「ねぇっ、早く行こっ!」
「フフ、待ってください、廊下は走ってはいけませんよ」
「そっ、そうね!正実に行くんだもの、きちんとしなきゃ!」
待ちに待った放課後がやって来ました。
コハルに手を引かれ、教室を飛び出る様に退室します。
うーむ、余り身体的接触を行わないで貰いたい、ドキドキしてしまいます…恐らく、彼女は無意識でしょうが。
フフフ、しかしコハルは授業でもそわそわして集中出来ていなかった様で。
楽しみにするのは結構ですが、勉学にも励んでいただかなくてはいけませんねぇ。
私は真面目なので、全教科オールOKです。
「…ねぇ、ルーシーは何で正実に入りたいって思ったの?」
トリニティ総合学園が広大な分、部活見学の場までの距離も遠い。
その道程に、コハルはおもむろにそんなことを尋ねて来ました。
「そうですねぇ、どこから話したものか…」
話を渋る理由もありません、私はつらつらと語り始めました。
「私が中学2年生の頃、家族に黙ってこのトリニティに訪れた事がありまして…トリニティ限定のスイーツを買う為でしたかね」
「え、えぇー…確かにここらのスイーツは美味しいけど…」
「好物なんですよ、あの時は短慮でしたね…しかしその際にスケバンの争いに巻き込まれてしまい———」
そう、あれはよく晴れた日の事でした。
サングラスにフード、当時は体格もそこまで成長しておらず、周囲と溶け込む事はできていたものの、運悪くスケバン同士の対立に巻き込まれ、退避も叶わず戦場のど真ん中に取り残されてしまったのです。
当時の私は臆病で、物陰に隠れてやり過ごすしかありませんでした。
しかし、その時、正義実現委員会が現着し、その状況を完璧に収めてしまったのです!
あれは本当に凄かった、外に出る機会が少なく、詳しく知る事も叶わなかったあの時分、本の中のヒーローに慣れ親しんでいた私からすれば、彼らこそがヒーローだったのです。
規律、連携、チームワーク、正実のメンバー達がまるで一つの生き物の様に敵を掃討していく様は、圧巻の一言。
そして、鎮圧の最中に手を差し伸べてくれたあのお方、その方こそが私の憧れです。
ただ、「怪我はないですか」とだけ聞いて、私を安全な場所まで運んでくれた。
その背中が、どうしようもなく眩しかったのです。
本の中にしかいないと思っていた正義が、そこに立っていた。
名前を聞きそびれてしまいましたのが本当に惜しいですが、特徴は覚えているのが幸いです。
「確か、抜きん出た高身長で、ロングヘア…お礼にスイーツを渡した時に大層喜んでいましたね、卒業していないと嬉しいのですが…」
「きっと会えるわよ!」
「フフ、そうですねぇ」
居れば良いですねぇ…あの時から実に2年が経過している、在籍している可能性は低い。
ここだけの話、あの時の礼も兼ねてスイーツを持参してあります。
あの方は相当なスイーツ好きと睨んでおります、2年前に渡した時は、目を輝かせておりました。
もし卒業してしまっているならば、委員長か副委員長にお渡しするとしましょうか。
「コハルは何故正実に入ろうと?」
一通り話した私は、コハルに質問を投げ掛けます。
彼女は少し口籠っていましたが、直ぐに口を開きました。
「わ、私もルーシーと同じ…ほ、本を買いに行ってた時に揉め事に巻き込まれて、助けてもらったの…それで格好よくて…」
「えぇ、分かります…カッコいいですよね」
「そうよねっ!?そう思うよね!?」
やはりコハルとは気が合いますね。
彼女は先程も本について述べていました、読書が好きなのでしょうか。
はやる彼女と共に談笑しながら道を歩いていると、なになら前方から諍いか何かが起きていました。
「…おや?」
道の真ん中で何を話しているのでしょうか。
ですが、どうやら一人に対して詰め寄る二人組、あまりよく無い雰囲気だと察せられます。
「ねぇ、何とか言ったらどうです?」
「居るんですよねぇ、礼儀のなってない子って」
「あ、あの、その、ご、ごめ…」
そこにはセーラー服に身を包み、苛立った様子の二人の生徒と、彼女らよりも一回り小さい、星のヘアアクセサリを身に付けた生徒。
やはり揉め事を起こしている様です。
冷や汗を流して、所在無く俯いている彼女を見ると、じっと見ている事は出来ませんでした。
「どうしましたか?御三方」
「ル、ルーシー…!あ、危ないんじゃ…!」
コハルが後ろから服を摘んで静止して来ます。
えぇ、お節介という事は分かっていますとも。
しかし見捨てる様な真似は出来ますまい。
あの憧れの先輩だって、そうするでしょうから。
「…男子?」
「あれじゃありません?噂の…」
彼らの間に立つと、件の二人は不機嫌そうに私を見上げていました。
彼女らは警戒の色を交えて、私の足から頭まで視線を滑らします。
「何の用です?私達はそこの一年とお話ししているのですが」
「いえ、何か困っている様子でしたので、この方も随分怯えている様ですし」
背後を見やると、不安そうにこちらを見上げるコハルと、星を身に付けた少女。
コハルはともかく、少女の方は少々顔が青い、これでは冷静に話す事も出来ないでしょう。
どうしたものかと考えを巡らせていると、2人のうちの片割れが大きな溜息を吐きながら口を開きました。
「そこの子が私にぶつかって来たんですよ、なのに謝罪も無しにオドオドあたふたしているだけ、生意気ではありませんこと?」
「本当ですか?」
もう一度その子の方へ振り返ります。
するとハッとした様な表情を浮かべ、言葉に詰まりながらも謝罪を口にしました。
「あ、その、は、はい…ぶ、ぶつかってごめんなさい!」
「…本人もこう申している事ですし、彼女も入学初日…粗相を許してあげて頂きたい…私からもお願いです」
きっと緊張していたのでしょう、注意散漫になって他人とぶつかってしまったのだと思います。
しかし今、頭を下げて謝罪をした。
元来から素直で優しいお方なのでしょう、少し恥ずかしがり屋なだけで。
これで許して頂きたいですが、やはりと言うべきか。
二人の表情に険は取れていませんでした。
「はぁ?それで腹の虫が収まるとでも?その気持ちがあるならばそれなりと『誠意』というものを———」
「やめましょう、私たちも暇ではありません」
彼女達から不穏な雰囲気が漂いますが、片割れが息を一つ吐いて静止します。
そして踵を返し、私達から離れて行きました。
「それに男子に関わって何か揉め事を起こす方が問題ですわ」
…やはり、私と言う存在は敬遠されているのでしょうか。
このトリニティならいつの日か、それは無くなる。
そう思えば、気は楽になります。
「———ですが…」
瞬間、彼女らの一人がこちらに振り返ります。
私は目を見開きました。
その手には、純白のハンドガン。
「
「っひ…!」
銃口の向き先には、背後の少女。
これは、いけない。
「…ッ!!」
「ルっ、ルーシー!」
乾いた銃声。
コハルの甲高い悲鳴の様な呼号。
えぇ、問題はありませんとも。
「お止めになってください、これ以上は冗談では済みません」
「チッ…普通じゃありませんわ」
銃弾は私が伸ばした掌に阻まれ、手から滑り落ちてカランと音を立てました。
私は動体視力も良い方です、後ろの少女に当たらぬ様に掌を盾にするなど造作も無い。
二人の生徒は短く舌打ちをするとそれ以上は何も言わず、振り返ること無く去っていきました。
「だ、大丈夫…?ルーシー…」
「えぇ、問題はありません、身体は頑丈ですから、そちらの貴女は大丈夫で?」
掌を確認、うむ、問題は無し。
私の身体は、どうにも頑丈にできているらしい。
それが男子だからなのか、私自身がただ強靭なのかどうかは分かりませんが、少なくとも、この程度で怪我をすることはありません。
彼女達も、たまたま虫の居所が悪かっただけでしょう、私が腹を立てる理由も有りません。
人は理由もなく誰かを傷つけたりしない。
私は、そう信じています。
後ろの少女へ目線をやると、こっちを見たり下を向いたりで忙しない彼女の姿が。
う、うむむ、警戒、は、されていませんね、どちらかと言えば…緊張されている…?
「ぅ、うん…え、と…あの…」
「焦る必要はありません、良ければお名前を———」
握手の為に手を差し出した瞬間、彼女がその身を撓ませました。
まるでクラウチングスタートを行う陸上選手が如く、美しい程に自然な力の溜め。
見る間に身を翻し、そして———
「あっ、ありがとうございました!!!!」
手榴弾の様な発声、同時に逃亡。
か、感謝されるのは嬉しいですが、嬉しいですが…
「っぉ、おぉ…」
「…み、耳が…」
耳がキーンと響く…真正面から受けていれば鼓膜が危なかった。
コハルも両耳を抑えて唸っています。
しかし、名前くらいは聞いておきたかった。
ま、まぁ宜しい。
また何処かで出会った時、あの元気な少女の名を聞くとしましょうか。
「う、うーむ、もう見えない…名前くらいは聞きたかったですねぇ」
仕方が無い、切り替えていきましょう。
そう思い、私は再び歩き出しましたが、すぐに違和感に気付きました。
コハルが付いて来ていない。
振り返ると、彼女は先程の諍いの場から一歩も歩いておらず、ただ俯いて立ち竦んでいました。
「…ルーシーは、すごいね」
「…?」
ぽつりと、溢れる様に一言。
突然の褒め言葉、その意図が分からず、私は首を傾げました。
「ううん…何でもない」
彼女は頭を上げると、さっと私を追い越し、そして口を開きました。
その横顔は暗くなく、目線はしっかりと前を向いていました。
そして数歩先行して、私には聞こえない程の、小さな声で。
「私も、ルーシーみたいになりたい」
「…?」
結局、彼女が発した言葉は聞こえませんでした。
…兎に角、落ち込んでいる様ではなく、安心です。
コミュ障レイサをすこれ。
間違えて作品消しちゃって大横転の外スラ空振り三不粘乳首。