ようこそ実力至上主義のザナドゥへ 作:とくいてん
「これ、月給10万って考えたらメチャクチャ割の良い仕事だよな! いやぁ、最っ高の学校だぜ!」
高度育成高等学校1年Dクラス所属、
入学から半月ほど経った今、
「お前もそう思うだろ?
「うん、まあ。そうかな?」
「なんだよノリ悪りぃなぁ! 辛気臭い顔してると幸運が逃げてくって話だぜ! はははは!」
「……」
そう言われても、こんな場所でウキウキできるかという話だ。
僕、
たとえるなら崩れ落ちたトンネルの中の景色のような。そんな通路が遠くまで続いている不気味なところ。ここは高度育成高等学校がある埋立地、『
(山内君がうっかり死なないことを祈ろう)
現在は午後の
フィールドワークだ。地下に広がっている迷宮に乗り込み、探索する。道中には怪異と呼ばれる魑魅魍魎の姿がちらほら……最初の頃はビビり倒していたくせに、今や山内君は勇猛果敢。ソウルデヴァイスと呼ばれる武器を片手に奮闘を続け、イイ笑顔で女子達に微笑みかけて……あれ、女子どこいった?
「鬼とか妖怪とか、最初は無理に決まってるじゃって思ったけど大したことねえな! 毎回決まったルートを歩いて雑魚を倒して、これだけで毎月十万もらえるとか最高すぎるぜ!」
「だな! いやー、ゲーム感覚で結構楽しいし、世の中も捨てたもんじゃないよな!」
「だよな、池!」
山内君の親友枠、
山内君、いや山内さんが言っている10万円とは、入学時に支給されたポイントのことだ。1ポイント1円のレートで、基本何にでも使えるらしい。この高校の敷地はひとつの街と言えるほど広大で、テナントとして入っているお店は全て利用可能。カラオケとかネットカフェ、ゲームセンターとかもあるし、遊ぶ場所に困ることはないだろう。
(変な学校だ……いや、変って言うか怪しい。怖い)
入学時の日、担任の
今、僕達が歩いている異界のこと。ザナドゥと呼ばれる現実世界ではない場所。それは遥か昔から人知れず存在し続けていて、時に現実に侵食してくることがある。それを防ぐために有効なのが、こうやって間引き続けること。怪異を倒し続けていれば、ザナドゥは安定するとか言っていた。
──『諸君は才能がある。その才能を活かし迷宮の探索を進めてくれ。それが君達の役目の一つだ。毎月支給されるポイントは、君達の価値に対して払われているものだと思ってくれ』
みんなはその話を聞いて失笑するか爆笑していたけど、現地に連れてこられて顔面蒼白。大多数の人は血の気が引いた顔で固まってたっけ。それが半月で余裕綽々になるんだから、人間って生き物は良くも悪くも慣れるんだなぁって。まあ、それにしたって適応が早すぎるとは思うけど。
「おっ、青い鬼だ! スライムもいるぞ! ストレス解消にぶちのめしてやろうぜ!」
「俺もやるぜ。昨日部活でかったるいことがあってイライラしてんだ」
「よっしゃ! 行くぞ
山内君とバスケ部の須藤君が走っていく。右手にはソウルデヴァイス、鉄の棒を装備している。見た目は鉄棒の鉄棒部分にしか見えないが、あれでちゃんと霊的な武器だ。
ソウルデヴァイス。
サイフォンというスマホ型の端末を使って呼び出すことができる、『適格者』と呼ばれる者達の対怪異用の武器だ。適格者というのは簡単に言うと、怪異と戦う才能がある人達のこと。こういった世界があるのは公にはされておらず、一般の方々の目では異界を認識することはできない。基本は。何事にも例外はあるものなので、あくまで基本は、である。
「連携するぞ、須藤!」
「おお! ガンガン行こうぜ!」
『がア! ガアッ』
山内君と須藤君が子豚サイズの青鬼を囲み、鉄の棒で叩きまくっている。それは連携とは言わない。連携もクソもないただのゴリ押しである。指摘しても無視されるから口には出さないけど。
彼らの服装は学生服。赤いブレザーの上に白い羽織りを着用している。コスプレじゃなくてちゃんとした装備だ。着てると精神が安定するから、異界に入る時は必ず着ろと言われている。茶柱先生に。
(ピクニック気分で異界を探索させるとか……やばいだろこの学校)
やばいと言うなら、半数以上が現状を歓迎している事実もやばい。君達の常識は一体どこに? ゲームの世界の住人じゃないんだから、これを普通に受け入れちゃってるのはやばすぎるよ……。
いくら10万という大金が魅力的だったとしても、もっと疑うべき──疑心暗鬼になるべきだと思う。そこら辺は女子の方が冷静というか、落ち着いて現状把握しようとしてる子が多い気がする。
「わぁ、山内君すごーい! 青鬼さんが潰れた豚さんみたいだよ!」
「煽らないでくれますか、先輩。調子に乗るから」
冷静におバカさんを激励してる人がいるのは、ちょっとどうかと思う。
現時点で既にクラスのアイドルと化した女子、
この異界絡みの話でね。即戦力できて欲しいって言うんで来てみたら、この有様だった。少し前まで一般人だった方々がウジャウジャと……なにこれ?
本当ならこんなことはできない。適格者以外を異界に大量投入するなんて、物理的に不可能だ。しかし、この学校が導入している極秘技術がそれを可能にしていた。茶柱先生によれば、元々の才能があったという前提の上でのこと、らしいけど、適格者じゃない時点で才能はない。怪異と戦う才能については基本、グレーはないのだ。
「桔梗ちゃーん! 見ててくれ! 男、山内! 頑張るぜ!」
「ほら、なんか言ってる……事故りそうで怖いからやめてほんと。いくら身体能力上がってるって言っても、底なし穴に落ちたりしたら死ぬよ? ちゃんと対処すれば大丈夫だけど、あの人は無理。どんくさいし」
「その時はその時だよ♪」
「先輩、今なんて言った?」
ザナドゥ探索の授業は毎回三時間程度。
クラス40人の中で複数のグループに分かれて、協力して探索を進めていく形だ。頑張ればボーナスもあるということで、欲にまみれた方々は俄然やる気になっている。出てくる敵が無抵抗な豚みたいに弱いので、なんだ簡単じゃんという空気になっているのだ。
「危険性はよくわかってるでしょ……桔梗さん、中学の時に死にかけてるんだから」
「え? なんでタメ口? いっけないんだぁ。年下のくせにタメのふりしてるのバラすぞ」
「……」
いや、別にいいけど。バラされても。多少は気まずいけど何とかなるだろ多分。
「あと、昔のこと掘り返したら潰すね♪」
うわぁ、チンコ握りつぶしそうな笑顔。
目が全く笑ってない。この人は僕に恨みでもあるんだろうか。むしろ感謝して欲しいくらいなのに、ことあるごとに刺々しい。攻撃的がすぎる。
「はぁ……いいじゃん別に。やる気になってる人達は自己責任だよ。無理して何かあっても自己責任」
「巻き込まれたらどうするんですか」
「あんたがいれば大抵の事はなんとかなるでしょ。私だって自分の身を守りながら逃げることくらいはできるし、問題ないわよ」
問題だらけだよ。
それ、僕を盾にして逃げるってことですよね。大切な後輩がうっかり、不幸な戦死を遂げてもお構い無しと。そうですよね知ってます。あなたはそういう女です。
「てか、あんた平田くんのチームに入りなさいよ。私は基本あっちだから、何かあった時の保険のために」
「だから盾にしようとすんな」
「おいタメ口」
異界絡みの話で入学を依頼された時点で、忙しい高校生活になるのは予想してたけど……まさかここまでカオスな状況だとは思わなかった。
入学者達の親御さんは了承してるって言ってたけど、正気か? 自分の子供をマグロ漁船に売り飛ばすより酷いことしてると思うぞ。
「つか、なんで弱いフリしてんのよ。霊力検査もちょろまかしてたし、そのせいで荷物持ちさせられて頭大丈夫?」
「荷物持ちしてるのと僕の頭の出来は関係ないなぁ」
「あんたがやる気出したらサクサク終わるでしょ。探索。時短になるから、ちゃんとやりなさいよ」
「嫌です」
言わんとすることは理解できるけど絶対に嫌だ。
あんな人達と危険地帯を進むとか、想像しただけでゾッとする。
「なんでよ」
「変な夢を見られても困るからですよ」
「なによそれ」
「たとえば、僕とチームを組めばもっと奥まで行くことができて、臨時ボーナスをもらえるとか。そんなことを期待されても困る。何人も守りながら危険地帯を進んで、なおかつ災害級の怪異を討伐するとか無理なんで」
怪異というのはちんけな青鬼や腑抜けたスライムばかりではないのだ。そんなのは雑魚も雑魚。浮かれた初心者達(戦闘センスはかなり怪しい方が大半)を引き連れて、本格的な戦いに身を投じるなんて不可能です。体がいくつあっても足りない。
「あー、マイナス思考うざっ……って言いたいところだけど、まあ正論だよね。すごく強い人もいなさそうだし、このままピクニックやってるのが得策かぁ」
「そういうこと。わかってくれて何よりです」
ブラックな心を持った天使先輩は「がんばれー」と黄色い声援を飛ばす。だからそういうのやめろ。
両腕で自分の胸を挟んで潰すのもやめて。
あの人達、喜んでるから。余計に張り切って事故の可能性が増えるから。
(首都……
時は2017年4月。
今年の桜は既に散った。外は昨年を遥かに上回る陽気、いや熱気だ。初夏の香りが漂っているほどに温度が高い。
ここは
▼
□高度育成高等学校
内閣総理大臣肝いりの国立高校。
卒業できればどんな進路でも実現可能と謳っており、日本有数の名門校として知られている。
埋立地直下に異界に繋がる門があり、中を探索すると報酬が貰える。しかし、そのことは公にはされておらず、多くの学生達は知らずに入学してくる。
□サイフォン(改)
高度育成高等学校で導入されている独自端末。
簡単に言うと一般人に霊的な力を与える装置。武器を出したり体が頑丈になったり、異界探索に適正のある『適格者』と同じようなことができるようになる。生体認証。
◆山内春樹
高度育成高等学校1年Dクラスの男子。
持久力に特に難あり。
虚言癖がある。
◆須藤
1年Dクラスの男子。
赤毛のモヒカン。いちいち柄が悪く、なにかと力任せな男。バスケットボールが得意。
◆
1年Dクラスの女子
高い顔面偏差値と抜群のプロポーションを誇る。
その磨き抜かれた愛嬌でたちまちクラスのアイドルになったが、中身は堕天使である。口先ひとつでいくつもの人間関係を崩壊させた実績あり。
◆
1年Dクラス所属
中性的な顔立ちの男子。黒髪。
本来なら一つ下の学年だが、現理事長の強い希望により入学を依頼された。書類は色々と捏造されているようだが、本人はあまり気にしていない。
幼い頃は首都で暮らしていたが、父親が実家から勘当されたため関東に流れてきた。大災害時の記憶はおぼろけだが、とても怖かったことは覚えている。
ソウルデヴァイス──武器は
◆
1年Dクラス所属
眠そうな顔をしていることが多い男子。
何事にもやる気がない言動を見せているが、どれだけ歩いても疲れない謎の体力を持っている。本人は運動苦手だと言っているが、
ソウルデヴァイス──武器は大剣×2。好きで選んだわけではなく勝手に出てきた。ソウルデヴァイスとはそういうものである。山内春樹の鉄棒も勝手に出てきた。なお変更不可。