「伏黒恵君だよね」
ボロのアパートの前。少しだけ開けた場所で。
「アンタ誰? っていうか何その顔」
白髪の不審者による声掛け事案が発生していた。
「いやソックリだなと」
「?」
うげー、とでも聴こえてきそうな変顔の人格破綻者による声掛け。認識を共有する前に自分勝手に感情表現をする幼稚さは、対して人間的な成長を行えていない証明だろう。
「君のお父さんさ、禅院っていういいとこの呪術師の家系なんだけど、僕が引くレベルのろくでなしでお家出てって君を作ったってわけ」
小学生の子供相手に話すような内容では無い、というのは常識的に考えれば分かる事で、よしんば非常識の塊である呪術廻戦の世界であってもノンデリ扱いされるレベルの暴挙。
「君見える側だし持ってる側でしょ。自分の術式にも気づいてるんじゃない? 禅院家は術式大好き、術式を自覚するのが大体4〜6歳。売買のタイミングとしてはベターだよね」
まぁ去年の時点で術式は自覚してたし、なんなら今年で7歳になるのだからやはりこのノンデリって言われた事忘れてて、思い出したからその日にやって来た位のノリなのではなかろうか。
「恵君はさ、君のお父さんが禅院家に対してとっておいた最高のカードだったんだよ。ムカつくでしょ? で、そのお父さんなんだけど僕がこ」
「別に、アイツがどこで何してようと興味ない。何年も会ってないから顔も覚えてない。今ので話は大体分かった」
もし恵くんがお父さん大好きっ子だったらどうする気だったんだろうこの白髪。平気で殺したとか言おうとするの、あまりにも勧誘する気無さすぎない?
「津美紀の母親も少し前から帰ってない。もう俺達は用済みで、2人でよろしくやってるって事だろ」
「……君本当に小1?」
お姉ちゃんが年齢不相応に賢いし、妹が不正に賢いのが原因かもしれない。いやまぁ後者は無くても似たようなものだったんだろうから私は悪く無いな。
「ま、いいや。お父さんの事知りたくなったらいつでも聞いて。そこそこ面白いと思うよ。そんじゃ本題。君はどうしたい? 禅院家行きたい?」
「津美紀はどうなる? そこに行けば津美紀達は幸せになれるのか? それ次第だ」
「ない。100%ない。それは断言出来る。……クックッ、オッケー、後は任せなさい」
まぁドブカス筆頭に人格破綻者の集まりだもんな、禅院家。あそこで幸せになろうと思ったらまずは全員皆殺しにしなきゃダメなんじゃ無いか? 禅院だけに。
「でも恵君には多少無理してもらうかも。頑張ってね。強くなってよ。僕に置いていかれないくらい」
なんだかしんみりした空気を作って浸っている白髪。なるほど、確かにこんなシーンがあった気はする。おそらく何処かで見たんだろう。で、だ。
「それって〜、わたしの意見は考慮されないってことぉ?」
屋根の上から飛び降りて、すたりと恵くんの前に降り立つ。なんだ、ちょっと警戒してたけど六眼ってそんな感じなんだね。呪力を見れて、超高精度の観測とそれに伴う情報処理。つまり完全に世界と同化するような結界、原子レベルで見えるのであればそも見えないようにしてしまえば良いという事。
「……へぇ、君、何?」
「お兄さん、どうせおとうに不意打ちとかくらった事あるのにこんな距離まで子供相手に気が付けないとか情けなぁ〜い」
「幸!」
「も〜おにいったら、おねえならともかく私の幸せなんか考えれるほど余裕あるのぉ? 1年経ってまだうさちゃんしか手懐けられてないのにぃ」
笑う。咲う。嗤う。クスクスケタケタと。
「もー。話しか聞いてないけどお金持ちの実家と、子供相手に話し方も選べないノンデリ不審者。正直どっちもダメダメだと思うんですけど? おにいはつんつんしてる割にそーゆー優しいとこあるからダメなんだぁ」
「ハッ、禅院家がサイアクなのは事実だよ。それで、もっかい聞くけど君、何?」
質問に答えられずにイライラとしているような声を出す不審者に、心の中では中指を立てながら丁寧に答えてやる。
「伏黒幸、貴方より強い人間だよ♪」