「あーあ、おにいってば雑魚の呪霊相手にこんなボロボロになっちゃってぇ♡」
「うるせぇ」
特級呪物の回収任務とて、確か宿儺を除けば精々2級呪霊が出た程度の任務。2級術師であれば難なくこなして見せて欲しいところだというのにこの体たらくである。余りにも弱くないか?
傷一つ、どころか疲れすら残らぬように反転アウトプットしてやれば文句しか言わない反抗期を引きずるような言動。全くこれだからガキは……
「……なぁ、お前さ」
「お前だなんておにいったら酷いんだぁ♡ でも久しぶりに声掛けてくれたから話くらいは聞いてあげるねぇ♡」
「ちっ……五条先生にまた勝ったって話、あれ本当か?」
「この前の、おにいが初任務で頑張ってた時の話ならほんとだよぉ♡ まぁおにいも私の
そんなに恵まれた術式のくせに高々2級とか恥ずかしく無いん? あと調伏出来てないのまこーら位って事は、現時点で自分に術式効果上乗せするだけで反転術式使えて術式乱しも出来て雷撃も放てる上に加茂家の相伝のパクりまで出来るスーパー呪術師のはずなんだが……
「奥の手があるからぁ♡ 最悪相打ちに持ち込めるなんてぇ♡ 弱者の思考すぎなぁい? 実際私が使えば昔のさとるくん位なら片手間で勝てるのにね」
「……才能が無くて悪かったな……」
「そうやってすぐぶすーって諦めるの、悪い癖だよぉ♡ ……そうやっておねえの事も諦めるの?」
「お前がっ! お前がそれを言うのかっ!」
「きゃぁ♡」
未だ昏睡状態のつみきちゃん。五条悟をして原因不明の呪いのせい。家入さんの反転術式でも解呪不能のそれを、しかし私であればいつでもどうとでも出来て、それを恵くんは理解している。
「お前みたいな邪悪から……理不尽から津美紀を……クソっ!」
「実の妹を邪悪呼ばわりだなんてひどぉい♡ でもぉ♡ 何度も言うけどぉ♡ おにいが真剣に頑張ってればご褒美におねえを起こしてあげたっていいんだよ?」
甘えているんだよな、お前。なんとかなる手段が有るって思った途端に真剣さが無くなる。世の中から理不尽を無くしたいとか、悪は滅びたら良いとか思想を語る割に全然本気が足りて無いんだよなぁ?
まこーら任せが出来るから本気で強くなろうって気が無くて。最悪私が治せるって思ってるから本気でなんとかしようって気が無くて。そんなだから原作で大事なものを喪うんだぞ? むしろ万を回避させてあげた私に無限に感謝するべきだというのにね。
「お前の家族だろっ! やっぱりお前なんて呪いだ……宿儺と同じだ……」
「そうやって女々しくなよなよしてるうちはだぁめ♡ もぉっと雄々しく頑張らないとぉ♡」
最大のガチャ要素である術式は大当たり、呪力量も決して少ないという訳ではない。極論言えば脱兎で国を覆い尽くせば国家機能の麻痺や転覆も可能だろうに、単に努力不足の実力不足。せめてどんな時でもまだだと言える程度の気合と根性くらい無いと。
「この先、もぉっと酷い目に遭っちゃうよ♡」
「ふぅん♡ 君が虎杖悠仁くん♡ ふふ、男の子って感じだねぇ♡ 初めましてぇ♡」
「えーと、初めまして? ひょっとして伏黒の妹とか?」
さすが気が付き能力100点満点の男。事実として正しい事を言えて偉いね! 歳下として判断された可能性については目を瞑ってあげよう。そしてじっと見てみれば、なるほど魂が似た形になって重なっている。
原作後半と序盤でだいぶ性格違うとこあるくない? と思った事はあるが、つまり若い身体に1/20しかない魂が引っ張られてやんちゃになってたという事だろう。指一本のままだったら少年院でも普通に乗っ取れなかったんじゃ無いか?
「幸って呼んでねぇ♡ よろしくぅ♡」
「うん、よろし
握手の瞬間に、宿儺の生得領域へと繋げて。なるほど、親和性というのか一部は境界が曖昧になるほど癒着しながらも、間借りというよりは乗っ取りに近い形で領域が存在している。
「なんだ貴様、俺の魂に触れるなど……ほぉ」
「あれぇ? 痴れ者が〜なんて言いながら攻撃したりしないのぉ?」
「分不相応であればそうもしようが、海を相手に自分より大きいと怒るなど滑稽だろう」
どこか気だるげに、自嘲とでも言うような溜め息じみた笑いを吐いて。虎杖悠仁に良く似た姿の呪いの王が、骨の玉座に座っていた。
「俺は俺の身の丈というものを計りきれた事も無いが、その内で生きているに過ぎん。呪いの王だと呼ばれてはいたが、それならば貴様は邪神とでも言うべきだろう。……なるほど、これは不快な気分だ」
「えぇ? 自分の矮小さを自覚しなきゃいけないってなった瞬間にこれまで踏み躙ってきた弱者と同じ立場である事に不快感を? うーん、いや、どっちかと言うと生存を脅かされる初めての脅威に対しての不快感かなぁ……」
「下らん……殺すなら早くしろ」
「これは獣の論理だなぁ……ほらぁ♡ そんな事しないよぉ♡ そうだぁ♡ これどうぞ♡」
手作り、という言葉が正しいかは一旦置いていくとして。堕天などという名なのであれば、アップルパイを食べさせてあげると言うのも乙なものだろう。おい、パイくわねぇか。
「……なんだこれは」
「ほら♡ あーん♡」
大人しく、されるがままに口へと入れられるパイ。ゆっくりと咀嚼して、しっかりと飲み込んで。
〜その瞬間、宿儺の魂に流れる『存在しない記憶』〜
「ほらぁ♡ たぁんと召し上がれぇ♡ すっくんはご飯を食べるのが好きだものねぇ♡」
用意された山のような、手の込んだ料理の数々。肉野菜の別なく、あらゆるものがきちんと調理されて。どんどんと食べ進み、いよいよ腹も満ちた所で最後に食べる果物の包み焼きの、なんと甘美な旨さか。
「くすくす♡ いっぱい食べれて偉かったねぇ♡ 母がいつだってきちんといっぱい食べさせてあげますからねぇ♡」
いつの間にか赤子となった己を包み込むように抱擁し、優しく揺する母。何処までも安心できるその胸の中で、心から満足し全てが
微睡むような夢のような、幸せな
〜その瞬間、宿儺の魂に流れる『存在しない記憶』〜
「……あぁ、知った上で下らんと思っていたが……」
「どうしたのぉ? もっと食べるぅ?」
「……旨いな……」
そう言って咀嚼していたと思ったら、そっと膝を突いた上で人に抱きついてくる。な、なんだぁ? このまま鯖折りでも仕掛けるつもりかぁ? ……いや、こいつなんか甘える小動物みてぇな……なんだろう、チワワが幻視される……
「よしよぉし♡ どうしたのぉ♡」
撫で心地はあれだな、やはり犬だ。虎杖悠仁、チワワ説……いや、どっちかと言うと宿儺か? どっちかと言うとクマのイメージだったが……えっいやほんとどうした呪いの王。急にそんな事されると腹筋が崩壊しかねない。
「……愛というのも、存外悪くない」
噴き出さなかった私を褒めて欲しい。誰でもいい、代わりに大爆笑しておいてくれ。縫い目とかこれ見たら死ぬんじゃないか? 笑い過ぎで。流石史上最強、この人生で最大級の攻撃力だよ。
「くすくす♡ 甘えんぼさんだねぇ♡ よしよし♡」
内心げらっげら笑い転げるのを表に出さず撫で回す。なんだろう、野生の動物なんだな、宿儺って。出来るからやってるだけ、快不快だけが判断基準。根っこの部分は私と同じで、強いて言えば私は理想とかいう実現不可能なものを追い回す人間は笑えて好きだが、馬鹿に見えるから宿儺は嫌いって辺り。
なんだかんだで暫く甘やかし、じゃあまたねと接続を切って。
くな!」
虎杖悠仁の元気な返事。こいつもこいつで犬っぽさはあるか。やばい無理マジで面白すぎるだろ。別の理由で死にかけたわ。
「因みに悠仁と同い年で、僕の婚約者だから」
「……へっ?」
「婚約は勝手に言ってるだけですけど」
負けたくせに肩を気軽に触ってくるのほまにさぁ……
「おい小僧、気が変わったぞ。指集めを手伝ってやろう」
「へっ!?」
すっくんブチギレてて草。
「虎杖!」
「あっ、伏黒じゃん! 今度こそ元気そう……って、どっちも伏黒なのか……」
「……ちっ」ウーン、フシグロハイママデドオリデ サチデイイヨー
「……んー、もしかして兄妹仲悪いとか……何があったかは知らねーけど、仲良く出来るならしたほうが良いぜ?」
うーん善人! 今頃恵くんの中で『そんなお前が邪悪なやつに利用されそうなのが』みたいなモノローグ流れてそう。流石虎杖の強火厄介オタクみたいな理想を抱く男……
あっまた顔曇ってて面白っ! ほんとーに情け無くて哀れな恵くんだなぁ。
おぎゃるのってガキには出来ないんですよね。きちんと大人にならないとバブみを感じてもおぎゃれないんですよ。つまり最高に大人らしい行為なんです。