「伏黒ちゃん! 付き合って下さい!」
「えぇ♡ 一応聞くけどどこが好きなのかなぁ♡」
中学生、特に男子中学生というのは猿である。この言葉についてはサマーオイルだけでなく呪術など1ミリも知らない一般人とて賛同する人間は多いだろう。胸の下で手を組んで少しわざとらしく揺らしてやれば、生唾を飲み込むように視線が誘導される。
「あーあ♡ クラスの中で田中くんだけはそういう目で見てないと思ってたのになぁ♡」
「うぐっ」
嘘である。小学生の時点でクラスメイトの男子の目線というものがこれほどまでか、という事は把握しており。なるほど、古来から見る事が呪いであるという話はよく分かる。視線に質量があったらただの人間なら押し潰されてしまうほどだ。
「それにぃ♡ 私別に田中くんの事好きじゃないからぁ♡ 付き合うとか嫌だよぉ♡」
「そ、そんな……」
何を思ってそんなとか言い出すのか。1ミリも可能性無いだろ。これだからガキは嫌いだ。自分の願望を勝手に周囲に押し付けて、それが叶わないとすぐに機嫌が悪くなったり。
「……じゃあさ、今ここで乱暴されたく無かったら言う事聞いてくれる?」
「えぇ♡ こわぁい♡」
発想が怖いんだよね。どっちかと言うと治安が悪いと言うべきか。これが世界規模な民度の終わっている世界というわけでは無いと思うのだが、全国規模ならもう呪霊生まれるの仕方ないんじゃない? 勝手に滅んだ方が良いんじゃ無いかなってなる。
「ほら、まずは胸揉ませぐほぉ!」
「ったく、何やってんだ幸」
「わぁ♡ 怖かったなぁ恵くん♡」
「はぁ……」
子供ゆえのどちらかと言えば遠慮の無い暴力。正義感があるというか、悪を許せないというか。現にこちらを気遣うなどではなく、小さい女の子に暴力をもって迫ろうとしたクズを更に足蹴にしている。
「ったく、暴力を振るおうなんて考えるんだから、殴られても蹴られても文句ねぇだろ」
「文句はあるとおもうよぉ♡ 自分がするのは良いのに、された側の事は想像も出来ないんだからぁ♡」
「こらー! 恵!」
つみきちゃんのエントリー。自分が悪いと思っていないのであれば全く食らわないだろうに、そもそも暴力が悪い事だという認識があるが故に悪を許せないのだから、逆説自身が悪を成しているという認識があるせいでバツの悪い恵くん。
「幸ちゃんが心配なのは分かるけど、それでも喧嘩はダメでしょう!」
「誰がコイツの心配なんか……」
心配する必要は無い。その認識が存在しているのにそれでも心の根っこでは心配する程度の善人。善性を理解して、それが悪人に食い潰されるのが我慢ならない。
行動に移さない口だけの善行を偽善だと考え、悪をもってなお悪を制する。世の中の大半の事に苛立ちを持っていて、少し苦手で大好きなお姉ちゃんが居て。加えて邪悪の塊みたいな妹が居る、というのが今の伏黒恵くんである。
中学に入学してから半年のうちにヤンキーを制圧して。それから1年半こうして妹に近づく猿だのいじめグループだのをボコボコにして。一般人相手であれば無双出来る力を持ったガキ。これだから厨二はダメなんだな。
「幸ちゃんも、1人で男の子についていっちゃダメって言ったでしょう? 危ない事だってあるかもしれないんだから」
「……はぁい♡ ごめんなさいおねぇ♡」
一瞬素で無いよと言いそうになる。逆に私に危害を加えられる存在が居るなら先に知っておきたいレベルだ。こっそり消しておきたい。こっそりじゃなくとも消しておきたい。安全第一というやつだ。
「気持ち悪ぃ」
ボソリと恵くんがそう呟いて。これが姉の偽善だと認識した優しさへのものか、私に対してのものかは一旦分からないが。思春期で反抗期の露悪的なガキだから仕方ない部分はあるだろう。
そんな日々を過ごしていたものだから。面倒な五条家だのなんだのとそこそこ忙しく、そういえばそうだったなぁという程度の気軽さで。
「すまないが、私も縛りを結んでいてね。別に良いだろう? 君、根っこではどうでも良いって思ってるんだからさ」
友達と肝試しなんて話すつみきちゃんに着いて行った先で、額に縫い目のある女と遭遇した。