課金必須ソシャゲ世界で一人きりの無課金勢 作:〇〇貢ぎ概念
世界各地に現れるようになった『ダンジョン』と呼ばれる異空間。その異空間内の化け物を討伐するために生まれた職業……通称『探索者』
その最低条件は大まかに二つ。『魔力』と呼ばれる現代兵器が無効化されるダンジョン内で唯一有効な高火力である『魔法』を、操るために必要な素質を持つこと。
もう一つはどんな状況にも耐えうるメンタルを持つことである。その点において、私……エレナから見てあのゼナと言う男はどうにも向いているとは思えなかった。
魔力はほとんど無し、俊敏ではあれど強靭ではない肉体に、武器は弓矢……とてもじゃないが戦力として当てにはできなかった。
初めてパーティに加わると聞いた時、正直に言えば断るつもりだった。魔力適性がほぼゼロの人間をダンジョンに連れて行くなんて、荷物運びを一人増やすのと変わらない……そう思っていた。
それでも、探索者の組合――ギルドの使いの者は困ったような笑顔でこう言った。「彼、他に受け入れてくれるパーティがなくて」と。何だそれはと。厄介払いにしか聞こえない。
クロノは「まあまあ、一回くらい試しにいこーよ」と気楽なもので、レグに至っては「弓矢一本で何ができんだよ」と最初から諦め気味だった。私だって同意見だった。
だから最初のダンジョンで、彼が残った化け物の頭を涼しい顔で射抜いていくのを見た時……正直、言葉が出なかった。
派手さなんてどこにもない。クロノみたく技名を叫ぶこともない。ただ静かに矢をつがえて、放つ。それだけなのに外さないのだ。一射も。
弓兵なんて紙装甲もいいところの脆い職業だと思っていた。でも彼は、私たちが派手に暴れた後の掃除役に徹しながら、誰よりも冷静にダンジョンの流れを読んでいた。
メンタルの条件……あれは間違っていたのかもしれない。強靭さというのは、何も最前線で挑み続けることではないと。息を潜めて、一射に集中し続けられることもまた強靭さの一つなのかもしれない。
そんなことを考えながらも、口では素直に認めたくなくて。
「今回のダンジョンも容易かったな。」
かつての私はいつも通り、強気にそう言ってのけた物のだった……それが今では、その言葉はゼナがいるから容易いという意味に変わっているものだ。
もっとも、そんなこと本人に言うつもりは毛頭ない。認めた瞬間、あの調子に乗りやすいクロノに揶揄われるのは目に見えているし、何よりゼナ自身がそう思われることを望んでいない気がするからだ。
現に今も、ゼナは私たちの輪から一歩引いた位置で、静かに矢筒の中身を数えている。褒められることにも、注目されることにも興味がなさそうな横顔で。
「おーい、ゼナー!ぼーっとしてないでこっち来なよー!打ち上げ打ち上げ〜!」
クロノがいつもの調子で彼を呼びつける。
「あー……悪い!今行く!」
気の抜けた返事をしながら小走りで合流してくるゼナ。その足取りにも、涼しい顔で敵を仕留めていたさっきまでの緊張感は欠片もない。まったく、調子が狂う。
最前線で目立つことを恐れず、時にやり過ぎなくらい暴れる私たちと、後方で誰にも気づかれないまま静かに戦況を支えるゼナ。正反対のはずなのに、いつの間にかこのパーティにとって彼は欠かせない歯車になっていた。
「今日はいつもより取りこぼし多くてゼナくんに助けられちゃったからね!ゼナ君の代金はエレナの奢りね!」
「は?なんで私が――と言うかなら貴様が奢れクロノ。」
「いやそもそも別に俺のおかげじゃないだろ……ただ残り物削っただけで……」
二人のやり取りに、レグが呆れたようにため息をつく。
「ゼナ、謙遜も度が過ぎると嫌味だぞ。」
それでも、その声にはどこか呆れながらも柔らかい響きが混じっていた。まったくもってそのとおりだ、この男はもっと自分の腕前に自信を持つべきだ。
巷ではゼナを鳴り物入りで我々のパーティーに、入った腰巾着だと抜かしている者も居る。私から言わせれば「素人は黙っとれ」と声を大にして叫びたい。
いいか、探索者にとって一番怖いのは何も強い化け物そのものじゃない。「殺し切れなかった敵」だ。
あの再生持ちの化け物どもは、私たちがどれだけ派手に魔法をぶち込もうと、残機が僅かでも残っていれば平然と息を吹き返す。そして厄介なことに、そういう時に限って一番消耗した後方の隊列に襲いかかってくるのだ。
だからこそ、確実にトドメを刺せる存在がどれほど貴重か。
私たちは大技を叩き込むことに全神経を注いでいる。当然、着弾の瞬間は隙だらけになる。その隙を誰かがカバーしなければ、いくら火力があっても意味がない。
ゼナはその「誰か」を、誰に頼まれるでもなく、当たり前のようにこなしている。残機ゼロになるまで正確に矢を撃ち込み、一体たりとも取りこぼさない。技名も叫ばず、感謝も求めず、ただ黙々と。
正直に言おう。今の私はゼナが後ろにいるとわかっているから、私は安心して全力で魔法を撃てるのだ。
もし彼がいなかったら、私はきっと半分の火力しか出せていない。常に「取りこぼしたらどうしよう」という恐怖と隣り合わせで戦うことになる。
それがどれほどダンジョンと言う戦場において致命的か、腰巾着などと軽々しく口にする連中には分かるまい。
最前線で目立つ私たちばかりが評価され、後方で黙々と仕事をこなす者が正当に評価されない。それがこの世界の理不尽なところだ。
……なんて、こんなこと考えていることさえ、本人に知られたら絶対に揶揄われる。「エレナが俺のこと真剣に語ってた」なんて、クロノの耳に入ったら最後、一生ネタにされる未来しか見えない。
だから今日も、私は素知らぬ顔でこう言うのだ。
「ゼナ、次のダンジョンでもちゃんと働いてもらうからな。手を抜くんじゃないぞ。」
「……勿論だ。恥はかかせない。」
ゼナは相変わらず無言で矢を数えながらそう呟いた。