なんか転生者掲示板あるけどこれって誰かの念だよな?   作:家葉 テイク

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No.010/ピーピング・トム

 保存派、改善派、利用派、それぞれの転生者3派閥は、「原作」という一つのストーリーラインの存在を前提に行動している。

 しかしここで、1つの疑問が生まれる。――どうして、全員が原作の存在を確信して行動できているのか? という至極当然な、しかし絶対的に重要な疑問が。

 

 この疑問について回答する前に、転生者の多くが転生してから世界を認識するまでにどういう機序があるかについて説明しておいた方がいいだろう。

 

 まず、転生者は例外なく"転生者掲示板(リンカー×リンカー)"にアクセスする。"また、おはようって言って(リンカーリンカー)"では掲示板のアクセスは任意となっているが、転生者が最初にアクセス確認を受けるのは母胎内でありOKを選択する以外の行動がとれない他、2回目の確認を受ければ強制的にOKを選択するしかないので、実際には「絶対にOKを選択する」からだ。

 そして意志のみが自由になる状況で、転生者達は誰しも1度は"転生者掲示板"に入り浸るという経験をする。そこで、多くの転生者は「初心者向けのスレ」という、有志が転生してきたばかりの転生者に向けた耳寄り情報を残していくスレッドを確認することになる。

 そこでは、乳幼児期に注意すべき危険や地域ごとの留意事項、念という技術そのものの概要や修行方法についての情報が記載されているが――その他に、転生者同士の思想の対立についてもさ(・)わ(・)り(・)程度ではあるが記載されている(日和見派視点なので、3派閥への印象は悪くなるように書かれているが)。

 多くの転生者は、そこで「原作」のことをアンタッチャブルなイベントの大群として認識するようになる。

 

 そして大部分の転生者は、ハンターやそれに類する職業になろうという意志を持つことなく、ただ念能力の修行だけをして、念能力を持った民間人として善良な一般市民の中に混ざって「+αの日常」を享受する結論に至っていく。

 何不自由ない社会で、念能力による身体能力のバフを受けつつ追加で発を構築することによるメリットを享受し続ける人生。それは、非日常の中に身を置くよりもよっぽど「安定した成功」に近しいルートだからだ。

 そうでない者達は、超常と隣り合わせの人生に憧れ、あるいはのっぴきならない事情から脱する為に、ハンターやそれに近しい領域へと踏み込んでいく。

 

 

 ただし。

 ある種の────ごく少数の転生者については、今挙げた両者のいずれとも異なる、全く別の事実に着目する。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「できるかなぁ、オーラの偽装」

 

 

 シンドが用意したボートの中。

 ハンター試験会場近くへ向かう為の旅支度を整えているその最中に、クロトがぽつりと呟いた。

 念能力者が己の身体から立ち上るオーラを非念能力者のそれに偽装する技術については原作にも言及があり、その偽装精度は第1王子私設兵(ヒュリコフ)のような専門的知識を持つ者がじっくりと注視しない限り分かりえない程であった。

 オーラの量を引き絞るだけでは意味がない。精孔の分布なども含めて再現するためには、色々な調整が必要だろう。とてもではないが、"凝"や"周"のような応用技と同じ次元のようには思えないというのが、クロトの正直な感想だった。どちらかというとこれは、"円"のような向き不向きがハッキリと出る技術ではないだろうか──とクロトは思う。

 

 

「やり方なら、調べてみたら割合簡単に見つかったぞ」

 

 

 しかし、そんなクロトの懸念とは裏腹に、シンドはあっさりと答えた。

 

 

「どうも、体系化されているらしいな。……"湧(ユウ)"と、"掲示板"では呼ばれているらしい」

 

 

 "湧(ユウ)"。

 "練"と"絶"の応用技にあたり、精孔を完全に閉じるのではなく半分ほど閉じることで「ごく微かな"練"」を行う技術である。

 もちろんクロトの懸念通り向き不向きは存在しており、放出系の能力者ほどオーラを出す感覚が染みつきすぎていて苦手な傾向にある。ただし強化系能力者は隣り合っているにも関わらず不思議とオーラを弱める感覚にも長けており、この技術には向いている傾向があるようだった。

 いずれにせよ、この技術は厄介事を避け、一般人に紛れ込みたい転生者達にとっては必須のスキルとなっているため、"掲示板"でも盛んに技術公開が行われていた。

 

 

「そ、そうなんだ……。知らなかった……」

 

「私もそんな技術があったとは超知らなかったですね。日常系のスレは見ないようにしていたので……」

 

「ま、わたしら皆そんな感じよね」

 

 

 これも、ある種の文化の断絶である。

 原作への干渉も厭わない、非日常に生きる転生者にとって、そうではない日常を生きる転生者の世界は「別世界」なのだ。ゆえに、その生活を興味本位で覗き見るくらいのことはあっても、しっかりと中に目を通そうとは思わない。価値観を共有していないからだ。

 

 

「それより、保存派の探索方法の方が超喫緊ですよ。試験会場についてはシンドの仲間を頼るとして……その周辺で超張り込んでみますか? 勝手に戦闘を起こすでしょうから、それを超追跡するという手もありますが」

 

「それについてだが、既にオレに考えがある」

 

 

 そう言って、シンドは3人に改めて向き直る。

 

 

「まずはそうだな……推測にはなるが、保存派の動きを最初から順を追って話していくか。保存派は試験会場に到達する前にハンター試験を受験する転生者を潰したいわけだろ? だが、その為に試験会場周辺に待機していたら、さっきサイアイが指摘した通り後手後手になってしまうじゃないか」

 

「それは……超そうですね」

 

 

 シンドの話に、サイアイは頷く。

 サイアイは先程「この戦いは保存派にとって分が悪い。だから突破は前提としているんじゃないか」と言った。それ自体はほぼ最適解に近いが、一方で無理筋であっても「少しでも分が悪い戦いをいい方向に引っ張りたい」と考える転生者がいる可能性はある。相手が必ずしも最適解に気付けるとは限らないからだ。そして、その方向性を考えておくのとおかないのとでは対応力に明確な差が出て来る。

 

 

「だからまずは試験会場に向かうまでのルートに根を張って、念能力者を見つけ次第襲撃・妨害してくるという手を取って来るだろう。殺しにかかってくるとは限らないな。要はそのルートにいるであろう「民間の試験官」に不合格の烙印を押させればいい訳だし」

 

「なるほど、不合格にすればいいわけだから、各ルートで妨害を仕込むだけでも保存派の目的は達成できるって訳ね。……なんか…………、…………」

 

 

 そこで、ダリィが沈黙に入る。おそらく「トンパみたい」と言おうとして制限に引っかかったのだろうとその場の全員が判断し、沈黙自体はスルーする。

 

 

「幸い、オレ達は知り合いのツテを使って試験会場と行き方までは調べられるから、そこに手を割いている分の保存派とかち合う心配はない。だが、保存派もオレ達みたいなのがやってくる可能性は当然考えているだろう。そして最も警戒すべきはそういう「コネを持つだけの経験ある転生者」! ゆえに、試験会場へ至るルートの監視はあくまでオマケ程度に考えているだろう」

 

「…………最大戦力は、試験会場周辺での超転生者探しに使って来る。多分そうですよね」

 

 

 これ自体は、サイアイも考えていた部分ではある。

 いずれにせよ、試験会場周辺での厳戒態勢はこのままであれば必須だ。

 そこで、クロトが疑問を呈する。

 

 

「そもそもの話になっちゃうんだけどさ、試験会場へ至るまでのルートの転生者探しもそうだけど、保存派はどういうやり方で転生者を見つけるつもりなんだ? いくらなんでも人が多すぎるだろ」

 

 

 クロトの指摘に、サイアイは俄かに顔をしかめる。――1つの不都合な可能性に行き着いてしまったからだ。

 

 

「……"転生者掲示板"はおそらく対象を(「ハンターハンター」読者に限定して)選定していますよね。その手法を参考にすれば……超「転生者を見分ける念能力」だって開発できるのでは?」

 

「その可能性もまぁないとは言わない。だが……ほぼ考えなくていいだろうな」

 

 

 サイアイの懸念を、シンドはざっくり否定した。

 

 

「仮に転生者を見分ける能力を作ると仮定しよう。……その場合、どういう系統で実現する? 頭の中を覗くのは特質系だ。射程を考えても、とても実用的とは言えないな。可能性があるとすれば、「転生者にしか効かない制約をつけた攻撃」を無差別に撃つことで見分けるとかになるだろう」

 

「……!」

 

「だが、これだと対象が転生者に限定されるから汎用性は著しく下がる。……汎用性を犠牲にしてでも転生者特効の能力を作るとなると、かなり大きな諍いを経験しているはずだ。もしそんなことがあれば、転生者のコミュニティ……"転生者掲示板"ではかなりの語り草になっているはず」

 

「……………………、」(マチ意識して「「だろう」とか「はず」とか多くない?」って言おうと思ったんだけど、こういうのもダメなのね)

 

「仮にそういった諍いを完全に隠匿できていたとしても、その数は非常に少ないんじゃないか? 転生者に限定する念攻撃を開発するほどの強い感情。……そんなものを持つ者が多いはずはない。いたとしても1人……ないし2人かそこらだろう。何(いず)れにせよハンター試験に向かう全転生者を抑える規模をキープするのは到底不可能!」

 

「保存派が組織として取りえる方針は、効果は薄いが超もっと誰でもできる方法になる……というわけですね」

 

「そう。結局、オレ達がやったのと同じ方法さ。念能力者は転生者だと割り切って対応する。実際、連中の論理で言えばそれでも問題ないしな」

 

 

 原作において、今年のハンター試験で合格する念能力者はヒソカとイルミのみ。つまり、仮に転生者であろうとそうでなかろうと、保存派の観点で言えばそれ以外の念能力者は「弾くべき」なのだ。

 

 

「もっとも、これに関してはどうせ試験でも同じ方法で篩(ふるい)に掛(か)けられるのだからオレ達としては好都合だがな……。ところで、オーラを以て転生者を判別するとして、具体的にどういう手法を取るのが1番効率的だと思う?」

 

「んー……。高所や、あるいは駅前でスタンバっておくとか…………あ」

 

 

 そこまで言いかけて、ダリィはシンドが言いたいこと──保存派の探索方法に思い至る。

 

 

「そう。街中をぐるぐる歩き回って虱潰しじゃあ効率が悪い。どこか1カ所に陣取って通行人を観察するのが1番早道だ。つまり、オ(・)レ(・)達(・)は(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)連(・)中(・)を(・)調(・)べ(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)」




 長すぎたので分割しています。
 現時点で疑問が幾つかあると思いますが、多分次あたりで説明があるはず。(明日も更新あります)
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