な以上、対策の取りようもない。
そういう意味でも、この世界の危機はかなり根深いと分かる。
「詳細は不明か。暴走する理由も分からないの?」
「回収したホログラム粒子の解析は進んでおる。あれは本来、様々なデータが記録された情報の欠片なのじゃ」
「そうだった。ここにあるホログラム装置で情報を実体化したら、これが出てきたんだよ」
言いながら、ヒスイが頭のゴーグルを指差す。
シオンが「それ、主人公っぽいよね」と一言呟いたが、ヒスイは首を傾げる。
ゴーグルが特別主人公感あるとは思わないが、これもデジモンファンの視点なのだろうか。
「あくまでも予想に過ぎんが、ホログラムがデジモンに侵入した際、異なるデータがぶつかりあって暴走するのではないかと睨んでおる」
「バグっちゃうってワケか。なるほどね」
ジジモンの仮説を聞いて納得するシオン。
やはり話が早い。ヒスイは半分ぐらいしか理解していないものの、ここは頼りがいある友人に任せておいた。
「どっちにしろ、今は暴走しているデジモンを見つけて助けるしかないか」
「わしらも解析は進めているんじゃが……しばらくは手当たり次第になってしまう。すまんの」
「大丈夫。おかげで色んなところへ調査に行けるんでしょ? 楽しみだ」
グッと気合を入れるシオン。
色んな場所でデジモンたちと出会えるという喜びもあり、少々浮かれ気味である。
とはいえ、引き受けたことにジジモンも安堵していた。
「じゃ、戻ってシェルモンに報告しないと」
「そうだったー。調査に参加するなら、海の家はもう手伝えないねー」
「それに、あの周辺には凶暴化したデジモンがいる。だから営業できなかったんだし、対策してあげないと」
「うん! シオン、一緒にがんばろー!」
シオンとアルマジモンは、カイノネ海岸の暴走デジモンを探すつもりのようだ。
まだ二人がパートナーだと決まったわけではない。にも関わらず物凄いやる気だった。
逆に、戦える側であるヒスイの方が遅れをとってしまう。
「大丈夫かな?」
「いざとなれば俺たちでやるしかないぞ、スイ」
「うん。シオンちゃんも守ってあげないとね」
「ああ、任せておけ」
頼もしいティラノモンの言葉に、ヒスイも覚悟を決めた。
◇
そうして、ヒスイたちは再びカイノネ海岸へと舞い戻る。
調査が始まれば、しばらく此処に来ることもなくなるだろう。
お世話になったシェルモンへの別れを告げることになるが、シオンは変わらず浮かれた様子だった。
「ねえ、海の家の様子変じゃない?」
海岸沿いを歩く中、ヒスイが何かに気がついた。
それを聞いて全員が海の家を凝視する。
その時。
「グルルルアァッ……!」
絞り出すような雄叫びと共に、海の家から砂煙が舞った。
続いて、店員であるデジモンたちが慌てて飛び出してくる。
明らかに何か異常が起きている。シオンとアルマジモンが真っ先に走り出し、ヒスイとティラノモンも急いで続いた。
「サンゴモン! ガニモン! 何があったの!?」
逃げ惑う店員デジモンたちに声をかけるシオン。
向こうも顔見知りの姿を見て安心したのか、一瞬表情を緩ませた。が、すぐに慌てて海の家の中を指し示す。
「大変なんだシオン! シェルモンが……!」
「シェルモンがどうしたの!?」
まさか、自分が少し抜けた間に凶暴化したデジモンにやられてしまったのでは。
嫌な予感にシオンが顔を引きつらせる。
しかし、状況はそれよりも最悪なものだった。
「グルルルゥ……」
店内を破壊しながら、喉を鳴らして這い出てきたのは。
――暴走したシェルモン本人だった。