なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな? 作:家葉 テイク
「まとめると、ハンター協会内の暗黒大陸渡航経験者に話を聞く為にハンター協会内に深く食い込む資格を手に入れる必要がある。ただし現状、ハンター関連のコネを持っているヤツはいない……と」
「ダリィもアマチュアハンターなんだろ? プロハンターの知り合いとかいないのか? 十二支んとか」
「無茶言わないでよ。そもそもわたしはソロで魔法少女やってるだけだから、プロハンターの知り合いとかいないわ」
「ソロで魔法少女やってるっていうのも超意味分かんないですけどね」
要するに、結局ハンター試験を受験するほかないということである。
しかし、そこでシンドは人差し指を一つ立てて、
「ハンター試験を受ける必要がある。此処は、ほぼ既定路線としてもいいと思う。だがそれにあたって、幾つか共有しておきたい懸念がある」
「……懸念?」
首を傾げるクロトに、シンドは頷く。
「ああ。……まずは軽い方から行こうか。1つは"掲示板"の半強制型効果だ」
"転生者掲示板"の半強制型効果――「原作の台詞を言うことを禁止する」こと。
これは単に台詞の問題と思われるかもしれないが、思考の次元を1つ上に上げれば、より明確な危険も浮上してくる。
「言葉が
「…………行動……って、具体的にどんなのだ?」
「ああ……確かにね」
さらに首を傾げるクロトの横で、シンドの意図を理解したダリィが声を上げた。
その横で、同じく問題を認識したらしいサイアイがクロトに言う。
「たとえば私がクロトと超戦闘したとします。その時、クロトに掴まれることを超警戒したらクロトはどう思いますか?」
「え……「コイツ、オレの能力を知ってるのか?」…………かな?」
「そう、貴方の能力という「知識」を超持っているということに、すぐ気付けますよね。それって、
「…………あっ!」
そこまで言われて、クロトも気付いた。
念能力が開発された目的を考えてみればいい。そもそも、操作系半強制型効果で原作の台詞を使うことが禁止されるのが何故かといえば、その台詞が「原作の知識」に該当するからというのが妥当な推論であろう。
で、あるならば。
原作を読んで知った能力を前提にした行動をとることはその攻略情報を公開することに繋がり、即ち「原作知識の公開」に該当する可能性がある。
もちろん、実際には該当しないかもしれない。だが、もし該当すれば、戦闘中に行動の禁止によるキャンセルが発生した無防備な状態を晒すことになりうる。命がけの戦闘の中でそれは致命的な隙になるだろう。
そして今年のハンター試験では、戦闘の可能性が非常に高い。……それも、
ヒソカのターゲット選定の基準は(彼の気まぐれな気性もあり)転生者も完全には把握できていない。しかし、一定以上の実力者に対しては好戦的になる傾向があるのは事実。しかもハンター試験中の彼は退屈していたのか、そのハードルが異様に低くなっている。念を習得してから平均十数年経過している転生者がその対象となる可能性は決して低くない――と、シンドは思っていた。
「……まぁ、私はおそらくそれなりに超相性がいいので、もしもの時は盾に使ってくれて構いませんよ」
「そんな問題でもない気がするけど……。でも、これで「軽い方」なのか? なんか聞いているだけで、ハンター試験の受験すら見直さなくちゃいけないくらいのリスクに思えてきたんだけど……」
「ん~、
「オレもダリィに同感だな。そこまで戦闘にモチベーションを持っているわけでなければ、念能力者の4人組に迂闊に手を出すことはないだろう」
これは、4人がかりで苦も無く倒せると思われるほど弱くはないし、1人ひとりはバラけた後狙われるほど強くもないという自己評価によるものだった。
他3人もこれには特に異論はなく、納得して頷く。
「それで超よさそうですね。過信する訳ではないですが、この四人を超瞬殺できるほど念の上限は高くないです。最悪でも、全員無事で撤退戦をする程度の余裕はあるでしょう。……それに、本番は多分その前ですし」
「ああ。ハンター試験自体も懸念事項ではあるが、一番の懸念事項はその前。……「保存派」との戦闘だな」
「保存派……」
現在確認することができる
当時の生活水準は、当然ながら現代よりも低かった。しかし現代に至るまでの過去ログに遺された転生者の書き込みを見ても分かる通り、転生者は総じて「ハンターハンターの知識を持っている程度には現代の人間」である。ゆえに、まずは現代知識を利用して生活水準の向上を目指す転生者が登場した。
その一環で、通信技術――とりわけインターネットの発展に寄与する技術の向上を目指した転生者がいたのは、彼らが前世でオタクと呼ばれる趣味人だったことを考えても当然の成り行きだっただろう。
しかしここで、その流れに異を唱える転生者達の一団が存在した。
通信技術の発達はインターネットの発展に直結し、インターネットの急速な発展はダークウェブとそれを利用する外道どもの跋扈を促した。
そしてそれは原作において、クロロ=ルシルフルの――
彼らは通信技術の向上を目的として起業した転生者グループに対し、物理・社会の両面から妨害工作に及び――その対立は最終的に死者を伴う犠牲を出して、起業した転生者グループの挫折という形で終わった。
――これが、確認できる限りで最初の保存派の登場である。
それから数十年ほどして原作の開始時期が近づき、徐々に原作で語られた歴史との距離が近づいてくると、今度は歴史上の出来事を利用して自分の利益にしようとする集団が現れた。
たとえば、東ゴルドー共和国の代替わり。たとえば、カキンの真林館事件。国体への大きな変更のタイミングに暗躍して上流階級に食い込むことは、平凡な一生をただ送るよりも華やかな未来であると考える転生者にとっては、格好のチャンスだった。
転生者の多くは転生という特別な経験を経て己を特別視し、"転生者掲示板"の存在によってそれがありふれた個性であると認識し、最終的に増長が落ち着く傾向にある。しかし一部には、"転生者掲示板"を経ても己の特別視が失われない強固な自我を持った転生者もいる。そうした転生者の中には、無理矢理でも原作知識を利用して栄達を志す者もごく少数ながら存在し、彼らは「利用派」と呼ばれるようになっていった。
一方で、自分の生きている時代に自分達の知る悲劇が近づいていることを知ると、それをみすみす見過ごすことに罪悪感を覚えるというごく普通の善性を抱く者たちも現れ始めた。
彼らはクルタ族虐殺や幻影旅団設立のきっかけとなる凌辱殺人事件、ゾルディック家を起点とする数十人単位の大量死など、原作で語られた印象的な悲劇を阻止しようと地域への干渉を試みる。そうした者は「改善派」と呼ばれるようになった。
転生者の中に3つの派閥が誕生すると、原作を途中まではその通りに進め利益を掬い上げたい「利用派」、原作を根本から変えて悲劇をなくしたい「改善派」、そもそも転生者に原作へ干渉させたくない「保存派」は三つ巴の対立構造を取るようになり、それらの派閥に加わらない単独の転生者達もまた時折対立に加わった。
そうして、現代の転生者の中では原作で語られるイベントについては不干渉の立場を取る「日和見派」が大勢を占めるようになり、原作で語られるイベントの周辺ではほぼ常に対立と戦闘が巻き起こる状況が完成したのだった。
「オレ達の目的は「ハンター
「なんかちょっと人聞き悪いわねぇ……」
ただ、それでも紛れもない事実である。それに、彼らの目的は
「おそらく今年のハンター試験は、利用派・改善派・保存派が入り乱れた、今までにない念能力者達のサバイバルに発展するだろうな。…………ただし、
シンドは物憂げに溜息を吐き、
「保存派の目的を考えてみると、ハンター試験に利用派や改善派が押しかけて来る時点でヤツらの敗北みたいなモンなんだ。つまり保存派は、その手前の段階で全身全霊をかけて試験への介入を防ごうとするはず。……主戦場はハンター試験会場
「……!」
シンドの説明を聞いて、クロトも事態の全貌を把握する。
ハンター試験会場を睨んでの、転生者による大規模な抗争。そしてハンター試験への参加を希望する以上、確実にその地獄を抜けなくては目的を達成できないときた。確かにこれは、シンドが憂鬱そうにするのも頷ける苦境だ。
真剣な――覚悟を決めた表情を見せながら、クロトは問いかける。
「……つまり、立ちはだかる転生者は倒していかないといけないって訳か?」
「いや、超それだけとは限りませんよ」
しかし、そんなクロトに訂正を加えるように、サイアイがあっさりした調子で返した。
サイアイは人差し指を立てながら、
「今回の対立では明確に保存派の分が悪いです。もしかすると、突破されるのは超前提として行動しているかもしれません。保存派としては超邪道ですが……試験の流れさえ
「……! 想像もしていなかったな……」
サイアイの指摘に、シンドは静かに口元に手を当てて、
「……確かに……考えてみれば理に適っているというか……そうとしか考えられないな。試験に保存派を何人も潜り込ませているのもありそうだ。そうやって何人かで試験の流れを誘導すれば確実に「保存」できるしな」
「試験官に成り代わっているとしたら、試験会場周辺での抗争自体は突破者の顔を知る為のデコイの可能性が高いわね。下手に抗争に絡めば、何かと理由をつけて失格にされかねないわよ」
サイアイの指摘を受けて、シンドとダリィは次々に現実に起こりえる想定を繰り出していく。
それを見て、クロトは静かに戦慄していた。
(スゲェ……! 未来に対する考察の瞬発力と深さ!!
「ただ……そうなると試験会場周辺での戦闘は超回避を徹底、どうしても避けられない場合、交戦した者は超確殺するのが前提ってことになりますかね」
結局は、引き起こされるのは血みどろの争い。
誰かのことを救う為に誰かを害さないといけない矛盾に、サイアイが辛そうに目を細める。
ただし――その最悪の展望に、異を唱える者がいた。
「イヤ…………殺さなくてもなんとかなる。オレの能力ならな」
言葉と同時、言い放ったシンドの拳にオーラが集中した。