なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
「そのためにはまず、開発者の手がかりがないと始まらないわよね。現状まだ何も得られていないと思うけど、何かアタリはあるの?」
「仮定に仮定を重ねたものでいいなら」
ダリィの指摘に、シンドはほぼ即答した。
今の問いがおそらく想定された問答だったことを察して、ダリィは内心でシンドの評価をさらに上方修正する。
「まず大前提として、オレは"掲示板"の開発者が暗黒大陸渡航経験者だと思っている」
「!」
「根拠は……寿命の点でもそうだが、"転生者掲示板"があまりにも練られすぎた能力だからっていうのがある」
「練られ……
シンドの説明に、クロトが首を傾げた。
確かに、"転生者掲示板"は便利な能力だ。ただ、結局はインターネットサイトを閲覧可能にするだけの能力。ダリィの言う「元ネタありきの能力」だし、射程距離の長さや対象数の多さという放出系の凄まじさは分かるが、それは重すぎる(であろう)制約と誓約によるバフでも説明可能なはず。総じて凄まじい能力ではあっても、練られすぎたとまで言われるような能力だろうかというのが、クロトの感想だ。しかし──シンドの見解は違った。
「"転生者掲示板"自体は、おそらく特質系解析型にあたる能力だ」
特質系解析型。
特質系の分類の一つで、対象の情報を本来知りえないレベルまで細かく解析することができるというもの。原作に登場したキャラクターで言うと、ビノールトの"
しかし、"
翻って、"転生者掲示板"はおそらく根本的には、対象者が書き込むと意識した思考を「投稿」の形で拾って集約する「対象の意志の解析」と、「投稿」を掲示板形式で閲覧する「集約された情報の解析」という二種類の解析が核になったシステムだと考えられる。
そして"転生者掲示板"はその情報を具現化した念によるインターフェースを介さず直接脳内で処理することに成功している。それは、手で掬った水を一滴も零さずにそのままフルマラソンを完走するような神業だと言えるだろう。
「これの実現は、単なる制約と誓約によるバフを超えた念構築のセンスの賜物。しかもそれを不特定多数に貸与までしている。特質系の能力をこれほどまでに極めた上に、おそらく6大陸すべてを射程内に収める放出系能力、…………あと"掲示板"の制約の操作系能力。どれほど重い制約と誓約があったとしても、前提として達人。それも、後塵すら拝せないレベルの……。そうだろ?」
「あ、ああ……確かに」
「それほどの実力者が、およそ90年前には活動していた。タイミング的には…………あー」
「ネテロが暗黒大陸に渡航を試みていた時期と被る」と言おうとしたシンドだったが、そこで"掲示板"の制約に引っかかった。原作のイベントに言及するのもアウトというわけだ。
ただ、此処にいる全員はシンドが言いたいことを何となく察する。
ネテロが暗黒大陸へ渡航を試みていた時期は、ネテロが山籠もりの修行を開始するよりも前という考察が、"掲示板"では支配的だ。
理由は、ネテロの年齢。暗黒大陸の状態に驚愕しているネテロの顔つきは、「1日1万回感謝の正拳突き」をしている場面よりも髪の毛が短く、目元の皺も暗黒大陸渡航時の方が短い。また、修行の動機となった「肉体と武術への限界」を感じた契機としても、暗黒大陸渡航の経験は妥当である。
つまり、ネテロが暗黒大陸へ渡航したのは遅くとも46歳の冬より前──即ち最低でも80年前。老化の度合いを考えれば、90年前後という推測は妥当だろう。
「そして、特質系の極めて優秀な念能力者でありながら、その能力の全てを後進の為に費やせる善性を持つ人格者……同時代のそんな傑物だったら、邂逅していない訳がないだろう」
このあたりの話題はシンドが協力を持ちかけた初代スレでの推測にも書かれているため、クロトもなんとか理解することができていた。
そしてその上で、"掲示板"の開発者とネテロの面識を推定する理由は……、
「ハンター資格の有無が重要な理由は、その情報網もある。だが、一番の理由はそこじゃない。ハンターになれば、協会内部に存在する暗黒大陸の渡航経験者に直接聞き込みをするチャンスだって得られるはず。……一番アテにしているのは、そこだな」
「…………なるほど」
リンネ=オードブルについては既に耄碌しているが、ネテロについてはハンター試験中に接触を取るタイミングもあった。もし原作の通りに事が運ぶのならそのタイミングでもいいし、そうでなくともハンターになれれば比較的干渉する機会は多いだろう。
「それじゃあ次に気になるのはハンター
「わたしもないわね」
「オレもスレで説明した通り」
「オレもない……っていうか、オレはシンプルにハンター志望なんだよね。アテとかは全然ないんだけど……」
おずおずと切り出したクロト。今年のハンター試験について原作の知識はあるものの、それがどこまで有効かは定かではない。自信が無くなるのも当然ではあった。
しかし、
「アテならあるぞ。仲間にプロのハンターがいるし。まぁ転生者ではないが」
「えぇ!? マジで!?」
しれっと語るシンドに、クロトが目を丸くする。
「それなら、その仲間のプロハンター伝いで色々情報を調べられるんじゃ……?」
「無理だな。そういうタマではないし……それに、転生者関連のゴタゴタには巻き込みたくないんだ。危険なのに説明も難しいから、義理も通しづらい」
「そりゃ……確かにそうだな……」
転生者が全員念能力者であることを考えると、プロハンターだからといって実力的に安全が保たれているとは到底言えないだろう。そんな荒事に巻き込むならば、きちんとした説明をすべきだ。これはプロ相手であれば必須事項。それがこなせない以上、たとえ仲間であっても協力は取り付けられないと考えた方がいい。
納得して、驚愕が落ち着いたところで、クロトはシンドに改めて興味を向ける。
「っていうか、プロハンターが仲間ってことは、シンドもアマチュアのハンターとして活動してるのか? スゲェ」
「アマチュアハンターというよりは、プロハンターの助手って感じだが。オレが拠点にしてる街は治安が悪くてな……。
「いいなぁ……。オレはハンターには憧れてたけど、プロハンターと一緒に活動するなんて思いつきもしなかったな」
原作にも登場してたのに──という言葉は飲み込み、クロトは己を省みる。
だが、これは転生者にはままある誤謬の1つだった。
原作において最も印象的なハンターのなり方は、主人公であるゴンが辿ったルート──試験の案内に従い、民間試験官の協力を受けて会場へと辿り着く道である。
ただしこれは、全くツテの存在しない場合に限った話。ハンターの協力を受けたアマチュアハンターはベテラン受験生の中にもいたはずだし、2年目のキルアも事実上は『それ』に該当する。
ただ、転生者の『印象』として強いのはどうしてもゴンのようなルートになるため、意識から漏れてしまうということが度々発生するのだった。
「……あ、待ってくれ。もしかしてシンドが"掲示板"の制約に気付いたきっかけっていうのも……」
「ああ。そいつの手伝いをしてる途中で念使いの犯罪者と戦闘してな。空間を作成するタイプの能力だったんで、つい口をついて出そうになった」
「なるほどなぁ……」
地味に納得の瞬間であった。同時に、あまりにもプライバシーに食い込みすぎているので、スレで聞いてもスルーするわけだな……と納得していた。
ちなみに、「特質系かも知んねーだろグダグダうるせーな」に食いついていたスレ民の一人はクロトである。
「まぁそういうわけで、ハンター試験の情報収集だけならアテはあるから安心しろ」
「おおーマジで助かる! ……ちなみに2人は?」
シンドの意外な事情が知れたところで、クロトは他二人に水を向けてみる。
シンドが場慣れしているのは此処までのやり取りである程度分かっていたことだが、転生者をすでに一人手にかけているサイアイも修羅場に馴染んでいるし、ダリィもまた手を汚すことを厭わないほどの経験を積んでいるらしい。
そのどれも持ち得ていないクロトととしては、一体どういう経歴なのか気になる部分があった。
対して、二人はあっさりとした調子で、
「私は超ゴロツキの用心棒やってますね。一応ナメられないようにハンターを名乗ることもありますけど、超アマチュアとすら呼べないでしょうね」
「わたしはアマチュアで魔法少女ハンターやってるわ」
「魔法少女ハンターってなに?」
「は!? 貴方が魔法少女の人だったんですか!?」
「お前があの伝説のクソコテ!?」
…………リアクションまでは、あっさりとした調子とはいかなかった。ダリィの告白の直後に、三者三様のリアクションがほぼ同時に飛び出した。
あまりその辺りの事情に詳しくないクロトは、要領を得ないまま首を傾げる。
「魔法少女の人……って、スレでも出てたけどなに?」
「クロトは調査系のスレ見ないのか。数年前から調査系のスレによく顔を出してるクソコテ*1だよ。ハンドルネームが「魔法少女☆マジカルほわいと」だから、通称「魔法少女」と呼ばれている」
「調査系のスレではよく顔を出すし結果も出してくれる超行動派なんですが、ふざけた名前と口調でたまにレスバもするという超名物クソコテですね……」
クロトに説明してから、シンドは信じられないものを見るような目でダリィを見て、ぽつりと呟いた。
「…………実物はこんなまともなのに」
「ネットはネット、リアルはリアルだわよ」