なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの発だよな?   作:家葉 テイク

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No.009/喧々諤々 ③

 ――"凝"。突然の戦闘態勢に、クロトは思わず身構えてしまう。

 

 シンドはそれを意に介さず、船内の調度品――電熱式ポットを殴る。"凝"の一撃を受けた電熱式ポットは速やかに(ひしゃ)げて、砕けるというよりも千切れてバラバラになるが――直後、その破片達は逆回しのビデオのように修復され、小人のようなサイズの念人形に変形した。

 念人形――"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"は、電熱式ポットが元置いてあった小机の上に腰かけるように鎮座する。

 

 

「これが俺の能力……"錆鉄愚連隊(ハネウマライダース)"だ。見ての通り、念を込めてバラバラに破壊した物質を元に念人形を作り出し、操作することができる」

 

 

 シンドが"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"を指差すと、"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"は形を変えて、破壊される前の電熱式ポットの姿を取り戻す。

 それを見て、早速ダリィが口を挟む。

 

 

「…………いいの? 能力を教えても」

 

 

 念能力者にとって己の発は切り札そのもの。協力関係を結んで行動を共にするのならば概要くらいは教えることはあるが、話の流れからしてシンドは「それより深い部分」を話そうとしているようだった。場慣れしているダリィとしては、思わず制止したくなる流れだった。

 それに対し、シンドは頷き、

 

 

「ああ。お前達を信頼してるし……それに、サイアイには既に能力を使って戦っている場面を見られているしな」

 

「抜け駆けみたいで超申し訳ないですね」

 

「それならいいのよ。……ありがと」

 

「礼には及ばん」

 

 

 シンドは芝居がかった仕草で鼻の頭を擦り、説明を再開する。

 

 

「念人形……"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"は、任意で破壊前の姿に「変形」させることもできる。もちろんこういう小物だけでなく、地面や壁なんかも能力対象に含まれるぞ」

 

「うわぁ、隠すこともできるんですか。超厄介な能力ですね……」

 

 

 シンドの説明に、「再生」を知っているサイアイが呻く。小机の上のポットは見ただけでは破損の跡も見て取れない。つまりこれは、戦闘中に傍目には分からない地雷を設置できることに他ならない。

 シンドは頷いて、

 

 

「肉弾戦の最中に発生した地形の破壊がイコール手駒に変わる算段だ。そうやって盤面を支配していくのが基本のパターンだな。ただ……この能力を作った時点で、想定していなかった部分があってな」

 

「…………人体の破壊、よね?」

 

 

 シンドの言葉の続きを言ったのは、黙って話を聞いていたダリィだった。

 シンドはダリィの方に目配せをして続ける。

 

 

「"錆鉄愚連隊(ハネウマライダース)"を作った時、オレは主に無生物を対象とすることを想定していた。発動条件も『粉砕』を前提にしていたからな……。だが、明確に生物は対象外という制約も想定していなかった。結果、生物を攻撃した際に想定外の挙動をしたんだ」

 

 

 シンドの説明を聞いて、思わずクロトが顔を(しか)める。

 『粉砕』という言葉から、攻撃によって粉砕骨折した骨が肉体内部で人型に変形する様を想像したのだ。しかし、シンドはそれを否定するように、

 

 

「オレが破壊した部位……人体の前腕骨は、念人形にできなかった。この電熱ポットみたいに、ただ修復する効果だけが発生したんだ。おそらくオレ自身、仮に念人形化させた場合の絵面を忌避したんだろうな」

 

 

 実際、破壊した人体部位を念人形にできたところで、対象に激痛を与え、出血を激しくする効果くらいしか得られない。既に骨が『粉砕』されているのが前提な以上、どの道その部位を使うことはできないからだ。シンドの性格からしても、無用な苦痛を与える運用に無意識のブレーキがかかるのは納得がいく挙動だった。

 

 

「だが、完全に無意味だった訳じゃない。修復された対象が攻撃にその部位を使おうとしたんだが……そいつは不自然に攻撃に失敗していた」

 

「超……操作系半強制型の効果が?」

 

「ああ。まぁ考えてみれば当然の話だがな。無生物同様に人体を対象にするんなら、わざわざ念人形にせず人体を直接操ればいい訳だし」

 

 

 シンドは苦笑し、

 

 

「オレはその後、その時の例外的な挙動をきちんとした形になるように調整した。対人戦は今後も増えそうだったからな。そうしてできたのが、"死が鍍金を剥がすとも(ジューンブライダー)"だ」

 

 

 シンドが能力を解除すると、電熱式ポットの"錆鉄機兵(ハネウマライダー)"はバラバラに崩れ落ちる。

 その残骸を片付けながら、シンドは続ける。

 

 

「調整の結果、能力はやや複雑になったがな……。まず通常時、その部位を戦闘使用できないほどの重傷を負わせた場合、オレは無傷の状態を具現化して対象を治療できる。そして治療したことを相手に伝えれば、治療破棄か治療部位の操作権譲渡の二択を迫ることができるようになる。相手が操作権譲渡を選べば、オレはその部位に限り自由に操れるわけだ」

 

 

 「ちなみに具現化による治療効果は放出系徴収型効果によって相手の念で持続するのでオレが近くにいる必要はない」と補足するシンドに対し、サイアイが困惑した様子で問いかける。

 

 

「それって超弱体化してません?」

 

「粉砕する必要がない分、ダメージ面の条件が緩和されてるからな。それに、次の状態の挙動を作るのに差し引きで通常時の制約を重くする必要があったんだよ。実の所、この能力の真価は次の時だ。つまり…………()()()()()()()()

 

「!!」

 

 

 シンドの話運びを聞いて、全員が驚愕の表情を浮かべる。

 通常時の挙動を弱体化させてまで強化した挙動……そのダメージ面の条件に「致命傷」という生殺与奪を握るに等しい条件が付与されていることから、次に話す内容の想像がついたからだ。

 

 

「オレ自身の手で直接致命傷を負わせた場合、"死が鍍金を剥がすとも(ジューンブライダー)"は自動で発動し対象の致命傷を修復する。そしてその場合に限り、対象は完全にオレの制御下に置かれることになる。操作の強度は自在だ。相手の思考能力に委ねて命令を送ることもできるし、体の自由だけを奪うこともできるし、完全に操作することもできる。操作モードの変更には直接触れながら設定項目を組む必要があるがな」

 

 

 シンドはそこで言葉を切り、

 

 

「ネコタマ……オレを襲ってきた輩にもこれを使うつもりだったんだが、ヤツは自己型だったから操作系能力への耐性があった。お陰で手出しができなかったんだ」

 

 

 シンドがネコタマに対して狙っていたのは、実はこれなのであった。しかし「操作系は早い者勝ち」なため、最後まで狙いを実行できなかったのである。

 何にせよ、この能力を使えば殺すことなく完全な無力化どころか、上手くすれば手駒を手に入れることすらできる。「戦闘即確殺しかない」というサイアイの懸念は、これで解消した形になる。

 しかしシンドの説明を聞くと、ダリィは急に沈黙して考え込み始めた。その様子を見たクロトが、心配そうにダリィの瞳を覗き込む。

 

 

「ダリィ、どうしたんだ? なにか気にかかることでもあった?」

 

「……気にかかるどころじゃないわ。そうなってくると、完全に話が変わってくるじゃない。戦闘は避けちゃダメ。むしろ、こっちから積極的に仕掛けるべきだわ」

 

 

 先程とは一転しての好戦的方針。

 それに対し、根本的に穏健派なシンドが訝しげな表情を浮かべる。それに呼応するように、ダリィは発言の意図を説明し始めた。

 

 

「だって、そうでしょう? 試験会場近郊にいる保存派の一人を掌握できれば、そいつから保存派全体の情報を引き抜くことができるわ。無駄な戦闘を避けて犠牲を軽減する意味でも、やらない理由がないじゃない」

 

「……………………確かにそうだな」

 

 

 シンドは、呆気にとられたように頷いた。

 

 シンドの能力を核に置けば、グループの行動目標自体が明確に変更できる。

 試験会場近郊で戦闘を警戒しながら隠れ凌ぐ方針から、試験会場近郊にいる保存派を標的に襲撃を仕掛け手駒にする方針へ。終わりの見えないマラソンが、明確なゴールの存在する短距離走へと変貌するかのようなパラダイムシフトだった。

 シンド自身がこれに気付けなかったのは、彼自身が「積極的に相手に戦闘を仕掛ける」という発想に乏しいからだろう。まさしく、仲間を得たからこそ辿り着けた方針だった。

 

 

「えーと……結局つまり、ハンター試験は受験する……んだよな?」

 

「ええ。ただ、保存派の動きを考えると、その前哨戦である試験会場近郊での戦闘が超激化しそうな上に、下手にそこで顔が割れると超問答無用で試験に落とされる危険すらあるから、こっちで先んじて保存派の手駒を作って保存派の手の内を探れるようにしようって話ですね」

 

「なるほど……ごめん話の腰折って」

 

「ちょうど論点の整理と要約が超必要なタイミングでしたし、構わないと思いますよ」

 

 

 申し訳なさそうに言うクロトに、サイアイは薄く笑みを浮かべて返す。

 その様子を見てにんまりと頬を綻ばせたダリィは、弛緩した雰囲気に張りを与えるような調子で宣言した。

 

 

「その為にも、わたし達がすべきことは、保存派の中でも与しやすそうな者の特定と身辺調査! やるなら完璧な手際で()()()しないとね! ハンター試験の前哨戦にはちょうどいいわ」

 

 

 目標の前に発生した障害の、明確な対策法。

 それが見えたことで、四人の間に明るい兆しが共有される。そんな流れの中で、ふとシンドが思い出したように呟いた。

 

 

「……あ、そういえば保存派が試験官に成り代わっていた場合、念を使える参加者だとバレた時点で落とされるんじゃないか?」

 

「む……言われてみればそうね。となると、試験までに一般人相応に見えるようなオーラの出し方の修行も必要かしら……」

 

「え、それって大丈夫なのか? サイアイの能力って自動発動なんだろ? そういう偽装ってできるの?」

 

 

 心配そうに言ったクロトの一言で、その場が静寂に包まれる。

 その場の誰もが、クロトの発言を一笑に付すだけの根拠を持ち得ていなかった。まるで油を差し忘れていた機械のようなぎこちない動きで、三人の視線がサイアイへと集中する。

 そして、渦中の少女はというと――

 

 

「それについてですが……おそらく、超大丈夫です。オーラの偽装をやったことがないから分からないですけど、多分"纏"は使わないんですよね? 私の能力の発動条件は"纏"をすることなので」

 

「よかったぁ……」

 

「企画倒れになるかと思ったわ……」

 

「超よかった……」

 

「なんか超口調が伝染(うつ)ってる人いませんか?」

 

 

 ともあれ、突如発生した最大の懸念については、無事クリアすることができた。

 改めてシンドは咳払いをし、三人に向けてこう告げた。

 

 

「じゃあ、ハンター試験までの1か月間は保存派の中から対象を選定する為の調査と、オーラを一般人のように見せる訓練だな。"掲示板"で類似の知見を探しつつ、4人で情報共有しながらやっていこう」

 

「あと、クロトの修行もね」

 

「うっす」

 

「変化系と具現化系の修行なら私も超協力しますよ」

 

 

 喧々諤々の議論を交わしながら。

 四人の少年少女は、未来に向けて思索を積み重ねていくのだった。




 お盆休み終了につき、以降は更新頻度が低下します(最大で一日一回くらい)。
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