「はは、手厳しい……伏黒幸ちゃんだよね? 私は夏油傑」
「ふふ、犯罪者さんだぁ♡ 何か用?」
過去と被るように。ココアシガレットでも用意しておけば良かったかもしれないなんて思うのは遊び心というやつ。うっすらと記憶を刺激されたのか、ほんの少しの間。
「……悟や他の人から聞いていたかな? それでも用を聞いてくれるという事は話合いをする気があるという事だ」
「話合いになるかどうかはおにーさんのお話次第かなぁ♡ つまらないお話ならおにーさんのする事が命乞いになっちゃうもの♡ あるいはそのお話が遺言になるかも♡」
にっこりと笑いかけてやる。どうやって位置を特定したか? どうせ最下級の呪霊をばら撒いてレーダー代わりにしたとか、何らかの占いみたいな術式持ちが協力したとかそんなだろう。わざわざ確認する必要も無い。
「ははっ、君の事は少しだけ調べさせてもらったよ。本当に素晴らしい力を持っている」
「そうだねぇ♡ おべっかにすらならない事実だねぇ♡」
「私はね、大いなる力は大いなる目的の為に使うべきだと考える」
「それって責任って事ぉ?」
「いやいや、責務では無いよ。強者が自由に生きる事の出来る世界。その中ではきっと君は世界一自由で、何の責任も無く常に他人に強いる側の存在になれるだろう……任務の受け方や様子を見るに、君は誰かに使われる……猿どもに仕えるようなのを好んではいないんだろう?」
「うーん、まぁアタリって事でいいよぉ♡」
なるほど、確かに下調べはして来ているらしい。直接観察された事は無い筈だが、まぁ情報だの何だのはいくらでもどうとでもなる世界だ。だがまだ弱い。それでちゃぶ台返ししたがるほど嫌がってはいない事も分かっているだろう。
「それは良かった。それでだ、もし良ければ非術師を皆殺しにして呪術師の世界を作る、その手伝いを……と、
「……ふぅん♡ 良かったぁ、家族になろうとか言われてたらさとるくんとおんなじなんだって思っちゃう所だったぁ♡」
いや、まぁこいつの現在の思想的には呪術師はみんな家族みたいなものなのかもしれないが。そもそもロリなら2人拾ってた筈だしな。
「君の力は最早呪術師の物とも思い難いほどだ。確かに手伝いをしてもらえるなら、いや、それどころかたった1人でも猿共を鏖殺出来るだろう。世界中からね」
「まぁねぇ♡」
可能か不可能かで言えば可能だ。だと思う、では無く単なる事実として、面倒ではあるが一人一人丁寧に選別だってした上で害虫排除をする事は可能。究極的に言えば、社会インフラだって私1人で賄う事すら可能なのだ。
「であるならば、だ。世界から呪霊を無くす為にどうか、などと言った所でそれは手伝いをしてもらうのでは無く懇願……神頼みの類だろう?」
「くすくす♡ 大義の為に手段を選んじゃうんだ?」
「選べる手段ならば選ぶさ。だがこれは実現不可能というやつだろう」
まぁそうだ。何が悲しくてそのような七面倒くさい事をしなければならないというのか。それも別にそうした方が劇的に良いという事もなく、何だったらお前の大義とかいうのの成就されると確実に文明が原始時代レベルに戻るから嫌なんだけど。
「だからこれは運試しさ。君が呪術師の楽園を築く意思があるか、それともそのまま猿共に使われ続ける事を是とするかのね」
「そう言われたらぁ♡ おにーさんの提案の方が良さそうに聞こえるけどぉ♡ そもそも大義どころかただの子供の癇癪に付き合う気は無いかなぁ♡」
「……何だって?」
煽られたので煽り返す。いや、誰がどう考えてもガキの癇癪だろ。あるいは遅めの厨二拗らせた感じ。そもそもだ。
「呪力が負の感情から生まれるエネルギーなんだからぁ♡ コントロール出来ない人間が絶滅しようがそもそも呪力自体を消し去らなきゃ呪霊は消えないだろうしぃ♡ 醜い猿が嫌いなんてぇ♡ ただのまずいもの食べすぎて精神的に病んだ言い訳とやつあたりでしょぉ♡」
美味しいものを食べると精神が回復するのであれば、サマーオイル式呪霊操術は延々と精神的セルフ切腹術という事だ。汎用性や可能性の為にオートで縛りにでもしてるんじゃ無いだろうか? 余りにも凡人には向かない術式だろう。
「は?」
「あれぇ? 気が付いて無いのぉ? おにーさんの術式、そもそも食べる必要なんてとっくに無いのにぃ♡ 無意味に勝手に自分を傷つけてほーんとおっかしいんだぁ♡」
考えてもみて欲しい。傀儡術式というものがある。ロボを作って全国規模で遠隔操作するやつ、ぬいぐるみを使って最終的に呪術師を量産出来るやつ。方向性がこれだけ違うのに同じ術式の名前を冠しているのは何故か。実の所、本人の資質や解釈の問題が大きい。
サマーオイルの場合、操る為に取り込まないといけない、取り込む際は飲み込まないといけない、その味はゲロ不味いというのは明らかに縛りのレベルだろう。では無くすとどうなるかと言えば、おそらく特級呪霊相手は操作困難になるとかのレベルダウンは免れえまい。
逆説的に言えば、数が強みという点を考えれば、別に1級以下の呪霊だけに絞ればそのような無用なダメージを受けずに済む……というのは誰でも思い付く話。ここからもおそらく誰でも思い付くが、もっと馬鹿馬鹿しい話だ。
「そもそもぉ、なんで自然発生した呪霊しか操作しないのぉ?」
「えっ……は?」
「おにーさんの担任がやってる事を……あぁ、そっか。せんせったら隠してたんだものねぇ♡ そもそも、操作対象なんて自作してなんぼじゃなぁい?」
「いや、君は何を言って……」
「術師が使うのも、呪霊を構成するのも、あるいは自然に飛び散ってるのも、全部呪力なんだよぉ? じゃぁあ、おにーさんがもういっぱい持ってるサンプルを参考に自力で呪霊を生み出すとかぁ、反転さえ出来れば可能だって思わなかったのぉ?」
「!?」
最初は地雷でも踏まれたかのように怒りを覚えていたくせに、唖然としたり驚愕したりと忙しい奴だ。極の番がある程度強い呪霊から術式を抽出出来るのであれば、反転による可能な範囲など簡単に想像が付く。『呪霊を生み出し、己の望む術式をインプットする』などという、規格化された呪霊の軍隊の生産。群こそが本質だろうに。
「くすくす♡ お馬鹿さんなんだぁ♡ そんな不味いもの食べるのやめて、家族と美味しいものいっぱい食べて温泉でも行った方がいいんじゃなぁい? おにーさんの望んだ世界ではきっと満足に楽しめないだろうしねぇ♡」
「……低級呪霊のリサイクル程度に考えていたが、うずまきで混ぜ合わせたエネルギーから新しい呪霊を……任意での特級呪霊の創出……」
「まぁそれなら反転無しでも出来るんじゃなぁい? 呪いの塊に、どんな指向性を与えるか結界とか信者の人達なんかをうまぁいこと使えばぁ♡ まぁ今の五条悟をどうこう出来る呪霊が生まれるかはちょっとわかんないけどぉ」
ちょっと面白くなってくるよな。実質ガチャじゃん。正の呪力でガチャったらSSRでまこーらみたいなの出てくるんじゃない? まぁ夏油くんは凡人だから厳しいか……イカれた結論を自分の意思にしたのも結局はエゴって感じじゃ無いし、弱いんだよなぁ……やっぱもうちょっと追い詰めとくか。
「その中からもし猿を呪術師に変えれるような呪霊が産まれたらぁ♡ おにーさんのご両親って無駄死にだったんだねぇ♡」
「……え?」
「だってぇ♡ おにーさんの見限りが早かっただけでぇ♡ 殺さなくても全員術師と同じに出来るんだったらぁ♡ 今までの犠牲ってぜぇんぶおにーさんの癇癪の被害者だよねぇ♡ くすくす♡」
「……あ、あぁ……そん、な……」
「特別扱い出来ないーなんて勝手に無駄な覚悟決めてぇ♡ かわいそぉ♡ ぜぇんぶおにーさんが悪いんだぁ♡」
実際真人とかいうそれが実行可能な呪霊がこれから生まれるわけだしな。
「今更後悔しちゃうんだぁ♡ あーあ、でも今更やめれないなんて言い出したら、それ以上に無駄な犠牲が増えちゃうんだねぇ♡ 何に意味を持たせようとしてもぉ♡ それ以外の無駄な犠牲は無意味なままだねぇ♡」
「や、やめてくれ……違う、私は醜い猿を……」
「お前の両親みたいに醜く無い人間だって居たし、呪術師の中にも醜いクズはいっぱい居るでしょう? 全く、目を塞いじゃダメでしょぉ?」
「だ、だがそのような事が出来る保証は……」
「私が出来るんだから、術式が有ればもっと簡単に出来るよぉ♡」
無から魂を生成する要領。正確には無生物の魂を加工しているわけだが、それを原料に既存の魂の形を整えて、必要なら物理的に脳の構造も調整して。今の私であればなんちゃって無為転変が可能となった。ワイくんの尊い犠牲(死んで無い)やパンダのおかげである。
あとは術式に関するフォーマットというか、ニュートラルな色々が観測出来れば自在に良い感じの術師も呪霊も生み出せそうな感じはある。常に回り続ける円陣の前に、およそ想像可能な範囲で不可能など有りはしない。
「わ、私は……ちがっ……そんな……」
「あーあ、酷いんだぁ♡ だぁれも報われない♡ ぜぇんぶお前が悪い♡」
「う、うぐ……お"え"ぇ"」
はい勝ち。下手に人の事思い通りに動いたら良いなぁとか思って煽るからそうなる。ちっ汚ねぇなぁ……
「じゃ、最後に笑えたから殺さないでおいてあげるねぇ♡ ばいばーい♡」
今日の夜は確かカレーなんだよな。津美紀ちゃん金遣いあんま変わってないけど今日は私が買った良い肉使ってる筈だし、きっと美味しいだろうな。さっさと帰ろ。
なおサマーオイル君は別に改心とか出来ずにずるずると同じ事続ける模様
「殺意とか一切無かったので物理的に酷い目に遭わせたりはしませんでした。精神面? セルフで傷つけてんだから何言ってもノーカンみたいなもんでしょ」